ジチタイワークス

東京都豊島区

フェーズフリーの防災公園が、“にぎわいと安心”の両方を生む。

豊島区では、木造住宅密集地域の防災対策と有事の際の池袋駅周辺における帰宅困難者への対応が課題となっていた。令和2年に完成した防災公園「イケ・サンパーク」と駅周辺を運行する「イケバス」は、フェーズフリーの概念を採用し、利用者から好評を得ているという。その成果と今後の課題とは。

※下記はジチタイワークスVol.19(2022年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

住民の要望に応え、木造住宅密集地域を機能的な防災公園に!

昨年、「フェーズフリーアワード2021」の受賞でも注目を集めた「としまみどりの防災公園(愛称:イケ・サンパーク)」。

「この地域は国内有数の木造住宅密集地域で、以前より、防災対策の強化を望む住民の声が多数ありました」と話すのは、公園緑地課 課長の片山さんだ。「もともとこの場所にあった造幣局が平成25年に移転することになり、土地利用転換が図られることになったのです」。その翌年から住民の要望に応える形で防災公園の整備が始まり、令和2年にイケ・サンパークが誕生した。

公園中央にある約6,600㎡の芝生広場は発災時には近隣住民や帰宅困難者を収容できる一時避難場所として、その後には救援物資の集積・集配所として機能する。「広場の中央部にはヘリコプターが離発着できるので、医療物資や重症患者の輸送も可能です。トイレは、発災時でも防災井戸からくみ上げた水で水洗として使うことができます」。その他、防災倉庫や防火樹林帯、非常用トイレ、応急給水槽、深井戸等の整備により、近隣地域および区全体の防災機能を強化したという。

区民・行政・民間、三方良しのP-PFI事業で公園を整備・運営。

イケ・サンパークの整備にあたっては、「区が進める池袋駅周辺の『4つの公園を核としたまちづくり』の1つとして、平常時のにぎわいと災害時の防災、両面の機能をどのようにもたせるかが課題でした」と片山さん。その解決策として、防災まちづくりを得意とする「UR都市機構」と連携。“設計施工管理運営一体型発注”で、得意分野をもつ企業で構成される共同事業体(コンソーシアム)の公募を行ったという。「これにより設計段階から工事・管理運営企業の意見が入り、将来を見据えた細やかな設計ができました」。

また、全国で2例目となったPark-PFI(公募設置管理制度※下図参照)の導入もポイントの1つといえるだろう。「この制度を活用すれば、民間の事業者側は設置管理許可期間延伸などのインセンティブを得られます。すると、今回整備したような飲食施設を園内に開くこと、木製デッキ等を整備することなどの投資活動を、事業者側へ誘導しやすくなります。つまり、区の財政負担を軽減しつつ、公園に集う住民の利便性向上も図れる、三方良しの管理運営になるというわけです」。加えて、公園内に飲食施設があれば、普段のにぎわいを高めるとともに、発災時、一時避難者への飲食物の提供も期待できるという。

住民の声に耳を傾け続け、“最初から満点”を目指さない。

実は、フェーズフリーという言葉が注目されるずっと前から、公園に防災機能をもたせることを当たり前のようにやってきたという同区。「住民の声に耳を傾けてきた結果が、フェーズフリーアワードの受賞につながったのだと感じます」と担当各課の皆さんもうれしそうだ。今後も平常時の憩いとにぎわいの場として、災害時の頼りになる避難場所として、 “住民に愛される公園の管理運営”に努めていくという。

「災害時に備え、極力、遊具などを設けていない芝生広場はイベントスペースとして活用でき、公園の魅力の1つになっています。ただし、利用にあたっては、様々な意見が寄せられます。初めから誰もが満足する満点の施設をつくることは難しい。官民で連携し、地域の人々ともマナーやルールについて一緒に検討しながら、改善していくことが重要だと考えています」。

池袋駅周辺を走る可愛い周遊バスが、いざというとき、非常用電源車に!

“まちなか交流バス”として同区で親しまれている「イケバス」は、環境にも優しい電気自動車だ。「令和元年11月から運行を開始しました。災害時には区と運行事業者との防災協定をもとに、停電中の地域の防災センターなどにプロドライバーの運転で出動。非常用電源として活用できます」と都市計画課 担当課長の小澤さん。保有数は10台で、1台当たりのバッテリー容量は約2万5,000wh、スマホ約2,500台分の充電が可能だという。

 

豊島区 都市整備部
左:公園緑地課 課長 片山 裕貴(かたやま ゆたか)さん
右:都市計画課 担当課長 小澤 丈博(おざわ たけひろ)さん

イケ・サンパークは近隣世帯からの満足度も高く約84%が「一時避難場所の機能に期待する」と回答。地域関係者とは定期的に公園運営について話し合っています。

課題解決のヒント&アイデア

1.官民連携でフェーズフリーの防災公園計画を整備

防災まちづくりのノウハウに長けたUR都市機構に事業の要請を行い、整備を推進。また、将来を見据えた整備を実現するため、設計施工管理運営一体型発注を採用し、共同事業体(コンソーシアム)での公募を実施。

2.Park-PFI制度を導入することで区の財政負担を軽減

共同事業体(民間の事業者側)にインセンティブを付与することで、公園施設の整備費等の一部を負担してもらう制度を導入。公園利用者の利便性向上と区の財政負担軽減の両立を実現させた。

3.公園ができたことで人流が増え、地域を活性化

平日は約1,000人、土日は約1,700人が来園。池袋駅から公園まで人流が増え、地域のにぎわいに貢献している。開始から4日間で約1万2,000人が来場した「ファーマーズマーケット」も話題に。

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