IT基本戦略の策定から約25年。コロナ禍での非対面・非接触ニーズも追い風となり、官民を問わずデジタルツールの活用が進んでいる。ガバメントクラウド整備などの動きが加速する中、財政面や人材面での課題から、まだその波に乗り切れていない自治体も多いだろう。しかし、政策の実現に自治体の協力は欠かせない。そこで、日本が目指すデジタル社会や自治体に求める役割について、河野大臣にインタビュー。国と自治体の認識一致を図り、前向きに取り組むための布石としたい。
※下記はジチタイワークスVol.31(2024年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
行政DX SPECIAL INTERVIEW
デジタル大臣 河野 太郎(こうの たろう)さん
令和5年9月、第2次岸田第2次改造内閣にて、デジタル大臣・デジタル行財政改革担当・デジタル田園都市国家構想担当・行政改革担当・国家公務員制度担当・内閣府特命担当大臣(規制改革)に就任。
デジタル社会の実現に関する5つの質問と地方自治体へのメッセージ
Q. まずは、日本の「これまで」のデジタル化を振り返り、その歩みをどう捉えていますか。
20世紀のアナログ技術で、日本は世界の最先端を走っていました。ただ、アナログがあまりにうまくいっていたので、デジタルへの投資が遅れてしまった。その上、日本は現場の対応力が優れていたため、それぞれの現場で最適解をつくっていった。
それは行政も同じで、各自治体が最適解をつくった結果、業務のやり方がバラバラになっていきました。地方分権の名のもとに、システムも、書類も、仕事の進め方も、1,788通りのやり方が出来上がっていったのです。これまではそれでよかったけれど、デジタル化を進めるにあたっては再考する必要があると考えています。
Q. では、その歩みを踏まえた上で、「現在地」についてはいかがでしょうか。
新型コロナウイルス感染症のまん延で、デジタル化の必要性が広く認識されました。国民に10万円を給付するだけで、数カ月もかかってしまった。国にデータがないため“全世帯に書類を郵送して銀行口座を教えてもらい、それを確認してからお支払い”をする必要があったためです。
当時、私はコロナワクチン担当大臣でしたが、前日の接種回数を把握するには、予診票の枚数を数えるしか方法がありませんでした。それを2万5,000もある接種会場からファックスで報告してもらうと……。さすがにそれではダメだと、急遽、ワクチン接種記録システム(VRS)をつくりました。令和3年にはデジタル庁が創設され、おかげさまで現在はマイナンバーカードの普及率も上がり、事務の効率化が図られています。
一方で、マイナンバー情報のひも付けに誤りが見つかり、皆さまには多大なご迷惑をおかけしました。ただ、アナログでも同じようなミスは起こり得ます。また紙の場合、ミスが埋もれるリスクも高いでしょう。けれど、デジタルならばマイナポータルを通じて本人自身で確認できる。ミスに気づけたのも、デジタル化のメリットの一つだといえるかもしれません。
さらに、コロナ禍でテレワークが進み“デジタル化すべきこと”が浮き彫りに。ハンコを押すためや、書類を受け取るためだけに登庁する必要はあるのか。
国が率先して認印を廃止しましたが、ほかにもデジタル庁では明治元年までさかのぼってアナログ規制を撤廃しています。この21世紀に、“行き倒れ人がいたら、その特徴を書いた高札を掲げる”というアナログな法律がまだ生きていた(笑)。こういうことはWEBサイトで周知すればいい。できるものは全てデジタル化していきたいですね。
Q. 「これから」に向け、国が描いているデジタル社会のビジョンを教えてください。
日本は今、年間約80万人も人口が減少しています。そんな中、“誰一人取り残されない” “人が人に寄り添う、ぬくもりのある社会”を実現するには、どうすればいいのか。
デジタル技術でできるものはAIやロボット、コンピューターに任せて、人は人にしかできないことをする必要があるでしょう。そのために、デジタルツールは重要な役割を果たすのです。
マイナンバー制度は、一人ひとりに寄り添い、人生をサポートする切り札です。能登半島地震では、免許証を持っていない高齢者が、マイナンバーカードを身分証として避難しました。カードをかざしてマイナポータルを見れば、いつも飲んでいる薬の名前や用量が分かります。罹災証明書もオンラインで申請すれば、混乱する被災地で役所に出向く必要はなくなります。
デジタル化という“平時の便利”は、“有事の安心”につながるのです。
「これから」は、スマホ一つで行政手続きができる。あるいは行政から一人ひとりに連絡ができる、そういう時代になるでしょう。スマホを持たない方は役所の窓口に来ていただきますが、マイナンバーカードで本人確認ができれば、書類を書く必要はなくなります。そういう意味で、誰一人取り残されないデジタル社会を目指していきます。
Q. 今後、国と地方が連携して動く中で、自治体にはどのような役割を求めますか?
自治体の基盤となる業務は、ある程度、国がリーダーシップを取って“標準化・共通化”していきます。
これまでは国がルールを変えるたび、全国の自治体がそれぞれシステムなどをアップデートする必要がありました。しかし、標準化されたシステムをガバメントクラウド上で運用することで、法令が変更された場合などでも効率的な対応が可能です。
各自治体には、そこにデータをもってきて“地域の実情に合った政策を選択・実施”してもらう。それが、今後の地方自治のあるべき姿だと思います。
ガバメントクラウドへの移行や、業務標準化の取り組みなどは、自治体の財政状況やシステム状況により差が出るでしょう。しかし、今やっておかないと、未来を生きる世代までそのデメリットを引きずることになる。
総務省が基金をしっかり積んでくれているので、それを最大限活用していただきたいです。
Q. 最後に、デジタル社会の実現に向けて奮闘する自治体職員にメッセージを。
皆さまには、コロナワクチンの接種・マイナンバーカードの普及・マイナンバー情報の総点検と、大変なご尽力をいただきました。改めて、感謝申し上げます。
人口減少や高齢化が進む中、デジタル化は住民の利便性向上と行政の効率化につながります。今までアナログで便利にやってきたのに、なじみのないデジタル技術を導入・活用していくのは、大変なご苦労だと思います。しかし、持続可能な行政を考えると、避けて通ることはできません。デジタル庁もしっかりサポートしますので、何でも遠慮なく相談してください。
今の業務をそのままデジタルに置き換えても、あまり効果はありません。業務フローは適切か、不要な作業をしていないか。首長から管理職、現場の方々まで一度立ち止まって、今の業務をどうするか考えていただく必要があります。
デジタル人材が不足しているのであれば、デジタル庁に職員を1年でも2年でも出向させてください。しっかりトレーニングしてお返しします。繰り返しになりますが、デジタル庁はサポートの労をいといません。お困りのことがあれば、気軽にご相談いただきたいと思います。
CHECK!
自治体・政府職員の交流の場
「デジタル改革共創プラットフォーム」
デジタル庁が運営しているこのプラットフォームを活用すれば、自治体におけるデジタル改革について、同じ悩みや困りごとなどをもつ職員たちと一緒に気軽な情報収集や意見交換ができます。
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