東京都「018サポート事業」チームメンバーに聞く
令和5年9月に受付を開始した「018サポート事業」のオンライン申請。当初は“サイトが使いにくい” “申請に時間がかかる”と、苦情や問い合わせが相次いだという。それらをどう挽回してきたのか、取り組みを聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.35(2024年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
スマホによるオンライン申請で、住民も職員もラクにしたい。
-給付事業では申請書を郵送でやりとりするのが一般的ですが、オンライン申請をメインとしたのはなぜですか。
黒木:純粋に、住民の手間を省くことが第一の目的です。郵送申請の場合、親の本人確認書類と、子どもとの家族関係を示す住民票や健康保険証などをコピーして、封筒に入れて返送してもらうことになります。今回は必要書類を画像でアップロードすることで、主にスマホからワンストップで申請できる仕組みを目指しました。この方法なら、住民の手間はもちろん、自治体側の審査にかかる時間、郵送コストなどを削減できます。
-デジタルの専門知識はないそうですが、不安はありませんでしたか。
黒木:そもそも給付事業は基礎自治体が主体となることがほとんどで、広域自治体が住民に直接支給するケースはまれです。対象者は約200万人で、ほぼ前例がない状況を手探りで進めなければなりません。難しさは当初から認識していました。私は令和5年4月から担当になりましたが、最初の1~2カ月はデジタルの専門用語を勉強する日々でした。
-福祉局のメンバーはいかがでしたか。
黒木:システム開発に詳しい職員はいません。ただ、職員は児童福祉の様々な分野を経験しており、“多様な家庭がある”ことをよく分かっています。ですから、システムの要件となる様々な申請パターンを洗い出すことができるのです。まずはそうした準備を進め、デジタルサービス局(以下、DS局)の支援を受けながら、システムに落とし込みました。
白石:システム開発が本格化した6月頃から、DS局は技術的なサポートを中心に、ユーザーテストなど実務の支援を行ってきました。
住民の声とデータをかけ合わせ、改善の優先順位を付けていく。
-申請開始直後は“申請サイトが使いにくい”という苦情や問い合わせが、1日約3,000件もあったそうですね……。どのように対応してきたのですか。
黒木:申請後のアンケートや、コールセンターに寄せられた声、さらにSNS上の意見などをつぶさに拾い、それらを検討材料にしながら、改善を繰り返してきました。
小林:改善にあたっては、これらの声に加え、定量的なデータを使いました。例えば、利用者の操作履歴から、どのページで申請を止めてしまったかを確認する。その上でアンケートなどの分析を行い、何が悪かったのかを特定する。そういったことを継続的に行っています。
-リリース後も改修しつづけることを前提にしていたのですか。
黒木:はい、改修も含めて予算を取っていました。ただ、当然制約はありますので、DS局とGovTech(ガブテック)東京※でアンケート結果などをデータと結び付け、数字としてエビデンスにしてもらえてありがたかったです。どこから改修をしていくべきかの優先順位を付けることができ、スピード感をもって対応できました。
※区市町村を含めた東京全体のDXを効果的に推進するため、令和5年9月に東京都が100%出資で設立した団体
白石:デジタル化するメリットの一つは、住民からリアルタイムにフィードバックをもらって、サービスを改善していけること。だからこそ検証部分も支援していくことが重要です。システムを導入して終わりではありません。
小林:住民からは様々な声が届きますが、こだわったのは“お褒めの言葉”もチームに共有すること。モチベーションになればとの思いで続けてきました。
黒木:確かにモチベーションになりますし、庁内にも説明がしやすくなったので、非常に助かりました。率直な意見も感謝の言葉も両方を拾うことができるのは、デジタルのよさだと思いますね。
-令和6年6月からは、デジタル庁の「給付支援サービス」を導入しましたね。
黒木:はい。親子のマイナンバーカードをスマホにかざすことで“親子関係の自動判定”を行うという、初めての試みです。本人確認と家族関係証明の書類を省略でき、給付金は公金受取口座へ入金される仕組みです。この方法を使った住民の約70%は、10分以内に申請が完了したという結果が出ました。こうした挑戦の中で、緊急で改善すべき事象が発生した場合でも、すぐにチームが集まり、迅速に対応できる体制をとっています。
失敗の経験もシェアすることで、ともに試行錯誤していきたい。
-デジタル化を進めたいが、失敗はできない、変えられないという自治体職員の声を聞くこともあります。今回の経験から、ぜひアドバイスやメッセージを。
黒木:失敗できないという気持ちは確かによく分かりますが、変えられないとは考えていません。住民のために変えるべきところは変え、サービスをよりよくするというマインドで進めてきました。
小林:住民だけでなく職員をラクにするのも、人口減少社会において重要なポイントです。ラクになったという体験を超えて、楽しいと感じられるところまでもっていけたら。そんな思いで業務に取り組んでいます。
白石:デジタルは万能ではないし、東京都が優れているというわけでもありません。でも、住民や職員の体験を向上できるのなら、挑戦する価値があります。失敗の経験も含め、どんどん情報を出していくので、いいとこ取りをしながら、ぜひ役立ててほしいです。私たちも他自治体の動きを見て参考にしています。ともに試行錯誤していきましょう。
黒木:デジタルを活用することで、行政サービスは間違いなくアップグレードできると思います。公務員の立場としては、住民の皆さんに喜んでもらえるのが一番のモチベーションになりますよね。ネガティブな意見も“改善の糧”と受け止めれば、過度に悲観的にならず、サービスに反映できるのではないでしょうか。