【セミナーレポート】介護人材の確保に向けた意外な突破口! “週休3日制”が利用者・事業者・職員の満足を高める秘密とは?
今後、ニーズが高まることは確実な介護業界。しかしこの領域では深刻な人材不足が叫ばれ続けています。何が原因で、どう対策すればいいのでしょうか。
今回のセミナーでは、前日南市長の﨑田氏と、介護事業者をサポートしている株式会社オリーヴの石塚氏が意見を交換、介護人材問題の解決方法を探りました。
概要
□タイトル:介護現場の人材確保における、最新事例をご紹介! ~週休3日で叶える、介護現場の働き方改革~
□実施日:2022年4月28日(木)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:61人
□プログラム:
第1部:前日南市長・﨑田恭平氏:「なぜ自治体職員が地域の介護人材不足に関心を持つべきなのか」
第2部:オリーヴ取締役副社長・石塚正拓氏「介護の未来を変える新たな働き方改革」
第3部:対談セッション
なぜ自治体職員が地域の介護人材不足に関心を持つべきなのか
介護従事者の不足は、「介護業界が解決すべき問題」と捉えられがちだ。しかし、厚労省勤務のキャリアも持つ﨑田氏は、「自治体職員が自分ごととして考えることが大切」と訴える。その根拠について、業界の抱える現実も交えて語っていただいた。
<講師>
﨑田 恭平氏
前宮崎県日南市長
プロフィール
1979年生まれ、宮崎県日南市出身。九州大学工学部卒業後、宮崎県庁、厚生労働省を経て、33歳の若さで宮崎県日南市長に就任。2期8年を務め、3期目は出馬せず、2021年4月に退任。現在は株式会社飫肥社中の代表取締役を務める。
慢性化する介護人材不足の問題に出口はあるのか。
私は以前、宮崎県日南市の市長を勤めました。その前に厚労省でも介護人材対策室を含む福祉基盤課というところで仕事をしていました。そうした経験も踏まえつつ、介護人材の地域における重要性や現状などをお話しします。
介護人材不足の問題は、下図を見ると一目瞭然。実際に供給できているのは青の部分ですが、需要はもっとあるということです。
私が厚労省に勤めていたのは2009年頃で、この図で表記されている期間よりも前なのですが、当時も介護人材不足は予想されており、どうすべきかということが国の中で議論されていました。外国の人材を入れようと法改正がされている時期でもありましたし、あの手この手を考えていたにも関わらず、10年以上経った今でもこの問題は解決されていません。外国人材の受入は加速していますし、成功事例も出てきてはいますが、実際に不足している数と比較すると不十分だというのが現実。外からの力を頼るだけでは解消できない課題だということが分かります。
ここで質問なのですが、今、自分の自治体で実際に「どのくらい介護人材が足りていないのか」ということを把握していますでしょうか。国や県からの照会などで施設にヒアリングした経験があれば、ある程度認識があるかもしれませんが、そうでなければピンとこないと思います。下記は、九州エリアの需給ギャップを推計値として示した表です。
この表の充足率を見ると、例えば福岡県では2017年で約99%ですが、それが3年後には約98%、2025年には89.3%となっており、10%も低下することになります。これは他の地域もほぼ同じ状況で、介護従事者の数は増えているのにも関わらず、需要の増加に追いついていません。この事実は国も分かっているので、介護人材の確保に向けて動いていこうという方針をつくっています。
地域のインフラ維持に向けて自治体がリーダーシップを!
ここで皆さんに認識していただきたいのが、これは事業所単位での問題ではない、ということです。介護人材が不足するということは、地域における生活の最低のインフラが人的に保てないということに直結します。国はもちろんですが、自治体こそがしっかりとアンテナを張って、まちを維持していくための人材問題解決を意識していかなければならないと思います。
では、どうすれば人材を確保できるのかということになりますが、各事業所の実態はなかなか見えてこないのが実情だと思われます。今回はそうした問題について専門的に取り組んでいる株式会社オリーヴの石塚さんの話を通し、何が課題なのか、現状はどうなのかということを知っていただき、後の対談では私からも皆さんを代表して質問したいと思います。
ここからは、石塚さんにバトンを渡します。
介護の未来を変える新たな働き方改革
出口がないかのように見える介護人材不足の問題。それに対し株式会社オリーヴが提示する解決策は“週休3日”だ。一見、相反する視点のように見える人手不足解消と休日増加をどのように両立させるのだろうか。宮城県での事例を軸に石塚氏がその秘密を明かす。
<講師>
石塚 正拓氏
株式会社オリーヴ 取締役副社長
プロフィール
大手宅配寿司チェーン運営会社で15年間勤務し、店舗運営部門の責任者として約1,500名以上の人財マネジメントに携わる。2018年、株式会社オリーヴに入社。取締役副社長兼トップコンサルタントとして介護施設の状況に寄り添うサポートを実施し、業界の将来を見据えた事業モデル「週休3日制度導入支援」の導入拡大を推進している。
3Kが最大の原因ではない!介護職員が退職する理由とは?
皆さんは、5年後に介護業界の人材不足が解消できているイメージをお持ちでしょうか。先ほどの﨑田さんの話でもありましたが、あまり明るいイメージは持てないのではないかと思われます。これは事業者も同様で、同じ質問を投げかけると、施設からの回答の大半は「ノー」です。将来に向けて何をしたらいいのか分からない、あるいは目先の人材不足が深刻で未来に向けた取り組みにマンパワーを割くことができない、というのが現場の本音。特に悩みが集中しているのが以下の8点です。
こうした現実に対し、自治体側も、どうやったら介護の現場が良くなるのか、人材不足が解決できるのか、日々頭を悩ませていることかと思います。人材不足については、“業界3K”と呼ばれているものがありますが、これが1番の退職理由ではありません。最も大きいのは“職場の人間関係”です。
人材不足から余裕がなくなってしまうことが大きく影響しており、さらに介護系の職員はホスピタリティ意識が高く責任感が強いので、理想が実現できないとそこに強く当たってしまう。こうしたことが現場で起きているのです。その結果効率が悪くなり、残業が増えたり職員の誰かが犠牲になったりして、貴重な人材が辞めてしまうという悪循環に陥ります。
また、外国人の活用も大事ですが、これも本質的な解決策ではありません。そこで効果的なものが「週休3日制度」です。導入メリットには、以下のようなものがあり、「利用者・職員・法人」の三方良しが実現できます。
1日10時間+週休3日の選択制で多様な働き方を実現。
介護現場で働いている方々の本音を聞くと、「休みが休みでない」という声がよく聞かれます。連休がとれる世界ではないので、心も体も十分にリフレッシュできない。これに対し我々は、1日10時間の働き方による週休3日制度を推奨しています。
1つ目のポイントは、1日10時間の働き方という働き方です。一般企業の週休3日制度は、1日8時間の週3日休みで週32時間労働というものが大半ですが、これは介護業界とマッチしません。この業界の賃金水準は低いままなので、それを下げないためにも週40時間は確保せざるを得ない。そこで1日10時間の働き方が最大の効果をもたらしてくれるのです。
そして2つ目のポイントが、従来型と週休3日の働き方を選択できる点です。これは現在私たちが宮城県で取り組んでいる内容で、週休3日を強制してしまうと、子育て世代などは1日10時間の働き方にマッチしないため、一定の離職が出てしまいます。そのため選択制で「働き方はいつでも変更可能」とします。来月は週休3日ではなく従来型にしたいとか、あるいはその逆など、ライフスタイルに合わせて働くことができるのです。
この1日10時間労働の最大の効果は、勤務の重なる時間が増えるということです。
具体的には上図の通りで、この重なり時間が増えることがケアの質の向上や生産性の向上などにつながり、利用者満足にも貢献します。
ここからは、宮城県の事例をもとにお話しします。当社は2020年度から宮城県で委託事業を請け負っており、今年で3年目になります。これは県の事業費の中でコンサルティングをして、県内の事業者に週休3日制度導入のフォローアップをするという支援です。
同県も人材不足に関しては悩みを抱えていました。特に若年層はプライベートを重視する人が増えているのに対し、介護業界は逆行しているので、介護を志す若い人が減る。そこで、もっと魅力ある働き方の導入をしたいという相談があり、「週休3日」が採用されたという流れです。これは厚労省が掲げている5つの人材確保対策スキームに関して言うと、下図黄色の部分に該当します。
自治体のリーダーシップが介護業界の未来を拓く。
具体的にどういう取り組みをしているかというと、半年間かけてトライアルまで進めます。その後シフトに週休3日を導入し、1年間トライアルの経過を支援します。ポイントは、週休3日を導入するのに半年かかるということです。理由は2つあります。
1つは職員に対し、新しい取り組みに可能性を感じていただけるところまで持って行くのに時間がかかるからです。トップダウンで強制しても、大抵はうまくいきません。もう1つは、管理者の皆さんにシフトのイメージを持っていただけるような関わり方をしていくからです。制度は就業規則に組み込むだけでなく、有効に活用されなければ意味がありません。そのためには管理者が現場に目を向けていただけるような関わり方が必要なのです。それらによってあらわれる効果は、以下の通りです。
また、導入から1年を経過した後、施設の声を集めた結果が下記です。
通常は新しいことに取り組むと、満足・不満が二極化されますが、「満足」「変わらない」を合わせて95%ということは、導入におけるハードルが非常に低いということを意味しています。こうした結果は別の例でも同様で、例えば長野県の施設で導入した際は初年度の週休3日利用が約65%だったのですが、制度への理解が深まっていくと9割近くの方が選択するようになりました。
同時に採用人数も増えています。埼玉県の施設では、導入直後に2名だった採用が、3年後には6名になりました。栃木県の施設では、導入してから年を追うごとに離職率が下がってきています。さらに、週休3日制度では残業も削減できるようになります。
宮城県での取り組みが成功している理由は、県が主導して、フロントランナーをつくった上で普及活動を続けているからです。制度の導入だけでは本質的な改善はできません。国や自治体が主導して介護の人材不足に取り組んでいかないと、現場や法人だけでは解決できないのが現状なのです。
私たちは、介護業界を、職員にフォーカスを当てる職場、職員の幸せにつながっていく現場にしていきたいと考えています。職員が満足してこそ利用者も満足し、それが地域貢献につながるからです。そのためにも週休3日のメリットを普及して、職員が笑顔で働ける職場を増やしていきたいと思っています。
介護業界が社会に支援され、素敵な仕事だと考えられるような世界ができれば、必ず地方創生につながるはず。日本が抱える少子高齢化という課題を、こういったところから解決していきましょう。
対談セッション
ここからは、﨑田・石塚両氏による対談と、参加者の質問をピックアップしてのQ&Aタイム。具体的な事例を中心に語られる内容から、「週休3日制」の本質を明らかにしていく。
週休3日をうまく機能させ職員にも経営側にもメリットを。
﨑田:まず、「問題は3Kではなく人間関係だ」ということでしたが、具体的にどういうことでしょうか?
石塚:3Kは表面的な問題であって、本質的な課題は人間関係にあるという意味です。現場でどういったことが起きているかというと、大きく二つに分けられます。1つは職員同士の直接の人間関係。例えばベテラン職員と新人とで、介護に対する考え方に相違があるとか、価値観を共有できないほど余裕がない状況になっているといったケースです。そしてもう1つが、家族など身近な人の影響です。人材不足が発生すると仕事がハードになる。すると身近な人から「辞めた方が良いのでは」「違う施設で働けばいい」といった声が出て、それを受けて「私はこのままでいいのか」という思考に陥ってしまうんです。
﨑田:なるほど。そうした問題を、週休3日がどう解決するのでしょうか?
石塚:介護の現場では「連休がない」というのが現状です。そこに週休3日を導入すると休みが増えて連休も増えます。まずはプライベートを充実させるということがすごく大切で、それができるので皆さん満足されているんです。介護施設では、16時間夜勤を導入されているところが大半で、次の日のシフトには入れません。ただし休み扱いではなく「明け休」とされています。この夜勤も10時間にしていけば、明け休がきちんと休みになって、その次の日も休みになっていれば、さらに休みを1日追加して3連休も可能。夜勤がなければ、普通の3連休もとれます。
﨑田:つまり、経営側は人件費が上がらないのがメリットで、職員は休みの充実感が得られる、ということでしょうか。
石塚:そうです。週に3日の休みを取得すると、オン・オフをしっかり切り替えられるようになります。その結果、職員がいきいきと働けるようになり、経営側としては人件費や収益の改善につながっていくので、正しい投資もできるようになってくる。これがポイントです。
﨑田:ここで参加者からの質問です。「勤務が重なると何がメリットになるのでしょうか?」
石塚:介護の現場が忙しくなるのは朝と夕方です。起床・食事・移動の介助が朝と夜は必ず発生します。これに対し、1人で多くの仕事を回している施設が多いんです。そうすると本来やるべきケアができなくなってしまう。このピークタイムに人員を増やせば、他の時間にも余剰が生まれるので、記録業務などの事務作業も時間内で終わらせることができるようになります。
自治体だからできるサポートで介護業界にも横連携を生む!
﨑田:宮城県で取り組みを続けているとのことですが、具体的には施設向けの啓発活動からスタートしていくイメージですか?
石塚:そうです。1年間のスキームにおけるポイントは、週休3日についての周知、導入してからの進捗の共有と、他地域での活動事例、導入がもたらした結果の共有といったものです。
﨑田:宮城県の事例を聞くと、都道府県の仕事かなという印象です。ただ、実際に介護事業の現場に向き合うのは市区町村だと思うのですが。
石塚:各都道府県で異なります。人材確保は県の担当だという市区町村もあれば、全て市区町村が担っているところ、研修や教育は県が行うところなど様々です。そこは都道府県と市区町村とのつながりを強化していくことが大切だと思います。
﨑田:都道府県の職員は、市区町村から言われるときちんと対応してくれるものです。なので、市区町村が声を上げるといいですね。県などに対し、「こういう使い方ができる基金があるから準備してほしい」と要望すると柔軟に対応してくれると思います。続いての質問で、「週休3日制を導入したら介護人材が増える、というところをもう少し詳しく聞きたい」というものがあります。
石塚:現在の介護人材の母数は、介護業界そのものを志している方が大半です。例えば、専門学校などで介護や高齢者福祉を学んだ人たちが介護施設で働く、という図式です。しかしそうした人たちが少子高齢化で減っている状況なので、新しい市場で採用活動をしなければならないのです。しかし、介護業界は諸条件で他の業界に勝てません。そこに週休3日を導入してワーク・ライフ・バランスが実現できるようになると、未経験者の流入も増えてくる。これが人を増やすロジックになっています。他にも、一度業界を退いた方が復帰を検討する場合、週休3日の施設で職員の人間関係も良い施設なら働きたい、というケースもあります。
﨑田:もう1つ質問です。「石塚さんが自治体に担ってほしいと考えることは何でしょうか?」本質的なところをお聞かせください。
石塚:自治体が主導して、介護業界に連携を生むということです。この業界は横の連携が希薄で、事業者間のコミュニケーションがとれていないのが普通です。こうした問題に対し、自治体がハブとしての役割を務め、横のコミュニティを広げつつ、その中で業界の情報・ノウハウを発信していくという役割を担っていただきたいと考えています。介護の業界は本当に皆さん一生懸命やっているのですが、それが空回りしている。その状況をうまく調えられるのは自治体です。我々も皆さんのお役に立てる情報をこれからも提供していくので、いつでも気軽にお声かけいただければと思っています。
﨑田:ありがとうございます。私たちも将来は介護を受ける可能性があるので、「介護人材をきちんと確保する」という仕事は“自分ごと”であり、それが住民の幸せにつながると思います。この業界は守りではなく攻めです。過渡期にある今こそ、攻めの姿勢で頑張っていただきたいですね。
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