令和3年9月に発足したデジタル庁は、マイナンバーカードの普及や行政手続きのオンライン化など、様々な分野でデジタル改革を推進している。その中核となる取り組みが「ガバメントクラウド」だ。
ガバメントクラウドは、各機関が個別に管理していたシステムを共通化し、コスト削減と業務効率化を実現するもので、国と自治体間のスムーズな情報連携も可能にする。
本記事では、ガバメントクラウドの仕組みや導入に至った背景、地方自治体が利用するメリットを詳しく解説する。
地方自治体は2025年度末までに20の基幹業務システムをガバメントクラウドへ移行する必要がある。本記事を参考に、移行に向けた取り組みを加速させてほしい。
【目次】
• ガバメントクラウドとは
• ガバメントクラウドのクラウド基盤は3層構造
• ガバメントクラウドを地方自治体が利用するメリット
• システム標準化の20種類の対象業務とは?
• 2025年度末に向け、自治体間で協力しあいながら移行を進めよう
※掲載情報は公開日時点のものです。
ガバメントクラウドとは
ガバメントクラウドとは、デジタル庁が整備する政府共通のクラウド基盤である。従来、国や自治体は各機関で個別のシステムを管理・運用していたが、ガバメントクラウドの導入により、これらのシステムを共通化することが可能となる。この取り組みにより、行政のデジタル化、業務の効率化、さらにはコスト削減が期待されている。
ガバメントクラウドが整備された背景
現在、国や自治体ごとに独自の業務システムが構築されているため、システム要件やデータフォーマットが異なり、情報の連携がスムーズに進んでいない。また、保守運用にも多大な手間とコストがかかる課題がある。こうした状況を改善するために、ガバメントクラウドが整備された。
「デジタル・ガバメント実行計画」
こうした行政システムのムダを是正し、データの利活用を促進するため、令和3年9月1日に「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(標準化法)」 が施行された(※1)。
この法律に基づき、全ての自治体は2025年度末までに、住民基本台帳や税務など20の基幹業務について、標準に準拠したシステムへの移行が義務づけられている。その移行先として、国とデジタル庁が推奨するのが「ガバメントクラウド」である。
※1出典 デジタル庁「地方公共団体情報システム標準化基本方針 」
ガバメントクラウドのユーザーは?
ガバメントクラウドは、基幹業務システムを利用する原則全ての地方公共団体が対象となる。
国の行政機関は1府2庁11省、地方公共団体は47の都道府県と1,724の市町村があり(令和6年2月現在)、その全てが原則対象となっている。
ガバメントクラウドのクラウド基盤は3層構造
ガバメントクラウドの共通のクラウド基盤はIaaS、PaaS、SaaSの3層構造で構成される。
各自治体は、デジタル庁から発行された管理者権限ユーザーで環境にログインし、初期セットアップを行った後、自分たちの業務に応じたアプリケーションを選択して導入する。詳しい仕組みをみていこう。
国が共通のクラウド基盤(IaaS、PaaS、SaaS)を準備し、提供
ガバメントクラウドでは、国が共通のクラウド基盤を整備し、各行政機関に提供する。
この基盤は次の3層構造で構成されている。
1.IaaS(Infrastructure as a Service/サービスとしてのインフラ)
IaaSは「サービスとしてのインフラ」を意味するクラウドコンピューティングの一形態で、情報システムの運用に必要なITインフラをインターネットで利用できる。
ITインフラには、ネットワーク、サーバーシステム、電源設備、ストレージ(データ保存用ディスク)、CPU、メモリといった、コンピューターの基盤となる様々な装置が含まれている。ユーザーは物理的な機器を自前で用意することなく、必要なリソースを柔軟に利用可能となる。
2.PaaS(Platform as a Service/サービスとしてのプラットフォーム)
PaaSは「サービスとしてのプラットフォーム」を意味し、アプリケーションの稼働に必要なプラットフォーム環境をインターネット経由で利用できるサービスを指す。
IaaSがITインフラ(ネットワークやサーバー、ストレージなど)のみを提供するのに対し、PaaSではデータベース管理システムやアプリケーション開発支援ツールといったプラットフォーム機能も提供される。このため、ユーザーはインフラの構築を行う必要がなく、アプリケーション開発に専念できるのが大きな特徴だ。
3.SaaS(Software as a Service/サービスとしてのソフトウェア)
SaaSは「サービスとしてのソフトウェア」を意味し、アプリケーションソフトをインターネット経由で提供するサービスのことを指す。ユーザーは、インターネットを通じてソフトウェアを使うことができ、パソコンやサーバーにインストールする手間がかからない。
SaaSでは、アプリケーションの開発や管理、更新作業は全てベンダー側が行う。
そのため、利用者はシステムのメンテナンスやアップデートの管理に悩むことなく、常に最新バージョンのソフトウェアを利用できる。メールサービスやカレンダー、文書作成、会計管理といった多くの業務アプリケーションがSaaSとして提供されており、特別なITインフラや運用の知識がなくても簡単に利用できるのが大きなメリットだ。
各ベンダーがアプリケーションを開発し、クラウド経由で提供
デジタル庁の「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービス」に認定されているのは、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure、およびさくらインターネットの「さくらのクラウド」である。
各自治体は、業務の内容に応じて、必要なアプリケーションをこれらのベンダーから選択して導入することができる。
ガバメントクラウドとLGWAN
LGWAN(総合行政ネットワーク)は、地方公共団体情報システム機構が運営する行政専用の閉域ネットワークである。
ガバメントクラウドとLGWANが連携することで、行政機関は既存システムの安定性を維持しつつ、クラウドの柔軟性とスケーラビリティを最大限に活用できる環境が整備されている。
ガバメントクラウドとISMAP
ISMAP(Information system Security Management and Assessment Program)は、日本政府が定めたクラウドサービスのセキュリティ評価制度であり、ガバメントクラウドもこの制度に準拠している。ISMAP認証により、セキュリティ基準を満たすことが保証され、各自治体は安全にクラウドサービスを利用できる。
ガバメントクラウドを地方自治体が利用するメリット
ガバメントクラウドは、行政システムの統一やデータの一元管理を可能にする。具体的に地方自治体にとってどのようなメリットがあるのか、詳しくみていこう。
1.情報システムの安全性が担保される
ガバメントクラウドは、国が定める厳格なセキュリティ基準に基づいて構築されている。情報システムのセキュリティ強化は、自治体にとって重要な課題だが、ガバメントクラウドでは24時間365日の監視体制や多層的な防御機能が導入されており、データの機密性・可用性が確保されている。これにより、自治体は安心してシステムを運用でき、住民の個人情報を適切に保護できる。
2.クラウドサービスを簡便かつ安価に利用できる
ガバメントクラウドの利用により、地方自治体はITインフラの個別調達や構築を行う必要がなくなり、クラウド環境を簡便かつ安価に利用できる。共通のプラットフォームに基づいて提供されるクラウドサービスは、インフラの初期投資や運用コストを大幅に削減し、限られた予算でも高度な情報システムの活用が可能だ。
3.管理工数の削減
ガバメントクラウドでは、システムの運用・保守が一元化されているため、自治体ごとに個別の管理業務を行う必要がない。これにより、日常的なシステム管理にかかる工数が大幅に削減され、自治体のIT部門の負担が軽減される。また、アプリケーションの移行時におけるデータ移行も容易であり、庁内外でのデータ連携がスムーズに行えるため、より効率的な業務運営が実現する。
4.データの連携が容易になる
ガバメントクラウドでは、クラウド上でデータが一元管理されるため、異なる自治体や国の機関間でのデータ連携が円滑になる。これにより、これまで煩雑だった行政手続きが簡略化され、住民にとっても利便性が向上する。
例えば、住民が別の自治体へ転居した場合でも、クラウド上での情報共有が行われるため、手続きの簡便化が図られ、自治体職員と住民双方の負担が軽減するだろう。
システム標準化の20種類の対象業務とは?
ガバメントクラウドへの移行により、標準化の対象となる20種類の業務は、自治体が提供する行政サービスの基本的な業務を網羅している。これにより、業務の効率化やデータ連携の円滑化が期待されている。
住民基本台帳・戸籍関連
住民基本台帳や戸籍関連の業務は、システム標準化の対象として重要視されている。各自治体が統一されたシステムでこれらの業務を管理することで、データの一元管理と情報共有が円滑に行えるようになる。
対象となる業務は「住民基本台帳」「選挙人名簿管理」「国民年金」「戸籍」「戸籍の附票」だ。
税金関連
税金関連業務もシステム標準化の対象となっており、各自治体が共通のシステムで税務業務を管理することで、データの一元管理と自治体間の情報共有が実現する。また、税務管理にかかる業務負担の軽減や業務効率化も見込まれている。
対象となる業務は「固定資産税」「個人住民税」「法人住民税」「軽自動車税」だ。
子ども関連
子ども関連の業務もシステム標準化の対象となっており、統一されたシステムでこれらの業務を管理することで、各自治体でのデータ共有が円滑に行えるようになる。これにより、支援や手当の迅速な提供が期待されている。
対象となる業務は「子ども・子育て支援」「就学」「児童手当」「児童扶養手当」だ。
国民健康保険関連
国民健康保険関連の業務もシステム標準化の対象となっている。標準化により、国民健康保険の加入者情報や給付管理が一貫したシステムで管理されるため、迅速で適正な保険サービスの提供が可能となる。
対象となる業務は「国民健康保険」。
介護・福祉関連
介護・福祉関連の業務もシステム標準化により、ほかの自治体や関連機関との連携も強化されることが期待されている。
対象となる業務は「障害者福祉」「後期高齢者医療」「介護保険」「健康管理」だ。
生活保護関連
生活保護関連業務もシステム標準化の対象であり、統一されたシステムで生活保護の支給や管理が行えるようになる。適切な支援が必要な窓口で、迅速に住民の生活を支える基盤が整うだろう。
対象となる業務は「生活保護」。
そのほか
そのほかの標準化対象業務として、印鑑登録が挙げられる。標準化により、各自治体で一貫した管理が可能となり、住民の利便性向上や手続きの迅速化が図られる。
対象となる業務は「印鑑登録」である。
2025年度末に向け、自治体間で協力しあいながら移行を進めよう
2025年度末のシステム標準化期限が迫る中、各自治体には様々な課題が山積みである。ガバメントクラウドの導入により、業務の効率化や住民サービスの向上が期待されている一方で、システム移行や運用体制の整備には多大な労力が求められる。
特に、各自治体は限られたリソースの中で業務を行っており、日常業務と並行して新たなシステムの導入準備を進めるのは大きな負担である。システム移行に伴う職員の研修や運用マニュアルの整備、データ移行の計画など、細かな準備も必要となるが、期限までの時間が限られているため、これらを効率よく進めていきたい。
標準化によってシステムは統一されるものの、実際の運用方法は自治体ごとに異なる場合がある。そのため、各自治体は自らの運用フローに合わせたカスタマイズや調整も行わなければならず、この点にも時間と労力を要する。
2025年度末という期限が迫る中、今後は各自治体が協力し、情報を共有し合いながら対応を進めていくことが不可欠だ。国やデジタル庁からの支援も活用しながら、早急に取り組みを加速させていこう。