地域や国における温室効果ガスの吸収量・排出量を、プラマイゼロにする「カーボンニュートラル」。令和2年10月、政府が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言したことを受け、各自治体が公共施設・設備の運営体制見直しなど、二酸化炭素排出量削減に向けた計画策定を急いでいます。
そうした中で、7割超の自治体が、実施意向はあるものの導入時期や運用期間が未定としているのが、「公用車のEV化」です。EV化は、なぜ進みにくいのでしょうか?
そこで今回のセミナーでは、多くの自治体の悩みを聞き、様々な分野で課題解決を行ってきたNTTビジネスソリューションズ株式会社と西日本電信電話株式会社を招き、政府が掲げる方針を読み解きながら、EV化を進める上で自治体が抱えやすい課題と具体的な進め方と方法について、紹介してもらいます。
概要
■テーマ:地域の脱炭素化はどうやって進める? 公用車のEV化で実現させる脱炭素社会
■実施日:2024年2月16日(金)
■参加対象:自治体職員
■申込者数:88人
■プログラム
Program1
2024年度予算に見る脱炭素型の地域づくり支援策について
Program2
公用車EV化から始める脱炭素の地域内ドミノ化
2024年度予算に見る脱炭素型の地域づくり支援策について
<講師>
西日本電信電話株式会社
エンタープライズビジネス営業部 公共営業部門
山本 圭晟 氏
プロフィール
令和3年、公共営業部門 省庁ビジネス推進担当に着任。以来、官公庁の窓口担当として政策動向や補助金等の情報収集に従事。政府の2050年カーボンニュートラル宣言以降、NTT西日本におけるカーボンニュートラルの取り組みを牽引。
2050年カーボンニュートラルの目標実現に向け、エネルギー供給構造の変革だけでなく、産業構造、国民の暮らし、そして地域の在り方全般にわたる取り組みが進められている。令和6年度も、脱炭素型の地域づくり、ライフスタイル転換など、様々な補助金等による支援が予定されている。
そうした国の支援策の概要から、NTTグループ各社が進めるカーボンニュートラル分野におけるビジネスの取り組みについて、山本氏が実例を踏まえ、分かりやすく紹介する。
国の予算動向について
今年度の2023年5月に成立したGX推進法により、民間企業の設備投資や新技術を活用するための研究開発など、今後10年間で150兆円の投資を目指す動きが本格化しています。まず、下のグラフをご覧ください。
左は、経済産業省・環境省の予算額推移で、特に2021年度はグリーンイノベーション基金として2兆円が予算化されており、年々増加傾向にあります。
右は、国の支援策の予算額推移で、2021年度から大幅に増額していることが見てとれます。そのため、カーボンニュートラルに向けて新たな取り組みを進める際、年々大きな後押しになると言えるでしょう。
国の支援策について
脱炭素化に向けた計画の策定から、再エネの設備導入、先端的な取り組みの推進など、以下の表の黄色い網掛け部分の3事業について説明します。
●地域脱炭素移行・再エネ推進交付金
地球温暖化対策推進法と一体となり、脱炭素に向けた地域特性等に応じた先行的な取り組みを実施するとともに、脱炭素の基盤となる重点対策を全国で実施し、地域での脱炭素化の取り組みを支援する交付金です。地域単位の先進的な取り組み、一定量以上の重点対策の取り組みなどの際に、高めの補助率や上限で支援するなどの特徴があります。
EVの導入に関して、車載型蓄電池としての導入や公用車などへのEV導入、導入した車両のカーシェアリング使用も対象になります。すでに先行地域に関しては4回募集されており、74提案が選定されています。重点対策加速化事業については、令和4年度から110自治体が選定されています。
次の先行地域の第5回の募集要項等はすでに公表されており、これまでよりも準備期間が長く取れるため、環境省は先進性・モデル性に優れた提案、横展開を見据えた都道府県や地域の金融機関、地域エネルギー会社、中核企業などとの連携について、より工夫があり、事業性が高いものを求めています。
重点対策加速化事業においても、変更点があります。採択制を本格導入し、脱炭素の基盤構築として地域金融機関との連携やノウハウの垂直展開などをより重視。要件や評価の水準を引き上げ、評価の高いものから採択されます。また、交付限度額も、都道府県は上限20億円だったものが、15億円に変更されています。
脱炭素先行地域、重点対策加速化事業のどちらにおいても、先進性、モデル性など、より高度な取り組みが求められています。申請に向けては、評価事項をしっかりと読み込み、準備することが重要です。
●クリーンエネルギー自動車導入促進補助金
2035年までに、乗用車新車販売で電動化100%とする政策目標の実現に向け、EV導入の取り組み単発でも対象となります。事前登録されている補助対象車両があり、車種ごとに補助金額が設定されています。
当該事業は大幅に予算額が増額されており、2022年度は530億円、2024年度には1,300億円になるなど、カーボンニュートラルの推進にかなり力を入れています。特にポイントとなるのは、事業スキームです。この事業を活用する際は、まず車を購入し、その後、交付申請を行ない交付決定という流れになります。そのため、充電器と車をセットで導入する際には、それぞれの補助金を申請するタイミングが異なってきますので注意が必要です。
●クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充填インフラ等導入促進補助金
充電器導入を支援する事業です。補助対象としては、充電設備の購入費用と設置工事費で、充電器の工事項目ごとに補助率が設定されています。特にポイントとなる点は応募スケジュールで、次回からは3回に区切って募集することが予定されています。また、一次募集については、令和5年度の追加分としての募集が予定されているため、要件についても令和5年度の予備費募集に近い形になることが想定されます。
今後の募集については重点対策加速化事業と同様に、一定の基準にもとづいて受付案件を決定する採択制が取られます。二次募集以降の令和6年度新規募集については、要件の見直しが図られるため、現時点では詳細は未定ですが、一定の基準は設けられると想定しています。そのため、活用に向けて申請するだけではなく、基準額以下になっていること、要件を満たしていることを確認してください。
NTTグループの取り組み紹介
脱炭素先行地域、重点対策加速化事業の支援実績に加え、各種計画作成支援の実績もあり、オンサイトPPA等の再エネ設備導入の取り組みまで、NTTグループとして脱炭素地域づくりを幅広く支援しています。
脱炭素型の地域づくりに向け、様々な補助金や支援策が拡充されています。一方で、求められる要件の難易度も年々厳しくなっています。
そのため、脱炭素化を少しでも進めたい、更に加速化させたい場合については、タイミングを逃さずに補助金などの支援策をうまく活用することが重要ですので、ぜひご相談ください。
参加者とのQ&A(※一部抜粋)
Q:地域脱炭素移行・再エネ推進交付金について、国としては新たな自治体選定に向け、継続して支援する考えなのでしょうか。また、自治体の申請ハードルが上がるなど、制約が加わる可能性はありますか。
A:かなり多くの自治体が選定されていますので、今後については、現在、検討段階…というのが、回答になると思います。ただ、現時点でモデル性のある先行地域・重点対策について選定がされる中で、「モデル性のある取り組み」に関する募集基準は変わると思います。その際は、別の補助金ができるなど募集が行われるのではないかと思われます。
Q:クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電インフラと、導入促進補助金について、費用対効果の高い案件から受け付け決定とありますが、交付決定が受けられない場合もあるのでしょうか。
A:それは、あると想定しています。と言うのも、予備費については予算額の都合もあって、すでに申請した事業者に対して執行団体から、費用対効果があまり高くないものについては受け付けできないと連絡があったと聞いています。これから募集が始まっていく中でも、もちろん予算額との兼ね合いはあるとは思いますが、基準額を満たしていないものについては受け付けされず、通常の補助金と同様、基準額以下にするよう連絡があるのではないかと思います。
公用車EV化から始める脱炭素の地域内ドミノ化
<講師>
NTTビジネスソリューションズ株式会社
バリューデザイン部 バリューインテグレーション部門
ソーシャルイノベーション担当
エネルギーインフラG担当課長 中島 盛治 氏
プロフィール
平成8年、日本電信電話株式会社に入社後、ソリューション営業、NTT西日本のクラウド事業立ち上げ、伊勢志摩サミットにおける情報通信環境整備PJのプロジェクトリーダー等に従事。令和3年、カーボンニュートラルビジネス推進リーダーに就任し、EV導入支援ソリューションN.mobiの展開を中心にエネルギー関連事業開発に従事し現在に至る。
地域カーボンニュートラルを進めるには、様々な取り組みが必要となります。今回のセミナーではカーボンニュートラルの取り組みを整理し、その中でも公用車のEV化をトリガーとした地域内の事業者や市民の行動変容につながる取り組みについて、中島氏が紹介する。
カーボンニュートラルの動向と自治体の現状
国の動向を踏まえ、2023年12月時点で、1,013自治体がゼロカーボンシティ宣言をしています。また、温対法の改正に伴う計画の見直しおよび取り組みが加速しており、地域脱炭素移行再エネ推進交付金の活用事業も、かなり増えてきています。
その中で、各自治体とNTT西日本グループで連携協定を締結した案件も出てきております。当社が提供するカーボンニュートラルのソリューションの一覧は以下の通りです。
カーボンニュートラル施策について、行政担当者にアンケート調査を実施しました。その結果、以下の3点が明らかになりました。
①半数は実施に向けて予算計上しており、「太陽光発電」「公共施設の省エネ化」「EV化」がトップ3。
②約8割が、検討を含め施策実施を進めている。また、地域類型という観点で、施策の取り組み状況については差がある。
③EV導入が進み、「災害時の電源」「シェアリング」として期待している。一方、充電設備での運用や利活用の計画の立案にハードルを感じているという担当者が多い。
「EV導入の検討状況」については複数台導入のケースが多く、導入済みの自治体では、今後の導入拡大について5台以上を考えているところが最多でした。「EVの活用」には、半数近くが災害対策やシェアリングと回答しており、EV導入をきっかけに、組織内の脱炭素議論や外部への広報活動が活性化したとの回答を多数いただきました。
EV導入を契機に地域の「脱炭素ドミノ」を起こすためには、以下の4つの課題があります。
①LCA(Life Cycle Assessment)でのCO2排出量を踏まえた導入検討
EVの製造工程や燃料(電気)製造によるCO2排出量は多い。その点も踏まえた検討が必要。
②コストアップへの対応
EVをガソリン車と比較すると、車両価格そのものが割高で、台数を増やすと電源設備の増強や電気料金が上昇する。
③行動変容の促進
公用車のEV化にとどまらず、地域の方々の行動変容を促進することが重要。EVへの心理的抵抗を払拭し、カーボンニュートラルへの取り組み参加意欲を醸成することが重要。
④EV充電インフラの普及
まち中での充電インフラが、まだまだ不足している。それがEV普及の阻害要因になっているとも考えられる。
以下のグラフは、ガソリン車とEVのLCAにおけるCO2排出量を比較したものです。EVは、バッテリー製造段階で大幅にCO2が排出されほか、燃料となる電気も、ガソリンと比較してかなり多いことが分かります。
電気を再エネに変えていくことで、カーボンニュートラルに貢献しなければいけない点が1つ。もう1つが、EVの稼働率です。年間の走行距離が15,000kmの場合の削減率を示していますが、その距離を出すには、かなりの稼働率が必要と思われます。
EV稼働率を上げるためには、大きく2つのポイントがあります。
①車両台数の最適化
現状の車両毎の稼働率がそもそも少ない場合は、ガソリン車台数削減を検討。
・車両数・稼働数が少なければ、ガソリン車を保有するのではなくカーシェアを利用。
(例)ガソリン車10台保有→EV8台保有+カーシェア
②EVの利便性を高める
複数車両のうち、利用者がEVを選択するには、利便性がガソリン車と遜色ないことが重要。
・外出先の充電を極力減らす
・充電の状況が予め把握できる
EVの利便性を高める「N.mobi」
当社は、「N.mobi」というサービスを提供しています。サービス概要は下記を参照ください。
上記を月額サブスク型で提供しています。公用車車両管理の場合、Webやスマホアプリを活用し、管理者・従業員ともに業務の効率化が可能です。
契約容量を超えないように充電タイミングを制御する「ピークシフト機能」、車両予約データから、必要な電力量を判定し自動充電する「スマートチャージ機能」を搭載し、課題や不便さを解決するエネルギーマネジメントが可能な仕様です。
カーシェアプラットフォームとしても活用可能です。充電残量や走行可能距離を表示し、充電忘れ防止でアラームが鳴るように設定。また、スマホで開・施錠できるバーチャルキーになっています。
EV活用によるレジリエンス強化
発災時、EVのバッテリーを電源車として活用するには2つの方法があります。
①給電および電源車両として、市庁舎や避難所へ配車。
②平時の避難訓練やイベントで電源車として活用し、住民向けにEVの利便性をPR。
ある自治体の事例を、下記図にまとめました。市民のEV化はあまり進展していないものの、関心を持っている住民が多いため、EVに触れる機会をつくり、地域のEV化の第一歩にしている事例です。
EVの利便性を高めるには地域の充電インフラを普及させる必要がありますが、駐車場の土地オーナーの設置許可が下りないケースが少なくありません。そのため、まずは公共施設から充電インフラを整備し、地域の充電インフラ環境を拡充させる取り組みを進めることが重要です。
なお、本年1月末には和歌山市と、EV充電インフラ等普及促進の連携協定を締結。地域におけるEV普及活動を進めていきたいと思います。
参加者とのQ&A(※一部抜粋)
Q:太陽光発電設備など、再生可能エネルギーとの連携について、どのように考えておられますか。
A:当社は太陽光発電設備の設計施工も実施しています。お客様と電気設備全体を理解した上で、最適な再生可能エネルギーの活用、EVでの活用を提案することができると考えています。本日紹介した事例においても、立体駐車場の屋上に太陽光発電設備を導入し、再生可能エネルギーを優先的にEVに充電するといった仕組みを提案しています。
Q:庁舎の周辺に住宅が少ないですが、カーシェア案は効果的なのでしょうか。また利用促進にはどのようなことが必要ですか。
A:カーシェア事業自体で採算を取ろうとすると、稼働率が高い立地で事業を行うことが重要なポイントになります。庁舎の駐車場周辺の環境として、カーシェアを利用する方が多くないケースもあると思います。
カーシェア事業で採算を取ることではなく、住民にEVに触れてもらう機会を増やすことを目的にすることです。そもそも、公用車のEVを、自治体が休みのときに住民に貸し出すという取り組みですから、公用車として利用する平日日中で採算を取りながら、住民にも貸し出すという形で進められると思っています。
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