
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。
今回はその中から、兵庫県尼崎市の「AI×犯罪心理学で特殊詐欺対策」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
特殊詐欺は年々、巧妙化しており防犯メールによる啓発活動だけでは防止することが困難となってきている。そこで尼崎市では、生成AIを用いて特殊詐欺の手口を再現する模擬の訓練者(以下、AIトレーナーという)とリアリティのある会話を行い、会話内容から個人に合わせたフィードバックを行うことが可能な特殊詐欺防止訓練AIツールを開発した。
本訓練AIツールを活用した詐欺の疑似体験ができる体験会を通じ、体験した高齢者が実際に特殊詐欺の電話がかかってきた際に正しい判断や行動ができるように訓練することで、特殊詐欺被害防止を目指す。
背景・目的
令和2年以降、尼崎市内で発生した特殊詐欺認知件数は毎年100件前後と高止まりしており、防犯事業として特殊詐欺対策を実施し犯罪被害を減らすことで、体感治安向上を目指して取り組んでいる。本取り組みについては、同市の防犯アドバイザーである東洋大学の桐生教授からお話をいただき、新たに富士通とされる特殊詐欺対策の共同研究に参画し、特殊詐欺被害防止に向けた協力をしている。
取り組みの具体的内容
尼崎市と学校法人東洋大学(以下、東洋大学)、富士通株式会社(以下、富士通)において、特殊詐欺の撲滅に向けた共同研究を行っており、富士通のAI技術と東洋大学の桐生教授の犯罪心理学を組み合わせたコンバージングテクノロジーを活用し、特殊詐欺対策に取り組んでいる。
【体制図】
「AIツールによる特殊詐欺防止訓練」については、生成AIを用いて特殊詐欺の手口を再現する模擬の訓練者(AIトレーナー)と、リアリティのある会話が可能な特殊詐欺防止訓練AIツールを開発し、本訓練AIツールを活用した詐欺の疑似体験ができる体験会を通じ、体験した高齢者が実際に特殊詐欺の電話がかかってきた際に正しい判断や行動ができるように訓練することで、特殊詐欺被害防止を目指す。
また、AIトレーナーは、犯罪心理学の知見をもとに特殊詐欺の手口を自動で取り込む機能と、生成AIを融合することで、あらゆる特殊詐欺を再現できる。
【プロンプト自動生成イメージ】
【訓練AIツールを用いた疑似体験会イメージ】
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
AIと犯罪心理学を組み合わせたコンバージングテクノロジーを活用した特殊詐欺対策は日本初の取り組みとる。
取り組みの効果・費用
東洋大学・富士通との特殊詐欺対策の共同研究のほか、自動通話録音機能付電話機購入補助などの取り組みを行うことで、令和5年度の特殊詐欺認知件数は94件となり、前年と比較し19件減少した。なお、本取り組みにかかる尼崎市側の事業費は0円となる。
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
訓練している高齢者の防犯意識を高めるため、フィードバック画面に特殊詐欺に騙されるリスク値を表示したかったが、世の中に高齢者が特殊詐欺に騙されるデータが存在しなかった。そのため、同市で2回の実証を行い、生理反応・心理的特性からなる1要素(呼吸数、年齢、猜疑心など)を用いることで75%の精度でリスク値を推定可能な特殊詐欺推定AIモデルを構築することができた。
今後の予定・構想
今年度は、市内の高齢者の自宅に非接触センサーを設置し、特殊詐欺を検知した場合はアラート通知を行うモニター実験を行い、特殊詐欺被害の削減効果を確認する。
【アラート通知のイメージ図】
他団体へのアドバイス
産官学連携のもと、最新のAI技術を積極的に活用している。今後は、市民向け実証実験などにより、さらなる技術進歩に向けて積極的に協力していく。