各自治体がそれぞれの壁に直面する行政DX。特に小規模自治体には、様々な悩みがあるようだ。これに対し、「デジタル改革共創プラットフォーム(以下、共創PF)」はどのように活用されているのか。2人の職員に話を聞いた。
※下記はジチタイワークス×デジタル庁(2024年11月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
左:愛媛県上島町(かみじまちょう)
総務部 企画情報課
元森 龍太(もともり りゅうた)さん
2010年、上島町に入庁。以来14年にわたって、同町の情報システム部門を担当している。現在はガバクラ対応やシステム標準化に向けて奮闘中。
右:福岡県福岡市(福岡市)
総務企画局 働き方DX推進担当
熊谷 光芳(くまがえ みつよし)さん
人口3万人規模の自治体で19年間勤務した後、福岡市へ2021年に入庁。働き方改革とICT活用を担当し、デジタル改革共創プラットフォーム(以下、共創PF)のアンバサダーとしても活動中。
業務の増加と複雑化に悩む、情報システム担当者の現状。
―― お二人の、現在の業務について教えてください。
元森:離島だけで構成されている人口約6,000人の町で、入庁以来14年間ずっと“一人情シス”をやっています。最初の頃はネットワークやサーバーの保守・更新、職員のパソコン設定といった業務が中心でした。ですが、10年ほど前から業務内容が複雑化・多様化し、今は色々なことに追われる日々です。
熊谷:私は、他自治体から転職して福岡市に入庁しました。最初の3年間は情シス部門でインフラまわりの業務を担当。現在は“働き方DX推進担当”として、職員向けのDXを進めています。
―― 業務ではどのような課題を感じていますか?
元森:とにかく仕事の範囲が広がったと感じます。マイナンバー制度に始まり、ネットワークの三層分離や、DXに生成AIなど。特にDXでは、全庁的な動きを求められることが増えてきました。他課の業務内容にあまり詳しくないので、積極的に推進するのが難しいと感じています。
熊谷:私も以前の職場で一人情シスを経験しているので、よく分かります。福岡市にはICT区分の枠で転職しましたが、当市は職員側の業務DXが進んでいないのが課題です。業務を効率化して、働き方改革を進めていかねばなりません。
困り事を共創PFで聞くと、全国から次々と回答が!
―― 共創PFに参加したきっかけは?
熊谷:私は令和3年度からのメンバーです。別のチャットグループで共創PFを知り、面白そうだと流れてきました。
元森:同様です。別のオンラインコミュニティで“共創PFにも入ってみるといい”と誘いを受けて、加入しました。
―― どのような使い方をしていますか?
元森:業務で困り事があるときに共創PFに質問を書き込んでおくと、参加しているメンバーが次々に回答してくれるので助かっています。自分の知見が役に立ちそうだと思ったときは、誰かの質問に回答しています。例えば先日は、あるシステムへの認証がうまくいかないという書き込みがあったので、対応方法を提案。その後すぐに解決できたようでよかったです。多くの人があちこちで活発にやりとりしているので、興味があるチャンネルにはスターマークを付けて、こまめにチェックしています。
熊谷:私はもっぱら回答する立場ですね。質問に直接答えることもあれば、「こちらで議論されていますよ」と案内することも。そういうことをしていたからか、運営側から「アンバサダーになりませんか」と声がかかりました。できるだけ多くの質問に回答するようにしています。
全国から知見を借りれば、キャパシティは広げられる。
―― 参加してよかったと思えるのは、どんなときですか?
元森:効率よく仕事を進めることができたときですね。一人でやっていると“この方法でいいのか?”と不安になることもあります。しかし、情シス特有の専門的な内容なので、まわりに聞ける人がいない。そんなときに共創PFで「皆さんはどうしていますか?」と質問をすれば、誰かがすぐに回答をくれるので、すごく時間短縮につながります。
熊谷:私もガバクラや標準化に携わっていた時期があったのですが、技術資料や通知を読み解くのはとても難しい。そんなときにオンラインで協力し合えるのは心強いし、本当に助かります。他自治体の動きが分かると安心できるというメリットもありますね。
元森:仲間の存在を感じられるのは大きいですよね。私がよく活用するのは雑談のチャンネルです。同じように悩んでいる職員の存在に気づけますし、悩みの中に大切な情報が混じっていて、慌てて調べることもあります(笑)。
熊谷:技術的なこと以外に、法令上の疑問などで役立つこともありますよね。
―― 共創PFに寄せられる悩みから、どんなことが読み取れますか?
熊谷:情報部門の職員は、情報交換する機会が少ないと感じているようです。中でも小規模自治体はその傾向が強い。異動してしまった先輩に聞いても、デジタルは日進月歩なので、話がかみ合わないこともある。そうして悩んでいる間にも新しい施策やテクノロジーが次々に出てきて……。一人のキャパシティには限界がありますから、そんな人にこそ、共創PFをうまく使ってほしいと思います。
DXを孤独な取り組みにせず、何でも共有・共創していこう。
―― 新しく参加した人は、何から始めるとよいでしょうか。
元森:まずは自己紹介のチャンネルから始めて、ひと通りのぞいて全体の雰囲気をつかんでください。それから、気になるチャンネルに入っていけばOKです。面倒なルールはありません。
熊谷:行き先に迷ったら、「何でも相談」チャンネルですね。何か書き込んでおけば、誰かが誘導してくれます。近隣のことを知りたいなら都道府県別のチャンネルもオススメ。ほかにも窓口DXや子育て、防災など様々な分野のチャンネルがあるので、情報部門以外の人にも、ぜひ使ってもらいたいですね。
―― これから共創PFに参加する人たちへ、ぜひメッセージをお願いします。
元森:一人情シスの職員は全国に多くいると思いますが、“一人DX”は不可能です。ぜひここに、仲間とアイデアを探しにきてほしいですね。
熊谷:共創PFは“デジタルの知識”を共創するのではなく、“デジタルツールを使った行政改革”を共創していくための場です。だからデジタル以外の話も多いし、チャンネルのテーマも豊富。まずは一度、のぞいてみてほしいと思います。
ほかにも!
一人担当のお悩みあるある解決法!
❶WEB検索では自治体事例を見つけにくい。
岩手県遠野市(とおのし)
藤田 脩哲(ふじた のぶあき)さん
ヨコ文字の業務を振られがちな情シス担当。困ったときは共創PFで事例探しをしています。また、問題が発生したときは類似のケースがないかを検索し、解決策を探すことも。
❷素朴な疑問を気軽に質問できる人がいない。
京都府綾部市(あやべし)
渡邉 亮太(わたなべ りょうた)さん
学校で利用する端末の調達に悩んでいましたが、思い切って共創PFにアンケートを投稿。スペックや更新サイクルに意外な発見があり、助かりました。財政交渉にも活用する予定です。
❸膨大な資料を一人で読み解く負担が大きい。
岩手県大槌町(おおつちちょう)
森 隆宣(もり たかのぶ)さん
特に標準化・ガバクラ関連の資料は膨大です。私はガバクラ検証事業への応募にあたり、応募資料の書き方や進め方などの不明点を質問し、回答をもらえたので助かりました。
❹北海道は広すぎて情報交換が難しい。
北海道苫小牧市(とまこまいし)
平田 拓也(ひらた たくや)さん
道内180団体には小規模自治体も多く、遠距離での視察や研修参加は難しいもの。一人担当は兼務も多いですが、共創PFは幅広い業務が網羅されているので、活用してほしいです。