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デジタル田園都市国家構想とは?地方が目指すべきビジョンを解説

岸田内閣が掲げる成長戦略「新しい資本主義」の重要な柱の1つ、「デジタル田園都市国家構想」。地方からデジタルの実装を進めることで新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくというこの構想の実現に向けた動きが各地で始まっている。

各地方自治体においては、令和2年に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」によってDXが推進され、地域課題をデジタル技術の活用によって解決へ導く取り組みが強化されつつある中で示された新たな施策となる。構想の実現に向け、政府からは具体的な方針や評価基準、交付金についての提示がなされているが、まだその全体像を掴めていないという自治体担当者も多いだろう。

本記事では、同構想の基本をおさらいするとともに、「地方に何が求められているか」「何をすべきか」を分かりやすく解説する。

INDEX

デジタル田園都市国家構想とは?
デジタル田園都市国家構想実現へ向けた3つの取り組み
デジタル田園都市の実現目標とビジョン
デジタル田園都市国家構想の交付金
新しい指標“Well-Being指標”
デジタル田園都市構想は地方を救うのか

デジタル田園都市国家構想とは?

デジタル田園都市国家構想とは、「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されず全ての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」という、政府が目指す持続可能な経済社会への基本方針だ。

交付金などを通じ、デジタルを活用して地域の課題解決に取り組む自治体の数を2024年度末までに1000団体に展開する計画で、2021年補正予算と2022年当初予算を合わせ、5.7兆円を投じることでも注目を集めている。

 

デジタルで解決する“地方の社会課題”

DXの推進により「すぐ使えて」「簡単で」「便利な」行政サービスを提供することを目指してきた地方自治体にとって、デジタル田園都市国家構想の実現は、人口減少・過疎化・産業空洞化など、いわゆる地方課題の解決にも踏み込んだ施策となる。

主に、解決を目指す課題は5つだ。

①地方に仕事をつくる
②人の流れをつくる
③結婚・出産・子育ての希望を叶える
④魅力的な地域をつくる
⑤地域の特色を活かして分野横断的に支援する


これらの課題を解決することで、地方の魅力向上のブレークスルーを実現し、地域活性化を加速させることが「地方と都市の差を縮めていく」ための足がかりとなる。また、地方での新産業や雇用機会の創出が促されることによる人口拡大も期待されており、まさに今後の地方自治体のあり方に大きく関わる鍵なのだ。

 

 

デジタル田園都市国家構想実現へ向けた3つの取り組み

構想実現に向けては、様々な分野におけるデジタル技術の実装を行い地方の社会課題を解決する前提として、地方のデジタル基盤や、デジタル人材を確保することが重要だ。

さらに、デジタル技術になじみの薄い高齢者など、デジタル化の恩恵を受けられない人を生まないための取り組みも求められる。

この考えを踏まえ、構想実現で地方の課題を解決するための取り組みを分かりやすく3つに分類して見ていこう。

 

1.ハード・ソフトのデジタル基盤の整備

まず、「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」(令和4年3月29日公表)の実行等により、光ファイバ、5G、データセンターや海底ケーブルなどの通信インフラの整備が推進される。

総務省の「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」に基づき、地方ニーズに即した整備が実施される予定だ。

これにより、2027年度末までに光ファイバの世帯カバー率を、2030年度末までに5Gの人口カバー率を、それぞれ99.9%にすることが目標に掲げられている。

さらに、日本を周回する海底ケーブルの完成や、全国にデータセンター拠点を整備することなど、政府によるハード面での整備が進められる。

ソフト面ではマイナンバーカードが持つ本人確認・認証機能を徹底的に利活用していくため、国と地方公共団体、企業間などでのデータ連携の基盤が構築される。

ICTを活用した交通事業者と地域間における利便性の高い地域公共交通ネットワークの再構築も図られるなど、持続可能性を高める支援も実施される。

<主な取り組み方針>

・デジタルインフラの整備
・マイナンバーカードの普及促進・利活用拡大
・データ連携基盤の構築
・ICTの活用による持続可能性と利便性の高い公共交通ネットワークの整備
・エネルギーインフラのデジタル化

 

2.デジタル人材の育成・確保

政府は、構想実現のために2026年度末までに230万人の「デジタル推進人材」育成を目指す方針だ。

デジタル推進人材とは、専門的なデジタル知識・能力を有し、デジタル実装による地域の課題解決を牽引する人材のことを指し、デジタル推進人材が牽引することで、ゆくゆくは全ての労働人口がデジタルリテラシーを身に付け、デジタル技術を利活用できる状態を目指す。

加えて、育成したデジタル人材が都市部に遍在することのないよう「デジタル人材地域還流戦略パッケージ」に基づき、人材の地域への還流を促進。地方の人材市場の育成や、マッチングビジネスの早期市場化・自立化を視野に、都市部から地方への人材派遣や起業・移住支援等が実施される見込みだ。

※引用:内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「デジタル田園都市国家構想基本方針について」(令和4年6月)8ページ

<主な取り組み方針>

・デジタル人材育成プラットフォームの構築
・職業訓練のデジタル分野の重点化
・高等教育機関等におけるデジタル人材の育成
・デジタル人材の地域への還流促進

 

3.誰一人取り残されないための取り組み

構想を実現する上では、高齢者や生活困窮者などデジタル技術に慣れていない、または利用しない人も含め、デジタル化の恩恵をあらゆる人が享受できる環境を整備することが必要不可欠だ。

デジタル機器やサービスの利用方法を学ぶためのデジタル活用支援事業への取り組みをはじめ、学校や低所得者向けの通信環境整備も進められる。

<主な取り組み方針>

・デジタル推進委員の展開
・デジタル共生社会の実現
・経済的事情等に基づくデジタルデバイドの是正
・利用者視点でのサービスデザイン体制の確立
・「誰一人取り残されない」社会の実現に資する活動の周知・横展開

 

 

デジタル田園都市の実現目標とビジョン

地方の取り組みをイメージしやすくし、実行を促すための具体的なビジョンも提示されている。大学や企業の誘致、利便性の向上、新産業創出など、各地方自治体が抱える課題に沿う、実情を加味した取り組みでデジタル田園都市の理想像を実現する必要があるため、より多くのビジョンを参照しておきたい。

また、取り組みの発信と横展開を目的に実施された「夏のDigi田甲子園」でも、各地方の取り組みを広く知ることができる。

<地域ビジョンの例>

スマートシティ・スーパーシティ
データ連携基盤などのデジタルやAI、IoTなどの未来技術を活用して、地域の抱える様々な課題を高度に解決することにより、新たな価値を創出し、持続可能な地域づくり・まちづくりを目指す。

「デジ活」中山間地域
中山間地域の基幹産業である農林漁業の「仕事づくり」を軸として、豊かな自然、魅力ある多彩な地域資源・文化等やデジタル技術の活用により、活性化を図る地域づくりを目指す。

産学官協創都市
地域産業・若者雇用の創出や、地元企業や地方公共団体と連携した地方大学の取組を促し、大学を核として地方活性化が図られるような地域づくりを目指す。

SDGs未来都市
地方活性化に取り組むに当たり、SDGsの理念を取り込むことで、政策の全体最適化や地域課題の解決の加速化という相乗効果を生み出し、未来志向で持続可能な地域づくりを目指す。

脱炭素先行地域
2030年度までに民生部門の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロを実現するにあたり、デジタル技術も活用して脱炭素化に取り組み、地域課題の解決につなげる地域づくりを目指す。

MaaS実装地域
地域住民等の移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを組み合わせて検索・予約・決済等を一括して行うMaaSを実装し、移動の利便性向上等が図られたまちづくりを目指す。

 

取り組みの成熟度を測るためのType1〜3分類

デジタル田園都市国家構想実現に向けた取り組みはType1〜3のタイプに分類され、モニタリングされることになる。

この分類は、政策進捗度評価の基準として各自治体や団体の取り組みを政府が支援する指標となるので、しっかりとした理解が必要だ。

分類はType3が最上位の成熟度と評価される。評価のための要件は、技術実証ではなく生活への実装や官民相互連携性の確保、全国展開の可能性を持つことなどがあり、より実行・実現可能性度が測られる印象だ。

Type1(スターター)
デジタル原則を参照した検討を開始しており、他の地域等で既に確立されている優良なモデル・サービスを活用して、地域の個性を活かしたサービスを地域・暮らしに実装する取り組み

Type2(プレイヤー)
デジタル原則とアーキテクチャを遵守し、オープンなデータ連携基盤を活用するもの

Type3(リーダー)
Type2の中でも、先導的なユースケースを先行開発できるもの

※引用:デジタル庁「デジタル田園都市国家が目指す将来像について」(令和3年12月28日)14ページ

 

 

デジタル田園都市国家構想の交付金

構想実現に向けた取り組みへの支援として、国からのデジタル田園都市国家構想推進交付金がある。交付金は取り組み内容によって評価・分類され、採択が決定される。

具体的には、事業の立ち上げに必要なハード・ソフト両面での経費に対する支援となる。

それぞれの取り組みによって「デジタル実装タイプ」と「地方創生テレワークタイプ」の交付金に申請できる仕組みだ。

 

デジタル実装タイプ

デジタル化を活用した地域の課題解決や、魅力向上の実現に向けた地方公共団体の取り組みを支援することが目的となる。

デジタル化を活用して地域の課題解決や魅力向上に取り組むものであること、地域内外の関係者と連携し、事業を実効的・継続的に推進するための体制が確立されているものであることが要件だが、さらに取り組みの成熟度タイプ(上記のType1~3)別に要件・支援内容が異なる。

また、デジタル実装タイプの地方負担の扱いについては、新型コロナウイルス感染症対応地⽅創⽣臨時交付⾦が充当可能(地方負担の8割)となっている。

<対象事業例>

・データ連携基盤を活用したスマートシティ構想
・人手不足に対応するドローンやロボットを活用したスマート農業
・観光型MaaSやインバウンド向け多言語翻訳アプリ等による観光振興 等

 

※引用:デジタル庁「令和3年度補正予算 デジタル田園都市国家構想推進交付金 デジタル実装タイプ概要」(令和4年1月14日)11ページ

 

地方創生テレワークタイプ

地方への新たな人の流れを創出するため、サテライトオフィス等の施設整備・運営・利用促進等の取り組みや、サテライトオフィス等に進出する企業と地元企業等が連携して行う地域活性化を支援することが目的の交付金だ。

テレワーク環境、もしくはその機能があり、事業を実施する地方自治体の区域内に所在する施設が対象となる。「転職なき移住」を実現するための取り組み支援であり、進出企業の支援や定着に活用できる。

 

 

 

新しい指標“Well-Being指標”

デジタル田園都市国家構想には、適切な目標(KPI)と実現を目指すビジョンを特定・共有することを求められている。

これには、現状のまちづくり事業において、包括した目的や価値観の明示が不十分であることや、事業ごとのKPIが独自に設定されていることでひとつのまちづくりに共通のゴールが設定されにくいという問題を解消する目的がある。

多様な生活ニーズや価値観に寄り添うまちづくりをデジタル技術によって実現するには、複数のサービス間で協力・連携して共助のビジネスモデルを確立することが必要だ。

このKPIとビジョンの特定・共有のための評価基準として設けられたのが、「Well-Being指標」だ。 

 
国連が設立した非営利団体の「持続可能開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が調査する、世界幸福度ランキングの2022年発表分において、日本は54位という結果になった。

Well-Being指標が採用された背景には、この世界基準での評価に加え、日本独自の指標を用いて市民の幸福度を高めるまちづくり指標が必要だという考え方がある。

暮らしやすさを実現することの先に、市民の幸福感があるという考えのもとに生まれた指標なのだ。

 

Well-Being指標を知る

Well-Being指標とは、Well-Being(身体的・精神的・社会的に満たされた良好な状態にあること)の向上に向けたまちづくりの好循環を生み出すために用いられる指標のことで、デジタル田園都市国家構想の目標を設定するにあたって重要視しなければならないものとなる。

各種統計データを指標化して分野間の比較に用いられる「客観指標」と、市民アンケートの調査結果を指標化して時系列での比較に用いられる「主観指標」の2種類によって構成されるものだ。

交付金が採択された自治体を中心に、その成熟度評価の指標にも活用されることになっている。

調査結果はそれぞれの街の多様な性格がレーダーチャートによりビジュアル化されるほか、分析結果の表示もオンラインで可能だ。計測ツールはデジタル庁から無償提供される。

活用初年度となる2022年度の分析作業や計測結果を踏まえ、ツールの改善を実施しながら活用自治体が拡大される見込みだ。
※引用:デジタル庁「デジタル田園都市におけるWell-Being指標の活用について」4ページ

 

デジタル田園都市国家構想は地方を救うのか

岸田内閣の目玉となる大型構想・デジタル田園都市国家構想。国が主導してのデジタルインフラ整備を活用し、地方自治体にはデジタルの実装と、地方主体で新たな変革の波を起こすことが求められていく。

この構想を機に様々な取り組みや仕掛けを施し、地方と都市の差異が縮まるチャンスが広がりそうだ。

ただし、デジタルはあくまで手段に過ぎない。デジタル田園都市国家構想の真の目的はWell-Beingの考え方からもわかるように、市民の幸福感向上だ。

地方の個性やニーズを活かし、豊かで利便性と魅力溢れるまちづくりのため、今後のさらなる活用が期待される。

 

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【岡山県岡山市】デジタル化のレベルに応じた、きめ細かな支援事業を実施。

 

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