住宅ローンを組むとき、特に気をつけたいのが金利タイプの選択。今回は、金利の決まり方や、変動金利・固定金利の違いなど、住宅ローンの基本的な仕組みについて、元東京国税局職員のマネーライター小林 義崇(こばやし よしたか)さんに教えてもらった。
※本記事は、資産形成に対する理解を深めるための情報提供を目的としており、いかなる投資の推奨・勧誘を行うものではありません。
解説するのはこの方
小林 義崇 (こばやし よしたか)さん
大学卒業後、東京国税局の国税専門官として、都内税務署や国税局などに13年間勤務。相続税調査をはじめ、確定申告の相談対応や不動産売買、証券取引にかかる税務も経験し、「お金持ちはなぜお金持ちになれたのか」社会のリアルを知る。退職後は、マネージャンルの記事執筆を中心に活動。
著書に、『すみません、金利ってなんですか?』(サンマーク出版)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)などがあり、累計の販売部数は20万部超。
住宅ローン金利の決定要因とは。
住宅ローンを組む時期によって、適用される金利は変わります。この金利次第でトータルの返済額が大きく変わってくるので、金利の基本的な仕組みを理解することが大切です。まずは、金利が決まる主な要素として、次の3点を押さえておきましょう。
1. 市場金利の影響
市場金利は、住宅ローン金利に最も大きな影響を与える要因です。具体的には、短期金利や長期金利の動向が住宅ローン金利に反映されます。
短期金利は、主に日本銀行の金融政策によって左右されます。例えば、日本銀行(以下、日銀)が政策金利を引き上げると、短期金利が上昇し、それに連動して変動金利型の住宅ローン金利も上昇する傾向にあります。
一方、長期金利は国債の利回りなどを参考に決められます。経済成長の見通しや、インフレ率の予想などが長期金利に影響を与え、それが固定金利型の住宅ローン金利に反映されます。
2. 金融機関の方針
各銀行やノンバンク※1は、自社の経営戦略や資金調達コストにもとづいて金利を設定します。そのため、同じ時期に住宅ローンを組んだとしても、どの金融機関を選ぶかによって金利が異なることがあります。
他社よりも低い金利を提示することで顧客を獲得しようとする金融機関もあれば、リスク管理を重視し、やや高めの金利を設定する金融機関もあります。ローンを借りる側にとっては低金利の金融機関を選択したいところですが、条件の良いローンほど審査が厳しくなる傾向です。
※1 預金などを受け入れず、信用供与(資金の貸し付けなど)を業務とする金融会社のとこ。例えば、信販会社やリース会社など。
3.借りる人の信用力
金融機関が設定する住宅ローンの金利には幅があり、借りる人の年収、職業、返済能力、過去の借り入れ履歴などが金利に影響を与えます。これは、借入者の信用力によってローンの返済リスクが変わるためです。
信用力が高いと判断されれば、より低い金利が適用される可能性が高くなります。例えば、公務員などの安定した職業に就いている人や、十分な年収がある人、過去に延滞などのトラブルがない人は、比較的低い金利で借り入れできる可能性が高くなります。
一方で、フリーランスや契約社員など、収入が不安定な職業の人や、過去に返済トラブルがあった人は、リスクが高いと判断され、金利が高くなる可能性があります。信用力が高い公務員の方であっても、携帯電話の分割払いやキャッシングの返済が滞った履歴などがあると、ローン審査に通りにくくなるので注意しましょう。
変動金利と固定金利の特徴と違い。
住宅ローンの主な金利タイプには、変動金利と固定金利があります。それぞれに特徴があり、メリット・デメリットを理解した上で選択することが重要です。
◆変動金利の特徴
変動金利は、半年ごとに見直しが行われ、市場金利の変動に応じて金利が上下します。金融機関によって違いはありますが、主な特徴は以下の通りです。
1. 当初の金利が低い
通常、固定金利よりも当初の金利が低く設定されます。
2. 金利変動リスク
将来金利が上昇すると、返済額が増える可能性があります。
3. 125%ルール
金利上昇による負担増を抑えるために「5年ルール」「125%ルール」があります。
これは5年経過後、6年目からの毎月の返済額が、これまでの返済額に対して、125%(1.25倍まで)を超えないようにする仕組みです。なお、金融機関によっては採用していないところもあるので注意しましょう。
変動金利は、将来の金利動向を予測することが難しいため、ある程度のリスクを許容できる人に適しています。
将来的に金利が上がるおそれがありますが、それでも返済が滞らないように資金計画を立てておきましょう。
◆固定金利の特徴
固定金利は借入時に金利が固定され、返済期間中は変わりません。固定金利には、全期間固定金利型と固定期間選択型があります。
全期間固定型は、返済完了まで金利が変わらないため、将来の返済計画が立てやすいです。
ただし、通常は変動金利よりも高い金利に設定されているため、結果的に変動金利を選択した場合よりも高い負担となるおそれがあります。
一方、固定機関選択型については、例えば5年や10年など、一定期間だけ金利が固定されます。
固定期間終了後は、変動金利に移行するか再度固定金利を選択できます。固定期間選択型は、当面の安定性を確保しつつ、将来の選択肢も残しておきたい人に適しています。
日銀の金融政策と住宅ローン金利の関係。
日銀の金融政策は、住宅ローン金利に大きな影響を与えます。日銀の政策を理解することで、将来の金利動向をある程度予測することができます。
政策金利の影響
日銀が設定する政策金利「無担保コールレート(オーバーナイト物)」※2は、短期金利に直接影響します。変動金利の住宅ローンの多くはこの短期金利に連動するため、日銀の政策変更が即座に反映されます。
例えば、日銀がマイナス金利政策を導入した平成28年以降、変動金利型住宅ローンの金利は歴史的な低水準で推移していました。しかし、令和6年の金融決定政策会合においてマイナス金利解除が決定し、利上げが行われました。これに伴い、金融機関によっては住宅ローンの金利が上昇しています。
イールドカーブ・コントロール政策
日銀が導入していたイールドカーブ・コントロール政策は、短期金利と長期金利の差(イールドカーブ)を一定の範囲内に抑える政策です。この政策により、長期金利の急激な上昇が抑制され、固定金利型住宅ローンの金利も比較的安定していました。
しかし、令和6年3月にイールドカーブコントロール政策の撤廃が発表され、長期金利の変動性が高まっています。固定金利型は一度ローンを組むとずっと金利が変わらないので、長期金利の動向を見極めながら、できるだけ金利が低い時期に契約をすることが重要です。
※2 コール市場における無担保での資金貸借のうち、約定日に資金の受払(うけばらい)を行い、翌営業日を返済期日とするものにかかる金利のこと。
大切なのは金利選択だけではない。
住宅ローンの金利選択は、将来を見据えて最適な選択をすることが求められます。将来の金利動向を予測することは難しいですが、現在の経済状況や日銀の金融政策の方向性を考慮することで、ある程度の見通しを立てることができます。
また、金利の選択以前に、自身の収入状況や将来の見通しを客観的に評価することが重要です。収入が安定している場合や、共働きで家計に余裕がある場合は、変動金利型のリスクを取ることも一つの選択です。
一方、収入が不安定な場合や大きな支出が見込まれる場合は、固定金利型がより安心でしょう。返済額が一定であるため、長期的な家計管理がしやすくなります。
いずれにしても、住宅ローンの選択は、その後の家計に大きな影響を与える可能性があります。金利だけでなく、返済期間や借入額、団体信用生命保険の保障内容なども含めて総合的に判断し、ご自身に合う金融機関の住宅ローンを選択しましょう。