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公務員個人としてリスキリングにどう取り組めばいいの?

2022年11月、岸田文雄首相の所信表明演説で登場した「リスキリング」という言葉。「キャリアアップのために興味がある」人もいれば、「公務員には関係ない」と思っている人もいることだろう。

そこで本企画では、公務員の働き方に関する多数の執筆経験を持つ埼玉県さいたま市職員の島田正樹さん(国家資格キャリアコンサルタント)に、リスキリングについて「大人の学び直し」という観点から、公務員にとっての必要性や向き合い方を深堀りしていただく。

第2回のテーマは「公務員個人がリスキリングに取り組む具体的な方法」。島田さんの経験談から、公務員個人がリスキリングにどう取り組んでいけばいいかを考えていこう。
 

【連載|公務員のリスキリング】
(1)リスキリングって何?公務員にも関係あるの!?
(2)公務員個人としてリスキリングにどう取り組めばいいの? ←今回はココ
(3)リスキリングで人生のハンドルを自分の手に!

自らの意思で取り組むリスキリング

第1回では、最近になって話題になってきた「リスキリング」という言葉が、必ずしもデジタル人材への転職のための用語ではなく、職業能力の再開発・再教育という意味であることを確認し、私たち公務員にとっても重要な概念であることをお伝えしました。

第2回では、リスキリングに取り組む個人の立場から、実際にどのように取り組んだらいいのか一緒に考えてみたいと思います。本稿では主に「自らの意志で取り組むリスキリング」に取り組むケースについて考えます(「研修などの形で組織から与えられるリスキリング」の場合、あまり自分であれこれ考えて決める余地がないからです。)

 

法令に強い技師になるために

まず、私にとって最初のリスキリングの経験となった行政書士試験についてご紹介します。

私は、工学部卒で化学技師として市役所に採用されました。
そのため市役所職員になった時点で、民法も地方自治法もそのほかの法令も一切勉強していませんでした。

当時、公害対策を担当する部署にいて環境法令や条例などを読む機会が多かったのですが、法令を勉強してこなかったことに強いコンプレックスを感じていました。

行政書士試験を受験したのは、そんなコンプレックスを解消したかったからです。
法令について学ぶことで法令が怖くなくなるのではないか、そんな期待もありました。

2回挑戦して結局合格はできなかったのですが、それ以来、法令を読むのが驚くほど苦ではなくなりました。

特区の申請の際も内閣府で特区を担当した際も、様々な規制について調べ、理解するために多くの法令に接しましたが、むしろ楽しいと思えるほどでした。

工学部卒の普通の技師から、法令に強い技師へ。
これが私にとって最初の「職業能力の再開発・再教育」、つまり「リスキリング」の経験となりました。

 

主体的に取り組むなら「will(やりたい)」を大切にする

自らの意志でリスキリングに取り組む場合、大切にしたいポイントは2つあります。
1つが「学びたい」というモチベーションの存在です。

リスキリングの学びはそのときの職場の仕事とは必ずしもつながっていないので、自分の意志で取り組む場合、業務時間外に学ぶことになります。

費用も組織が負担してくれるのではなく、個人として負担することになるでしょう。

私が行政書士試験の勉強をした際には、法令に対する苦手意識があり、それが法令を学びたいという強いモチベーションになりました。

これが上司に指示されたからとか、何となく職場の雰囲気でといった理由だったら、そこまでモチベーションを維持できず、毎朝4時に起きて勉強したり、教材のために何万円も負担したりすることはできなかったと思います。

学ぶモチベーションは、日ごろ接する住民や地域に貢献したいという想いでもいいでしょうし、異動した部署での仕事をうまく進めたいという願望でもいいでしょう。

もちろん、(公務員を辞めて)転職したり独立したりするために必要だから学ぶというのも立派な動機です。

 

活かす場所は自分でつくる

2つ目の大切にしたいポイントは、学んだあとにその知識やスキルを活かせる場所です。
では、学んだスキルを活かす場所はどのように確保したらいいのでしょうか。

 

それについてはもう1つ、私のリスキリングの経験をご紹介させてください。

私は2017年に青山学院大学の「ワークショップデザイナー育成プログラム」を履修しました。

これはコミュニケーションによる場づくりの専門家「ワークショップデザイナー」になるために、プログラムデザインやファシリテーションについて学ぶプログラムです。

当時、プライベートでワークショップを開催したり、他団体に研修の講師などを頼まれて場づくりに取り組んだりしているうちに、ちゃんとした理論から学び、専門的な知識と技術を身につけたいと思ったのです。

せっかく学んでも、活かす場所がなければその知識やスキルはさびついてしまいます。
そして、普通に過ごしている限り、市役所でワークショップデザイナーの知識やスキルを活用する場面は多くありません。

 

こんなときは、2つの方法があります。
職場で活用する機会をつくるか、職場の外で活用する機会を得るか、もしくはその両方です。

私は、学んだ直後から今まで、この両方を実践しています。

職場では「公務員のためのワークショップ入門」「公務員のためのファシリテーション入門」というワークショップ形式の研修を実施する機会をつくりました。

最近では、研修担当課が実施する「育児休業復職支援研修」という庁内の研修で講師を務めた際にもワークショップ形式を取り入れました。

また職場の外では、主に公務員のキャリアについて考えるようなワークショップを企画したり、ほかの自治体の研修の講師を務めたり、地域の親子ワークショップやほかの自治体の市民ワークショップでのファシリテーターを依頼されたりすることもあります。

どんなに価値のあることを学んでも、世の中の誰も「あなたがそれを身につけたこと」を知りません。
実践する機会は向こうからやって来ません。

職場であっても職場の外であっても、その機会は自らつくることが大切です。

 

まずは、職場の中で活かせそうな場面がないかアンテナを高くしてキャッチし、そんな場面を見つけたら積極的に関わりにいくこと。

そういった機会が見つからなければ、その学びについて伝えたり、実践できる場を自らつくったりする こと。

そのうえで、学んだことについて「私、こんなことできます」と発信することで認知してもらい、職場の内外から頼まれる可能性をつくること。

私個人の経験から導いたものではありますが、この3つが実践の場を得るコツです。

 

何を学ぶか「正解探し」にならないように

「リスキリングに取り組む個人の立場から、実際にどのように取り組んだらいいのか」というのが今回のテーマですが、「何を学ぶか」は最後に置かせていただきました。

なぜなら「何を学ぶか」という問いに対しては、他者からの助言があまり有効ではないと考えているからです。

リスキリングは、趣味やコレクションとしての学びとは異なり「職業能力の再開発・再教育」です(異なるだけで、もちろん優劣ではありません)。

ですから、リスキリングとして何を学ぶのかというのは、これからの自分のキャリアをどうしていきたいのかということでもあります。

 

ただし、ひとのキャリアというのは計画どおりに構築できるわけではなく、偶然の機会などに大きく左右されます。
私たち公務員でいえば、数年おきに転職のような人事異動があります。

だから「何を学べばいいのか」という正解探しをするのはかえって危険で、それよりも日々の業務の中で必要性に気づいたことや、仕事でも活かせそうなもので自分が強い関心を持てるものを選ぶ方が、現実的かつ自身の主体的なキャリア形成の材料になる可能性が強いと、私は考えます。

ちなみに私は、行政書士もワークショップデザイナーも、当時リスキリングという意識で学んだわけではありません。

ただ目の前の興味・関心に従って学んだことが、あとから考えるとリスキリング(=職業能力の再開発・再教育)だったのかなと思う、というのが正直なところです。

「リスキリング」として何を学ぶとお得なのか、有利なのかといった観点ではなく、日々の目の前の仕事に全力を尽しながら、そのうえで学ぶ必要を感じるものや学びたいと心底思うことに出会えたなら、そこに飛び込んでみてください。

学んだあとに活かしたいと思い続ける意志と、そのための機会をつくる行動があれば、その学びが無駄になることは決してありません。

 

第2回はここまでです。

第3回では、自分の人生を自分らしく生きるための「リスキリング」についてお話します最終回もぜひご覧ください! 

 


プロフィール

島田 正樹(しまだ まさき)さん

2005年、さいたま市役所に入庁。内閣府・内閣官房派遣中に技師としてのキャリアに悩んだ経験から、業務外で公務員のキャリア自律を支援する活動をはじめる。それがきっかけとなり、NPO法人二枚目の名刺への参画、地域コミュニティの活動、ワークショップデザイナーなど、「公務員ポートフォリオワーカー」として、パラレルキャリアに精力的に取り組む。

また、これらの活動や、公務員としての働き方などについてnote「島田正樹|公務員ポートフォリオワーカー」で発信するとともに、地方自治体の研修や「自治体総合フェア」等イベントでの講演を行う。2021年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得し、個別のキャリア相談にも対応している。

『月刊ガバナンス』(ぎょうせい)や『公務員試験受験ジャーナル』(実務教育出版)をはじめ、雑誌やウェブメディア等への寄稿実績多数。ミッションは「個人のWill(やりたい)を資源に、よりよい社会・地域を実現する」。目標はフリーランスの公務員になること。

著書

仕事の楽しさは自分でつくる!公務員の働き方デザイン』(学陽書房)

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