ジチタイワークス

愛媛県今治市

平常時も災害時も市民に開放し、親しまれるごみ処理施設に。

地域から嫌われがちなごみ処理施設に、防災拠点機能をもたせた「今治市クリーンセンター バリクリーン」。平常時にはスポーツやイベント会場として、年間2万人が訪れる市民の社交場となっている。災害発生時には、安全な避難場所に変身。これまでの概念を覆すフェーズフリーなごみ処理施設に、全国から注目が集まっている。

※下記はジチタイワークスVol.19(2022年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

複数のごみ処理施設が老朽化、新しい施設の建設が急務に。

平成17年、愛媛県内の12市町村合併に伴い、同市は4つのごみ処理施設(陸地部に1、島しょ部に3)を所有・運営することに。しかし、どの施設もかなり稼働年数が経過しており、建て替えが急務となっていた。クリーンセンター管理事務所の村上さんは「それだけ施設があると、運転経費や環境負荷もかかってしまいます。それらを削減するために、新たに1つの施設を建設し、集約することになったのです」と当時を振り返る。

建設にあたっては、安全性、周辺環境の保全など、同市にふさわしい施設のあり方を審議会で検討したという。その結果、“施設自体の地震対策はもちろん、地域全体として、災害時の防災拠点となるような機能をもつ整備に配慮することが望ましい”との答申があり、防災拠点機能を付加することが決まった。この条件をもとに入札を実施したところ、落札企業から、“フェーズフリーを取り込んではどうか”と画期的な提案がなされたという。

「通常、災害が発生すると施設の機能は一気に低下します。これをできるだけ抑えようというのが従来の防災の考え方でした。しかもその大半は、災害発生時のみに使う特別な機能であり、日常では全く使えない。だから“防災対策=コストがかかる”と考えられてきました。その点、フェーズフリーなら、平常時も役立つため導入しやすく、コスト面を考えた場合でもメリットがあり、行政が取り組みやすいというわけです」。

フェーズフリーを取り入れ、強い防災拠点機能を構築する。

新施設建設に向け、同市では候補地の選定も進めていたが「歓迎される施設ではないので、苦労しました」と村上さん。それでも旧施設の老朽化リスクなどを説くことで、地元住民の理解を得たという。こうして、平成30年3月、陸地部にあった旧施設の道路反対側に新施設が竣工。民間企業とも連携しながら、①廃棄物を安全かつ安定的に処理すること②地域を守り市民に親しまれること③環境啓発、体験型学習および情報発信ができることの3つを柱にした“今治モデル”の施設が稼働を開始した。

施設そのものが震度6強の耐震設計である上、発電および地下水処理設備や、生活排水1週間分以上を貯留できる災害排水貯槽を設置。「災害時は、ごみ処理を継続しながら、周囲のインフラが断絶しても電気、水道が使える避難所になります。平常時は、ごみ焼却による発電と地域への電力供給を行い、スポーツやイベントの会場として研修室を市民に開放しています。おかげで、年間約2万人の来場を記録しました」。

また、最大320人が1週間避難できる食料品の備蓄や空調完備の居室、シャワーなども用意しているという。「避難所の運営には、地元のNPOが人的サポートをしてくれる体制も整えました。ハードとソフトの両面から防災へ取り組んでいます」。

地域で新たな価値を生む、ごみ処理施設を目指したい。

この取り組みは「ジャパン・レジリエンス・アワード2019」のグランプリを受賞し、「全国から視察依頼や問い合わせが来るようになりました」と加藤さん。「バリクリーンと我々の取り組みが、ごみ処理施設のイメージ一新につながったのではないかと自負しています。実際に市民からも“ごみ処理施設に対するイメージが変わった” “防災機能も備わっていて頼もしい”など、歓迎の声が寄せられているので、頑張ったかいがあったと、うれしく思います」。

また、点在していた4つの施設を1つに集約することで、コスト面でも大きな成果があったという。「施設集約前と集約後を比較すると、全体の運転経費が約5億円削減。さらに、余剰電力の売電収入として年間約2億円の歳入増となりました」。次の目標は、ごみ処理で発電した電気を地産地消することで、脱炭素社会の実現を考えているという。

「これらの取り組みを継続し、他自治体にもノウハウをお伝えすることで、全国に“地域を守り、市民に親しまれるごみ処理施設”が広がっていくのを願っています」。

今治市
クリーンセンター管理事務所
左:所長 加藤 良浩(かとう よしひろ)さん
右:所長補佐 村上 浩一(むらかみ こういち)さん

「これまでの取り組みが評価された」と、グランプリ受賞をみんなで喜びました。これからも地域に新たな価値を生み、歓迎される施設を目指していきます。

課題解決のヒント&アイデア

1.インフラ断絶時も機能するごみ処理施設と避難所を一体化

ごみ焼却による発電と非常用発電機により、電力の断絶時も供給が可能に。また、上下水道の断絶に備え、地下水高度処理設備、マンホールトイレ、生活排水を1週間貯留できる排水貯槽も設置している。

2.施設を1カ所に集約したことで年間経費を約5億円削減!

運転経費や環境負荷を削減するため、市内4つのごみ処理施設を1カ所に集約。これにより全体経費を約5億円削減、さらに、施設で発電した余剰電力を売ることで、年間約2億円の歳入増を実現。

3.敬遠されがちなごみ処理施設が市民に親しまれる場所に

スポーツや会議など市民の活動に利用できるようにすることで、ごみの搬入以外での来場機会と人数を増やし、地域を活性化。“冷暖房も完備されていて、キレイで使いやすい”と市民からの評判も上々。

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