おかげさまで本誌は、12月22日で創刊5周年!記念企画にお招きしたのは、偶然にも創刊した2017年に新たな取り組みを開始し、行政・公務員を応援し続けているお二人。
私たちと一緒にこの5年を振り返り、5年先への期待を語ってもらった。
※下記はジチタイワークスVol.23(2022年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
吉田 雄人(よしだ ゆうと)さん
1975年生まれ。横須賀市議会議員を経て、2009年に横須賀市長に就任。2017年の退任後に会社を設立(現・Glocal Government Relationz)。一般社団法人日本GR協会 代表理事、一般社団法人 熱意ある地方創生ベンチャー連合 代表理事、ジチタイワークスアンバサダー等を務め、官民連携で地域課題を解決する世界の実現を目指し活動中。
加藤 年紀(かとう としき)さん
1983年生まれ。2016年に株式会社ホルグを設立。地方自治体を応援するメディア「Heroes of Local Government」を立ち上げ、各地で奮闘する公務員を取材・紹介。2017年より「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」を毎年開催。「地方公務員オンラインサロン」、YouTube「公務員応援ちゃんねる」を運営中。
5年前は何をしていましたか。
吉田:ちょうど市長を退任した年で、実は暗中模索の状態でした。ただ、市長として得た知見は活かしたいと思い、会社を設立。行政や地域の課題は民間のノウハウやリソースで解決できると考え、双方をつなげる役割が重要だと感じていました。そのため、官民の垣根を越えて課題解決できる人を育てる取り組みを始めたのです。
加藤:私は、地方公務員を応援するメディア「holg.jp」の取材に最も時間を割きつつ、地方公務員アワードを始めたのが5年前の2017年でした。公務員の話を深掘りして自社メディアで紹介し、それを“公務員に知ってもらう” だけでなく、もっと“一般の人にも広める”仕組みが必要だと考えていたからです。
5年前と比べ、自治体まわりで変わったと思うことは。
加藤:この5年で、公務員に対する社会の注目度は確実に上がったと思います。例えば、アワード受賞者のことを大手メディアが取り上げた件数は、200以上。5年前は地方創生の軸となる観光など華やかな部門が注目されましたが、最近では、生活保護や下水道といった目立たない部門にも光が当たるようになりました。アワードによって、“公務員を応援する”という新たな概念を提示できたのではないかと感じます。
実は今年から、受賞者がいる自治体を率いる“首長”の表彰も始めました。行政には、成果を上げて目立つ人を不当に叩く人がいて、それは個人の芽を摘むだけでなく、組織の弱体化につながる。そんな状況を救えるのは首長で、首長が「こんな職員はいい!」と明言することが大事。なので表彰することにしたのです。
吉田:その賞、私が市長だったときにあれば、欲しかったなあ(笑)。私がこの5年で変わったと思うのは、“官と民の関係性”。これまで官と民は発注者と受注者で、PPP/PFIといっても“行政の仕事を民間がやった方が効率的”という発想であり、あくまでも主語は行政でした。しかし、昨今では行政を主語にしない形での地域課題解決や地域活性化が必要になり、官と民が“イーブンのパートナー”に近づいている感覚があります。
反対に、5年前から変わっていないと感じることは。
吉田:公務員が地方公務員法や地方自治法のもとに働くことは正しいと思いますが、一方で“調達のあり方”には見直しが必要だと感じます。民間企業と付き合うには一般競争入札が前提であり、実態の分からない企業でも安く入札されれば任せざるを得ない。海外では交渉のような方式もあるので、日本も、もう少し多様な付き合い方を検討してはどうかと。ただ、その点が問題提起すらされない現状は残念ですね。
加藤:確かに、公務員は“組織側の都合で動く比率”がいまだに高めですね。本来であれば“住民のため”を第一に考えるべきなのに、組織側を見なければならない環境に置かれがち。組織としてどのようなマネジメントや構造にすれば成果を上げられるのかという視点が欠けてしまい、結果としてモチベーションを保てずに辞めてしまう人もいる。なので、人事は特に重要ですね。採用でも異動でも、住民向けの成果を最大化するために必要なことを突き詰めて考える必要があると思います。
5年後の未来を見据えて今、注力していることは。
吉田:GR(Government Relations)の必要性を広め、事例を学べ、プレーヤーがつながれる環境づくりです。ちなみにGRは“地域課題解決のための良質で戦略的な官民連携の手法”と定義していますが、これがもっと当たり前になればいいなと思っています。加藤さんには日本GR協会の理事に就任していただいていますので、ホルグとも連携していきたいですね。
加藤:私の場合はアワードの受賞者数ですね。現在69人ですが、ひとまず100人を目指しています。その規模に達すれば、特異な存在の選出ではなく、受賞者である素敵な公務員をもっと普遍的に捉えてもらえるのではないかと。加えて、公務員が成果を出せる環境づくりにも力を入れています。
「地方公務員オンラインサロン」はその一つ。明日からの仕事に役立つセミナーなどを行っていて、その根底には、“社会に反映できるような影響を与えたい、社会実装させたい”という思いがあります。
最後に、今後の自治体や公務員に期待する姿とは。
吉田:“カウンターのない役所”がたくさん生まれているといいですね。例えば、丸テーブルに「地域課題解決課」という表示があり、そこへ悩みをもつ住民がやってくる。するとそこに座って相談に応じてくれるのは、職員に限らず、NPOや町内会、企業の人かもしれない。そんな行政と民間の垣根がない役所ができるといいなと思います。
加藤:公務員一人ひとりの力を引き出すことで組織の成果を高め、その結果として社会を良くするためにできることを追求してほしい。また、社会全体が公務員のことを正しく知り、過分でも不足でもない期待を預けながら、住民と公務員が境目なく共創できるようになることを期待しています。
WEB限定 ジチタイワークス創刊5周年特別インタビュー 「5年前、5年後」。