ジチタイワークス

奈良県天理市

本当に寝るだけ?AIが体調分析し健康から医療費削減を目指す。

良質な睡眠は、健康維持や認知症予防につながる重要な要素だが、多くの高齢者の悩みでもあるようだ。要介護等認定率が全国平均より高く、社会保障費の増加に危機感をもつ天理市が導入した「ねむりの見守り」サービスについて話を聞いた。

※下記はジチタイワークスINFO.(2022年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]NTT PARAVITA株式会社

国や県の平均値を上まわる要介護等認定率に不安を抱く。

10年ほど前から要介護等認定率が、国や奈良県の平均値を立て続けに上まわっていた同市。伴って介護保険の給付金や介護保険料も、県内の他自治体より高い傾向にあったそうだ。また、要介護認定の審査件数のうち半数以上に、日常生活に支障をきたすほどの認知症状があらわれていたという。「今後ますます高齢化が進む中、介護予防、認知症予防に前向きな高齢者を増やすこと。それが天理市の命題でした」と喜多さん。

これまでも様々な介護予防教室や“通いの場”を提供。より多くの人が参加できるよう、人口の多い平野部だけではなく、山間部でも催すなどの努力もしていたそうだ。「既存の公共施設だけでは、来られない人もいただろうと」。そこで、できる限り個々の市民にとって身近にある、地域の集会所と連携。包括支援センターの職員や生活支援コーディネーターと一緒に、通いの場の立ち上げ支援を行ってきた。

さらに「調剤薬局とも連携し、開店前の店内で介護予防体操をする、といった活動も行ってきました」。しかし、様々な場所で開催しているにも関わらず、参加者にはある偏りが見られたという。「どこでどのような活動を行っても、参加者の顔ぶれがあまり変わらなかったのです。もっと幅広い方々に参加してもらう必要があると感じていました」。

官民連携で取り組んだ試みに確かな手応えを感じる。

前述の課題改善に向け、同市は平成27年から官民連携による健康福祉事業「活脳教室」を、成果連動型民間委託契約方式(以下、PFS※1)で始動。PFSは、自治体にとって導入リスクが少ない一方、成果指標の定め方が難点。喜多さん自身も「成果指標の設定が、当時の頭痛の種でした」と振り返る。

活脳教室では、認知症のスケールであるMMSE※2スコアの維持改善を成果指標に織り込んだという。「活脳教室を行った6カ月の前後で、参加者のMMSEスコアが維持改善した上、目標値を達成できなかったことは、私が担当した令和元年以降ありませんでした」。先例がなく試行錯誤して取り組んだPFS事業ではあったが、このときの結果が成功体験として刻まれたという。

その後の令和元年、同市はNTT西日本奈良支店の提案で、「ICTを活用したまちづくりに関する連携協定」を締結。協定の中に地域課題への対応が含まれていたため、活脳教室の参加者を中心に、睡眠状況から認知機能の傾向を推定するAIエンジンのフィールド実証を行ってきた。「当初、高齢者とICTとを結びつけることは難しいだろうと考えていました。しかし、従来のやり方を続けるだけでは、対象が会場に出向ける人に限られます。コロナ禍により特定の場に人を集めにくくなったことからも、“場所に縛られない新しい取り組み”に期待を寄せていました」。さらに、民間事業者との連携で、“参加者の心理的なハードルを引き下げられるのでは”との思惑もあったという。

「予防教室はあくまでも介護や認知症の“予防の場”でしかありません。しかし、参加することを周囲に知られると“ご近所に認知症だと疑われるのでは”という不安心理が働き、実はそれが参加を妨げていたようです」。その点、自宅で取り組むこの仕組みなら、心配は無用だ。「どうすれば介護予防や健康増進に取り組む高齢者を増やせるのか。この問いに対する答えが見えた気がしました」と当時の思いを語る。

フィールド実証で使用するのは、振動を検知するシート型睡眠センサーだ。これを参加者の敷布団などの下に設置し電源につなぐのみ。設置後は普段通りに過ごすだけで、就床時刻や入眠・起床時刻、中途覚醒時間や呼吸の状態などのデータが、自動的に演算サーバーに送られる。データはグラフ化され、専門家のアドバイスとともに月に1度、参加者へ提供。睡眠時間や質の良し悪しが視覚的に分かり、生活習慣の改善意欲を促進、睡眠状態の向上につなげられるのだという。

6カ月間のフィールド実証の結果、約75%の参加者の睡眠状態が改善し、“よく眠れるようになった”“日中の体調が良くなった”と、肯定的な感想が寄せられたという。「あと、思いがけない成果は、参加者の約半数が男性になったこと。以前は男性がわずか2割だったのです」と喜多さん。「これまで予防教室に参加してこなかった方にも届く取り組みを行いたい、という目標を一定量果たせたのでは」と胸を張る。

※1 PFS=Pay For Success(成果に応じて委託料を支払うため、高成果と低コストが期待できる事業方式)
※2 MMSE=Mini-Mental State Examination(認知症が疑われるときに行われる、国際的な神経心理検査の1つ)

薬剤師会との連携と民間の知恵で“参加者の壁”を破る。

NTT西日本とパラマウントベッドは、共同出資して、「NTT PARAVITA(以下、NTTパラヴィータ)」を令和3年7月に設立。これまで行ってきたフィールド実証の仕組みを「ねむりの見守り」というサービス名で、事業として進める体制を整えた。

フィールド実証を終えた同市は、令和4年度からPFS事業としてねむりの見守りを正式導入。だが、事業化したことによって“参加者の獲得”という、次の壁に突き当たった。「新しいシステムやサービスを使った取り組みは、市民の方に“何かを売りつけられるのではないか”と不安を抱かれやすく、広報紙で告知してもなかなか思うように参加者を集められませんでした」。

そこで、参加者を増やすため、市内の薬剤師会に協力を打診。薬剤師会に登録している薬局を訪れる患者にセンサーを貸し出し、2週間サービスを体験できる体制を整備した。また、来店する高齢者に対しても、薬剤師からねむりの見守りの案内をしてもらえるように連携したという。さらに同社は民間ならではの発想で、健康イベントを市内のショッピングモールでも開催。体力測定と健康相談会という触れ込みにし、睡眠に悩みを抱えている人にもこの取り組みを紹介した。

そのほか、広報紙や新聞の折り込みチラシにも情報を掲載。令和4年7月時点では、同サービスへの参加者を約60人まで増やせたという。

成果を積み重ね、近い将来の社会保障費削減をめざす。

ねむりの見守りは、PFSで提供されている。令和4年度に正式導入したとき、同市にとっては2度目のPFS事業となった。要領は心得ているため、かつて設定に苦心した成果指標の設定については、「日本老年学的評価研究機構」が出している要介護認定のチェックリストと、老年期のうつ病の評価尺度GDS※3を組み合わせたものに支障なく定められたという。

正式導入開始後間もないが、現時点での展望について尋ねた。「半年間の利用でいったん睡眠の状態が改善した後、その状態を維持できるのかどうかは不透明な部分も残されています。経年変化はこの先も継続的に追っていきたいと思っています。ゆくゆくは長期的な要介護リスクや介護給付費など、社会保障費にどのような影響を及ぼしたのかまで検証したいです」と、膨らむ胸の内も語ってくれた。

※3 GDS=Geriatric Depression Scale(高齢者のうつ症状をスクリーニングする検査)

天理市 健康福祉部 福祉政策課
地域支え合い推進係 係長
喜多 一樹(きた かずき)さん

天理市が行ったフィールド実証とは

睡眠中に取得したデータから、認知症やフレイルなどの“未病状態”をAIが推定。睡眠データとAIの推定結果をもとに専門家が利用者に伴走し、生活習慣の改善から睡眠の質の向上をめざし、健康維持につなげる。

「ねむりの見守り」サービスの概要

導入自治体から委託契約を受け、地域の高齢者などに対して説明会を実施。睡眠センサーを利用者に貸与し、3カ月間の睡眠改善プログラムが開始する。利用者には毎月、個別のアドバイス付きレポートが送られる。運営にかかる費用は、利用者数に応じた固定費と成果に応じたPFS方式で請求されるため、高い費用対効果が期待できる。

天理市と連携!企業担当者の思い

NTTパラヴィータ マーケティング部
延原 広大(のぶはら こうだい)さん

今回の取り組みは、社会保障費の抑制というゴールから逆算する形で、同市の担当者の皆さんと一緒にロジックを整理できました。このプロセスによって、ほかの自治体の参考になる成果指標がつくれたことは大きいと感じています。睡眠状態の変動要因は、日中の活動量やストレスの増減など多岐にわたります。だからこそ、大学などの専門機関と連携して学術的な検証を行うことが重要だと考えています。当面の目標は、ねむりの見守りが心理的・精神的な健康状態にどのような影響を及ぼすかを検証すること。特にうつ傾向の改善、身体的フレイルリスクの低下について検証を行っていく計画です。

トライアルから始められます

ねむりの見守りは、睡眠改善のほか、フレイル、うつなど、様々なものにフォーカスでき、地域の課題や目的に応じて、成果指標やチェックポイントを設定できます。導入の前にトライアルを行いたい自治体は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

コロナ禍でも持続できる取り組みで、市民の健康寿命の延伸をめざす。

奈良県天理市 市長
並河 健さん

なみかわ けん:1978年12月26日生まれ、大阪府箕面市出身。外務省官僚、広告代理店勤務を経て2013年、天理市長に初当選し第8代市長に就任。令和4年8月現在、任期3期目を務める。幅広い経験を活かし、地域活性化をめざして様々な領域へ積極的に挑んでいる。


全ての市民がいつまでも元気に暮らす社会。それは本市だけでなく、全国の自治体にとっても大きな目標です。しかし現実に目を向けると、本市の要介護等認定率は、国や奈良県の平均を上まわっていました。その内訳を見ると“認知症”がトップ。このままではいけないと強く危機感を抱き、事態脱却に向けて数年前から取り組みに本腰を入れ始めました。

初めに民間事業者と連携して、PFSで活脳教室を開きました。簡単な読み書きと計算、コミュニケーションを反復継続することで脳内の血流を促し、脳の活性化につなげる取り組みです。この試みを行う前後を比較すると、参加者のMMSEスコアが図のように改善されました。しかし2年前に新型コロナの流行が起こり、外出機会は激減しました。日中の活動量の低下により、食欲や睡眠時間、質の低下が発生。それにより気力がますます低下し、ひきこもりをもたらす悪循環、“コロナフレイル”と呼ばれる新たな課題も生まれました。

外に出られない高齢者を何とかしたい。その思いをかなえてくれたのが、今回取材をいただいた「ねむりの見守り」でした。家で普段通りに生活するだけで健康状態を分析して、分かりやすいグラフとアドバイスがもらえる。場所を問わず手軽、かつ自然に健康維持向上に取り組めるこのサービスは、今の本市にとってまさに最適解だと感じ、正式導入を決めました。

現時点での目標は睡眠改善の浸透ですが、中長期的には精神的・心理的フレイルに陥らないための早期介入をめざしています。官民が連携しICTを積極的に活用するなどの新たな取り組みで、本市は健やかな社会を生み出そうと努めています。

市民の健康意識の向上と健康活動への参加を促し、健康寿命が延伸する、まちが元気になる。このような好循環を推し進めることで、市民のQOLを向上させられると考えています。それは、将来の社会保障費を抑制し、持続可能な行財政運営につながる結果をもたらすことでしょう。本市が全国のモデルシティとなれるよう、市民の健康を意識した取り組みをチャレンジングに続けていきます。

お問い合わせ

サービス提供元企業:NTT PARAVITA株式会社

E-mail:contact@nttparavita.com
住所:〒541-0042 大阪府大阪市中央区今橋4-3-22 淀屋橋山本ビル8F

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