SPECIAL INTERVIEW
「すっだい(やりたい)ことを実現する町」をスローガンに、自治体初の住民票NFT※1発行や、地方初のAI謎解き観光など、話題を呼ぶ事業に次々と挑戦している西川町。町長としてけん引する菅野さんに話を聞いた。
※1 NFT=Non-Fungible Token(ノンファンジブルトークン、偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ)
※下記はジチタイワークスVol.28(2023年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
西川町
町長 菅野 大志(かんの だいし)さん
西川町出身、2001年財務省東北財務局入局。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部、同デジタル田園都市国家構想実現会議事務局などを経て2022年町長就任。公務員と金融機関職員が交流する「ちいきん会」の運営や会社経営など、パラレルワークに取り組む。
机上で考えるのではなく、対話で地域のニーズを捉える。
―町長就任の経緯を教えてください。
官僚時代は10年以上にわたって地方創生に携わってきました。その経験を故郷のために役立てるには、今が最後のチャンスだと思い、立候補を決めたのです。というのも、人口4,000人以下で高齢化率が45%を上まわる自治体は、その先に生産年齢人口が増加しないという現状があります。立候補当時の人口は4,700人強、高齢化率は46%を超えて県内でもトップクラス。そこで、令和5年度から8年後の生産年齢人口増加を目標に、様々なことに挑戦しています。
―就任後はデジ田交付金をはじめ、多くの補助金を獲得していますね。
令和5年度は総額4億6,412万円のデジ田交付金を得ています。地域課題を捉え、デジタルを解決手段とすれば獲得できますので、特別なことではありません。①町民との対話でニーズをつかみ、②民間の知恵を借りて実現可能性を確認し、③補助金を探して財源を確保する。そして、④事業を自分事にしてくれる町民を見つけて巻き込んでいく。この繰り返しです。②や③は、私が関わる会社や地域商社からサポーターやセカンドオピニオンを得て、実現可能性や実効性を議論しています。
“関わりしろ”をつくることで、事業を自分事にしてもらう。
―町民との対話会はテーマも多彩ですし、とても頻繁に開催していますね。
事業は“ニーズベース”でないと。求めている人がいるのかが何より重要です。そのためには町民に課題を話してもらわないと、ニーズなんて分かりません。本気で対話ができるように、“意味のある対話会を年間36回以上開催”と政策目標に入れていますし、令和5年3月には“対話に積極的な職員”だけが課長補佐以上になるという人事方針も決めました。
対話はコストだと考える人もいますが、そうでしょうか。この地域にどんな課題があるのか、どこにどんな人がいるのかを分かっていない、役所の人間関係しかなく、事を起こしたいときに人も集められない。そうなってはいけないんです。この考えを明確にするために、「予算6原則」を作成。現在はLINEでオープンチャットもやっていて、職員をはじめ町内外の約1,400人※2が登録し、日々活発にやりとりをしています。
ニーズから生まれた事業案は、企画段階からオープンに。事業期間を可能な限り5年として、町民や民間企業の“関わりしろ”をつくって進めていきます。それに補助金などの財源が確保できれば、事業として走りだしていく、という流れです。
※2 令和5年8月時点
▲予算6原則は町民にも公開されている。
―企画段階からオープンにしてまとめていくのは難しいことだと感じます。あえてオープン化するその意義は何ですか。
町民にオープンにすると、“自分事町民”が生まれます。自分が関わった事業だ、という思い入れをもってくれるんですね。そうするとさらに関わる人を連れてきてくれるし、実際にサービスを提供したときも確実に使ってもらえる。つまり、実効性のある持続可能な事業になるということです。そして外部にオープンにすると“自分事関係人口”が増えて、企画に磨きがかかり、効率化ができるんです。こうした事業の進め方が、最も成功すると思っています。
地方創生に求められるのは、積極性と人を巻き込む力。
―やりたいことがやれないと悩んでいる自治体職員も多くいます。そんな人はどうすればいいですか。
いろんな組織文化があるので一概にはいえませんが、この事業を“住民が”求めています、としっかりと伝えられるかが肝でしょう。独りよがりではなく、ニーズがあるものなのか、自分や行政が主語ではなく、住民が主語になっているのかが、最も大切です。
そのためにはやはり、対話で住民の声を拾うこと。地域課題が見えたら、何をするか、誰がするのか、予算があるのかを考え、他自治体の事例も調べて、関係者に話を聞いてみる。それらのステップを経て、自分の地域に合うものを、課題に沿ってアレンジするのが自治体職員の役割ではないでしょうか。その上で手段をデジタルにすれば、デジ田交付金の対象になりますよ。財源が確保できれば、きっとチャレンジさせてもらえます。
―最後に、これから自治体職員に求められることを教えてください。
地方創生は公平性ではなく“自治体間の競争”が前提。アイデア勝負の競争時代に求められるのは“個人の力”です。勝ち残るには、挑戦する意欲と官民の連携が必須。国の補助金の多くは官民連携が条件になっていますし、自治体だけで事業を進めても、良い結果には至らないことが多いでしょう。
さらにいえば、連携する力には職員個人の巻き込み力も含まれます。挑戦マインドや積極性で人々の共感を呼んで、どんどん町内外の人を巻き込んでいく力です。では巻き込むにはどうしたらいいかというと、一個人である職員に対して“ありがとう”と言ってくれる町民を増やすこと。一人ひとりの顔を見ながら、日々丁寧に対応することで、町民からもう一言を引き出せる、協力してもらえるようになるでしょう。そうなれば、結果は変わってきます。個人の信頼を得る人間力を、ぜひ養ってほしいと思います。
デジ田交付金採択事業の一例
AIで生活習慣改善!健康寿命延伸事業
Q:なぜ会話型AIに?
A:話し相手をつくるためです。
高齢者との対話で“話し相手がいない”という課題を発見。事業の計画当初は文字入力式のAIチャットボットを使う予定でしたが、会話型AIにしたいと、思いきってTYPE-Xの申請に挑戦。西川弁で話せるAIを開発中です!
▲AIになまりを教える町民をオーディションで選出。