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デマンド型交通で交通空白地域を救え!地域住民の生活を支える柔軟な移動手段

利用者減少などを理由に、公共交通機関が縮小・撤退し、一定の距離内に鉄道や路線バスなどの公共交通が存在しない「交通空白地域」がある自治体が増えている。そして、移動手段が確保できないことで、住民が暮らしにくくなるという問題点もすでに表面化している。

このような状況の中、注目され始めているのが、利用者の事前予約をもとに運行される「デマンド型交通」だ。デマンド型交通の特徴とメリット・デメリットを確認し、交通空白地域問題解決の糸口を探っていこう。
 

【目次】
 • デマンド型交通とは 

 • デマンド型交通のメリットとデメリット 
 • デマンド型交通の種類【運航方式・運航ダイヤ・発着地の自由度】
 • デマンド型交通導入の前に確認しておきたいことは?
 • 全国でのデマンド型交通の導入事例
 • 住民のニーズや実態を知ることがオンデマンド型交通導入の第一歩

※掲載情報は公開日時点のものです。

デマンド型交通とは

デマンド型交通とは、あらかじめ定められている地域内で基本的に事前予約にもとづき運行される交通システムのことだ。過疎化や人口減少などによる利用者減が理由で縮小される公共交通の代替手段として導入が進められている。

デマンド型交通には、時刻表通りに運行される「定路線型」だけでなく、運行時間や運行ルートは特に定められておらず、予約が入っていない場合は運行されない形式のものもある。

また、予約にもとづき運行される形態はタクシーと似ているが、複数人で利用する乗り合い形式となることが多い。

デマンド型交通が必要とされている理由

デマンド型交通が必要とされている理由

公共交通機関の代替手段となるデマンド型交通は、地域住民、特に運転免許を返納した高齢者の利用が想定されている。

なお、住民の移動手段としては、地方自治体が運営するコミュニティバスもあるが、路線バスと運行形態が似ていることや「利用者が少なく赤字状態が続く」「自治体独自の施策であるため、ほかの自治体にまたがる移動ができない」などの問題点も指摘されている。

現代の公共交通の課題とは 

路線バスや鉄道、路面電車などの公共交通は、働く人や学生の通勤・通学の足として利用されるほか、高齢者の通院や移動にも利用されている。また高齢者の場合、運転免許返納をする人も年々増加しており、公共交通の役割はますます大きくなることが予想される。

しかし、公共交通の運営には以下のような課題もある。

・労働力不足
・収入減少
・燃料費などの経費の割合が大きい

特に、公共交通は労働条件があまりよくないこともあり、若年層や女性の働き手が少ないという大きな問題がある。運転業務に従事するのは、中高年男性がほとんどであるため、これらの人々が定年を迎えた後の深刻な労働力不足が懸念されている。

デマンド型交通の特性を確認しよう

公共交通の将来が不安視される中、注目されるのがデマンド型交通だ。デマンド型交通の代表的な特性を確認しておこう。

・時刻表通りに運行される路線バスや 、鉄道とは異なり、利用者の予約によって運行される
・運行ルートが固定されておらず、交通空白地域のカバーが可能

予約が入っていない時は運行されないため、乗客がいない路線バスが走るという状況を防ぐことができる。

平成23年から国土交通省による補助対象に

公共交通の運行継続が難しい地域を中心にデマンド型交通の導入が進められている。平成23年からは「地域公共交通確保維持改善事業」 の一環として、路線バスなどの従来の公共交通やデマンド型交通の導入・維持に対して国土交通省から補助金が出ることとなった(※1)。

※1出典:国土交通省「地域公共交通に関する補助制度について」

デマンド型交通のメリットとデメリット

デマンド型交通のメリットとデメリット

デマンド型交通のメリットとデメリットを確認しておこう。

デマンド型交通のメリット

デマンド型交通のメリットは以下の通りである。

1.運行コストが削減できる

乗客がいない場合は運行されないため、運行コストの削減が可能になる。それに伴い、自治体の財政負担も減らすことができる

2.交通空白地域の解消

決まった路線がなく、地域内であれば乗客のニーズに合わせた運行が可能なため、住民の足として利用できる。結果として、公共交通がない交通空白地域の解消にもつながる。

デマンド型交通のデメリット

デマンド型交通のデメリットも確認しておこう。

1.従来の公共交通よりも運賃が高め

乗客のニーズに合わせた運行となるため、路線バスや鉄道よりも運賃が高めになるケースも多い。

2.需要が読めない

予約手続きが面倒で敬遠される、家族の運転する車で移動する人もいる、という可能性があり、地域内での需要が読めない部分がある。

3.予約が取れない場合がある

利用者が多い場合、希望する時間に予約が取れない可能性もある。

これらのデメリットを解決するために、導入時は「デマンド型交通の存在の周知」「予約方法の簡略化や周知」も同時に考えていきたい。

デマンド型交通の種類【運行方式・運行ダイヤ・発着地の自由度】

デマンド型交通の種類【運行方式・運行ダイヤ・発着地の自由度】

デマンド型交通にはいくつかの種類があるので押さえておこう。

運行方式による種類

デマンド型交通の運行方式は以下の通りである。

・定路線型
・自由経路型
・迂回ルート・エリアデマンド型
・自由経路ミーティングポイント型

定路線型

路線バスのように、決まった路線を運行する方式。乗客はバス停などで乗り降りする。ただし、運行は予約があった時のみとなる。

自由経路型

タクシーのように、運行路線が決められていない方式。予約に応じて指定エリア内で運行される。ニーズに応じて乗り降りする場所を変えられるが、商業施設や公民館など、ある程度決められたポイントで乗り降りしなければならない場合もある。

迂回ルート・エリアデマンド型

定められたルートをベースに予約のあったバス停などで乗り降りができる。家の近くで乗り降りできる方式の場合もある。

自由経路ミーティングポイント型

予約に応じて定められたポイント間を最短距離で運行する。運行ルートは特に定まっていない。商業施設や公民館など、ある程度決められたポイントで乗り降りしなければならない場合も多い。

運行ダイヤによる種類

主な運行ダイヤのタイプは以下の通りである。

・固定ダイヤ型
・基本ダイヤ型
・非固定ダイヤ型

なお、固定ダイヤ型で運行している場合でも、利用者が少ない曜日や時間に限り、固定ダイヤ型と非固定ダイヤ型を組み合わせて運行するというケースもある。

固定ダイヤ型

路線バス、コミュニティバスのように決められたダイヤ通りに運行される。ただし、運行されるのは予約があった時のみとなる。

基本ダイヤ型

運行頻度や基本的なダイヤはある程度設定されているが、予約に応じて運行される。

非固定ダイヤ型

予約に応じて運行される。ダイヤは固定されておらず、運行時間内であれば運行可能

発着地の自由度による種類

発着地の自由度でも違いがある。

固定型

乗車場所が「バス停」、降車場所が「バス停」「病院」「公民館」など、固定されている方式

非固定型

乗車場所が「病院」「公民館」のような特定の施設、もしくは利用者の自宅付近となり、降車場所が特定の施設など、ある程度決まっている方式。乗り降り場所に制限がなく予約に応じて変わる場合もある。

デマンド型交通導入の前に確認しておきたいことは?

デマンド型交通導入の前に確認しておきたいことは?

地域でデマンド型交通を導入する場合、以下の点についてチェックしよう。

人数の需要や属性

まずは、どの程度の人がデマンド型交通を必要としているかを確認しなければならない。できれば、以下のように必要とする人々の属性まで調査できるとよいだろう。

・朝と夕方は学生、昼間は高齢者
・観光客の利用も見込まれる
・利用者のほとんどが高齢者
など

必要とされるデマンド型交通の種類

人数やその属性を把握できたら、先に紹介した「運行方式」「運行ダイヤ」「発着地の自由度」など、必要とされるデマンド型交通の種類の検討に入る。さらに、利用予定者の人数に合わせ「バス型」「ワンボックス型」「タクシー型」のように、車両の種類まで検討しておきたい。

必要となる費用

デマンド型交通の種類が決定したら、導入および運行維持にかかる費用を試算する。

全国でのデマンド型交通の導入事例

すでにデマンド型交通を導入している自治体の例を見てみよう。

【北海道ニセコ町】利用者のニーズに柔軟に対応

【北海道ニセコ町】利用者のニーズに柔軟に対応

北海道ニセコ町では、利便性向上や財政負担軽減を目的として、平成14年から町内循環バス「ふれあいシャトル」を運行していたが、少子化が進み利用者が減少するという事態に陥っていた。その一方、移動手段が確保できない高齢者は年々増加している。そこで、ふれあいシャトルを廃止し、町内全域を対象にデマンドバス「にこっとBUS」が導入されることとなった。

にこっとBUSは、ワンボックスタイプの乗合バスでドアtoドアの送迎ができるシステムとなっている。また、予約は電話で受け付けており事前登録なども不要だ。利用者の年齢制限もなく、観光客など町外の人の利用も可能である。

にこっとBUS導入は住民のニーズだけでなく、観光ニーズにも応えるものとなった。また、予約が入った時に運行する方式を取っているため、CO2排出量削減も期待される。今後は、人を乗せるだけでなく、高齢者世帯への買い物配達など、多方向での利用も検討されている。

【長野県飯綱町】学生と高齢者のニーズの違いに合わせた輸送サービスを提供 

長野県飯綱町では、公共交通のニーズが大きいのは学生と高齢者という調査結果が出ていた。しかし「学生と高齢者では利用したい時間帯が違う」「路線バスのみでは不便な地域が多い」という問題点もあった。

これらの問題を解決するため、朝と夕は定時定路運行を行い、昼間には予約型乗合タクシー「i(アイ)バス」が運行されることとなった。

「iバス」を利用する場合は、電話で住所・氏名・利用希望日時・乗車場所と行き先を伝える。自宅近くで乗車し、病院などで降車できるため、高齢者でも利用しやすい。なお、利用できるのは事前に登録した人のみとなっている。

定時定路運行とデマンド型運行を組み合わせたことで、住民の細かなニーズにも対応できるようになった。さらに、町の財政負担軽減にもつながっている。

【佐賀県小城市】利用者の意見を取り入れ事前予約制から曜日指定の定時定路線運行へ 

佐賀県小城市では、高齢者など車を運転できない住民を対象に、乗合タクシーが運行されていた。しかし、事前登録や事前予約が煩わしい、商店街や駅が運行区域に入っていない、という点が住民から問題点として挙げられていた。

その結果、デマンド型の乗合タクシーを廃止し、曜日指定の定時定路運行方式の市内循環バスに移行されることとなった。

新たに導入された定時定路運行バスは、広範囲におよぶ集落をくまなく運行するようにし、高齢者のニーズにも応えている。さらに、フリー乗降区間も設定され、デマンド型運行に近づける努力も行っている。

住民のニーズや実態を知ることがオンデマンド型交通導入の第一歩

デマンド型交通は、予約による運行ができる点、乗降場所がある程度自由に設定できる点などから今後さらに広がっていくと予想される。高齢者や車を持たない人の利便性だけでなく、自治体の財政負担軽減にもつながるというメリットにも注目したい。

自治体で導入を検討する際は、住民のニーズや利用が予想される人数の調査から始めよう。調査結果から、デマンド型交通の種類が決定できる。また、導入後も運行を継続するだけでなく、住民のニーズに合っているか、そして、財政面で問題はないかを定期的に確認していきたい。
 

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