「仕事でデータを活用できるようになりたい」「でも何から取り組めばいいのか分からない」...そんな想いを抱えている人もいるのではないだろうか。
そこで本企画では、『ゼロからわかる!公務員のためのデータ分析』の著者、福岡県糸島市職員の岡祐輔さんに、公務員として知っておきたいデータ分析の基本を教えていただく。
第2回のテーマは「データ分析の基本思考」。岡さんは、どんな思考にもとづいてデータ分析に取り組んでいるのだろうか。早速見ていこう。
【連載|公務員が知っておきたいデータ分析】
(1)公務員がデータ分析をするメリットとは?
(2)データ分析の基本思考を身につけよう! ←今回はココ
(3)2つの分析術を使いこなそう!
データ分析のメリット
第1回では、データ分析のメリットを挙げさせてもらいました。
その中で、データと遊ぶことで「何を分析したいのか(仮説)」が浮かんでくるというお話をしました。
仮説とは、ふるさと納税を例にとると、「寄附額の増加には何が影響しているんだろう」と要因を考えることです。返礼品数、ポータルサイト数、定期便の数など、多くの要因を考えることができます。
自分のまちのデータを見たり、近隣・類似規模のまちと比較したりしてデータと遊んでいると、このような要因はいくつも浮かんでくるとは思いますが、皆さん忙しくて「そんなに遊ぶ時間なんかない!」という方も多いでしょう。
しかし、自分でやみくもに統計データを分析するとなると大変です。そんなときに、少しコツがあります。
統計データを分析するコツ
WEBサイト上で「分析 フレームワーク」「経営 フレームワーク」「マーケティング フレームワーク」などと検索すると、分析するときに、課題の切り口を分かりやすくしたり、自分の考えをまとめやすくしたりしてくれる支援ツールがたくさん出てきます。
例えば下の表は、3C分析と呼ばれるツールです。
3Cは「Customer」「Company」「Competitor」の頭文字で、「顧客・市場」「自社(自治体の組織・地域内)」「競合」をあらわします。Companyは内部環境、ほか2つは外部環境です。
「寄附額が全く伸びない」「寄附額を○%増加させたい」といった課題意識をもっていた場合、それに関係する3Cで要因を考えてみます。
(筆者作成)
「顧客・市場」であれば、「全国の寄附額はどのくらい伸びているのだろう」と市場規模や成長率を調べたくなります。
さらに、「○○市の知名度が高くてPRしやすい近隣エリアの人口はどのくらいだろう」とか、コロナウイルスの影響を考えると「コロナ後の寄附額の推移や民間企業のアンケートなどを見てみよう」と考えます。
「自社」であれば、地域内の事業者数を見て、そのうち「どのくらいの事業者がふるさと納税の返礼品を登録してくれているのだろう」「ポータルサイト数は多い方がいいのだろうか」など次のデータを見たくなったり、多くの要因が浮かんできたりします。
「競合」であれば、事業者数の多さをほかの地域と比較したり、返礼品数を比較したり、寄附額上位の団体のサイト数と比較してみたりなど、多くの考えが浮かんできます。
こうやってデータと遊んでいると、「ほかの地域と比べて食品関連事業者が多いから、人気の返礼品をもっとたくさん出せるのではないか」「多くの事業者に参加してもらえていないことが一番の課題ではないか」といった多くの仮説が浮かんできます。
ある程度進むと、自動的にデータがいくつか揃っており、きちんと3つに分けて分析したことでデータが整理整頓され、そのまま企画書に使えるデータになります。
この段階でも、課題を特定し、打ち手を考えることはできる場合が多いのですが、再度きちんと企画・評価を行うために、ロジックツリーを使って考える方法を紹介します。
データ分析の基本的な流れ
(筆者作成)
1.目的を決める
「寄附額を増やす」といったように、分析のどの段階でも、目的は重要です。目的を終始忘れないようにして、分析を進めていきましょう。
目的は、理想と現実とのギャップなので、「寄附額が計画目標値に1億円足りていない」などと決めると、分析はさらに具体的になります。
2.仮説を立てる
データで言いたいことを表現しながら、仮説を立てていきます。
このときには、目的に影響を与えるものは何か考え、「○○が△すると「目的」が高(低)くなるのでは?」のように文章を作成すると分かりやすくなります。
これまで目的を設定し、3Cで分析したときに、自然とこのような考えが頭の中に浮かんできたのではないかと思います。
3.データを集める
仮説を立てた後、データを収集します。前述の仮説思考にもとづいて、必要なデータを分析に使います。ここまで来れば、分析の半分以上は終わったようなものです。
そして、各自治体の統計白書、総務省「e-Stat政府統計の総合窓口」、内閣府・経産省「地域経済分析システム(RESAS、V-RESAS)」などを活用して、データを収集しましょう。
4.分析して検証する(要因を特定し、打ち手を考える)
第1回記事のふるさと納税の分析では、寄附額を上げる要因との相関分析を行いましたが、データが揃えば、最後は分析するだけです。
具体的な分析手法は、次回の記事でご紹介します。
ロジックツリーであらわすと
(筆者作成)
ここでは、多くの寄附者にまちを応援してほしいと考えます。
そこで寄附者数を増やしたいと思えば、「そもそもポータルサイトの流入数が少ないのでは?」「せっかくサイトに訪問してくれても魅力的な返礼品がないから寄附してくれないのでは?」といった要因が浮かびます。
ここまでくると、「サイトの訪問者数」「広告費」「サイト訪問者の寄附率」「返礼品数」など、集めるデータが特定されます。
そして最後に、他地域と比較してみるといったことや、過去からのトレンドで寄附額とともにこれらの数値が下がっているといった分析を行えば、難しい手法を使わずとも、要因が特定され、 打ち手が浮かんできます。
最後の「分析して検証する(要因を特定し、打ち手を考える)」段階では、このように比較したり、トレンドを見たりする方法をとりますが、その分析手法に多くの専門的な方法があります。
例えば、第1回で取り上げた、喫煙者と非喫煙者の平均医療費の差を比較した棒グラフは、「t検定」という方法を使うと、その差(効果)が正しいか検証し、より政策効果を立証することができます。
ただし、時間や労力、地域の負担などの制約から、自治体職員が高度専門的な手法を使う必要はありません。
棒グラフ、折れ線グラフの比較、クロス表やXY軸で基礎的な分析手法を使えるようになれば良いですし、よほど重要だと考えています(ただし、知っているのではなく、使えることが大事です)。
第2回はここまでです。
第3回では具体的な分析手法をご紹介しますので、お楽しみに!
プロフィール
岡 祐輔(おか ゆうすけ)さん
福岡県糸島市の現役公務員。仕事をしながら九州大学大学院でMBAを取得。データ分析、マーケティング戦略など、学んだ知識・技術と現場主義を活かし、様々な地域づくりをやり遂げる。その実績が認められ、様々な賞を受賞した。現在は九州大学大学院博士課程に在学し、地域経済の成長を実現するための分析力、政策立案スキルを磨きながら、新たな地域政策に挑戦している。
著書
『スーパー公務員直伝!糸島発!公務員のマーケティング力』(学陽書房)
『地域も自分もガチで変える!逆転人生の糸島ブランド戦略』(実務教育出版)
『ゼロからわかる!公務員のためのデータ分析』(学陽書房)