オペレーターによるオンライン窓口の代行サービス
窓口対応の人手不足に悩む自治体は多いようだ。美祢市では、オンラインオペレーターが問い合わせ対応を担うサービスを導入し、業務負荷の軽減と住民サービスの向上に取り組んでいるという。そのねらいを聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.30(2024年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社エスプールグローカル
総合支所の行政機能を維持するために本庁とつながる窓口サービスを導入。
平成20年に1市2町が合併した同市。本庁のほかに2つの総合支所を設置しているが、住民対応に課題があったと竹内さんは語る。「行政改革の観点で職員数の削減が進む中、支所の職員数も減り、支所機能が低下していました。支所で対応できない住民からの相談は、本庁職員が電話やファックスを通じて対応し、時には本庁まで足を運んでもらうことも。住民の利便性を考えると、本庁と支所の対応に差を生まない仕組みが必要でした」。
そこで検討したのが、本庁と支所をつなぐオンライン窓口システムの導入だという。令和5年9月にプロポーザルを経て、「エスプールグローカル」が提供するオペレーター付きの窓口代行サービス「みんなのス窓」が採用された。同サービスは、支所の窓口に設置されたタブレット端末をタッチすると、オペレーターとのビデオ通話が開始され、住民が口頭で相談できるもの。本庁職員の対応が必要な場合は転送される仕組みだ。「決め手はオペレーターの対応でした。1次対応をチャットボットにする案も検討しましたが、当市は高齢化率が高いこともあり、顔を見ながら人が対応できる点が安心感につながるのではと考えました」。
高齢者の電子申請も遠隔サポートでき、職員の窓口業務の負荷を軽減させる。
こうしたオンラインサービスの導入は、高齢者の利用ハードルが想定されるが、同市では大きな懸念はなかったそうだ。「以前、このサービスで同社にマイナンバーカードの申請業務を委託した際に、意外にも高齢者の皆さんがスムーズに利用していたのです。利用者からは、オペレーターの対応がよかったという声も届いていたため、不安はありませんでした。1次対応を任せることで、現場職員の問い合わせ対応の負荷がぐっと減らせます」と竹内さん。同社もオペレーター対応には力を入れており、なるべく1次対応で完結できるようにするために、自治体と密に連携する姿勢だという。
さらに、自治体から要望があれば、オペレーターは問い合わせ対応だけでなく、オンライン申請のサポートも可能だそう。オペレーターが氏名などの項目をヒアリングして入力まで行うため、住民の操作は不要。画面越しに会話をするだけで申請が完了し、“書かない窓口”の実現を目指せるという。
また、同サービスは“広域行政シェアード型”で提供され、対応する同社のオペレーターは複数の自治体で共有される。そのため、1自治体だけに人員を配置するよりも、コストを抑えて導入できる点もメリットだ。
遠隔窓口の対応業務の拡充で平等な住民サービスを提供。
同市支所のオンライン窓口は急ピッチで準備され、11月に稼働を開始した。まずは介護保険の手続きなどからスタートし、段階的に対応業務を拡充する予定だそう。「端末には手元の書類を映せる書画カメラが付いているので、遠隔でも書類を確認しながら対応できるようになり、案内がスムーズになりました。今後もオペレーターに任せられる業務が増えれば、職員の負荷がさらに減り、よりコアな業務に注力できるようになるはずです」。
また、今回の導入による思わぬ副産物もあったという。「組織改編や対応業務の多様化に伴い、本庁と支所の業務の線引きが不明確だったものが、今回を機に、業務分担を整理できました。今後は住民も職員も迷わずに済みます」。
こうした手応えをもとに、様々な業務を対応させ、住民サービスをさらに充実させていきたいと竹内さん。「住民票などの帳票発行案内をはじめ、福祉、子育てなど、適用範囲を拡大させていきたいです。本庁まで足を運んでもらう必要があった分野も対応できるようになれば、さらに住民の利便性を高められるのではと思います」。職員の負荷を軽減しつつ、どの地域も取り残さない住民サービスの実現を目指すための好例だといえるのではないだろうか。
山口県美祢市
デジタル推進課 課長
竹内 正夫(たけうち まさお)さん
マイナンバーカード申請業務の委託から始めた事例
導入自治体の担当者の声
山口県宇部市 市民環境部 マイナンバーカード推進課 課長
民谷 有弘(たみたに ありひろ)さん
人手不足の解消と対応業務の拡張性への期待
当市では、マイナンバーカードの申請業務に同サービスを活用しています。以前は、職員のみで新規申請の対応をしていましたが、繁忙期には来庁者の渋滞が発生。やむなく予約制にしたのですが、そうすると予約者数が限られて交付率が上がらないという新たな課題が浮上しました。また、職員の確保も困難な中で、同サービスを知り、活用することを決定しました。
導入後は、窓口に端末を2台設置し、オンラインオペレーターに対応を任せています。予約制は廃止して、住民は座って質問に答えるだけです。端末のカメラで写真撮影もできるので、その場でスムーズに申請が完了します。これまで1人当たり約30分の時間をかけていた負荷はほぼゼロになり、繁閑の差を気にする必要もなくなりました。
当市では、申請者の約4割が60歳以上ですが、不満の声は出ておらず、むしろ簡単にできると好評です。令和5年12月には市内の大型商業施設で出張申請受付も行うなど、オンラインならではの汎用性がどこまで活かせるか、実証中です。将来的に業務領域を広げられる拡張性に期待しています。今後も庁内のBPRの視点も含めて、より住民に役立つような活用を進めたいと考えています。