ジチタイワークス

新潟県

生活再建のカギ!り災証明書を迅速・丁寧に交付するには。

経験値のリレーで復興への道を早める

災害発生後、被災者の生活再建に大きく影響する「り災証明書」。自治体が一軒ずつ家屋の建物被害認定調査を行った上で交付するが、多くの自治体ではノウハウや人手不足により、時間を要することが課題となっている。新潟県は、大規模災害の経験から、災害対応業務の標準化に先進的に取り組み、福島県郡山市などの災害対応を支援した実績もある。この動きについて、同県の小島さんに話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.10(2020年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

大規模な災害を2度経験して分かった被災者生活再建支援業務における課題。

平成16年の新潟県中越地震、平成19年の中越沖地震と、立て続けに大規模災害を経験した新潟県。中越沖地震の際は、柏崎市に他の自治体からのべ1万4,000人近い応援職員が派遣され、そのうち約52%が建物被害認定調査に従事した。「災害対応の中でも、被災者生活再建支援業務と括られている建物被害認定調査からり災証明書の発行、被災者台帳の作成、支援実施まで含めた膨大な業務は、最もマンパワーを要するものと認識しました。また、平時には経験しない特殊な業務のため、何をすべきか分からず、手戻りが生じ、応援職員を的確に活用できないことも課題でした」と小島さん。

被害認定調査にモバイル端末を導入することで、調査データがオンラインで集計され、り災証明書交付のためのデータ整理作業を大幅に効率化できる。

 

ガイドライン作成とシステムの導入、県と市町村の連携により、支援体制を整備。

そこで、同県では災害対応業務の標準化に着手。災害対応を経験した県・市町村の職員を中心に、地元・新潟大学や民間企業等の協力も得て、3つの枠組みを構築した。まずは業務手順を整理して、平成27年に「大規模災害時における被災者生活再建支援業務の実施体制整備に関するガイドライン」をまとめた。平成29年には「新潟県被災者生活再建支援システム」(NTT東日本)を導入。このシステムは、建物被害認定調査から台帳の管理といった生活再建支援に必要な業務を一元的に管理できるもの。被災者支援を適切に行えるのはもちろん、未経験の職員でも迅速かつ正確に業務ができる。また、県内自治体間で同じシステムを利用することで、応援・受援が円滑に進むため、県と24の市町村が共同で整備したのだという。

さらに新潟県は、県内市町村とともに被災地へ職員を応援派遣する枠組みとして「チームにいがた」を結成。これまで、京都や熊本、岡山、北海道など県外の被災地へ積極的に職員を派遣し、経験値を高めてきた。平成30年には、県と県内の全30市町村で「チームにいがた」相互応援協定を締結。人的応援にかかる手続きなどを明確に定め、県内外の被災自治体をスピーディに応援できるようになった。

その後、令和元年には台風19号で被害を受けた福島県郡山市に対し、被害認定調査とり災証明書交付の業務を支援。発災から2日目に現地入りした小島さんは、こう振り返る。「郡山市では、申請を受け付けた順に家屋を一軒ずつ調べて被害を判定する計画でした。それではかなりの時間を要する。いち早くり災証明書を発行して生活再建に踏み出すため、申請前から多数の調査チームが浸水地域に入り、地域ごとに一気に調査する方式を提案したことで、被害認定の効率が大幅にアップしました」。


被害認定の調査結果の集計画面

 

平時から基礎知識を身につけ受援体制を考えておく。

災害はいつどこで起こるか分からない。しかし、り災証明書の発行について、知見のある自治体は多くない。「いくら他自治体からの応援が期待できても、庁内調整や住民等への説明など被災自治体がよく機能しなければ、十分な成果は上がりません。また、いまや、り災証明書の交付業務は、市町村の災害対応業務の中でもっとも関心を集める業務の一つです。従って、全ての市町村で、平時から正しい基礎知識を身につけておくこと。そして、応援を効果的に活用するために、受援体制を予め考えておくこと。受援の対象になる業務を設定しておくことはもちろん、特に、応援側とのカウンターパートとなる担当者や、業務内容を考慮した執務スペースまで事前に選定しておくことが、円滑な応援の受け入れに有効です」と小島さんはアドバイスする。

「チームにいがたでは、被災地の支援に入って業務のノウハウを共有するとともに、自分たちの意識も高めています。今後も市町村と連携し、知恵を出し合いながら、研修の実施や体制強化の検討に取り組んでいきます」。

 

り災証明書の交付は、被災者と対面し、被害認定 調査の結果を丁寧に説明しながら行うことで、判定結果に対する被災者の理解も得られ、再調査実施の負担も軽減できる。

 

Solution 課題解決のヒントとアイデア

台風19号で被災した福島県郡山市を「チームにいがた」がサポート

「チームにいがた」は、被害認定調査と、り災証明書交付の業務を支援した。地域ごとの一括調査方式を提案したことで、調査から証明書交付までが迅速に。応援体制とシステムを整備していたため、よりスムーズに業務が進行した。

 

郡山市へ新潟のノウハウを共有

今後の災害でも利用できる基盤ができて、受援体制を準備する必要性も再認識。

「チームにいがた」に支援いただいたことで、被害認定調査が迅速に完了し、円滑な被災者支援を念頭において正確なり災証明書を発行することができました。今後起こるかもしれない様々な災害において、被災者の生活再建を総合的に支援するための基盤ができたと感じています。

被災自治体が、他自治体の応援を受けて対応を行うためには、受ける側の「受援体制」を平時より準備し、主体性を持ち、効率的な役割分担などを計画的に行うことが大きなカギの一つであると再認識しました。

受援体制の確立に加えて、り災証明書交付業務の一連の経過を見直し、より迅速かつ効率的な交付体制を目指します。


郡山市 税務部長 鈴木 弘幸さん

Interview

新潟県では、チームによる応援体制というソフト面と、被災者生活再建支援システムの導入というハード面の両方を整備したことで、生活再建支援業務がスムーズになりました。


新潟県 防災局 防災企画課 防災企画班
主任 小島 健太郎さん

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