ジチタイワークス増刊号「感謝劇場」とは?
行政マガジン編集室が、事例紹介を中心とした通常号とは趣の異なる「増刊号」をつくりました。
「感謝・ありがとう」をコンセプトにした、その名も「感謝劇場」。略して、カンゲキ号です!
公務員の誰もが主人公になり得る、様々な視点での「ありがとうのドラマ」を取材し、紹介しています。
※下記はジチタイワークス 感謝劇場号(2024年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
●平成28年、「全国で2番目に小さなまち」三宅町の町長に就任し、現在は2期目を務める森田さん。住民との対話や官民連携に力を注ぎ、まちに新風を吹き込んでいる。そんな首長が、今伝えたい「ありがとう」とは。
森田 浩司(もりた こうじ)さん
奈良県三宅町 町長
1984年、奈良県三宅町生まれ。土木作業員や国会議員秘書、生協の配達員など多様な職を経験した後、町議会議員へ。約1年の議員職を経て、2016年に32歳で町長に就任。
直感やイメージを具体化し、力を貸してくれる職員に感謝。
―― 町長に就任して8年目の今、誰にどんな感謝を伝えたいですか?
町の職員に「こんなめちゃくちゃな私に力を貸してくれてありがとう!」ですね。就任当時は32歳で、しかも私は右脳タイプの直感型。漠然としたイメージを上手にキャッチして施策にまとめてくれるチームがいなければ、何もできなかったかもしれません。
―― 職員の皆さんとは、初めから意思疎通ができていたんですか?
当初から対話によるまちづくりを最優先に掲げ、住民とのタウンミーティングの実施を考えていました。しかし前例がないので、住民から一方的な要望が出るだろう、怒り出すだろうと職員は反対していました。だから、まずは職員とじっくり話をして、なんとか初回を迎えたんです。当日は場が荒れるどころか、住民の皆さんから建設的な話がたくさん出ました。「公務員は怒られる仕事だ」と思い込んでいた職員に対して、「実は応援している人も大勢いること」が可視化されたんですよね。これが、「住民と行政がフラットになるきっかけ」でもあったと思います。
―― 三宅町は官民連携も盛んですね。
最初の官民連携は、健康こども課と大手企業の連携でした。右も左も分からない状況でしたが、当時の職員たちにも課題対策の行き詰まり感や、それによる危機感があったんだと思います。事業は無事に実施でき、小さな成功体験をつくってくれました。今では連携の意識が全庁に広がっています。
―― 最初に役所を飛び出してくれた職員の方々に感謝ですね!感謝といえば、令和元年に庁内で“「ありがとう」を送りあうキャンペーン”を実施していましたね。
これは官民連携の実証実験で、職員同士が実証用のアプリで感謝のメッセージを送りあうものでした。面白かったのは、いつもコツコツ業務を進めている人に「ありがとう」が集中したこと。縁の下の力持ち的な職員に、みんなが感謝しているという発見になりました。部署間の連携を深めるために「また同じような試みをしてもいいね」と、最近も職員と話題にしたほどです。
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自分の強みを発揮するため、恐れずトライ&エラーを。
―― 令和元年には町長として産休・育休を無期限で取得し、世間を驚かせましたね。
実は、2期目の選挙直前だったんです。「こんなときに取得するのか」という声も少しありましたが、「子育てもしっかり頑張れよ!」と声をかけてくれる住民の方が多かったんです。その後、選挙も無事に当選し、第2子のときも産休・育休を取得しました。最近では男性職員の取得も増えていて、これは住民の皆さんが認めて応援してくれたおかげなんです。
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―― 令和3年には、組織のビジョン・ミッション・バリューを策定されましたが、バリューの一つに「失敗」を掲げた理由は?
「対話・挑戦・失敗」というバリューは、職員採用の準備として現場と一緒に決めたもの。挑戦を促されても、失敗して叱られるのなら、誰もしたくありませんよね。「失敗を経験に変えればいいという心理的安全性を確保するため、挑戦と失敗はセットだと考えよう」と。この話はよく外部にも発信していて、住民からも「役場だって失敗するよなぁ」「一生懸命やったらええんちゃうか」と言ってくれる人が出てきました。庁内でも「上が失敗していいというんだから、思い切ってやろう」という意識が芽生えています。
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―― 町長から、全国の自治体職員にエールをお願いします。
自治体職員って、本当にすごいんですよ。これだけ勤勉で業務をスムーズにまわせる人たちはいないし、住民のために高いモチベーションを保つことができる。ただ、同じ場所にいると、仕組みが時代に合っていないことには気づきにくいんです。仕組みのアップデートは民間の方が得意なので、外に出てみると、ラクになるきっかけや住民のためになる発見ができる。現在の居場所に限定・固執せず、「広く見るようにする」と面白いと思いますよ。私は皆さんのおかげで仕事ができているので、少しでも役に立つなら、どの自治体の人でも私を使ってほしいと思っていま
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PICK UP!
❶令和元年「ありがとう」を送りあうキャンペーン
一日の業務を振り返り、感謝したい人にアプリで気持ちを伝えるキャンペーンを実施。働きやすい職場をつくり、魅力的なまちづくりにつなげるのが目的。
❷町長自ら産休・育休を無期限・時短勤務で取得!
2人の子どもの出産に立ち会い、育休も取得。無期限の時短勤務とした理由は、町職員の保健師に「子育てに終わりなんてない!」と言われたからなのだそう。
❸三宅町が掲げるビジョン・ミッション・バリュー
失敗のない挑戦は挑戦じゃない!失敗を次の挑戦への糧となる「経験」に変換し、進化しつづけるという思いが込められている。