定年退職を機にパソコン操作をマスターし、平成29年には81歳でiPhoneアプリを開発した若宮さん。米国アップル社の「WWDC2017※」に招待され、“世界最高齢プログラマー”として世界から注目を集めた若宮さんに、自身の経験や高齢者とデジタルをつなぐためのポイントを聞いた。
※Worldwide Developers Conference(アップルワールドワイド デベロッパーズ カンファレンス)アップル社が毎年開催している開発者向けイベント
※下記はジチタイワークスVol.13(2021年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
“誰一人取り残さない”デジタルで人生を豊かに。
若宮さんは令和2年10月より、政府の「デジタル改革関連法案ワーキンググループ」の構成員として、“誰一人取り残さないデジタル化”を実現するための検討を行っている。一方で、平成11年に創設された、シニア世代の交流サイト「メロウ倶楽部」では副会長を務め、官民両方の立場から、「高齢者のデジタルリテラシーを向上させることが私のミッション。デジタルの世界を知ると、人生が豊かになります」と明るく話す。
自身は、定年退職を機にインターネットを通じて多くの人と交流したいと思い、パソコンを習得。「メロウ倶楽部は高齢者の憩いの場になっています。仲間がいるって楽しいですよ」という。とはいえ、今までデジタルに触れたことがない人にとって、デジタル活用の一歩を踏み出すことは容易ではない。自治体としては、どのようにサポートすればいいだろうか。大切なポイントは4つあるという。まずは、高齢者が気軽にデジタルを体験できる場をつくること。「昨年、石川県加賀市が主催する高齢者対象のデジタル講習会へ見学に行ったら、スマートフォンを初めて操作する参加者たちも楽しそうな様子で、とても熱心に学ばれていました。ほかにも同様の講習はありますが、『これは市がやっているから安心して参加できた』という方も多く、行政への信頼感は大きいですね」。
次に、高齢者へは、1対1できめ細かくサポートすること。「『自宅にインターネット環境はありますか?』と聞かれても、年寄りにはよく分かりません。教えるには、大勢を集めるような講演会ではなく、かかりつけ医のように、一人ひとりに寄り添ってアドバイスすることが大切です」。
そのサポートができる人、通称“お助けマン”を増やすことがその次のポイントとなる。そして最後に、お助けマン自体を“育成”すること。「総務省は令和2年に、高齢者のデジタルライフを身近な場所でサポートする『デジタル活用支援員』の実証実験をしています。自治体には、このようなお助けマンを支援しながら統括する役割を担ってもらいたいですね」。
70代・80代は伸び盛り、年寄りだってやればできる!
また、高齢者ならではの配慮も欠かせないと指摘する。「年寄りは指先が乾燥しがちなので、画面のスライド操作がしにくいんです。だから、私がつくったアプリでは、指を滑らせる機能は一切使っていません。ほかにも、耳が遠くて聞こえにくい人に、民間企業が無料で『みえる電話』というサービスを提供しています。通話相手の言葉を同時に文字に起こし、画面上に表示してくれるので、大変便利なのですが、あまり知られていません。高齢者や家族、お助けマンのためにも、“年寄りのためのデジタルの使い方マニュアル”のようなものが、いろいろできるといいですね」。さらに、若宮さんのようなデジタル活用を後押しするシニア人材を育てるためには、「地域にシニアネットクラブのようなものをつくって、各々が趣味を楽しんだり、情報交換したりと、助け合いながら後進を育てていくと、優秀な人材が出てくるのでは」とアドバイスする。
「年寄りだってやればできます!70代・80代は伸び盛りですよ」と言いきる若宮さん。すぐにでも、行政の後押しが求められているといえそうだ。
若宮さん開発アプリ「hinadan(ひな壇)」。
若宮 正子さん
1935年東京生まれ。高校卒業後、三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)へ勤務。同居する母親の介護をしながらパソコンを独自に習得。平成11年にシニア世代のサイト「メロウ倶楽部」の創設に参画、現在も副会長を務めているほか、NPO法人ブロードバンドスクール協会の理事として、シニア世代へのデジタル機器普及活動に尽力している。
若宮さんに学ぶ高齢者とデジタルをつなぐポイント
1.高齢者が気軽に参加できる場所をつくる
2.一人ひとりに向き合いきめ細かなサポートをする
3.高齢者のことを理解した“お助けマン”を増やす
4.高齢者向けにデジタルコミュニティを増やし、“お助けマン”を育てる