「仕事でデータを活用できるようになりたい」「でも何から取り組めばいいのか分からない」...そんな想いを抱えている人もいるのではないだろうか。
そこで本企画では、『ゼロからわかる!公務員のためのデータ分析』の著者、福岡県糸島市職員の岡祐輔さんに、公務員として知っておきたいデータ分析の基本を教えていただく。
第1回のテーマは「公務員がデータ分析をするメリット」。岡さんは、データ分析に取り組む中でどんなメリットを感じているのだろうか。早速見ていこう。
【連載|公務員が知っておきたいデータ分析】
(1)公務員がデータ分析をするメリットとは? ←今回はココ
(2)データ分析の基本思考を身につけよう!
(3)2つの分析術を使いこなそう!
はじめに
データ分析で課題解決、何だか、カッコいい響きではないでしょうか!?
気づかなかった世界を見られるのは、楽しいことではないでしょうか!?
私は、難しく考えず、データ分析を楽しむことが一番大事だと思います。
子育て世代の女性が、「糸島」と組み合わせて、Yahoo検索している言葉は、「求人」「正社員」「保育園」です(2022年10月「DS.INSIGHT」検索)。
ここから、糸島市において、女性の雇用は、早く手を打つべき課題ではないか、特にニーズが高い政策ではないか、という考えが浮かびます。
ちょっとデータで遊んでみることで、これまで気づかなかったことに気づいて楽しめたり、勘や思い込みに頼らず、客観的に物事を検討できたりすることになります。
EBPM(Evidence-based policy making、証拠にもとづく政策立案)がなぜ必要なのかは、公務員の皆さんには釈迦に説法、タコ耳だと思います。
そこで、「少ない経費で、効果の高い事業を実施するため」という大きな目標より、ぜひ自分自身のメリットを考えてみましょう。
ふるさと納税とデータ分析
私は、ふるさと納税の担当になったばかりのとき、「自分でやれること」「すぐに成果が出せること」はないかとデータ分析を始めました。
近隣・類似規模の市と比較することで、「高い寄附額には何が影響しているんだろう」と、その要因を調べてみたのです。
下の表は、右端の寄附額に対して、返礼品や広告費などの要因が与える影響を相関係数として検証したものです(ほかにも要因はたくさん考えられます)。
相関係数は1.0が強く、0だと全く関係がなく、0.85は相当強い相関があると言えます。
(筆者作成)
皆さんも、何かやろうと考えたときに、「返礼品数を増やそう」、「ポータルサイト数を増やそう」など色々な寄附額を上げる要因をお考えになると思いますが、私も同じです。
ただ、これをデータであらわしてみると、返礼品の出品数と寄附額には強い関係が見られたため、まず私は効果が高くて手がつけやすい、返礼品を増やすことに専念しました。
新規の事業者さんを開拓するのも重要ですが、既存の出品事業者さんに新商品やセット品、定期便などを出してもらうことも返礼品数の増加につながります。
そこで、中間事業者の方に相談して、毎月、訪問数や新規返礼品の登録数などを報告してもらっていました。
データ分析のメリット
1.自信をもって企画を提案できること
返礼品数の増加に集中して行動したことで、結果として無事に寄附額を伸ばせましたが、私自身には、データ分析を行ったことにより、ほかにもたくさんのメリットがありました。
政策立案時点で、「何をすればいいんだろう」「効果が出るか分からない」という不安を減らし、自信をもって自分の企画を提案できるようになったのです。
自信をもって企画し、成果も出しやすいとなると、企画することが楽しくなります。
だからこそ、データ分析が公務員に普及することで、政策立案を楽しむ人が増え、組織や地域の活性化につながると考えています。
2.企画の説得力が増すこと
過去の経験や思い込みからひらめいた企画案をそのまま出してしまうと、職場内で納得を得ることや企画を通すことが難しくなります。
しかし私自身、データを使って企画書をつくることで、文章ではなく、グラフや数字で説明を簡素化でき、「分かりやすい!」という言葉をもらえました。
数値やデータは揺るぎない事実であり、説得力があり、「こんなことができるの!?」と同僚や上司の納得を得やすく、協力者が増えることにもつながりました。
3.コミュニケーションが活発になること
データを使い、グラフや表などを見ながら説明すると、私のような口下手な分析者は話しやすいというメリットがあります。
さらに、分析者が一方的に意見を述べるだけでなく、相手や周囲の質問や意見を引き出す効果があるため、コミュニケーションの促進にもつながります。
1つのグラフがあることで、意見交換や情報共有の場を生み出すこともできるのです。
4.効率的に政策立案できるようになること
データ分析に慣れると、他自治体の視察やヒアリング調査に割く時間も大幅に減るなど、政策立案にかかる時間はむしろ減るかもしれません。
データ分析は公務員の重要なスキル
ここまで、私の経験から、データ分析をやってみるメリットを述べてきました。
データ分析をして損したことがないことも、メリットと言えるかもしれません。
ちなみに、ソフトバンクグループ株式会社の孫正義会長は、「データで表せない課題はない」と、企画や改善の仕事にデータ分析を使うことを必須として、社員の指導にあたっているそうです。
これだけ長く成長し続ける会社が、社員の重要なスキルとして徹底してきたからには、公務員にも重要なスキルになるのではないでしょうか。
最後に
最初にも述べましたが、「データ分析できると何だかカッコいい」「データで遊んだら新しい発見があった」というように、データ分析を楽しむことが一番です。
例えば下図のように、難しい分析方法を使わなくても、Excelを使って、棒グラフや折れ線グラフ、XYの2軸などの簡単な分析を行えば、かなりの部分が政策立案では事足ります。
(筆者作成)
ぜひデータとたわむれてみましょう!
第1回はここまでです。
第2回では、データ分析の基本思考についてお話する予定です。次回もぜひご覧ください!
プロフィール
岡 祐輔(おか ゆうすけ)さん
福岡県糸島市の現役公務員。仕事をしながら九州大学大学院でMBAを取得。データ分析、マーケティング戦略など、学んだ知識・技術と現場主義を活かし、様々な地域づくりをやり遂げる。その実績が認められ、様々な賞を受賞した。現在は九州大学大学院博士課程に在学し、地域経済の成長を実現するための分析力、政策立案スキルを磨きながら、新たな地域政策に挑戦している。
著書
『スーパー公務員直伝!糸島発!公務員のマーケティング力』(学陽書房)
『地域も自分もガチで変える!逆転人生の糸島ブランド戦略』(実務教育出版)
『ゼロからわかる!公務員のためのデータ分析』(学陽書房)