デジタル庁が運営する「デジタル改革共創プラットフォーム(以下、共創PF)」は、業務デジタル化に関する情報交換を行う、自治体職員×政府職員限定のオンラインコミュニティ。今回は6人の参加者たちに、その活用法をインタビュー!
※下記はジチタイワークスVol.35(2024年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
情報部門の人材不足は、小規模自治体ほど顕著だ。共創PFでは全国から職員が集い、初心者からベテランまで、約8,700人がノウハウや解決策を提供し合っている。
左:京都府綾部市(あやべし)
教育部 学校教育課
渡邉 亮太(わたなべ りょうた)さん
2012年に綾部市へ入庁。総務課の情報部門で5年間勤務の後、学校教育課に異動して8年目。学校関係の情報システムを一人で担いつつ、施設の工事や補助金申請、物品管理、徴収まで担当する“何でも屋”的存在。
右:愛知県名古屋市(なごやし)
交通局 営業本部
企画財務部 会計課
(元・総務部 情報システム課)
林 美鈴(はやし みすず)さん
名古屋市交通局の情報部門と事務部門を交互に異動してきた。情報部門では内部システム関連業務とともに、オープンデータ関連業務を一人で担当し、計8年間勤務。現在は会計課に所属し、共創PFのアンバサダーも務める。
“聞ける人がいない” 問題に悩む職員を受け入れる場所。
-共創PFに参加したのはいつ頃ですか。
渡邉:令和3年11月です。GIGAスクールで子どもたちに端末を配る中で、とにかく他自治体の情報が欲しいと思っていたところ、共創PFを見つけて。近隣の情報だけでは分からないことも多いので、ここならと期待を込めて参加しました。
林:私は令和2年の年末に登録しました。デジタル庁の発足前で、内閣官房が管轄していた頃です。業務でオープンデータを一人で担当することになったものの、庁内に聞ける人がいなくて。駆け込み寺的な気持ちで参加しました。
-普段はどのような情報収集や発信を?
林:私が手がけていたオープンデータは、時刻表や乗降者数、バス停の位置情報など。データのサンプルを共創PFに投稿して、反応を見たり意見をもらったりしていましたね。使いやすいデータの型ができると、みんなに使ってもらおうと共有しています。
渡邉:私はGIGAスクールや教育データ連携などの情報収集で活用中です。例えば先日は校務用端末の調達に向けて、「皆さんはどのくらいのスペックで検討していますか?」とアンケートを取りました。財政交渉に活用できましたし、みんなが同じ疑問をもっていると思うので、こうした素朴な疑問も書き込んでいます。
-渡邉さんが共創PFに期待することは?
渡邉:教育DXに関する広い議論と意見交換です。来年度の新しい補助金のトピックや、ゼロトラストなどの話もしていきたいですね。セキュリティなどの問題で公務員は情報を出せる場所が限られますが、ここなら安心感があります。
一人情シスの悩みの放置は、日本の未来にも影響する。
-林さんがアンバサダーを引き受けた理由を教えてください。
林:自治体は1,700以上あるけれど、その大半が小規模で、一人情シスだろうと思うんです。この人たちを置き去りにしたら、日本の自治体の大半はうまくいかないことになる。これはまずいですよね。当市の交通局には情シスが十数人いますが、私はずっと一人でオープンデータを担当していたので、一人担当の気持ちは分かります。その状態だと、庁内では業務で相談できる人とつながるすべがない。だったら、自治体の外に出てつながることで解決できます。たとえ庁内で孤独でも、ここに来れば味方がいるから平気。そのサポートをしたかったんです。
-共創PFの中では、具体的にどんなやりとりがされていますか。
渡邉:そういえば、ある自治体の職員から「そもそもDXって何でしょう?」という投稿がされたことがありました。返信もたくさん付いて、読む側も原点に立ち戻れる、いい質問だと思いましたね。
林:初心者も気兼ねなく質問できますよね。やりとりの中身が高度かどうかよりも、何でも聞けて、それを否定されないことが大切。気持ちを分かち合うような場所にもなっていると思います。
渡邉:そうですね。情シス担当は年度切り替え時の端末セットアップが大仕事。さらに今年は土日が重なって……共創PFで励まし合いながら乗り越えました。
まずは“見る専” でも歓迎のゆるくつながるコミュニティ。
-印象的なエピソードはありますか?
林:昨年、情報系職員のイベントで座談会を行うことになったときには、共創PFのチャンネル内でやりたいことを出し合いましたね。その中からいくつか抽出して、会の内容を組み立てました。まさに共創といった感じでしたよ。
渡邉:私は以前、「子どもたちが端末のフィルタリングを突破してくるんです」と悩みを投稿したら、皆さん同じくイタチごっこで困っていることが判明しました(笑)。子どもたちとの終わりなきバトルなんだと分かるだけで、また次の判断ができることもありますね。
-これから参加する全国の自治体職員にメッセージを!
渡邉:私は小規模自治体で一人情シスをやっていて、自分だけで抱えている業務が山ほどあります。そんな中で、所属や役職を越えて全国からもらえるヒントや応援が支えになっていて、ありがたいです。参加者が増えるほど議論の精度も上がっていくでしょうし、政府の職員も参加しているので、さらに知恵が集結される場になればと思います。気軽に参加してほしいですね。
林:共創PFの名前には“デジタル改革”とありますが、情シスやDX担当しか入れないとか、そういうことは全くないです。投稿すれば歓迎されますし、何かに挑戦して、いいものを共有すればみんなに褒められます。そんな特別な場所なので、まずは眺めるだけでもいいから、立ち寄ってみてはどうでしょうか。
自治体DXは情報部門のみで取り組むものではなく、各原課との連携が不可欠。初めての挑戦でも全国の職員とつながり合い、知恵やアイデアを共有できるのが共創PFだ。
左:宮城県七ヶ浜町(しちがはままち)
デジタル推進室
山田 修雅(やまだ しゅうま)さん
七ヶ浜町入庁12年目。総務課をはじめ、防災対策室や子ども未来課、健康福祉課での勤務を経験した後、宮城県庁への2年間の派遣を経て同町総務課へ戻る。新設されたデジタル推進室でDXの主担当として日々邁進中。
右:静岡県裾野市(すそのし)
デジタル部 情報システム課
勝又 優斗(かつまた ゆうと)さん
2010年4月入庁。情報部門に4年間所属した後、市民課でマイナンバー制度の運用準備などに取り組む。税務課を経て情報部門に戻り3年目。現在は窓口BPRアドバイザーも務めており、七ヶ浜町にも支援に入っている。
DXの第一歩に“窓口”を選び、業務の棚卸しから着手する。
-共創PFに入ったきっかけは何ですか。
山田:“窓口DX” への挑戦がきっかけです。当町では令和6年度からデジタル推進室を新設し、DXを一気に進めようとしています。まずは町民サービスの向上からと考え、役場の顔となる窓口の改革を行うことになりました。とはいえ、私を含め職員はDX初心者。そこで「窓口BPR※アドバイザー」の力を借りようと考え、申し込みの際に共創PFに参加しました。
※BPR=Business Process Re-engineering(既存の業務フローを根本的に見直し、再構築すること)
-勝又さんが窓口BPRアドバイザーになった経緯を教えてください。
勝又:私も以前、当市の窓口改革を担当し、窓口BPRアドバイザーに来てもらったんです。その後、「アドバイザー育成事業」への参加を勧められて、研修と試験を受けて任に就きました。
-窓口BPR支援の流れを教えてください。
勝又:全3回の支援があります。基本的には、1回目に窓口DX・BPR研修を実施。2回目が利用者目線で課題を洗い出す“窓口利用体験調査”と、その振り返りから“ありたい窓口の姿”を描くワークショップ。3回目では首長に、ありたい姿と今後の計画を報告して合意を得る、という流れをフォローします。
山田:アドバイザーとの調整は、共創PF内でやりとりします。チャットでできるのは新鮮でしたね。体験調査にはダミーのマイナンバーカードや健康保険証などの準備物が必要なのですが、共創PF内にアップされているデータを使わせてもらいました。他自治体の資料などもアップされており、比較もできて勉強になります。
-つまずきがちな点や、その対策は?
勝又:窓口BPRでは、業務を“減らす・やめる・まとめる”ことを進めますが、この決断が難しいんです。長く続けてきた仕事を変えるわけですから。そんなときは共創PFで先行自治体の手法や経験を学べます。先行事例の本人がそこにいるので、細かいところまで直接相談できますよ。
教え合い、助け合えるのは、行政ならではの貴重な文化。
-ほかに役立った点はありますか。
山田:窓口DXを進めるにあたって、原課は忙しいのに“改革しませんか”と提案するのは気が引ける部分がありました。でも、先行自治体は“一緒にやっていこう”という雰囲気づくりを丁寧に行っていたことが分かり、その進め方や心構えが学べたのは大きかったです。
▲七ヶ浜町で行われた窓口利用体験調査の様子。
-勝又さんは自業務とアドバイザーの二足のわらじで、負担が大きいのでは?
勝又:確かに負担はありますが、他自治体の支援をするのもいい経験になっているんです。行政は全国共通の業務が多いため“助け合い”の文化があって。民間企業だと同業他社との情報のやりとりは基本ないと思うので、教え合えるのは行政のいいところですね。
自治体職員って面白い!と思える、率直で温かい場所。
-窓口BPR以外では、共創PFをどのように活用していますか。
勝又:盛んなのが“TTP” 活動です。“徹底的にパクる”の略で、パクり元となる他自治体のデータやナレッジが蓄積されているので、私もよくやっています。行政職員しかいない場所なので、発言をオブラートに包む必要がなく、率直な意見や感想が載っているのも特徴です。
山田:スケールが大きな話があるかと思えば、ざっくばらんでリアルな悩み相談もありますよね。ここに入って一番驚いたのは、“自治体職員ってこんなに面白いんだ”ということです。
-悩みも載っているのですね。
山田:はい。知見が得られるのはもちろん、みんな悩みは一緒だなと分かることで、不安が軽減されます。質問には政府の職員が回答してくれることも。国との距離が近くなるのもメリットですね。
勝又:私は業務でシステムの内製を一人でやっていて、行き詰まることがあります。ベンダーのサポートがないものなので相談先がなくて……。そんな悩みとともに共創PFで質問をしたら1日でコメントが付いて、その通りにやったら即解決しました。まさに集合知だなと実感しましたね。
-これから参加する人にメッセージを!
山田:“一緒によくしていこう”という思いをもった人がたくさんいるので、考える前に飛び込んでみるといいと思います。私も“みんな最初は分からなかったんだ”ということを知ったし、それが安心にもつながりました。
勝又:コミュニケーションが苦手な人は、まず見るだけから始めて、スタンプを押してみて、共感できるものがあればコメントする……と少しずつなじんでいくこともできます。温かい場所ですし、私は共創PFのアンバサダーも務めているので、何かあったらフォローしますよ!
神奈川県小田原市(おだわらし)
子ども若者部 子育て政策課
金原 悠(かねはら ゆう)さん
当市では、“原課のDXは原課主体で”という体制を取っています。以前、児童手当のオンライン申請を知識ゼロから始めましたが、マイナポータルのマニュアルは500ページ超え。苦労して対応した後、課内への引き継ぎ用に、易しく解説したマニュアルを作成しました。
同じ問題を抱える人が全国にいるのではと考え、共創PFでも共有すると、たくさんの反響が。現在は「ぴったりサービスでオンライン申請」と「医療保険資格の一括照会」などのマニュアルを共有中。ぜひ活用してください。
大阪府高槻市(たかつきし)
健康福祉部 障がい福祉課
橋本 元気(はしもと げんき)さん
障害者福祉システムの標準化対応をきっかけに共創PFに参加しました。デジタルの知識がなかったため、方針やマニュアルのひも解きが難しくて。“他自治体はどうしているのだろう?”と悩んでいたので、助かりました。
現在は“健康保険証の廃止”に伴う調整を担当。窓口の事務運用変更やシステム環境の整備などについて、他自治体の皆さんと意見交換をしています。情報部門と原課がともに取り組めば、より現場に即した調整ができるはず。ぜひ全国の福祉部門職員にも参加してほしいです。