ジチタイワークス

山崎 亮さんが明かす、コロナで変化した「住民主体のコミュニティづくり」

地域が抱える課題をそこに住む人たち自身で解決するためのコミュニティデザインに取り組む山崎さん。コロナ禍で人々のコミュニケーションのあり方が変わる中、地方自治体が気を付けたいポイントなどを聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.12(2020年11月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

コミュニティデザイナー
studio-L代表取締役 社会福祉士
山崎 亮 さん

大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる』(学芸出版社)など。

 

 

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住民を巻き込んだ地域づくりとオンラインがポイント。

Q.地域活性化のプロジェクトに関して、近年はどのような依頼が多いですか?

人口が減少し少子高齢化が進む中、福祉分野の相談が多くなりました。「このままでは自治体の財政が立ち行かなくなるので、住民自身で支え合う仕組みを“地域”で実現したい」という相談です。

 

Q.「住民主体のコミュニティづくり」の提案では、何をどう行い、それにはどんなメリットがありますか?

自治体が総合計画などをつくる際に、住民を集めてワークショップを行い、自治体側の意図を説明しながら住民の感想や意見を聞きます。メリットは大きく3点あります。第一に、住民の人生がより楽しく豊かになります。ワークショップを通じて住民は学びを得られ、意欲が高まり、その場で仲間もできる。話し合いの中で「いいですね、さらにこうしましょう」と肯定的に話す方法も体得できるので、日常生活や仕事の上でもコミュニケーションが円滑になります。

次に、自治体は自分たちがしようとしている事業や施策について説明することで住民の理解者が増え、住民目線で多様な意見をもらうことができ、その後の物事を進めやすくなります。そして最後に、自治体が取り組もうとしてきたことの一部を住民が担ってくれることもあります。住民主体で事業を進めるメリットは、自治体にとっても、住民にとっても大きい。住民の人生が豊かになることを軸にして集まってもらい、住民が「参加してよかった」と感動するような場をつくることが重要です。

 

Q.今回のコロナによって、コミュニティづくりに変化があったのでは?

コミュニティデザインのワークショップは三密が大前提だったのに、集まれない状況に陥りました。そこで、これまで「セキュリティの関係でオンラインは使えない」とかたくなだった自治体も、一気にオンラインでのワークショップを始めました。同じ時間に同じ場所に集まらなくても開催できるようになったのです。例えば、好きな時間に自治体が用意したYouTubeの動画を住民に見てもらい、その中で投げかけた質問について答えを送ってもらい、さらに自治体は「皆さんからこんな答えが出てきたので、こうまとめました」と発信する。このようなやり取りを動画を使ってできるようになったのです。

もちろん、オンラインに不慣れな方をワークショップから排除してしまう可能性があることについても、慎重に議論しました。コロナ前でも、例えば平日午後だと働く人や子育て層などが参加しにくかったように、そもそも誰かが排除される状態でした。そこで、オンラインを活用すれば参加できるようになる人もいると前向きに捉えました。

とはいえ、オンラインを積極的に活用してもらうためには、地域の中でオンラインを使える人を増やしていくことが重要です。オンラインのワークショップでは、参加者の身近にいるオンライン参加が難しそうな人を挙げてもらい、「その人たちに参加の仕方を教えてあげてほしい」と伝えています。友達に教えるという形で広げていけば、使いこなせる人が増え、ワークショップにも参加できるようになります。これからの時代、自治体が住民にデジタルリテラシーを伝えることも、とても大事だと考えています。

 

Q.コロナ禍で落ち込んでいる商工観光を盛り上げるためにどうするべきでしょう?

自分たちの地域に“なぜ観光が必要か”を深く考えるところから始めませんか。もし「お金を落としてほしいから」という理由なら、手段が目的化しているといえます。コロナ禍の今だからこそ、住民が豊かな人生を歩むために“自分の地域で本当に必要なことは何か”“行政がやるべき仕事は何か”を考えてみると、観光においても新たな価値のある取り組みを生み出せるかもしれません。

 

Q.最後に、地域活性化に向けたヒントを教えてください。

専門家やコンサルタントに総合計画や事業を任せきりにしてしまうと、自治体の職員が深く学ぶ機会が減り、住民もまちの未来や自分の人生について考える機会を失ってしまいます。専門家に発注して専門家と職員だけが関わった成果物にするのか、少し手間や時間がかかっても住民を巻き込んで一緒に楽しく活動していけるのかで、10年後の施策や事業運営のあり方が全く違ったものになっていくと思います。行政が住民参加型の活動で住民の主体性を高め、住民が気持ちよく参加し、人生を豊かにできれば、自治体と住民との間に幸せな関係が結ばれ、素晴らしい地域になるに違いありません。

 

山崎さんから学ぶ3つのポイント

POINT01:住民を主体にしたワークショップをする。

自分が担当するプロジェクトの一つを、住民参加型のワークショップにしてみてください。住民の顔や考えが見えてきますよ。また、ワークショップの方法が分からなければ、皆さんの近くにいるNPOやまちづくりのファシリテーター、コミュニティデザインなどをやっている人を探し、まずはその人たちと一緒に取り組んでみるといいでしょう。

 

POINT02:自治体の各課にファンをつくる。

住民が喜んで参加してくれるワークショップを繰り返していると、例えば、環境保全課のワークショップには環境について興味のある人が集まり、同様に、保健福祉課や社会教育課などでも、課ごとの活動を理解し応援してくれるファンが生まれる状況がつくり出せます。各課にファンが100人くらいできれば、自治体は取り組みを進めやすくなります。

 

POINT03:住民のデジタルに関するリテラシーを高める。

コロナを機に自治体でも業務のデジタル化が進んでいます。住民がオンラインでコミュニケーションをとれるようになれば、様々な可能性が広がります。例えば、ずっと家にいるシニアたちが毎日決まった時間に画面上でお茶会をすれば、自然と笑顔が増え、楽しく健康を促進する一助になるかもしれません。皆がつながれる自治体を目指しましょう。

 

 

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