新型コロナウイルス感染症対策の大きな柱であるワクチン接種事業。状況が日々変化する中で、旭川市は民間のパートナーとともに、迅速かつ柔軟なシステム運用を行い、接種を進めているという。現場の担当者に話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.16(2021年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社サイシード
二転三転する状況の中でも対応できるシステムを検討した。
北海道第2の都市で、人口約33万人を擁する同市。コロナ対策チームも相応の人数が必要で、当初は保健所の健康推進課がその役割を担っていたが、業務量の多さに対応できなくなるおそれがあった。そこで令和2年12月、新型コロナウイルス感染症対策担当部署を設置。ワクチン接種の実施に向けて準備が始まったが、「立ち上げ時の混乱は避けられなかった」と浅田さんは振り返る。「感染状況は日々変化し、それに応じて国からの指示も変わります。迅速に動く必要がありましたので、自分たちで情報収集し、状況を見極めて判断することが求められました」。
住民窓口となるコールセンターの委託先は早期に決定していたが、人口30万人を超える都市で、ワクチン接種の予約を電話だけで受け付けるのは困難だ。詳細が不透明な中で、WEBでの予約システムをどうするか、という問題が残されていたという。各ベンダーを比較していったんは絞り込んだが、令和3年3月、いよいよ決定の直前になって、候補システムに機能面での不足が見つかった。「予約システムでは、予約枠をコールセンターでもコントロールできる機能が必要でした。内定していたシステムにはそれが備わっていなかったのです」。同市では、WEBを苦手とする方々が不利になることなく、公平かつスムーズに予約枠を調整するためには、この機能が不可欠だと考えていた。限られた時間の中、再度システム会社の選定を行い、同年4月に「サイシード」の予約システムを採用することに決定した。
運用上必須の条件に加え、“信頼度”を評価して採用。
そんな緊急事態の中で白羽の矢が立った同社は、「コロナワクチン接種専用予約管理システム」を手がけており、現在では200以上の自治体が同予約システムを導入しているという(令和3年8月末時点)。当時の採用の決め手を浅田さんはこう語る。「条件を満たしていたのはもちろんですが、ホームページでの情報公開が当初から充実していて、信頼度が高いと判断しました」。
急ピッチで準備を進め、ワクチン接種開始に向けて、5月13日からWEB予約受付をスタート。これにより同市での接種予約は、市のホームページを入口とするWEBからの受付、コールセンターでの電話受付、市内各病院での受付の3通りという体制が整った。予約システムは順調に稼動し、翌月にはワクチンの供給量も増え、いよいよ本格的な運用が始まったという。
サイシードのコロナワクチン予約システム
旭川市における導入メリット
メリット1
予約しやすい分かりやすい
予約画面はユーザーインターフェースに優れ、初めて使う人でもサクサク進めることができる。
メリット2
社会情勢に合わせて機能を継続的にアップデート!
政府の方針が変わっても現場に負担のないよう、週1~隔週でアップデートを実施。もちろん3回目接種にも対応。
メリット3
ワクチン接種記録システム(VRS)連携で手間を軽減
予約システムで接種実績も一元管理し、VRSに一括アップロードできるCSVデータを出力。登録作業を大幅削減できる。
メリット4
予約が集中しても安定稼働待ち時間なく快適に接続
十分なサーバー容量を確保し、アクセス集中時にもシステムがダウンしないのはもちろん、接続の待ち時間もなし。
メリット5
AIチャットボットで月間2,000件以上の問い合わせを自動で解決!受付時間外にも大活躍
“よくある質問”はその場で解決できる
予約システムの全ページにAIチャットボットの起動ボタンが設置され、住民の疑問をその場で解決。内容も事前に準備されているので、自治体の手間もかからない。
入電数削減、人件費削減にも貢献
●月間9,870件の利用があり、約半数がコールセンター受付時間外の利用。市民サービス向上に貢献。
●チャットボットでの解決数は2,077件。コールセンター1対応10分とすると、約346時間の削減。
調査期間:令和3年7月1日~31日
落ちない、手間がかからない、改修も迅速な予約システム。
ほかの自治体と同様、同市でも予約が殺到するタイミングが何度かあったが、システムは障害などを起こすこともなく、業務が止まることはなかったという。運用を担当している上平さんは「各地の自治体でシステム障害が起きたという事例をよく耳にしていたため、その点が1番気がかりでした。しかし、当市では問題が起きず、この高い安定性は非常にありがたかったです」と評価する。機能的にも、AIチャットボットが多くの問い合わせを解決しているが、「標準で備わっている質問や回答が充実していて、特にこちら側で手をかけることがないので、使っているという感覚すらないくらいです」。
また、運用後にも予約システムには様々な機能が追加され、アップデートされていった。「例えば、接種2回分の同時予約機能や、政府のワクチン接種記録システム(以下、VRS※)とのデータ連携機能などです。こうした状況の変化に迅速に対応してくれたので非常に助かりました。特にVRSを個別に読み込むのは手間がかかるため、一括読み込みができるかどうかは、作業効率に大きな違いがあります」。運用側のニーズにシステムが即応しながら、同市の接種は順調に進んでいった。
※VRS=Vaccination Record System
いつまで続くか分からない、でも課題は改善し続ける。
民間と連携して地域に安心を届け続けている同市。ただし、接種事業の全てがうまく進んだわけではなく、いくつかの課題も見つかったという。例えば、ワクチン配送の件だ。同市では、会計年度任用職員を約10名確保し、150件ほどの病院への配送を自前で行っている。「急な発注でも、たとえ1本でも、きめ細やかに届けられるというメリットはあるのですが、やはり負荷はかかります。ワクチンの供給が安定してきたら、配送については検討の余地があります」と浅田さん。一方で、予約システムの運用開始から3カ月が経過したが、住民からの苦情はほとんどないという。「システムに関する苦情や質問などを受ける心構えをしていたのですが、予想は外れました。何らかのアクションが起きていないということは、予約システムが使いやすい、と解釈していいのではないかと思っています」と上平さんは胸をなでおろす。
ワクチン接種事業が今後どうなっていくかは分からない。そんな中でも、安定したシステムを基軸に、改善を目指す姿勢は、行政サービスのさらなる充実につながることだろう。
旭川市保健所
新型コロナウイルス感染症対策担当
ワクチン接種チーム
左:上平 あかね(うえひら あかね)さん
右:浅田 拓磨(あさだ たくま)さん
協働企業「サイシード」の課題解決サービス
“事務局立ち上げの包括支援パートナー”として担当者の困り事をまとめて引き受ける。
旭川市のワクチン接種事業に貢献している同社の予約システムは、東京23区の半数以上でも導入され、さらにその一方で、人口1万人規模の町村でも導入されている。規模の大小を問わず全国各地で高い評価を得ているが、同社は「これは目指す世界の一部にすぎない」という。システム開発にとどまらない、同社の本来持つサービスの全体像を紹介する。
Before
新事業立ち上げとなった場合、担当職員は、各業務に適した事業者をリサーチ。個々の仕様書を作成し、入札などを経て、決定した事業者に個別発注となり、負担が大きい割に全体コストも上がってしまう。
課題
●専門知識がない中で、複数業務の事業者選定は困難。
●事業者間の調整役として全体コントロールが難しい。
●業務範囲が重複し、オペレーションに無駄が発生。
●各事業者は責任外のことをやらない、縦割りになる。
●住民にとって不親切な仕組みになる場合がある。
After
新事業の立ち上げから運営全体を“事務局”に任せる。各種業務の全体最適を考えた上で、システムとオペレーションの要件を定め、迅速に立ち上げ。スタート後も自治体の現場管理の手間を省きつつ、コスト減を図る。
システムを軸にした全体最適化で自治体事業はもっと効率化できる!
同社による事務局立ち上げの包括支援は、システム単体ではなく、コールセンターなど人的コストがかさむオペレーション面まで最適化することで、“自治体の負担軽減・住民サービスの質向上・ベンダーの価値向上”の三方良しを目指しているという。その思いを代表取締役の松尾さんに聞いた。
サイシード
代表取締役
松尾 陽二(まつお ようじ)さん
“システムの販売”ではなく課題の根本を解決したい。
同社は全国の自治体に知られる存在となったが、「私たちのやりたいことは、受け身の“ベンダー”の範囲より、もう1歩踏み込んだものなのです」と松尾さんは語る。「当社は、自治体向けの“システム構築”を主力事業としている会社ではありません。主に大企業のコールセンターや社内ヘルプデスクを対象として“自社開発のAIシステムを軸にした業務効率化”を提案・実行してきたITベンチャーです」。
予約システムを提供する中で、複雑かつ負担の多い現場の状況を知り、ある種のもどかしさを感じたという。「どの自治体も、コロナ禍を乗り切ろうと力を尽くしています。しかし、告知内容とシステムの整合性が取れておらず、問い合わせが殺到する。殺到するから、コールセンターを増員する。そのために予算を取り、必要書類を新たに作成し……と、連携不足により、本来不要な業務が次々と発生する悪循環を目の当たりにしました。当社なら“事務局”として一元管理することで各業務を連携させ、全体を最適化できる、と強く感じています」。
全体最適ソリューションが現場の横連携を実現する。
松尾さんによると、例えばワクチン接種のようなシーンでは予約システム、コールセンターなど様々な業務が発生し、これらは別々の事業者へ委託されることが多い。「分離発注の方が、品質を担保しコストを下げられると考えている担当者もいるかと思いますが、逆効果の場合も少なくありません。まず、自治体担当者がプロジェクトを統括することになり、人手不足・経験不足の中で細部まで目を配るのは非常に困難です。また、事務局の中ではコールセンターの人件費が大きな割合を占めますが、予約システムが使いにくい、アクセス集中時に利用できない、となると電話が殺到し、人員増、コスト増につながります。でも発注時の“仕様”を満たしていればシステムベンダーに責任はなく、自社の範囲外の業務まで含めた改善にはつながりません」。
そんな現状のもと、同社は“事務局の理想像”に向かって、新機能の開発やアップデートを自主的に行っている。「仕様にはない、AIチャットボット・当日予約・2回目セット予約・VRS連携などの機能を自主的に開発し、一貫して全体最適を追求してきました。複数自治体のコールセンターを受託している企業から聞いた話によると、当社システム利用の場合、他社システム利用に比べ、同じ予約件数あたりの電話対応件数が約30%少なく済んでいるそうです」。
スピード感と再現性のある事務局立ち上げを実現。
包括支援のメリットは効率化やコストダウンだけではないという。「事業の立ち上げスピードも、変化への対応も早くなります。今回のような、緊急対応が必要な自治体事業には特に有効です」。また、全国のパートナー企業と手を組んで事務局化するため、地元感覚も踏まえた、身近で継続的な関係を築くことができる。「事業運営から無駄をそぎ落とし、行政サービスの質をより高めていくお手伝いができればと思っています」。
これは、人手や専門人材の不足、財源不足などで悩む自治体にとって、未来への可能性も秘めた新しい提案ではないだろうか。
予約システムの機能をブログで公開中!
コロナワクチン予約システムの機能は、全てブログで公開しています。ぜひ一度ご覧ください!個別相談も承りますので、気軽にお問い合わせください。
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サービス提供元企業:株式会社サイシード
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