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デジタルツインとは?活用分野や必要な技術、メリットについてわかりやすく解説

デジタルツインとは現実世界から収集したデータをもとに、サイバー空間内に現実世界の「双子」のような環境を再現するテクノロジーのことだ。

ゲーム開発の技術を応用して開発が進められ、製造業やヘルスケアなど多様な分野でモニタリングや現実世界では難しいシミュレーションが行われている。デジタルツインの技術はまちづくりや防災にも役立つと期待されており、世界各国で成長戦略にも盛り込まれている。

デジタルツインについて理解を深め、自治体の運営にもぜひ活用していきたい。本記事ではデジタルツインの概要や、活用方法について詳しく解説する。

【目次】
 • デジタルツインとは?

 • デジタルツインはどんな分野で活用できる?
 • デジタルツイン、5つのメリット
 • デジタルツインの活用はすでに始まっている
 • 日本のDXを加速させる技術として今後に期待

※掲載情報は公開日時点のものです。

デジタルツインとは?

デジタルツインとは?
デジタルツインとはサイバー空間内に現実世界の環境を再現し、様々なモニタリングやシミュレーションを可能にするテクノロジーのことだ。直訳すると「デジタルの双子」という意味で、現実世界から収集したデータをもとにして、双子のように全く同じ環境をサイバー空間上に作り出し、現実世界では難しい実験をするために活用されることが多い。製造業やヘルスケア、物流など多様な分野で活用が進んでおり、世界各国で国家戦略にも盛り込まれ開発が進んでいる。

デジタルツインが注目される背景とは

デジタルツインの概念そのものは昔からあり、工学分野におけるシミュレーション技術の1つとして存在していた。

デジタルツインの起源は1960年代に米国国家航空宇宙局(NASA)が編み出した「ペアリング・テクノロジー」という手法にあると言われている。1970年に行われたアポロ13号の月面着陸ミッションにおいて、地上にもあらかじめ同じ設備を複製しておき、その設備でシミュレーションを行いながら爆発した酸素タンクの遠隔修理指示を出したという逸話が有名だ。

デジタルツインの起源は1960年代に米国国家航空宇宙局(NASA)が編み出した「ペアリング・テクノロジー」という手法

 

デジタルツインとシミュレーション、どう違う?

デジタルツインは最新のシミュレーション技術の1つである。従来のシミュレーションとの違いは、現実のモノや空間に直接手を加えることなく、ほぼリアルタイムのシミュレーションを実施できることだ。

ゲーム開発の技術を利用

デジタルツインの開発が進んだ背景には、ゲームの制作技術が大きく関わっている。

ゲームに使われるコンピューターグラフィックス(CG)がリアルなものへと進歩した結果、実際のまち並みや建物などを忠実に再現したデジタルツインをつくることが可能になった。CG制作に使われるゲームエンジンと呼ばれる開発ツールの対応も進み、「Unity(ユニティ)」などのデジタルツインに特化したゲームエンジンも登場している。 

デジタルツインを支える4つの技術

ゲーム開発の技術以外にも、デジタルツインを支える技術には次のようなものがある。

1.IoT(アイオーティー)

IoT(アイオーティー)

IoTは様々なものをインターネットに接続して相互に通信させる技術のことだ。高精度な仮想空間をつくるためには多くのデータが必要となるため、IoTであらゆるモノのデータを収集し続けることでデジタルツインを支えている。

2.AI(エーアイ)

AIはコンピューターが膨大なデータを分析して、推論や判断など人間の知的能力を模倣する技術のことだ。人工知能とも訳され様々な分野で活用が進んでいる。デジタルツインに使われる大量のデータを高精度に分析し、より正確な未来を予測するために欠かせない技術になっている。

3.5G(ファイブジー)

5Gは高速・大容量の通信が可能な第5世代移動通信システムのことだ。5Gは令和2年3月から開始された新しい通信規格(※1)で、従来の無線通信システムである4Gと比べて大容量のデータを超高速、超低遅延で送受信できるようになった。デジタルツインはリアルタイムで仮想空間にデータを反映していく必要があるため、5Gの技術がデジタルツインの運用を支えていくことが期待されている。

※1出典 情報通信白書令和2年版 第2節「5Gの実現・普及に向けて」

4.AR・VR(エーアール・ブイアール)

AR・VR(エーアール・ブイアール)

ARは現実世界にデジタル情報を重ね合わせて表示して現実を拡張する技術のこと。それに対してVRはデジタル技術で作り出した仮想空間を現実のように体験できる技術のことである。

どちらもデジタルと現実を融合させて見える形にする技術で、仮想空間で起きる不具合やエラーを可視化して現実空間へフィードバックするなど、デジタルツインを支えるために活用されている。

デジタルツインはどんな分野で活用できる?

デジタルツインはどのような分野で活用できるのだろうか。具体的に見ていこう。

まちづくり

中国の湖南省では駅の混雑緩和のためにデジタルツインが導入されている

まちづくりの分野でもデジタルツインは活用されている。中国の湖南省では駅の混雑緩和のためにデジタルツインが導入されている。センサーで検知した利用者の移動の様子、密度、二酸化炭素の濃度などのデータを収集し、デジタルツインで可視化しつつ駅に来てから離れるまでの時間を予測。駅全体が混雑すると予測された場合には、改札や入口を封鎖するなどの対策を行い人の流れを制御している。デジタルツインの技術が、渋滞や混雑の緩和といった都市のインフラ管理に役立てられている。

自動運転技術の開発

自動運転技術の開発

自動運転技術の開発にもデジタルツインが活用されている。自動運転の実現には、走行中の危険を回避するため、様々な状況の道路を運転させて精度を上げるための学習が必要だ。しかし実際の道路を走らせるには大きなコストがかかるため、東京のまち並みを再現したデジタルツインを使ってAIの学習が行われている。デジタルツインでは天候や路面状況などの条件も自由に変えることができるため、効率的かつコストを削減しながらAIに学習させることが可能になった。

ヘルスケア

デジタルツインはヘルスケアの分野でも活用が進んでいる。患者の健康状態や治療への反応をリアルタイムでシミュレートし、病気の進行を予測したり治療計画を作成したりといった健康管理に役立てられている。また、医療機器の設計や臨床試験の効率化、病院経営の最適化など、デジタルツインが活躍する機会も幅広い。

製造ラインや物流プロセスの最適化

製造ラインや物流プロセスの最適化
製造業でもデジタルツインの活用が進む。車などの工業製品や、製品をつくる工場をデジタルツインで再現し、試作品を作ったり工場のラインの配置を変えたりといった工程をサイバー空間内で完結できる。モノを動かすコスト物流業でもデジタルツインが活躍。デジタルツインで再現した都市を使い、効率的な配送ルートや効果的な拠点の位置などをシミュレートし、作業効率化につなげている。

エネルギー効率の最適化

エネルギー業界でもデジタルツインが活用されている。発電所や送電施設をデジタルツインで再現し、リアルタイムでモニタリングすることで効率的なエネルギー生産を行っている。また、多くの電力を必要とする施設や建物をデジタルツインで分析することで、電力消費を効率的に管理している。

社会課題の解決

デジタルツインを防災に活用する動きもある。地震や台風などを気象データから予測したり、災害発生時のデータから被災状況をリアルタイムで把握したりなど、これまでのシステムでは解決することが難しかった社会課題にもデジタルツインが役立てられている。

デジタルツイン、5つのメリット

デジタルツインには以下のようなメリットがある。

1.品質向上

高精度のシミュレーションや、リアルタイムのモニタリングを通して、サービスや品質のクオリティを上げられることがメリットだ。デジタルツインは過去のデータをもとに未来を予測するシミュレーションもできるため、新たな製品を作ったり新しい計画を立案する際にも役立つ。

2.コストダウン

デジタル空間の中であればコストをかけず繰り返しシミュレーションできることもデジタルツインのメリットだ。条件や工程、素材を変えて何度も試作品を製作するなど、現実空間ではコストがかかる実験も、物質や労力を消費せずに行うことができる。

3.人員削減

シミュレーションやモニタリングを行うために必要な人員を削減できることも大きなメリットだ。都市を使った大規模な実験や、工場を動かす試作実験、大きな施設のモニタリングには多くの人手が必要になるが、デジタル空間内で完結できることから少人数で実験や監視業務も実施が可能である。

4.期間短縮

シミュレーションに必要な時間を短縮できることもメリットだ。デジタル空間内であればいつでも、何回でも試行錯誤が繰り返せるため、現実空間で直接検証作業を行うよりもはるかに短い時間で行うことができる。

5.適正な生産管理・在庫管理の実現

デジタルツインを使ったシミュレーションやモニタリングを通して、どこに何があるのか何が必要かを視覚的に把握できるため、適正な管理体制の構築にもつながる。製造業であれば生産管理・在庫管理を適正化できたり、駅などの大規模施設では人流の適正なコントロールが行えたりなど、よりよい管理体制が実現できることもデジタルツインのメリットだ。

デジタルツインの活用はすでに始まっている

デジタルツインの活用はすでに始まっている

デジタルツインの活用はすでに始まっている。ここからは、まちづくりに関連した実際の事例を紹介する。

日本全国の都市をデジタルツインで再現!国土交通省「PLATEAU」

令和2年にスタートした「PLATEAU(プラトー)」は、国土交通省が主催する日本全国の都市デジタルツイン実現プロジェクト

全国56都市の3D都市モデルが整備されており、オープンデータとして自由にダウンロードして利用できる。神奈川県相模原市の「延焼シミュレーター高度化事業」 などの防災事業(※2)や、メタバース空間でバーチャル旅行を体験する試みなど、まちづくりや地域活性化のために活用されている。

※2出典 国土交通省「PLATEAU」3D都市モデルを活用した延焼シミュレーターの高度化事業

国を丸ごとデジタルツイン化!シンガポール「Virtual Singapore」

国を丸ごとデジタルツイン化!シンガポール「Virtual Singapore」

シンガポールは国を丸ごとデジタルツイン化する国家プロジェクト「Virtual Singapore(バーチャルシンガポール)」に取り組んでいる。

国土全体を仮想空間内に再現して、建物や土木インフラなど様々情報をリンクした3Dデータベースを構築した。さらに気候や人口統計などのデータを重ね合わせて、都市情報をリアルタイムで可視化している。 

バーチャル東京を仮想空間に作成!東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」

東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」
東京都は仮想空間にバーチャル東京を作成する「デジタルツイン実現プロジェクト」に取り組んでいる。

令和6年10月30日現在では、3D都市モデルに都バスや河川のリアルタイム状況を重ね合わせて可視化した「3Dモデルで見る東京」を公開中

霞川周辺でのリアルタイムなデータ、渋谷駅付近の避難所情報、都バスのリアルタイムな位置情報も見ることができる。 デジタルツインを活用して、リアルタイムでの都民の情報把握や災害対策、渋滞予測などのシミュレーションを行い、都民の生活の質の向上を目指す。

日本のDXを加速させる技術として今後に期待

デジタルツインは現実世界から集めたデータをもとに、サイバー空間上に現実世界の双子のような環境を再現する技術のこと。幅広い分野でモニタリングやシミュレーションに活用されている。

都市計画や防災などまちづくりへの活用も始まっており、デジタルツインを取り入れる自治体も出てきた。DXが進み様々なデータが蓄積されつつある現在、そのデータを活用する技術としてもデジタルツインが注目されている。日本のDXを加速させる技術として、今後のデジタルツインを巡る動向にも期待したい。

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