ジチタイワークス

公務員人生を豊かにする「キャリアのつくり方」とは?

「仕事にやりがいを感じられない」「これからのキャリアが思い描けない」......。
自治体で働く中で、誰もが一度は“キャリアデザイン”で悩んだことがあるだろう。

本企画では、静岡県庁職員や藤枝市副市長などのキャリアを積み、現在は藤枝市理事兼人財育成センター長を務める山梨秀樹さんに、「公務員のキャリアデザイン」について執筆していただく。
これまでジチタイワークスWEBでも、様々な自治体職員の方に仕事観や経験について語っていただいたが、本企画ではキャリアデザインについての全体像を俯瞰して考えていく。

第5回のテーマは「キャリアのつくり方」。
山梨さんは「行政を預かる社会的人財として、やりがいを持ち、生きがいのある職業人生を送れるかどうか」が大切なテーマだと述べている。それでは早速、公務員人生を豊かにするキャリアのつくり方を学んでいこう。

自分のキャリアは自分でつくる! 

職員のキャリアデザインとは、公務員としての人生設計そのものです。「行政を預かる社会的人財として、やりがいを持ち、生きがいのある職業人生を送れるかどうか」。これが我々1人ひとりの大切なテーマだと思います。

あなた自身の公務員人生です。ご自分の職業人生をどう磨き、豊かにつくり上げていくか。それに向けて、日頃からあなたのちょっとした心がけや習慣でできることが、いくつかあります。例を挙げてみましょう。

 

 

◇上司を観察して学ぶ

職場における自分の理想の立ち居振る舞いは、誰から学べばいいでしょうか?答えは「自分の上司や管理職」です。これほど分かりやすく、しかも近くで勉強になる人はいません。日々の仕事の中で観察しましょう。

そこから何を学ぶのか ? 尊敬でき、見習いたいと思うところと、そうでないところを学びます。

日頃の振る舞い、言葉への配慮と思いやり、実務の技術、庁内の調整力や外部との交渉力、そして身だしなみまで、私自身もあこがれ、尊敬してきた上司はたくさんいます。

役所では異動が頻繁にありますから、様々なタイプの上司に仕え、有形・無形の職場教育を受ける機会が多くあります。これは組織、官庁ならではの恩恵の1つと言えましょう。

無論、教師は「反面」の場合もあります。上司の所作や発言を見ていて、「あれはちょっとどうか」「自分としては受け入れられないな」と思ったら、あなたはもう、その上司から的確に教育を受けたことになります。将来、その上司のようにならないよう、そっと心がければ良いのです。

学んだら、どうするか。この人にまた仕えたい、できれば異動してほしくないと思われるような上司、管理職に、将来、自分がなることです。そして、自分なら仕えたくないと思うような上司、管理職のようにはならないことです。

 

 

◇なぜ?どうして?の思いを持とう

この業務をなぜしているのか、今進めている施策・事業がどうして必要なのか、時折考えてみましょう。

既存の事務事業をただ漫然と行い、前例踏襲の事務処理を続けるのは確かにラクですが、それは「思考の停止」です。

社会は常に変化し、人々の考え方も変わります。また、行政はクイズ番組の答えのように正解が1つというわけではありません。

事業の見直しや事務処理の改善は、What(今何をしている)?よりも、Why(なぜそれをしている)?から始まります。自分の仕事ですから、自身の頭で考えてちょっと腑に落ちない、または非効率だと思ったら、自分で改良すればいいのです。

住民にメリットがあるのはもちろん、あなたのキャリアアップにつながる実績となるはずです。どこの部署に異動してもこの気持ちで働くことで、将来あなたが担う行政経営の高いセンスと知見が養えます。

なぜ?どうして?の対象は、きっと見つかるはずです。

・この会議やミーティングは、なぜ行うのか?
・庁内の打ち合わせ記録を、どうして一字一句書き残す必要があるのか?
・この庁内調査は、どうしてやる必要があるのか?
・このイベントは、なぜ公営で、しかも毎年やり続けているのか?
・許認可の申請や届出で、なぜこんなに多くの項目を住民に書いていただくのか?
・この交付金制度は、なぜ、どんな理由と経緯でスタートしたのか?
・この地域の都市計画の区域区分は、なぜ何十年間も変更されていないのか?

 

 

◇公務員こそマーケティング技術が必要

公務員は様々な市場から最も遠い存在の職種と思われがちですが、それは逆です。

我々が住民の生活満足度を上げ、人を呼び込み、にぎわいをつくる戦略を立てる上で最初に行う作業は、地域内・外のマーケティングです。

ほかの地域に比べて価値が高いのに、地元ではそれが当たり前のものとして価値が理解されていない「潜在的高価値」を掘り当てるのです

例えば今、観光客は何を一番楽しみたいのか、どんな産業がどの地域に進出したいのか、若い世代がどんな働き方を望んでいるか、子育て世代が最も関心を寄せているものは何かといった、人々の「最新需要」をつかみます

次に、あなたの地域で、特色ある慣習や文化を持つ地区、隠れていた歴史的資産とそれにまつわる逸話のある地区、防災意識が高く先進的な取組を進める自治会の存在、教育や芸術に造詣の深い人々が活動するエリアなど、「最新需要」を満たし得る「潜在的高価値」の素材がつかめると、それが地域を盛り上げる新たな戦略につながります

また、こうした価値ある新素材を知り、それがビジネスにならないか、新たな事業展開ができないかという、地元にはなかった発想が企業で生まれることもあり、展開の可能性が広がります。

これらを調整するのも公務員のマーケティング技術であり、行政の「目利き」というものです

 

 

◇仕事以外の情報を集めよう

公務員だからといって毎日仕事だけというのでは、ヒトとしての間尺が狭くなります。

少し時間ができたら、興味本位で仕事と無関係な情報を色々集めてみましょう。インターネットで簡単に世界中の情報が入手できるのですから、雑学として知っておくだけでも楽しいものです。

将来、あなたの職位が上がると、会って対話する相手の職位も上がります。

例えば企業経営者や学界人、著名人などと協議や懇談の機会ができたら、そこではあなたの知識や情報がとても役に立ちます。的確な話題で人間関係が深まるのです。

時宜にかなった情報がなければ、趣味や娯楽の話題でもいいでしょう。

仕事のことしか語れない、行政のこと以外は知らないというのでは、ヒトとしての「幅」と「深み」が足りないことになります。

分野を問わず、優れた職業人は幅広い知識や情報があり、どの分野の誰と会っても軽快に話ができ、話題に事欠かないものです。それも、若いうちからの心がけ次第です。

 

 

◇好きなものをつくろう、そして打ち込もう!

あなたが好きで、いま入れ込んでいることは何ですか?夢中になれることを見つけ、それを深掘りして楽しみましょう。

若いときから「自分の世界」を作っておくことはとても大切だと思います。

法律や経済、健康に関する知識なら、仕事にもすぐに役立つ場合が多いですが、文学、絵画や彫刻などの芸術、歴史や哲学、音楽、映画やアニメ、デザイン、スポーツやアウトドア、格闘技など、何でもいいでしょう。

打ち込んでいると楽しいのはもちろん、気分転換や癒やしになるし、仕事で追い詰められたとき、「でも自分にはこれがある!」というよりどころ(私はLeaning Wallと呼んでいます)になるので、仕事でつらいことが続いても、倒れずに踏ん張ることができます。

しかも将来、なぜか仕事にも役立つときが来るのです。

私の経験則ですが、役所の仕事は極めて範囲が広いので、あなたの楽しみやたしなみが生かせる場面が、いずれ必ずやってきます。

 

 

◇外国語を学ぼう

地方公務員に外国語なんて無用?勉強する意味がない?

それは、大間違いです。公務員にとって、外国語は必須科目です。

特に学んでおいて便利なのは英語でしょう。世界中で20億人以上が使っているので我々も海外の情報が取りやすいし、義務教育で学んでいるので学び直しもしやすいです。

コロナ禍の収束後は、行政として外国人居住者の増加に向けた対応や地域環境の整備が課題となりますが、居住者の多くは、英語が母国語でなくても片言くらいなら話せる人が多いと聞きます。

また、海外からの様々な視察団(自治体の首長、議員、学界や経済界の人々)も、国籍を問わず英語を使える方が多いので、我々の取組や諸制度について英語で説明し、地方レベルでの国際交流を推し進めることはとても有意義だと思います

最近はAIの急速な進歩で優れた携帯翻訳機が普及し、役所でも多く利用されていますが、対話を万事機械にお任せというのでは、我々の熱や思いが伝わりません。

結局はヒトとヒト。あなたが担う施策や取組を、自分の言葉で相手に直接伝えることが非常に大切だと思います。

下手でもいいのですから、自分の仕事を自分の英語で、懸命に海外の関係者たちに語りましょう。外国の人々と直接行うコミュニケーションが、あたたかな国際関係と幅広い人脈を生み、あなたの仕事の視野を大きく広げます。

 

 

◇若手、後輩からの相談は丁寧に受けよう

特に採用2年目から7年目頃までの職員は、仕事や職場について様々な悩みを抱えていることが多いようです。

あなたがその世代より年長なら、悩みや迷いごとの相談は、忙しい中でも丁寧に聞きましょう。

若手から頼りにされている証拠なのですから、「自分なんかに相談されても…」と思うのではなく、あなたの敷居を下げて聞いてみるのです。

その場で解決できなくてもいいでしょう。真剣に聞き、あなたの経験談を話すだけでも十分です。

もし自分も同じ悩みを抱えているなら、それを互いに吐き出すだけでストレス解消になります。

あなたが将来、役職について部下が増えたときに、かつての後輩・若手からの相談内容が、職場マネジメントの大きな糧となることに気づきます。

他者の悩みを熱心に聞き、一緒に考える心の余裕を持つことです。この「ゆとりの心がけ」は、あなたがキャリアを上げていく中でも大切な要素になります。

 


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【連載】「公務員のキャリアデザイン」を学ぶ

「仕事にやりがいを感じられない」「これからのキャリアが思い描けない」......。自治体で働く中で、誰もが一度は“キャリアデザイン”で悩んだことがあるだろう。本企画では、静岡県庁職員や藤枝市副市長などのキャリアを積み、現在は藤枝市理事兼人財育成センター長を務める山梨秀樹さんに、「公務員のキャリアデザイン」について執筆していただく。


プロフィール

山梨 秀樹(やまなし ひでき)さん

昭和33年11月生まれ。昭和58年3月京都大学経済学部を卒業し、同年4月、静岡県庁に入庁。総務部市町村課、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室などを経て、平成20年10月藤枝市行財政改革担当理事、平成24年8月同市副市長、平成28年4月静岡県知事公室長、平成29年1月静岡県理事。平成31年3月に同県を定年退職し、同年4月から藤枝市理事。令和2年4月から同市人財育成センター長を兼ね、現在に至る。

著書に「伝えたいことが相手に届く!公務員の言葉力」(ぎょうせい)。ほかに寄稿、論文、大学ほかでの講義、講演など。

著書

伝えたいことが相手に届く!公務員の言葉力』(ぎょうせい)

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