那覇市は平成8年10月1日に「なは女性センター」を開設。女性の地位向上に向けた取り組みから始まり、25年以上にわたってLGBT※1などの性的マイノリティ※2に対する取り組みを行ってきた。
当初はその言葉さえも認知されていなかった時代。先進的に取り組みを続けてきた理由を取材した。
※1 LBGT=Lesbian(女性同性愛者)、Gay(男性同性愛者)、Bisexual(両性愛者)、Transgender(性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)
※2 性的少数派という意味で、旧来の価値観から“こうあるべき”とされる性のあり方に当てはまらない人々のことを指す。LBGTだけでなく、恋愛感情や性的欲求を抱かないアセクシャル(無性愛)などもある。
※下記はジチタイワークスVol.22(2022年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
四半世紀前から継続してきた取り組みが宣言へとつながった。
平成27年、「『性の多様性を尊重する都市・なは』宣言(レインボーなは宣言)」を発表した同市。性的マイノリティに対する差別や偏見をなくすために取り組んでいく決意を表明したもので、翌年には、全国で5例目となるパートナーシップ登録を開始した。
取り組みの背景には、平成9年から続く、セクシュアリティに関する市民講座があったという。“性の多様性”をテーマにした講座の開催については、「那覇市出身のオープンリー・ゲイの方をご紹介いただいたことから始まりました。実施してみると当事者の家族や周辺地域からも参加者が集まり、この講座が必要とされていることを感じました」と、当時から在籍する仲村さんは振り返る。
「沖縄は“チャンプルー文化”といわれるように、もともと変化を受け入れる土壌があったのだと思います。当時は、世間的に性的マイノリティに関する知識があまり浸透していなかったためか、講座開催への反対の声は特になかったそうです」と仲宗根さん。
従来の多様性を尊重する姿勢に加え、平成25年から当事者が中心となって開催した「ピンクドット沖縄」を共催したことや、渋谷区がパートナーシップ条例という先行事例を築いたことも後押しとなり、宣言の表明につながったという。
市民団体や当事者と協働しながら幅広い対象へ取り組みを進める。
宣言後は市民講座に加え、相談窓口の明示、広報紙での情報発信など、啓発・支援活動の幅をさらに広げていった。また、“交流の場がほしい” “性の多様性について語り合いたい”といった市民のコミュニケーションの場「レインボー交流会」の場所を提供するなど、市民団体とも連携を図りながら取り組みを進めている。
職員に対しても、意図せず当事者を傷つけることがないよう、資質向上のための研修を続けているそうだ。「私自身も業務を通して、知識を得ることの大切さに気づきました。知識があれば、無意識に相手を傷つけることを防げます。自分事として考えることも大事だと思います」と仲宗根さん。
「市内の公立中学校では、性の多様性について学ぶ機会を設けています。『自分の性に違和感を覚えることは、おかしいことじゃないよ』と伝えると、“モヤモヤが晴れた”という生徒もいたようです」と実施の意義を感じているという。地道な活動を経て、「意識調査では、8割を超える人が取り組みに賛成の意を示しており、多くの市民に理解を得られているのではと思います」。
当事者の存在を認識し継続していくことが大事。
「社会の中で生きづらさを感じ、困難を抱えている人がいます。市民が安心して暮らせるまちをつくらなければなりません」と仲村さんは力強く語る。「これまで女性の地位向上のために活動を続けてきた当センターだからこそ、権利の獲得や自由、尊厳を取り戻すためのスキルやノウハウの蓄積があります。性のあり方は多様で、当事者だけの問題ではありません。これからも市民とともに、課題解決のために知恵を出し合っていきます」。
令和4年10月からは、パートナーの子をはじめとする近親者も家族として登録できる「ファミリーシップ制度」を開始。さらに、11月には「ピンクドット沖縄創立10周年記念パレード」を共催予定だ。「生きづらさを抱えている方はどこの自治体にもいらっしゃいます。まずは意識調査などで可視化し、認識することが歩みを進めるために有効ではないかと思います」と仲宗根さん。誰もが住みやすいまちを目指して。那覇市から沖縄県全体、そして全国へ意識の高まりが広がることを望んでいる。
那覇市 総務部 平和交流・男女参画課 男女参画G
左:担当副参事 比嘉 さおり(ひが さおり)さん
中央:主任主事 仲宗根 学(なかそね がく)さん
右:なは女性センター指導員 仲村 宮子(なかむら みやこ)さん
取り組みについて、特定の人への優遇ではないかという声も上がりますが、私たちが行っているのは本来あるべき権利を獲得するための働きかけです。
課題解決のヒントとアイデア
1.市民団体と協力しながら当事者の意見もしっかり拾う
市民団体が主催する交流会の場所を提供したり、広報紙での告知を行ったりして、協働していく。また、新たな取り組みには、市民団体を通して当事者に意見をもらい、反映しながら進める。
2.市民への意識調査で声を可視化し、施策に活かす
“LGBTという言葉を知っていますか?” “まわりにLGBTの友人・知人はいましたか?”など、市民調査の中に性の多様性に関する質問項目を加える。市民の声を可視化できれば、施策に活かし、実行しやすくなる。
3.困っている人が一人でもいれば人権問題として取り組む
性の多様性の尊重に関する取り組みは、人権問題。たとえニーズが少なくても、生きづらさを抱えている人が一人でもいれば取り組むべきだという認識をもつ。