ジチタイワークス

北海道天塩町

ICTを活用して空席を「見える化」自家用車相乗りで高齢者をサポート(北海道天塩町)

平成30(2018)年に開催された、行政改革の取り組みを発表する「行革甲子園2018」。全47都道府県から141の事例の応募があり、8団体が書類審査を突破。その一つである北海道天塩町は、ICTを活用した相乗りによる交通インフラの仕組みを発表し、注目を浴びた。

※下記はジチタイワークスジチタイワークスVol.6(2019年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 北海道天塩町

車がないと生活が困難高齢者の負担が大きい

天塩町は北海道の北に位置する漁業と酪農がさかんな町。昭和30(1955)年に1万人だった人口は、少子高齢化が進み60年で3200人に減っている。町民の生活の中心は、市から約70km離れた稚内市だ。商業施設や総合病院、官公庁などがそろい、「ラーメン1杯」だけでも稚内市へ車で訪れる。

では車を運転できない高齢者はどうしているのか。公共交通機関を使うなら、バスと鉄道を乗り継ぎ片道約3時間かかり、日帰りでの往復は不可能。通院している高齢者には負担が大きすぎる。また、高齢者でなくとも98%の町民が「もし車を使えなくなったら……」と、将来への不安を抱いていることもわかった。

車の空席は97%もある!見える化して相乗りを推奨

車を所有していない人や運転できない高齢者など、移動に困っている人のために、公共交通機関の路線を増設・拡充させるのは、予算や実施期間を考えると現実的ではない。初期投資や維持に負担の少ないシステムを、スピーディーに構築することが求められた。そこで考えたのが「相乗り」だ。日本国内を移動する自家用車の97%が、空席があるとされ、この未利用資産を活用できないかという着想に至った。

平成29(2017)年、相乗りマッチングサービスを展開する民間事業者と提携。相乗りマッチングプラットフォームを活用して、車の空席を「見える化」した。まず、ドライバーがドライブ予定をアップする。相乗りしたい人は、日時など希望に合うものを選択。同乗者はドライバーにガソリン代を支払うだけで相乗りできる仕組みだ。開始当初、1年間でのドライバー登録者は31人。同乗希望登録者は69人で8割が高齢者で、利用目的は通院だった。ただ、当初は利用者は思った以上に増えなかった。知らない人が運転する車に乗るという不安、通院目的でしか利用できないと勘違いしている人がいること、さらに高齢者のなかにはスマートフォンやパソコンを扱えずに予約ができない人もいたからだ。

直接話す機会を設け相乗りの不安を取り除く

そこで町は、スマートフォンやパソコンで同乗希望を受け付けるのではなく、電話で対応できるようにした。また、サービス認知や普及のために説明会を開き、相乗り交流会や相乗りツアーも実施。相乗りの不安を取り除いたのだ。マイカーに他人を乗せたくないという人のために、相乗り用のレンタカー無料貸出も期間限定で実施した。

これらの取り組みが功を奏し、65歳以上の市民による利用は1年間で173人(町内65歳以上人口の約12%)にも増えた。公共交通機関の本数を増やした場合は1年で約2626万円の費用がかかるが、本事業においては年間120万円と、費用削減にも成功したのだった。だが、参加ドライバーが増えず、少数のドライバーに依存していることなど、まだまだ課題があるのが現実だ。今後はさらに相乗りの活用を増やし、思いやりにあふれる地域インフラ構築を目指す。


相乗り交通事業のHP

HowTo

01 認知や理解を広める

この取り組みは全国的にも前例がない。チラシを配っても、書面での説明が難しく、長文だと読んでもらえないことも。そこで、高齢者が集まる場で直接説明をしたり、「まずは電話を」とわかりやすく書いたチラシを配り問い合わせてもらうことで取り組みを広めた。

02 アナログも活用

高齢者はスマートフォンやインターネットを利用しない人が多い。そこで、電話での対応窓口を設けて、同乗したい人が電話をするだけで、相乗りできる仕組みを作った。

03 ツアーや交流会で不安払拭

高齢者のなかには、他人の車に同乗することに不安を感じている人もいる。さらに通院目的でしか利用できないと勘違いしている人も。そこで、相乗り交流会で高齢者の不安を払拭し、相乗りツアーでは映画や観光目的でも利用できることを広めた。


相乗り交流会を開催し、知らない人が運転する車に乗る不安を取り除く。

04 キャンペーンも実施

町で一番来場者数の多いイベントである「しじみまつり」で相乗りキャンペーンを実施した。相乗りで訪れた来場者には、特典として優先駐車場の利用権を与えるなど、相乗りするメリットをつくり、取り組みの普及を目指した。

05 ドライバーにも配慮を

他人を自分の車に乗せたくないというドライバーのために、無料で相乗り用の車を期間限定で貸し出した。相乗りを希望する高齢者だけでなく、ドライバーにも不安はある。ドライバーを増やすためにもドライバーにも配慮を欠かさない。

Results

〇公共交通機関では片道3時間かかる移動を片道1時間で可能に
〇年間173人の同乗利用(町内65歳以上人口の約12%)
〇公共交通機関の追加輸送の場合に比べて年間約2500万円の費用削減(試算)
〇新聞やテレビなどのメディア露出(40回)で年間約3億円の広告効果

ユーザーは一人暮らしの高齢者が多く、外出してだれかと話す機会が少ない。ドライバーとのコミュニケーションが生まれるのも、町の活性化に繋がっていると感じています。


北海道天塩町総務課主任菅原英人さん、熊谷拓美さん

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