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自治体の未来を拓く「越境思考」 ワークスタイル&組織開発専門家・沢渡あまねさんに聞く、閉塞感の壊し方

多くの自治体を悩ますデジタル化の遅れ。コロナ禍の対応や職員の減少で事態は待ったなしの状況だが、打開策はあるのだろうか? 自治体や官公庁を含む400以上の組織でワークスタイル変革や組織開発を支援してきた、ワークスタイル&組織開発専門家の沢渡あまねさんに聞いた。

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Interview

沢渡 あまね(さわたり あまね)さん

作家・企業顧問/ワークスタイル&組織開発専門家。『組織変革Lab』主宰。あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/大手企業 人事部門顧問ほか。DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTT データなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の顧問活動・講演および執筆・メディア出演を行う。著書『「推される部署」になろう』『新時代を生き抜く越境思考』『職場の問題地図』他。


 

「発信」と「共感」が地域の未来を創る


やめることを決められない――沢渡さんは、これが自治体のデジタル化を阻む元凶だと語る。

地方自治体の職員数は、平成6年をピークに約48万人減少している。これには地方財政の健全化、定員や給与の適正化、民間委託の推進など様々な要因が絡むが、最近では、なり手の減少によって多くの自治体が人材確保に苦労している。限られた人員でより良い行政サービスを実現するには、デジタル活用が急務だ。

しかし、従来のやり方を変えようとすれば、古くからいる重鎮や同調圧力が抵抗勢力となって前に進めない実情もあるようだ。沢渡さんは、そこで苦しむ自治体をたくさん見てきたという。

「一番怖いのは、地域に諦めムードが漂い、新たな提案をする人が出てこなくなることです。ほかの自治体からも、“あそことは関わらない方がいい”と敬遠されるようになる。負のスパイラルに陥っていくのです」。

ここで重要なのは、自治体が自ら課題、あるいは創造したい未来を発信することだ。

「発信すると共感が生まれ、力を貸してくれる人が1人、2人と増えていくのです。シビックプライドといって、住民自身が地域コミュニティの一員であると自覚し、より誇れるまちにしていこうと考えるようになる。これがいつしか大きなうねりとなって地域のカルチャーを変えていくのです。住民と対話している自治体は、デジタル化が進んでいる印象です」。

※参照: 総務省「地方公共団体の総職員数の推移」

 

景色を変えよう 「越境思考」が変革の武器になる


変われる自治体と、いつまでも変われない自治体、その格差が広がりつつある。後者の多くは、自分たちの魅力を発信できていないか、そもそも気づいていない傾向があるという。「必要なのは、目先の成果だけを追求する“アリの目線”ではなく、物事の本質を見つめ、学びや変化を楽しみながら中長期的に組織や地域を育てていく“鳥の目線”です」。

単年度予算の原則に縛られ、近視眼的になりがちな自治体が“鳥の目線”を持つために、 沢渡さんは、既存の常識やしがらみに縛られず、自分なりの勝ちパターンを見出す「越境思考」を提案する。

「越境とは、景色を変えつづけることです。同じ場所で同じ仕事を同じ仲間と10年も続けていると、それが当たり前になって、自分たちの仕事がいかに非効率的か顧みる機会もなくなります。でも、働く場所や一緒に働く人を変えてみると、『あれ、この作業は自宅のほうがはかどるな』『この人の働き方を参考にすると効率がいいな』と、新たな気づきが生まれやすくなるのです」。

景色を変える方法は、主に2つあるという。1つは、地域を開放し、他地域の人との交流の場にすることだ。沢渡さん自身、自治体や地域企業と連携し、「#ダム際ワーキングプロジェクト」を展開している。ダムを愛してやまない沢渡さんが考えたワーケーションの一形態だが、ここに"場"づくりのヒントがある。

「静岡県浜松市の佐久間ダムのある佐久間町では、数カ月に一度、地域の社会人と高校生、他地域の社会人が集まって、キャリアや生き方を考えるキャリア教育『#ダム際ワーキング 』が開催されています。地域にいながら、様々なキャリアを歩んできた人たちと語り合い、高校生は働き方やキャリアを、社会人は高校生の考え方、価値観、ものの見方などを学ぶことができます。このような新たな学び合いの景色が、中山間地で生まれているのです」と沢渡さん。

「このような取り組みは、目先の成果にはつながらないかもしれませんが、中長期的な視点において意義ある文化的価値のあるものだと私は考えます。こうした文化的な取り組みが増えていけば、地域に新たな価値観が醸成されていくと思うんです。人を集めるのに、必ずしも観光地である必要はありません。大事なのは、人を惹きつけるコンテンツやストーリーを生み出せるか否か、そこでどんな人と出会い、どんなコトを生み出せるかです」。

2つ目は、自治体職員が自ら地域の外に出ていくことだ。他地域の取り組みに学ぶのはもちろん、実際に自治体同士が手を組んで地域課題を解決に導いた例もある。

「静岡県湖西市と愛知県豊橋市は、令和4年、水道の検針業務を共通化し、年間数千万円のコスト削減を実現したそうです。令和5年には愛知県豊川市も加わりました。こうした協力体制は、デジタルの領域でも可能だと思います。例えば、複数の市で同じクラウドサービスを使って業務インフラを共通化すれば、互いの運用負荷を減らし、分からないことは自治体を超えてすぐに相談できるようになります。同じインフラを使っていれば、同じ景色が見やすくなり、悩みも一人で(一自治体だけで)抱えなくて済むようにもなりますね。そうして浮いた時間を、未来を創る仕事や学習に充てることができるのです。その価値は計り知れません」。

 

利用者の多いサービスで、身近な業務から効率化


こうしたチャレンジを可能にするには、目先の仕事を効率化し、余白をつくる必要がある。これには、デジタルツールやクラウドサービスの活用が不可欠だろう。沢渡さんのオススメは、コミュニケーションや調整といった日常業務から汎用的なクラウドサービスに乗せていくことだという。

「シンプルかつ利用者の多いサービスを選ぶといいでしょう。そのほうが、導入の際につまずいた事例なども含め参考になるノウハウを集めやすいです。また、そのようなサービスは利用者(利用企業、利用自治体の担当者など)が集まるユーザーコミュニティのようなものもあります。ユーザ―コミュニティに参加すれば、ほかの利用者の悩みや解決策を知ることもでき、自分たちだけで悩みを抱え込まず、それこそ“越境”して乗り越えることもできます」。

一般に、これまでの自治体は横のつながりが薄く、自分たちの課題を公にすること自体、はばかられてきたところがある。だが、どの自治体もおかれた状況はほぼ同じだろう。「知見やノウハウを共有することで、互いに課題解決能力を養うことができ、失敗ですら血肉となっていくのです」。

 

現場からも変えられる


一気にデジタル化は難しいかもしれないが、現場から働きかけることもできる。沢渡さんは、「心の中で半分手を挙げてる人を見つけよう」と言う。自ら先陣を切ってデジタルツールを使うのは抵抗があるけれど、誰かが使うなら自分も、という人はきっといる。だからこそ、「この作業はデジタル化できると思う」「自分はこのツールを使いたい」と声を上げ、行動し、共感を呼び起こすことが重要だという。

沢渡さんは好事例として、デジタル・スマートシティを推進する静岡県浜松市を挙げる。

「デジタル・スマートシティ推進課の方からメールやFAXを飛び越えて、いきなり『チャットツールでやりましょう』と提案されたときは驚きました。コミュニケーション手段を最新のデジタルツールにすることで、自分たちだけではなく、仕事相手をもモダンなワークスタイルに変えてしまう意気込みを感じました。もちろん、喜んでお受けしました」。

 

地域課題を解決する「ファシリテーター」であれ


沢渡さんは、「文化度が高いところに人は集まる」と断言する。固定的な価値観に縛られてギスギスした自治体に、いい人は集まらないだろう。やりがい搾取ではなく、成長を実感し、心を動かされるものがある場所に、人は惹かれるのだ。

「自治体で働く皆さんは、地域課題を解決する“ファシリテーター”です。地域を開放し、何より自らを解放し、余白をもって未来を創っていく、そんなふうに楽しみながら働いてほしいと心から思っています」。

 

沢渡さんを驚かせた浜松市は、「デジタル・スマートシティ構想」を掲げ、デジタルを活用した持続可能なまちづくり、市民サービスの向上に取り組んでいる。一方で、職員の業務環境も大幅にデジタル化。業務ネットワークを行政専用の閉域網LGWAN(総合行政ネットワーク)からインターネット接続系にシフトし、オンライン会議やチャットでのコミュニケーションも浸透させている。

一部自治体では ChromeOS  の活用も始まった。安全で機動性の高い Chromebook は、フリーアドレスやテレワークはもちろん、越境にも欠かせないアイテムだという。

懸念は、紛失・盗難などのトラブルだが、ChromeOS なら遠隔でも端末の操作・管理が可能で、万が一紛失した場合は、遠隔で無効化が可能。クラウドをベースとした ChromeOS ならではの機能で、職員の手を煩わせることなく、セキュリティと利便性のバランスを最適化できる。

 

 

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