夜間において、良好な視環境を確保するための道路照明灯や、犯罪防止の役割を果たす防犯灯。それらが点灯していなければ、住民に不安と不便さを生じさせてしまう。しかし、その管理には膨大な手間がかかるという。そこで富谷市が取り組んだのが、道路照明灯と防犯灯管理のICT化だ。
旧来のシステムに依存せず、課題そのものに焦点を当てた新しいシステムを活用することで、短期間で業務効率化を実現した同市の取り組みを紹介する。
※下記はジチタイワークスVol.17(2021年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
業務改善の実現性が高い課題をピンポイントで効率化する。
富谷市には、約1,900灯の道路照明灯と約3,300灯の防犯灯が存在している。同市の都市整備課では、これらの管理・点検・修繕業務を限られた人員で担当。“明かりが消えている”など、住民や町内会から問い合わせが入るたび、職員が現場を確認し、電話やファックスを介して維持業者に工事を依頼していた。作業報告書や請求書のやりとりも手作業で行っていたため、手間も時間もかかっていたという。
また、道路照明灯と防犯灯の管理台帳をGIS(地理情報システム)上で運用していたが、「システムの更新が必要になるたびに業者に依頼しなければならず、その都度、コストや時間がかかる懸念がありました。また、電球の種類や型番などは別途エクセルで管理していたので、双方のデータ(GISとエクセル)の整合性に常に不安がある状態だったのです」と寺内さん。大型システムと二元管理の弱点があぶり出された形だ。システムの新開発やカスタマイズも検討したが、コスト負担が膨大になるため踏み切れなかったという。
一方、同市の産業観光課では、行政課題を官民協働で解決に導く実証事業「おためしイノベーション富谷」を積極的に推進。その一環として、前述の都市整備課が抱えていた課題に着目した。「都市整備課は、道路や河川に関する様々な手続きを行っていますが、まずは、道路照明灯と防犯灯の管理で発生していた課題に絞り、誰もが使いやすいシステムを導入したいと考えました。業務改善の実現性が高いイメージもあったのです」と高橋さんは語る。
ツールを組み合わせることでコストや手間の削減を実現。
様々な策を模索する中、強い可能性を感じたのが、自治体と民間企業をマッチングする「オープンイノベーション・プラットフォーム」を通じて出合った、「地図とクラウドサービスを連携させたアプリケーション」だった。その後、開発企業が“既存ツールを組み合わせることで、短期間での課題解決、低コスト・低リスクでの運用が見込める”と同市へ提案。それを受けて検討を重ねた結果、採択に至ったという。
開発にあたって市から提供したものは、道路照明灯と防犯灯の座標地図や管理記録などをまとめたエクセルデータのみ。「2週間程度でプロトタイプができてきたことには驚きました。後は開発担当者とオンラインで意見交換をしながら、電球の種類や型番といった管理項目の追加などの微調整を行っただけです」とスピード感ある対応や完成度の高さに満足したという。
令和2年12月には、維持業者にも協力を仰ぎ、新システムの実証実験を2カ月にわたって実施した。修繕業務の進行状況(職員による現場確認、業者への発注状況、業者による作業完了報告など)を、関係者とリアルタイムで実際に共有。パソコンやタブレットを介して、簡単に一元管理できるメリットなどを確認した。
管理ツールの検索画面。不点灯の道路照明灯と防犯灯をマップアプリ上で確認し、対象をクリック(タップ)すると、灯種などを記した詳細情報が開く。内容確認後、依頼ボタンをクリックすると維持業者に通知される。
改良を前提に、将来的な活用の可能性を見定める。
実証実験の結果、自治体と維持業者のやりとり時間が短縮しただけでなく、エクセル管理やファックスの送受信、作業報告書・請求書類の作成なども不要となり、ペーパーレス化も前進。何より、管理の精度が上がったことが最も大きな成果だったという。同市では、この実証実験の十分な成果を受け、次年度の正式採用に向けて準備を進めている。
「本ツールはローコードで開発されており、比較的簡単に改良を行うことができます。制作したシステムを類似事業に利活用できるメリットにもひかれました」と寺内さん。優先度を見極め、スモールスタートをしながら成果を積み重ねていくことが、業務改善への近道といえそうだ。
富谷市
左:建設部 都市整備課 寺内 元(てらうち げん)さん
右:経済産業部 産業観光課 髙橋 大地(たかはし だいち)さん
短期間で確実な成果が得られた今回の実証実験は、職員のモチベーションを高める機会になりました。今後も課を越えた横展開で課題解決ツールとして活用したいです。
課題解決のヒントとアイデア
1.いきなり大きく変えようとせず個々の課題解決を段階的に着手
業務の改善を図る際は、旧来の仕組みありきの発想を捨て、1つ1つの課題にフィットした策を模索することが重要。改善を目指す範囲を限定することで、無理のないスタートができるだけでなく、方針の転換も簡単に行うことができる。予算に応じて機能を拡張していけるメリットもある。
2.民間企業のアイデアを活かしコンパクトな改善策を模索
今回の取り組みの実現は、民間企業とのマッチング・プラットフォームを活用したことが発端。大掛かりになるケースも少なくないICTツールの導入だが、民間企業のテクノロジーとアイデアを活かすことで、コンパクトに運用することもできる。いざというときに、スピード感を持って課題の解決に取り組めるよう、常にアンテナを高く張っておくことが大切だ。