地方からデジタルをけん引する担当者に聞く
先進的なデジタル活用で成果を上げている都城市。主導する佐藤さんはもともとデジタルが専門ではなく、失敗しては改善を繰り返してきた。挑戦を続ける前向きなマインドは、どのように確立されたのだろうか。
※下記はジチタイワークスVol.35(2024年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
profile
2003年に都城市役所入庁。デジタル統括課で、庁内デジタル化やマイナンバーカード普及促進などを行う。2021年から4年間で約150もの新規事業を手がけ、全国で初めてLGWANに対応した生成AIプラットフォーム「zevo(ゼヴォ)」を開発。
つまずいたらすかさず改善し、マイナンバーカードを普及。
-デジタル担当になった当初のことを教えてください。
平成26年度、デジタル統括課の前身で、行政改革を担う総合政策課に異動してきました。当時はまだデジタルという発想が薄い時代で、私も専門知識はありませんでした。しかし、既存の行政改革の手法に限界を感じ、改革の手段として取り入れたのです。経験値を問わず挑戦できることがデジタルのよさだと思います。こうして取り組んだデジタル事業の一つがトップランナーといわれる“マイナンバーカードの普及促進”です。
-全国に先駆けて交付率を伸ばしていましたが、最初から順調でしたか。
まずはスタートダッシュが肝心だと考え、申請時に職員がタブレットで補助する独自の仕組み「都城方式」を始めました。しかし、3カ月が過ぎても期待値の4分の1程度しか交付は進まず……。これは想定外のつまずきです。そこで、仕組みをつくるだけではダメだと気づきました。市民に人口減少という社会課題と、カードで暮らしが便利になるというメリットを共有する必要があったのです。高齢者には本人確認書類になること、若い層にはオンライン申請ができること、子育て世代には電子母子手帳アプリでの活用ができることなど、対象者の属性ごとに提示するメリットを変えて広報しました。
それでも、待っているだけでは交付率が伸びないことも分かり、公民館や企業、ショッピングセンターなど市民が集まる場所に出張。実際に顔を合わせて不安や疑問に答えることで、理解も深まったと思います。交付率が70%に近づいた頃には、1人からの申請にも対応するため、手続き用の車両“マイナちゃんカー”で個人宅に出向きました。
-次々と改善・挑戦を繰り返し、新たな施策を生み出していったのですね。
うまくいかないことがあるたび、即座に改善を行いました。想定外やつまずきは“新しいめ(芽・目)”だと捉えています。これまで見えていなかったニーズへの気づきになり、次の動きにつなげられる。このサイクルが大事だと思います。
当市では、今は自治体同士も競争する時代だと考え、独自の取り組みで魅力を高めようと意識しています。自治体初の事業に挑戦するときは失敗のリスクを伴いますが、市長も“考え抜いて実行した結果の失敗であればやむを得ない”という考えをもっているんです。デジタルの領域に限らず、挑戦しやすい風土があり、成功体験を経て挑戦の重要性を実感していますね。
多くの新規事業から他自治体と連携する大切さを学んだ。
-その後、約150もの新規事業を手がける中で、つまずきはありましたか。
大きなつまずきは、事業者と協働で完成させたとあるシステムをあまりにも“都城仕様”に寄せたために、他自治体への横展開が難しくなったことです。いいシステムだったのですが、結果的に事業者は撤退してしまい、システムも使えなくなりました。この失敗からは、開発の段階で横展開を意識することの大切さを学びましたね。以来、新しいシステムをつくるときには、複数の自治体と連携して進めています。“避難所管理システム” や“ふるさと納税ワンストップ特例申請アプリ”も、いくつもの自治体の意見を聞いて開発しました。
-前進しつづける佐藤さんでも、失敗して落ち込むことはありますか。
もちろんあります。失敗はほかの人より多いので……。とはいえ、反省はしても落ち込みすぎず、早く次に進むことを意識しています。デジタルは軌道修正がしやすい点が特徴だと感じますし、失敗しながら経験を積めるのも、デジタルだからこそだと思います。
全国の公務員をラクにするため自治体向け生成AIを開発。
-LGWAN環境で使える生成AIの開発に取り組んだ背景は。
今や世界中で活用されるようになった生成AI。自治体でも文章や計画をつくる機会が多いので、使わない手はないと思いました。それに、計画策定などの機会はこれまで以上に増えているほか、過去の焼き直しではなく新しいものが必要とされています。そのため、なるべく早く自治体で使える生成AIを開発し、増えつづける業務を効率化したいと考えたのです。多くの自治体が使うことを想定し、他自治体の意見を聞いて汎用性の高いものを目指しました。横展開できるからこそ企業の収益になり、バージョンアップも進む。みんなにメリットが生まれます。
また、庁内でも有効活用できるように、ワークショップを通じて生成AIを体感してもらっています。活用のイメージが湧くよう、業務にひも付けて、例えば議会の時期なら「想定質問づくりに使っては?」のように具体的な広報もしています。
-大変なときでも“頑張ってよかった!”と思う瞬間はどんなときですか。
開発したものが世間に評価されたときは、率直にうれしいですね。地域の皆さんに喜ばれるのはもちろん、当市発のシステムが他自治体でも役立っていることに、やりがいを感じます。地方にいながらも、日本全体にいい影響を与えられたらと思います。
-ともに頑張る全国のデジタル担当者にメッセージをお願いします。
公務員の人材確保が困難になる中、業務は多様化・高度化し、1人当たりの仕事量も増えています。この課題を職員自身が認識し、業務効率化を進めなければ、自分たちの仕事がまわらなくなります。そのために何かを変えようとすると、避けられないのがチャレンジ。仮に失敗したとしても、得られた経験を次に活かすことができます。また、改善の手段はデジタルだけとは限りません。住民の幸福のため、自分たちが無理をしすぎずにいい仕事をするために、前向きに取り組んでいきましょう。
▲生成AIの開発で令和6年の「日本DX大賞」を受賞した。