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公務員こそ「人脈」が必要、「井の中の蛙」にならないために

コロナウイルスの感染拡大により、これまでの「当たり前」は通用しなくなった。自治体や公務員も例外ではなく、従来の様式や働き方を変えていかざるを得なくなっている。そんな時代に活躍できる「ニューノーマル公務員」になるために、考え方と行動をどうチェンジしていけばいいのか。元・三芳町の職員で、現在は自治体の広報アドバイザーを始め、新たなチャレンジを続けている佐久間 智之(さくま ともゆき)さんに寄稿いただいた。

公務員は“井の中の蛙”になりがち

「公務員のニューノーマル」というテーマで連載をしてきましたが、すべてに共通するのは、どのようにしたら相手に情報や想いが「伝わる」のかを想像し、考える力が必要であること、そしてその力は、これからの公務員に求められるものであるということです。

その「想像力」を高めるために必要なのは「人脈」です。地方公務員は派遣などがない限り、ずっとその自治体で働くこととなります。都道府県主催の合同研修会などの機会がなければ、他の自治体との交流もありません。積極的に人脈を増やそうとしなければ、いつの間にか“井の中の蛙”になってしまう恐れがあります。

私の場合、税務課で固定資産税を担当したときには、評価替えの年になると県の研修や、近隣の市町で意見交換をする機会がありました。そこで繋がった他の自治体職員との交流は今でも続いています。しかし介護保険担当となったときは、国保連合会主催の説明会などはあったものの、他の自治体職員との交流は皆無でした。これは制度的に、市町村区によって事務量やシステムが異なるため、他の自治体のやり方が踏襲しにくく、参考になりにくいからでした。

そして広報担当になってから、一気にほかの自治体との交流が増えました。公務員の仕事のなかでも広報の仕事は特殊で、クリエイティブな業務を行うために、先進事例や他自治体の業務の仕方、スケジュールなどが非常に参考となり、即効性もあるからです。そして幾度となくこの繋がりが私を救ってくれたのです。自分の考えだけでは生み出せなかった新しい発見や想像力を与えてくれるヒントとなるのは「人との繋がり」です。

私が広報担当となったのは2011年4月。当時のSNSはミクシィが主流で、東日本大震災によって「Twitterが活用できるらしい」と認知された程度、Facebookはまだなく、今よりも人と繋がることが難しい時代でした。「広報紙を変えたい!」という強い思いに突き動かされ、インターネットで「自治体広報 すごい」などと検索して見つけた自治体の広報紙を印刷し、見よう見まねで必死につくっていきました。しかし、ほかの自治体のが、どのようなスケジュールで何人体制で広報紙をつくっているのかはインターネットで調べても出てきません。やはり現場職員の声が必要なのです。

広報紙交流で新しい出会いと学び

そこでまず行ったのは「広報紙交流」です。広報コンクールで入賞するような著名な自治体に電話をし、広報紙を送ってほしいとお願いをしました。実際にコミュニケーションを取ることで、今までインターネットでしか見ていなかった無機質な広報紙が、グッと「この人がつくった広報紙」に変わるのです。そして距離が縮まったところで、スケジュールや広報担当者の配置人員など現場の声を聞かせていただきました。今思えば、多忙ななか時間を割いていただき、申し訳ない気持ちになります。しかし自治体は、民間企業とは異なり営利や競合はないため、すべて教えてくれるのです。これは公務員でしか在り得えない、大きなメリットです。

税務課や介護保険担当時代にも、積極的に他の自治体の事例を調べ、交流をしていたら、もっと業務改善ができたのかもしれないと少し後悔をしています。そして2014年にAR(拡張現実)を使い、当時は珍しかったYouTubeで動画をアップするなどし、翌2015年には自治体広報日本一となる内閣総理大臣賞をいただいたことで、今度は私に視察や問い合わせがくるようになりました。

私はどんなに忙しくても全てお受けしてきました。例えば研修講師をしてほしいというお願いも絶対に断りませんでした。その理由は物事には必ず意味があるということ、ご縁を大切にすることは自分の価値を上げ、さらなる能力の向上に繋がると確信しているからです。そして決して手を抜かず、貴重なお時間をいただいて耳を傾けてくださってる方の気持ちを忘れずにいました。相手がどうしたら喜んでくれるのか、理解してくれるのかを考える、つまり「伝わる」ことを常に考えてきたのです。

今はコロナで、対面での研修会や勉強会を行う機会が少なくなりましたが、私は名刺交換をしたらSNSもしくはメールでコンタクトを積極的に取っています。名刺交換をして終わりではなく、そこから交流が始まるのです。名刺をもらって満足している公務員は多く、もっと言うと名刺がない職員は多いです。自治体職員の場合、個人で使う名刺をつくるには、自費の場合がほとんど。けれども自己研磨と自分の価値を向上させるためには、持っておいて損はないです。人脈ができ、業務改善されて仕事が楽になると思えば、決して高い投資ではないのではないでしょうか。

人との繋がりから旬な情報が手に入る

現在は広報担当になった当時と比べ、人脈を広げるためにSNSを活用する機会が劇的に多くなりました。FacebookやLINEで繋がり、メッセンジャーでグループを作り交流を深めることが簡単にできます。以前は研修会などで物理的に集まるしかなかったのですが、SNSであれば全国の公務員と簡単にコミュニケーションが図れる。これは大きなメリットです。繋がりたいと思った人には必ず「三芳町の広報担当をしている佐久間と申します。差し支えなければ申請いたしましたので承認のほどよろしくお願いいたします」などのメッセージを入れてからFacebookの申請をします。いきなり申請だけされるとどこの誰だか分かりませんので、この一言添えることも相手に想いが「伝わる」手段であるわけです。

そして人脈を広げることで、自然と旬な情報が入ってくることが最大の恩恵です。自分から情報を探さなくてもタイムライン上で全国の「仲間」の動きをウォッチすることができ、気になることがあったら繋がりがある人を通じて詳細を聴くことができるのです。

「広報担当は特別だから人との繋がりができたのではないか」、そう思われるかもしれません。しかし、今はオンラインで様々な公務員が活躍するグループがあるので、どの部署でも全国の公務員と繋がることができます。自治体の様々なトレンドを知ることができるのでお勧めです。しかし義務ではありません。オンラインのグループに参加することでキラキラした公務員を目の当たりにして自信を喪失するかもしれませんし、参加することが義務のように感じてしまっては長続きしません。またインプットが多くなるだけでアウトプットをしないのは時間の無駄となってしまうので、注意が必要です。

全国の広報担当が集まった「埼玉広報会議」

2016年に住民にまちを好きになってもらい自ら動くための「自走する広報」を考える「埼玉広報会議」というものを開催しました。公務員の広報のノウハウを地域に還元することで、最終的に日本を元気にできるのではないかと思い、企画しました。告知はFacebookの繋がりのある人を招待し、イベントページから申込というシンプルなものです。
 


 
驚くべきことに、なんと埼玉県三芳町の会場に全国から115人の広報担当者が集まったのです。私自身の人との繋がりも強固になり、また新しいつながりもできましたが、一番は会場で出会った人たちが繋がりを持ち、今でも交流があり情報交換をしているということです。人脈を広げるために、自分自身でイベントを企画し集客をする経験も大きな収穫となります。

そしてこのイベントがきっかけで、全国広報コンクールで入選する自治体がいくつか誕生しました。主催者として涙が出るくらい嬉しく思います。こうした感動も人との繋がりなのです。機会があればまた開催したいと思っています。
 

オンライン市役所とよんなな会

私が参加している公務員のグループにオンライン市役所があります。

このグループの大元は現在神奈川県庁に総務省から出向している脇雅昭さんが始めた「よんなな会」です。「全国47都道府県の公務員の能力が1%でも上がれば日本が変わるのではないか」という想いでスタートしました。私もよんなな会に参加し、何百人という人とつながることができ、それは今でも続いています。当初、僕の回りによんなな会に参加している人は皆無でしたが「参加したら新しい発見があるかもしれない」と思いグループに参加し、渋谷ヒカリエで行われたイベントに参加しました。やるかやらないかです。

さらに私は今、早稲田大学マニフェスト研究所の招聘研究員に所属しており、その関係で人材マネジメント部会にも関わっています。この部会ではOBが自主的に集まり、自治体との交流を深める「マネ友」というグループをつくっており、SNSを通じて繋がりが途切れさせず現場の声を共有しつづけ、課題解決に結びつける取り組みやファシリテートの学びの場になっていて、感銘を受けました。

やるかやらないか

じっと待っていても自然に交流はできません。まず何より行動することが第一です。そしてそのアクションが大きな結果を生むことになるかもしれないのです。自分自身のスキルアップ、そして職場に還元することで業務改善、効率化、新規事業の提案、交付金や補助金の上手な申請の仕方などに役立つ可能性があります。

学校では教えてくれないことが社会に出てあったように、自身の勤める自治体では教えてくれないことがたくさんあります。木を見て森を見ないと固定概念に捉われ変化がないため、他の自治体との差が生まれてしまうかもしれません。人との繋がりを持つことで無限の可能性が生まれます。

インターネットがなかった時代、近況を知るには電話か年賀状といった方法しかありませんでしたが、今は違います。SNSなどを活用することで全国の公務員と繋がることができるのです。そして一度繋がればよっぽどの事がなければ途切れず、繋がりの連鎖が続きます。

やるかやらないか。

色々と考える前にまずは行動すること。やらなければ何も始まりませんし、いきなり正解があるとは限りません。自分と異なる考えや意見があることを学ぶことも、公務員として必要な視点ではないでしょうか。


佐久間 智之(さくま ともゆき)

1976年生まれ。東京都板橋区出身。埼玉県三芳町で公務員を18年務め税務・介護保険・広報担当を歴任。在職中に独学で広報やデザイン・写真・映像などを学び全国広報コンクールで内閣総理大臣賞受賞、自治体広報日本一に導く。2020年に退職し独立。現在は早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員のほか中野区、四万十町、北本市の広報アドバイザー、特別区協議会のSNSアドバイザー、神奈川県コロナ対策技術顧問(元)などを務める。著書に「Officeで簡単!公務員の一枚デザイン術」「公務員1年目の仕事術」など多数。写真家としてJuice=Juice 金澤朋子セカンド写真集「いいね三芳町」。PRDESIGN JAPAN株式会社代表取締役。

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