令和4年、生成AIが社会に大きなインパクトを与えた。DXを加速させたいと考える一般企業では導入や活用が日々進んでいる。一方、自治体でも様々な議論が進められているが、AIの活用領域はあまりにも広く、安全性の懸念もあるために活用まで進めないケースもあるようだ。
そうした中、宮崎市は官民の連携により、Google Cloud 内のAIプラットフォームである、「Vertex AI」を全国に先駆けて採用。宮崎市版生成AI活用モデルとして、業務改善や職員の負担軽減に向けた取り組みを進めているという。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです
[PR]ソフトバンク株式会社
interviewee
右:総合政策部 デジタル支援課 課長
三輪 将太(みわ しょうた)さん
左:総合政策部 デジタル支援課兼デジタル第一係 課長補佐兼デジタル第一係長
松浦 裕(まつうら ゆたか)さん
職員がコア業務に集中するために“生成AI活用モデル”をつくる。
宮崎市は、令和4年7月に「宮崎市デジタルチャレンジ宣言」を出し、同年9月には同宣言を実現するための取り組みを示した「宮崎市DX推進方針」を策定した。これは、「市民」「地域」「市役所」の3分野で、デジタル技術を最大限活用し、住民が豊かに暮らせるまちづくりを目指すものだ。
そして、この流れに弾みをつけるべく、令和5年4月に「ソフトバンク」と「自治体DX推進に関する連携協定」を締結した。以降、「Google Workspace 」 など「Google Cloud 」の各ソリューションを活用し、テレワーク、電子申請、ペーパーレスなどを推進している。これら一連の取り組みについて、三輪さんは次のように語る。
「これからの時代は、職員数が減っていく中でいかに行政サービスを持続的に提供し、充実化させていくのかを考えなくてはなりません。そのためにも、機械にできる仕事は機械に任せて、職員はより市民に向き合う業務に集中できるようにしていくべきです。DXも連携協定も、そうしたゴールに向かって進めています」。
この“機械にできる仕事”という面で庁内の声に耳を傾けたところ、「議事録の作成」と「事務作業で生じる例規に関する部署間の問い合わせ」という声が多かったという。そこで、この課題を解決するためにAIが活用できるのではないかと検討し、ソフトバンクと同社のビジネスパートナーである「グーグル・クラウド・ジャパン合同会社」とがスクラムを組み、共同研究を始めることに。
令和6年1月30日、宮崎市とソフトバンクは「生成AIの共同研究に関する覚書」を交わし、Google Cloud の生成AIを活用して、“宮崎市版生成AI活用モデル”を構築するプロジェクトを発足。業務改善に向けてスタートを切った。
セキュアな環境だから何でも聞ける!同市職員が実感したAIの導入効果。
このプロジェクトで採用されたのは、Google Cloud で提供されている、生成AIを構築して使用するためのフルマネージド統合AI開発プラットフォーム「Vertex AI(バーテックスAI)」。
ソフトバンクでは、同サービスを「Google Workspace 」が提供する「Google Chat 」から利用できる「Vertex AI ChatUIプラン 」を開発しており、本ソリューションを同市に提供した。このソリューションを基盤に宮崎市版生成AI活用モデルを構築することを決定し、100名規模の職員が参加して実証実験がスタートした。
生成AIのスムーズな導入には、まず現場を知る必要があるとし、開始直後の2~3月にソフトバンクの担当エンジニアが同市を訪問。実際に職員へのヒアリングを行い、業務の実情を把握した上で議事録作成の頻度が高い部署などをピックアップし、AIに読み込ませるデータの選定も行った。「AIには、当市の条例や規則のほか、マニュアル類や内部の通知文書なども読み込ませました」と松浦さん。
ちなみに、このプロジェクトで使う仕組みは、庁外に一切データが出ない方法で構築されており、セキュリティが担保されている。「AIソリューションは民間企業向けのものもありますが、それらのモデルを導入すると、行政の業務にマッチせず使いづらいことがあります。このシステムは現場の業務を理解した上で構築されているので、安全性や使い勝手などが非常に良く、職員にも自信をもって推奨できるものになりました」。
やがて、宮崎市版生成AIとして3つの機能(下図参照)を搭載し、対象業務での実証を開始。導入効果は以下のようにあらわれたという。
●議事録の作成
同市では以前から文字起こしツールを活用していたが、機能が音声のテキスト化に限られており、職員はテキストが生成された後で再度音声を聞きながら修正を加え、議事録にまとめ直す手間をかけていた。
これに対し、宮崎市版生成AI機能「myt(ミヤティー)」は、文字起こしの精度が高く、「プロンプトエンジニアリング」※により議事録のフォーマットに沿って議事録を自動生成するため、高度な清書が可能という。また、要約も自動生成するので、そのまま使える範囲も広まった。
さらに、テキストと音声を同時に扱うことのできるマルチモーダル機能を活かし、テキスト化されたデータと元の音声を生成AIに再度送信して要約をつくる手順を踏むと、さらなる精度向上を期待できる。
※AIに人間が期待する通りの動作
- 議事録生成のイメージ -
画像拡大
●例規に関する部署間の問い合わせ
通常は、業務で分からないことがあれば先輩や同僚に聞いて根拠を調べるという方法をとっていたのに対し、条例、規則、運用マニュアルなど、独自のデータを根拠に回答を生成する「検索拡張生成(Retrieval-Augmented Generation)」 を利用すると、これらのドキュメントをベースに回答が即座に生成される。それを候補に調べていくと、根拠にたどり着くまでの時間を大幅に圧縮できるという。
例えば、同市では年度初めに約60の庁内ドキュメントデータが提供され、それらをもとに業務を進める規定がある。そのため、生成AIがデータにもとづいた回答ができるように設定することで、質問に対しピンポイントで答えが返ってくるため、事務作業が効率化した。
- 例規等問い合わせのイメージ -
画像拡大
ほかにも、“新しい補助制度を考える際に、要綱や様式などのアイデアをAIに聞いて素案をつくったら、ほぼ完成に近いものができた”といった声も上がっているという。三輪さんは「とにかく使い勝手がいい。私自身も業務で活用しています」と笑顔を浮かべる。
庁内へ浸透させるために工夫を重ね、9割以上の職員が継続利用を希望。
同市の実証実験は以降も順調に進んだが、その取り組みを支えたのが担当職員の様々な工夫だった。中でも初期段階で注力したのは、“そもそも生成AIとは”という点についての理解の浸透だ。
「大前提として、“100%確実な答えが返ってくるものではない”ということを理解した上で使ってもらうことにしました。これを口頭で説明するだけでなく、“プロンプトを変えると違う答えになる”といったことを共有できるプラットフォームをつくり、意見をやりとりしました」と、松浦さん。こうした場で集まった意見は、回答生成の仕方をチューニングするための素材としても有用だったという。
また、運用前には2度の勉強会をソフトバンクのエンジニアが実施した。三輪さんは、「プロンプト入力のコツなど、とても参考になる内容でした。ほかにも、『生成AIを“仕事のパートナー”と位置づけ、まるでもう一人の職員がいるかのように考え、“壁打ち”を繰り返して詰めていく』というアドバイスが印象に残っています」と話す。
こうした提供者側の熱意が伝わったのか、勉強会の参加率は非常に高かったという。
このような取り組みを重ねる中で、職員の中で生成AIに対する意識も変化しつつあるのを感じていると松浦さんは力を込める。「実証に参加した職員へのアンケートを実施したのですが、9割以上が『今後も使っていきたい』という回答でした」。
来るべき人材難の時代をAIの“スーパー職員”とともに乗り切る。
同市の実証実験は令和6年8月まで続くが、途中段階ですでに十分な手応えを得ているようだ。「業務改善の見込み効果だけでなく、使いやすさも実感していると松浦さんは話す。
「ある程度仕組みをつくると、あとは職員がメンテナンスできます。例えば、庁内で新しい通知が出たとか、業務のやり方が少し変わったといった場合に、そうしたデータを読み込ませると短時間でその内容が反映された回答を返してくれる。このスピード感がいいですね」。
庁内業務に大きなイノベーションを起こす可能性を見せる宮崎市版生成AI活用モデル。現時点で、この新たなパートナーに最も期待しているのは“知の共有”だという。
「業務の知識に集中や偏りがなくなれば、一人ひとりの職員が自己解決できるようになり、聞く人、聞かれる人双方の手間が軽減され、仕事に集中できるようになります。いわば、サポート役としてのAIが“スーパー職員”として常駐し、その力をまわりに波及していくようなイメージです」。
また、三輪さんも「これにより職員のレベルが高まるのが理想です」と期待を寄せる。「今までは人から人へ知識を伝承していましたが、今後はそのやり方を続けても追いつきません。AIの導入でそうした面も効率化できれば、職員個々の資質向上が期待できますし、事務のミスなども起こりづらくなり、職場の風土もよくなってくるのではと考えています」。
今回の実証では庁内全体で統一された事務処理などが対象とされたが、今後は特定の部署に絞った使い方などを試すことも視野に入れているという。新しいテクノロジーにも果敢に挑戦する宮崎市の取り組みが、どのように進化していくのか楽しみだ。
[ソフトバンクならではの強み]
⑴ 現場のニーズを吸い上げてシステムに活かす
パッケージ化されたサービスではなく、現場の声に耳を傾け、より職員が使いやすい仕組みをつくる。さらに行政における豊富な知見も活かし、実務に則したシステムを構築して自治体に伴走する。
⑵ 自治体担当者を各エリアに配し強力サポート
行政を熟知した公共事業推進室本部が各自治体に出向施策を展開、現在40自治体にスタッフが出向中。さらに各エリアに公共担当者を配置し、できるだけ距離感のない直接的なサポートを提供する。
自治体DX推進サイト「ぱわふる」のご紹介
そのほか、ソフトバンクのソリューションを活用した自治体のDX事例は、コチラからご覧いただけます。