【セミナーレポート】能登半島地震の教訓をこの先へ ~復興への取り組みと防災力向上~【Day1】
令和6年5月に実施した「能登半島地震の現状と教訓」セミナー。参加者は400名を超え、「大変有意義だった」「また開催してほしい」といった声が多く寄せられました。
本セミナーではそうした要望に応えつつ、被災の当事者である職員や、防災ソリューションを提供する事業者から、災害対応力を向上するヒントとアイデアを共有しました。
概要
□タイトル:能登半島地震の教訓をこの先へ ~復興への取り組みと防災力向上~
□実施日:2024年9月26日(木)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:209人
□プログラム:
第1部:災害時に上手く受援するには?
第2部:通信インフラの断絶期間を最小にする取り組み ~光・衛星回線・無線を使用可能にした通信冗長化対策最前線~
第3部:能登半島地震の教訓を防災・減災にどう生かすか
第4部:珠洲市の実体験から考える災害対応と受援体制の要諦
第5部:自助・共助・公助・BCPの課題について
災害時に上手く受援するには?
第1部では、能登半島地震で応援に駆け付けたいなべ市の職員が登壇。被災自治体の“受援”にフォーカスし、被災地で目にした現実や、現場で感じた課題、そしてそれらを解決するためのヒントを語ってくれた。
<講師>
大月 浩靖氏
三重県いなべ市
総務部防災課 課長補佐
プロフィール
平成19年より防災の担当をし、これまで東日本大震災、熊本地震、九州北部豪雨、西日本豪雨など様々な被災地支援に従事。平時から積極的に地域に入り地域防災に取り組み、市民の防災意識の向上に努める。
プライベートでは内閣府のチーム防災ジャパンのお世話係としても関わり、災害の被害軽減をするために、国民運動の展開を行うとともに、国民の防災意識の向上を行っている。
人手不足が顕著な防災現場の課題と、国の施策について。
このセッションでは「災害時に上手く受援するには?」というテーマでお伝えしていきます。
まず日本の防災における課題ですが、自治体では防災担当を含めて、どうしても異動がある。今まではこれが幅広い知識を身につけるために機能していた訳ですが、昨今は業務が複雑化し、専門性が必要な時代になっています。そして人材不足。行政職員は1995年から2015年で54万人が減少しています。さらに、防災課や危機管理課などの専任職員がゼロという自治体も多い。市町村の規模によって様々ですが、ほかの部署と兼務している担当者も多く、これも人材不足の一側面だといえます。
こうした実態を踏まえ、総務省では応急対策職員制度をつくりました。災害マネジメント総括支援員は被災地の自治体に、別の地方公共団体の職員が応援に行き、マネジメントをする仕組みです。この総括支援員が全国569名で、まだ十分な状態ではない。南海トラフ地震が実際に起きると、この人数ではかなり不足しているという現状が垣間見えます。
対口支援において、応援側に求められるものとは。
ここからは私自身が能登半島地震で総括支援員として被災地に入った経験を踏まえ、現地で感じたことをお伝えします。
まず、対口支援も含め、災害時における短期派遣とはどんなものかという点について。給水支援が始まって、災害マネジメントの総括支援員が方針・計画・方法などの制度設計を行い、罹災証明の申請受付・交付、被害認定調査、緊急公費解体の受付など、さまざまな業務で応援の職員が入ると考えてください。能登半島地震で、三重県からは総括支援と対口支援の2チームを編成し、20団体の調整をしました。私は輪島市に入ったのですが、同市は被害も大きく、職員も孤立集落にいるなどして参集が困難で、発災直後は39%の職員しか登庁できない状況でした。
この状況で、各応援団体からの要望を被災地職員に伝えてしまうと、情報過多に陥ってしまいます。そこで、各業務ごとで調整団体を作り、各調整団体が対口支援チームの三重県に対し様々な要望を伝え、輪島市に対しては情報を絞って三重県の総括支援員が伝えるという方法をとりました。
同時に、避難所運営や物資拠点の整理にあたっていた輪島市の職員を、市役所に戻す活動をしました。総括支援チームの役割は、まず被災自治体の役所を災害モードにして、受援体制も整えつつ、現地の職員にしかできない業務に集中してもらうということです。この引き抜き作業は、避難所の住民などに不安感を与えないよう注意して進めました。
また、応援職員には土地勘がないため、宿泊や食事、移動手段の確保などで困難に直面します。被災自治体にも応援者の世話をしている余裕はないので、自分たちで解決するしかありません。こうしたことも知っておく必要があります。いなべ市では、旅行代理店と協定を結び、当市が被災した時、応援に行く時も含めて宿泊場所の確保をしてもらう体制をとっています。万一当市が被災して応援に来ていただく場合も、宿泊場所は旅行代理店と話をしてもらえばOK。このように民・官それぞれが役割分担する工夫も重要です。
豊富な経験から分析する“上手な受援方法”。
ここからは、円滑な受援方法について説明します。
まず、受援をしないとどうなるか。人手が足りず被害状況が把握できないので、目の前のことだけに対応してしまいます。職員は疲弊し、復旧復興の遅れから住民の不満も募る。それを防ぐためにも受援計画に要請のタイミングを定めておくことが大事です。
受援力という言葉もありますが、応援を受けるキャパシティーを考えておくことも重要です。特に庁舎内での受け入れスペースづくりが大切。情報連携のためには、応援側、受援側の職員はもちろん、消防や自衛隊、NPOやボランティアも同じスペースに集まるのがベストなので、輪島市でも各部隊の業務がつながるよう、1つのオペレーションルームに集約しました。これには相応のスペースが必要だということも念頭に置いた方がいいでしょう。
あとは事前の受援準備に関して、どの部署でどんな業務をしているかを書き込んだペーパーを用意しておくこと。庁舎の案内図から始まって、各部署の所轄業務、災害対応で担う業務を落とし込み、物的資源や宿泊場所などもリスト化しておくと、受援時はかなりラクになると思います。誰が見ても分かる様式にするのがポイントです。
応援は一時です。しかし被災地側の職員はずっと災害業務に関わらなければならない。だからこそ、応援を受けた部分も早めに巻き取り、自分たちで進めていくことが大事です。町村役所を退職したOBを活用することも一案だと思います。平時からそういう人たちともつながり、多くの自治体職員や防災に熱心な人たちとも関わりを持って、災害時に助けてもらうような体制をつくっておきましょう。
通信インフラの断絶期間を最小にする取り組み ~光・衛星回線・無線を使用可能にした通信冗長化対策最前線~
災害発生時、通信の確保は救援活動における生命線になる。能登半島地震でも通信の途絶が発生したが、この問題にどう向き合えばいいのか。通信サービスを提供する事業者が、BCPの視点を含めた解決策を提案する。
<講師>
中嶋 怜子氏
a2network株式会社
広報担当リーダー
プロフィール
2019年12月入社。モバイルWi-Fiサービス「スカイベリー®」の顧客サポート、商品・サービス企画を担当。2024年4月より現職。通信の冗長化ソリューション「スカイベリーpro®」の広報・マーケティング活動を行う。
災害時における通信の重要性と、能登半島地震での現状。
a2networkの中嶋と申します。私からは、通信事業者から提案できるBCP対策について説明します。
災害時の重要な情報インフラとなるネットワーク回線ですが、有線、無線、衛星回線などの手段はいずれも長所・短所があり、どれか一つを備えていれば安心というわけではありません。ここでは過去の災害を検証しながら、つながり続けるための備えという観点で話します。
まず、能登半島地震における通信インフラの状況です。
総務省や各通信事業者の資料によると、固定電話回線はビル停電や土砂崩れの影響で伝送路やケーブルが損傷し、大規模な障害が発生しました。ケーブルテレビのサービスでも伝送路に大きな被害が出ています。携帯電話回線の被害については、発災当日よりも2、3日後に通信遮断がピークを迎えました。これは各社の蓄電池が2、3日で切れ、停電が本格化したためだと思われます。回線の応急復旧が完了したのは1月17日でした。
もちろん、行政や企業も過去の災害事例にもとづき、災害対策を進めていました。こうした動きは能登半島地震においても一定の効果をあげています。
次に、ユーザー側の視点で、災害時に通信インフラが果たす役割を考えてみます。
災害時に通信が果たす最初の大きな役割としては、安否確認や情報収集という面が大きいでしょう。人命優先の観点からも通信は不可欠です。発災直後はもちろん、一次避難が完了した後でも継続した通信利用は重要となります。同時に、受援においても円滑な連絡手段を確保することが貢献しますし、災害対応業務におけるシステムの継続運用のためにも通信インフラが必要となります。
そこで、特に継続的な受援、復興に向けての通信インフラ確保という観点で、重要なポイントをまとめました。以下の3つです。
また、災害時の通信手段としてよく取り上げられるものとして、以下の4つがあります。
□IP無線
□MCA・MCAアドバンス
□衛星回線
□携帯電話事業者回線
これらの通信手段には、それぞれ長所・短所があるため、地域のニーズに適した通信手段を用意し、かつ複数の方法を備えて冗長化しておくことで、より確実な通信手段が確保できます。
5つの回線を駆使して情報の断絶を防ぐサービス。
ここで、非常時に向けて通信を冗長化し、かつ平時にも使えるサービス「スカイベリーpro」を紹介します。
本サービスの最大の特徴は、ドコモ・au・ソフトバンクのSIMを1台の機器に差し込めることです。そして通信の状況を監視し、使用する携帯電話を自動的に切り替える機能を持っており、利用者側は意識することなく障害のない回線を利用して継続的に使うことができます。さらに、光回線、衛星通信回線のケーブルも接続できるため、携帯電話回線を含む5回線の冗長化を実現。衛星通信については、高軌道衛星を使用した通信と低軌道衛星のスターリンク、いずれも通信テストを実施しています。
また無線回線を使用しているため工事が不要で、電源をつなぐだけでネットワーク環境が構築できます。そのため通信インフラが整っていない場所が避難場所になっても、すぐに通信環境をつくることができ、避難者に開放することが可能。光などのインフラが被害を受けた時のサブ回線として使うこともできます。
その他、災害時の特設テント内でも利用が可能です。医療テントでは、その場にいる職員や医療関係者が安定した通信を利用できることで、患者の受け入れや家族への連絡もスムーズ化。炊き出しなどのテントで使うことも考えられます。
一方フェーズフリーという考え方では、非常時に準備する通信は平時から利用されなければなりません。本サービスであれば、例えば公民館や体育館でのイベントなど、必要な時だけ簡単に通信環境をつくることも可能。スカイベリーproの大容量・無制限5G通信という利点を活かして、道の駅などの観光スポットのデジタルサイネージに活用することもできます。
このような設備は通信障害や災害発生時には自治体からのお知らせを表示する場所として、また住民のWi-Fiスポットとしても有効です。その他、庁舎間のネットワークの冗長化もできます。
最後に最新の導入事例を紹介します。那覇空港はお客さまの利便性向上の取り組みとしてキャッシュレス決済を推進していますが、その一方で通信障害の影響を受けやすい地理的な要因があり、以前から通信の冗長化を検討されていました。
そんな中、空港直営店舗のPOSレジの通信としてスカイベリーproを試験導入。現在4台が問題なく稼働しており、今後も順次追加導入予定です。光回線を含めた4回線を備えることで、より堅固な通信環境を構築し、いざというときにも対応できる、まさにフェーズフリーなBCP対策を実現しています。
自治体向けに、2カ月間無償で利用できるトライアルプランも用意しています。興味がある自治体にはデモも行いますので、ぜひお問い合わせください。
能登半島地震の教訓を防災・減災にどう生かすか
国内で相次ぐ災害に対し、テクノロジーで対応しても被害が減らないのはなぜか。第3部では、“想像力”をキーワードに、近年の災害を振り返りつつ、今後の防災のあり方について専門家が研究結果を共有してくれた。
<講師>
岩田 孝仁氏
静岡大学
防災総合センター 特任教授
プロフィール
1979年から静岡県庁で主に地震や火山などの防災・危機管理を担当し危機管理監兼危機管理部長を最後に退職。2015年より静岡大学防災総合センター教授、2020年より特任教授。中央防災会議の防災対策実行会議WG委員など政府や自治体の各種委員を務める。現在、日本災害情報学会会長。専門は防災学・防災政策論。
なぜ激甚災害は減らないのか、近年の傾向を読み解く。
静岡大学防災総合センター特任教授の岩田と申します。ここでは、能登半島地震の教訓を防災・減災にどう活かすかを考えつつ、私自身のテーマとしている「想像力の欠如に陥らない防災」についてお伝えします。
最初に、災害の素因となる自然現象について考えてみます。
まず地震ですが、今世紀中頃までに南海トラフの地震や、首都直下型地震、さらに日本海溝、千島海溝沿いの巨大地震リスクが指摘されています。
また、気象災害については、私たちの誰もが地球温暖化の影響を感じています。短時間降雨の強度は増し、従来の限界を超えるような雨が降ることで水害が激甚化している。年間を通しての降水量は100年間ほぼ横ばいですが、1日の降水量が200ミリ以上の年間日数は1.7倍に増加。過去の基準が当てにならないのです。
上図は、100年前の静岡平野です。この時代までは自然の地形を利用して、まちや集落が形成されていました。大雨が降っても水浸しにならず、地盤もしっかりとしており、伏流水が豊富な場所に市街地がつくられていたのです。
そして現在、このエリアは一変して、従来集落がなかった地域に市街が広がりました。下水道や河川の放水路などの排水機能も整備され、安全なまちを形成してきたのです。しかし、想定した限界を迎えた途端に排水能力を超えて市街地が水浸しになったり、川があふれたりという被害が起きる可能性が高まっています。
自然の力にハードで対応してきた一方、想像力や知恵は低下する。まれに発生する大災害で起きることを想像できない、そんな社会をつくってしまったのかもしれません。
複数の事例から見えてきた高齢化社会の災害対応リスク。
では今後どうしていくべきか。現在は国土強靭化でハード対策の強化を進めていますが、同時に我々一人ひとりの強靭化を図っていかないと、まちが持ちこたえられなくなってくることが考えられます。
1995年の阪神淡路大震災では、多くの建物が倒壊し、避難路をふさぐこともありました。この震災の教訓は、構造物の耐震性の確保です。そのために耐震基準の見直しや、耐震補強の様々な支援策が提供されるようになりました。
その後、2016年に熊本地震が発生。耐震補強の重要性が浸透していると思っていた矢先、震度7を2回記録した益城町では建物の倒壊が多く発生し、私もショックを受けました。公共施設の耐震化についても同様で、築51年だった宇土市役所の庁舎は大きく損壊して使用不能に。益城町の庁舎は、耐震補強はされていたものの基礎が損壊しました。やはり、災害対策本部は大きな災害が起きても機能が損なわれないレベルにしていく必要があります。
再び阪神淡路大震災の事例ですが、発災後、倒壊した建物に多くの人が閉じ込められました。瞬間的には16万人以上の方が建物の下敷きになり、自力で脱出するなどして、最終的に3万5千人ぐらいの方が閉じ込められました。そのうち2万7千人は、近隣の方々が救出しています。この事実からは、“今後こうした共助の救出作業ができるのか”という問題が突きつけられています。
東海地震説が出た70年代は、高齢化率が7.9%だった。そうした中、地域の防災活動をみんなでやろうという動きが始まったのですが、阪神淡路大震災の頃には14.6%、さらに現在は30%近くまで高齢化率が上がってきた。すぐに役立つ解決策はないのですが、この課題に対する取り組みを進めている地域もあります。
地域ぐるみで防災意識を高め、災害への想像力を磨く。
静岡県では、2002年から中学生・高校生にも地域の防災訓練に参加してもらうための活動をしています。学校で生徒に出席カードを持たせて、地域の訓練に参加するというものです。今では県内約半数の中学生・高校生が参加するようになりました。
訓練では、消火や救助を体験する以外にも、地域の安全点検をして大人たちに報告をするとか、地域の地図で安全な場所、危険な場所を話し合う図上訓練を大人と一緒に行ったりします。こうしたことによって、自分たちが大人になった時に地域の防災に取り組んでいく一助になればと考えています。
2021年には災害対策基本法が改正され、要支援者の個別避難計画の作成が市町村努力義務になりました。ただ、取り組みを始めた市町村はあるものの、具体的な計画まではできていない現状があります。
こうした中で起きた能登半島地震から見える今後の課題について、私は以下の通り整理しました。
皆さんに考えていただきたいのは、大規模災害などで環境が激変した時に、弱い立場の人をどう救うかということです。様々な個人や組織・団体が想像力を発揮して、対策を実施する。そうしたことを将来の社会に向けて、いかに実践していくかが求められます。さらに重要なのは自助・共助、それを支える公助。ここでは一人ひとりの意識改革が必要です。まれにしか遭遇しない災害だからこそ、いかに具体的にイメージできるか、その想像力の働きが防災対策の鍵になることでしょう。
珠洲市の実体験から考える災害対応と受援体制の要諦
第4部では、能登半島地震の被災地である珠洲市の受援事例を紹介。LINE WORKSを使った関係者のコミュニケーション環境構築について、当事者の2人がツール活用のメリットや上手な使い方などについて意見を交換した。
<講師>
神徳 宏紀氏
社会福祉法人珠洲市社会福祉協議会
(災害ボランティアセンター)
プロフィール
珠洲市生まれ。市内の小・中学校、高校に通い、高校卒業後は金沢市の企業に勤務。2017年に珠洲市に戻り、珠洲市社会福祉協議会に入職。2022年の地震時に災害VC、2023年と2024年の地震時は災害VCとささえ愛センターを担当。
長井 一浩氏
合同会社HUGKUMI
(LINE WORKSアンバサダー)
プロフィール
三重県松阪市生まれ 元松阪市社会福祉協議会コミュニティワーカー。富山県黒部市在住。合同会社HUGKUMI 代表社員、LINE WORKSアンバサダー、サイボウズ社 防災デジタルアドバイザー、一般社団法人Green Down Project 理事
田中 春奈氏
LINE WORKS株式会社
マーケティング本部
プロフィール
様々な分野のIT企業を経て、組織におけるコミュニケーションの重要性を痛感しLINE WORKS株式会社に入社。お客さまと共に考えながら、LINE WORKSを通じて情報共有のデジタル化を支援している。
続々と入ってくる応援職員と、ツールを通してつながりあう。
田中:本セッションでは、仕事で活用するコミュニケーションツールのLINE WORKSがどう被災地で活用できるのか、どのように受援に役立つのかについて、珠洲市の実体験をもとにご紹介いただきます。長井さま、神徳さまよろしくお願いします。
長井:珠洲市の災害ボランティアセンターでは、1月24日にLINE WORKSを導入していますが、現在どのような運用をしていますか。
神徳:当市の災害ボランティアセンターでは、全国の社協の応援職員が交代で派遣される仕組みで、5日間に1回人が変わります。これまでに700~800名ほどの方が派遣されてきており、その皆さんにLINE WORKSへ登録いただいて、チャットなどで様々な連絡を行っています。手持ちのスマホで対応でき、空き時間に返信もできるので、やりとりがスムーズになったと感じています。
ほかにも被災状況の写真をアップしたり、カレンダー機能でスケジュール管理をしたり、日報に使ったりもしています。
長井:かなり多彩な活用をされているようですね。意外なところで“これはよかった”といった点はありますか。
神徳:短期間で来られる職員と、個人のLINEを交換するのは互いに抵抗感があるのですが、LINEとは別アプリであるLINE WORKSなら公私をわけられますし、壁に二次元コードを掲示して、“登録してください”と案内したり、派遣前に社協から案内していただくなどして、気軽に登録できます。登録したらアドレス帳に入ってくるのですぐに連絡もとれますし、名前の索引を使って「○○さんはどこの社協だったかな」などと調べることもできる。かなり重宝しています。
6月に大きな余震があった時には、土砂崩れで出勤できなくなった職員が写真と一緒に状況をアップしてくれたので、安否確認もできて業務でも早期対応ができました。
平時に使っているツールだからこそ、非常時でも役に立つ!
長井:私も現場主義で、業務の効率化を大切にしつつ、無理強いはしないことにしているので、とても理解できます。ところで、珠洲市では私たちを含めて多くの人が活動していますが、“受援”という面での関係性をどのように見ていますか。
神徳:何でも言いやすい関係づくりが大事だと思っています。「こんなことできる?」といったように提案いただける関係がありがたいので。当市では、平時からのつながりがあったので、初動も何かと対応ができたのかなと思います。LINE WORKSでも様々な相談ができました。
長井:ツールで受援力を高めるという点も大事ですね。そのためには、普段から使い慣れているものであることも必要な気がします。
神徳:おっしゃる通り、平時に使っていないものは、緊急時・発災時には特に使えないと思います。その点、LINE WORKSの使い方はLINEとほぼ一緒なので、とっつきやすく、幅広い方に使っていただけると感じています。また、9月の豪雨災害でも「ボランティアのバスを出したい」「資機材を送りたい」といった声をLINE WORKSで多数いただき、こちらからもすぐに返信できて受援体制がとれる。これは電話やメールでは難しいです。
長井:最後に、セミナー参加者に向けてメッセージをお願いします。
神徳:私は災害ボランティアセンターと、ささえ愛センターという住民支援の両方を兼務しています。この2つの事業を同時並行で進めるには、様々な団体や企業などとスムーズに連携が取れないと難しい。また、両センターが地域の情報を共有することも必要です。そこでこうしたツールを活用することが、1人も取り残さない支援につながるのではと思います。高齢化率が約52%という当市でも使えているツールなので、ほかの市町村でも有効に活用できるのではないでしょうか。
長井:お忙しい中、本当にありがとうございました。これからも私たちは珠洲市の活動に伴走していきたいと思っておりますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。
田中:お二人とも、ありがとうございました。最後に私から、自治体での導入事例を紹介させていただきます。
愛媛県市町振興課では、各市町と県を結ぶ災害対応ホットラインをLINE WORKSで構築しました。同県では自然災害など甚大な被害を受けたまちを支援する自治体をあらかじめ割り当て、要請に応じて職員が派遣されるカウンターパート方式を取り入れており、その連絡における迅速性と職員の負担軽減のためにLINE WORKSを導入。関係者のグループをつくってやりとりすることで、連携の強化、連絡のスムーズ化を果たしています。
また、2024年1月18日には、岡山県倉敷市とLINE WORKS活用に関する災害時等応援協定を締結しています。災害時における情報伝達のタイムラグ発生に関する課題や、南海トラフ地震などに対する備えとしてLINE WORKSを採用いただいています。本サービスに関する相談などがあれば、ぜひご連絡ください。無料のプランもあり、お試し利用も可能です。
自助・共助・公助・BCPの課題について
最後のセッションでは、災害時の救命活動に貢献するソリューションを展開する事業者が登壇。発災直後の救援活動における課題と、そうした点をカバーするITツールの有用性について分かりやすく解説してくれた。
<講師>
山本 法義氏
ワールド防災センター
代表
プロフィール
阪神淡路大震災で、災害復興支援に従事。国内外の発電所プラント建設責任者、特殊指導員として、安全危機管理を担当。現在「ワールド防災センター」を設立し、自助、共助、公助、BCPの最終課題に取り組む。
発災直後の危機を位置情報の活用で乗り切る。
ワールド防災センターの山本と申します。ここでは、大規模災害が発生した際、自治体が直面する課題と、その解消に向けたソリューションについて説明します。
災害発生時、被災者の安否確認は大きな課題です。意識のある人は自分で救助を求めることができますが、意識不明の人は生存率が低く、迅速な救助が求められます。現在のところ、この問題に対する効果的な対策は見つかっていないようです。
また、災害直後の被害情報は警察、消防、自衛隊、市民など様々な方面から集まりますが、処理に時間がかかります。公的機関による支援の出動は時間を要し、優先順位が不明確なままで適切な救援配分ができないと、救える命が限られてしまうことがあります。特に、死亡者の多くは意識不明者であるため、早期発見が重要です。
ただし、災害で交通網が破壊されると、救助隊が被災地に到達するのに困難が生じます。さらに、災害時には通信インフラが損傷し、電話やインターネットなどの通信手段が制限されることがあり、これにより救助要請や情報の伝達が滞ることも救助を遅らせます。混乱やパニックが生じ、情報が錯綜する状況下で人命救助活動を行うことに困難を伴うのも、救助現場の大きな課題です。
こうした課題に対し、スマートフォンを活用することで、迅速かつ効果的な情報ネットワークの構築が可能です。地震発生時にスマートフォンが衝撃を感知すると事前登録先に位置情報を自動送信し、災害メールを受信した際も同様に位置情報を送信する。この仕組みにより、助けを呼べない弱者に代わってスマートフォンが救助要請を送り、早期救出につなげます。早期救出率の向上は、医療負荷の軽減にも貢献するでしょう。このような目標のもと、当社が研究に着手、そして開発したのが、防災減災救命アプリ「わたしはココ」です。
意識不明の人にも救出の手を差し伸べる2つのツール。
「わたしはココ」アプリは災害や事故にあった場合にスマートフォンが衝撃や水没を感知して、事前に登録した連絡先に位置情報を自動送信します。また捜索機能やオーディエンスSOS機能など救助者や被災者のための機能も備えており、さらに要救助者の高低差を確認できる独自の解析技術により、高層階や地下施設などの捜索にも有効です。
ほかにも、音声や振動でSOSを発信・受信できるオーディエンスSOS機能や、管理マップ上でリアルタイムに被災情報を得る総合管理システムなどを備えており、これらの情報で被災状況を提供し、迅速かつ正確な救助支援に貢献します。「わたしはココ」アプリはAppストアやGoogle Playで無料ダウンロードできます。
ただし、防災の課題解決を実現するには、当センターのDXだけでは効果も100%ではありません。自治体の皆さまと力を合わせることが必須です。「わたしはココ」アプリを日々の防災活動で活用していただきつつ、そのデータを自動リアルタイム収集すれば公助が完結します。ここで今回の本題である、皆さま向けに開発した新システム「レスキューロケーター」を紹介します。
レスキューロケーターは各ユーザーの状況、例えば衝撃や水没などをリアルタイムで確認でき、救助隊がすぐに対応するための情報を提供します。システムを使うことで人命救助のスピードと精度が格段に向上します。情報は、マップ上で視覚的に表示され、複数地域での救助活動にも対応可能です。広い範囲でも迅速な判断ができるよう設計されています。さらに、「わたしはココ」アプリとの連携により最新のデータを自動取得し、過去1カ月間のデータも保存表示できます。これにより救助活動の状況を常に最新の状態で確認できます。
こうした仕組みで、救助までの時間の大幅な短縮や、広範囲にわたる救助活動のスムーズ化が期待できます。また、直感的なUIにより複雑な操作は不要。災害時のレスキュー活動はもちろん、災害発生と同時に自動で被災情報を集め、通信規制前に迅速かつ効率よく災害対策本部の主情報を得ることが可能になります。命を守るための時間を短縮し、救助活動をサポートする強力なツールです。
なお、当システムは山岳遭難救助や、行方不明者の捜索、家族や友人の安否確認、事件や犯罪捜査への協力といったシーンでも有効性を発揮します。スマートフォンを活用した位置情報アプリの導入で、多くの命を救う効果が期待できるのです。
このレスキューロケーターと、わたしはココを組み合わせることで、自助・共助・公助の課題解決に貢献します。自治体の危機管理を、当センターが少しでもサポートできれば、今まで助からなかった命が助かればと、ワールド防災センターは考えています。
お問い合わせ
ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works