現在、日本の水道事業は、人手不足や収入減、設備の老朽化など様々な課題を抱えています。迅速な対策が求められる中、重要なカギになるのが“経営改善”と“DX”です。
このセミナーでは、経営改善に精通した専門家と、全国で水道DXを進める企業の担当者が登壇。改革のヒントを共有しました。当日の様子をダイジェストでお送りします。
概要
□タイトル:持続可能な水道事業を実現するために~『経営改善×DX・BPR 』で叶える水道の未来~
□実施日:2023年5月12日(金)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:129人
□プログラム:
第1部:サステナブルな水道事業経営とは
第2部:水道スマートメーターのご提案とその実証実験事例のご紹介
第3部:水道料金システムの活用によるコストダウンと業務の効率化
サステナブルな水道事業経営とは
水道事業に求められるのは、健全かつ持続的な経営だ。そのためには何が必要なのか。
本セミナーの第1部では、EY新日本有限責任監査法人のマネージャーたちが現在の課題を一旦整理し、それを解消する手法について解説した。
<講師>
左:谷口 信介 氏
EY新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー
右:前橋 佑也 氏
EY新日本有限責任監査法人 マネージャー
谷口氏プロフィール
会計監査業務・IPO支援などに従事した後、2009年に大阪府監査委員事務局に退職出向、2010年に復職。以後、自治体を中心に、財政・ガバナンス・インフラ経営・官民連携・民営化などの組織再編・統合型リゾート(IR)など、幅広い分野のアドバイザリー業務を担当。
前橋氏プロフィール
民間企業・学校法人・公益法人・独立行政法人などの会計監査業務に従事した後、自治体の財政・ガバナンス・インフラ経営など、幅広い分野のアドバイザリー業務を担当。
水道事業の現状を踏まえたサステナブル経営の考察
EY新日本有限責任監査法人の谷口です。私からはまず、わが国の水道の立ち位置についてお話しします。
日本の水道は100年以上前から築かれており、豊富・安全・安価な水道ということで、世界的にも進んでいるといわれています。蛇口から直接水が飲めるわずか16カ国の1つで、漏水率も非常に低い。普及率も1980年代にはすでに9割を超えていました。この資産をどう残していくかということですが、経営的には環境が変わってきており、ハードルとなる事象が発生しています。
大別すると、収益減・コスト増・職員減の3つです。こうした中、まずはどういった経営改善が必要なのか検討しなくてはなりません。
上図は、総務省を中心に進められてきた経営改革の取り組みをまとめたものです。中央5つの赤文字が主な項目ですが、このような政策動向が出ている中で、経営に対する目線も変わってきています。
下図の3つが主要ポイントで、これらの視点を持った経営を進めていくことが本当の“サステナブル”につながっていくということです。
持続可能な未来の姿を描けているか
前述の視点を踏まえ、持続可能な将来像を具体的に描けているのか、という点を掘り下げます。ベースになるものとして、当監査法人と、水の安全保障戦略機構が2021年に共同研究を行い、人口減少や老朽化によって今後の水道料金がどうなるのかを推計したデータがあります。
結果は、2043年度までに約9割の自治体で平均約40%の料金値上げが必要というものでした。一定の前提をおいてもこうした数字が出てくることから、将来の経営は厳しいことが予測されます。改めて、総務省が要請している経営戦略が非常に重要だと分かるわけです。
こうした状況に対し我々は、自治体の経営戦略を独自の採点基準で評価するプロジェクトを実施し、現状の課題を改善するために、どういった視点で質を高めていくべきか考察しました。
表の中では、投資・財務・施策の3つに分けて記載しています。投資については、正確性においてまだ差があると感じています。財務についても、例えば企業債の目標を立てられていないなら、どこまで借りていいのか、目標数字を検討できているかといった点を整えた上で、どの時点で料金改定に着手するのかを考えていく必要がある。施策についても、DX・GXなど世にあるソリューションをどう取り入れていくのかが今後の課題になるはずです。
ここからは、料金とDX・BPRという点について、当監査法人の前橋につなぎます。
適正な料金収入の確保
令和2年度における上水道事業の料金回収率は、約半数の事業体が原価割れの状態です。この現実を見ると多くの団体で料金改定に向き合うべきタイミングがきていると考えられます。料金改定はあくまでも最終手段ですが、実際に値上げする場合、ポイントになるのが財政計画上の費用です。
この財政計画上の費用として積み上げたコストに、更新投資の余剰部分を見込む資産維持費や控除項目を加算・減算すると、総括原価という理論値が出ます。それに対し、現状の料金体系における将来の料金収入があり、その差分を比較すると必要な料金改定額が分かる、というイメージです。
上図は、料金とコストの関係性を示しています。コストを回収していくのは基本料金(固定収入)と、従量料金(変動収入)ですが、経営的な観点からいうと、固定費は基本料金から回収したい。ただ、水道事業では固定費が莫大にかかるためこれは現実的ではなく、一部を従量料金で回収しなければならない。この基本料金と従量料金のバランスというのが悩ましいポイントになります。
最近では、厳しい経営状況から基本料金(固定収入)比率を高める方向で料金改定を行う自治体が多いです。また、東京都水道局のように“区画別口径別料金体系”を採用して基本料金や従量料金の単価をより細やかに設定するような工夫を行っているところもあります。
DX・BPRの推進
水道事業では職員減の問題があり、その対策として近年脚光を浴びているのがDXです。DX=デジタル導入ではありません。デジタル導入をきっかけとして仕事のアウトプット向上をねらいに行くのがDXの本質。どういう技術を“どこに入れるか”という点がカギで、それを考えるためには、今の業務内容を把握・分析し、課題を知る必要があり、この業務見直しがBPRです。
BPRは、まず今のプロセスを知ることから始めます。分析をしてみると、その作業自体に意味がない、つまりやらなくていい、といったことも出てきます。特に職員の不満が多い部分を中心にプロセスを見直し、標準化して、それをマニュアルで可視化しておく。このマニュアルをたたき台にすればさらにブラッシュアップしやすくなります。
見直しのポイントとしては、同じような業務は一括でやる方が効率的だとか、外注にまわした方がいいとか、あるいはシステムを導入した方が効率的ではないかといった議論ができます。ぜひ実践して、経営改善につなげていきましょう。
水道スマートメーターのご提案とその実証実験事例のご紹介
水道事業の課題解決に不可欠なDX。中でも注目されるのが“水道スマートメーター”だが、これを取り入れたら問題が解決するわけではない。その理由と、より着手しやすい改善策について、ソリューションを提供する企業の担当者が語る。
<講師>
八木 宏資 氏
株式会社ウォーターデバイス 係長
プロフィール
水道スマートメーターの営業を担当。インフラプラスグループにて水道ビジネスに関わり15年の経験を持つ。2023年1月、新たにウォーターデバイスにて水道スマートメーターを担当し、各種テストや実証実験で培った経験や情報を皆さまにお伝えする。
現在の水道事業においてスマートメーターが果たす役割
私からは、“サステナブルな水道経営”を行っていく上で重要なポイントとなる検針業務について、弊社システムを使用した実証実験の結果をまじえて紹介します。
水道事業体における課題は、先ほど谷口さんから話があった通り、収益減、コスト増、職員減の3つです。また、自然災害によるリスクもあります。これらの課題に向けた対策としてDXがあり、そこで活躍するのが水道スマートメーターです。では、水道スマートメーターがDX化の中でどのような役割を果たすのか、簡単に説明します。
これまで、多くの水道事業体がハンディターミナルなどを利用し、人の手で検針業務を行ってきました。検針した情報はデジタル化し、水道料金や資産管理などに利用されています。こうしたデジタル化の業務そのものを新たな通信技術を用いて変革させ、より効率化できるのが水道スマートメーターです。
AMIとAMRの違いについて
水道スマートメーターは、人が現地に行くことなく、検針そのものを完全自動化することを目指しています。メーターで自動的に収集された検針データは、無線通信やインターネットを介してクラウドサーバーへ送信されます。より細かな使用実態を把握するため、毎月・毎日・毎時といった情報を収集することも可能です。また、検針員が情報を入力する際に起きる誤入力などのヒューマンエラーも防止できます。
この完全自動検針方式はAMI(Advanced Metering Infrastructure)と呼ばれており、水道事業体のDX化において重要です。しかし、こうした完全自動検針にはまだ多くの課題が残っています。
例えばコストの問題です。水道スマートメーターの価格は非常に高価で、それに加えて月々の通信費用やアカウント費用などのランニングコストが必要。また、無線通信環境の課題もあります。AMIは現地の検針業務をしなくて良いことが前提なので、全てのメーターが通信できなければなりません。しかし現在の通信環境は全エリアをカバーできておらず、さらに将来の建設などによる通信環境の変化・悪化も懸念材料です。
そこで我々は、価格帯を抑え、安定した通信環境を提供する方法を模索し、実証実験を重ねた結果、AMIにたどり着くステップとして、無線通信による検針値読み取りのAMR(Automated Meter Reading)方式が有効だと考えました。以下、当社の水道スマートメーターでAMR検針業務を行う際の検針モードを説明します。
自動計測は地域の特性に応じてモードの使い分けで対応!
1つ目の検針モードが“グループ・バイ”です。この方法は、検針したい地域やマンションをあらかじめグルーピングしておき、無線通信をする場所を決め、1度の通信作業でそのグループ全体の検針値を取得するというもの。集合住宅や住宅密集地においてその機能を発揮します。
2つ目は“ドライブ・バイ”です。受信機を携帯しながら自動車やバイクに乗って住宅街を通過し、検針データを収集します。いわば検針者自身が電波塔になるようなもので、通信状況が悪い状況下でも柔軟に対応できます。
当社では、山間部の豪雪地域で実証実験を行いました。その結果、最大積雪2mという状況でも通信することができ、無事に検針値を取得できています。また、市街地でもドライブ・バイモードでの実証実験を行い、同様の結果が得られました。このようにデジタルツールを活用することで、水道DXの実現へ一気に近づくことが可能になります。
DXの最終目的は、デジタル化によって、より高度な配水管理、水資源の有効活用を実現することです。その管理には、水量を従来よりも簡単かつ詳細に収集できる水道スマートメーターが必要だと我々は考えています。今後、いずれは完全自動検針のAMIに移行していくと思われますが、今の通信技術で目視検針から一足飛びにAMIに移行することは困難です。だからこそ当社はAMIのファーストステップとしてAMR方式を提案します。
AMRで業務効率化を実現するための各ソリューションについて
ちなみに当社のAMRシステムは「ReMARS」という商品で、これに活用する水道スマートメーターの本体も数種類用意しています。樹脂製ボディで寒冷地でも優れた耐久性を持つメーターです。その他、資格が不要な無線通信親機の「RF-Master」や、無線子機「MeSynapse」もラインアップしています。
また、Webブラウザベースの水道メーター一括検針と集中管理ソリューション「Temetra」もあり、グループ・バイ、ドライブ・バイなどの導入をサポートしています。AMRはもちろん、従来の目視検針データの収集・保存・分析をすることも可能です。
水道スマートメーターを導入して検針効率を向上したい、あるいは現行システムや上位システムの連携が気になる、導入をするために一度評価をしたいといった要望があれば、ぜひご相談ください。
水道料金システムの活用によるコストダウンと業務の効率化
セミナーの第3部は、水道料金システムがテーマ。DXを加速し経営改善に貢献するシステムとはどのようなものか、そして現場はどう変わるのか。ウォーターリンクスの河瀬氏が、水道事業の将来あるべき姿もまじえて解説してくれた。
<講師>
河瀬 博信 氏
株式会社ウォーターリンクス 課長
プロフィール
前職では大手ガイドブック出版社のサブマネージャーとして多くの観光プロモーションを手がける。2020年ウォーターリンクスに入社し、水道事業体向けにクラウド型の業務システムや水道スマートメーターの導入提案を推進中。
水道事業が陥りがちな負のスパイラルから抜け出すには?
ウォーターリンクスは、水道料金システムのSaaS事業を中核としたシステム会社で、料金システムの開発・運営・保守を柱に、付随する各種システムやサービスの開発・運営を行っています。このパートでは、水道料金システムの活用によるコストダウンと業務の効率化について説明します。
これまでのパートでお伝えいただいた通り、現在、水道事業体の多くは、人口減少による減収、収入減による管路更新などの遅れ、それに起因した漏水などの発生、漏水の増加による有収率の低下、さらなる減収という負のスパイラルに陥っているといわれています。この連鎖を断ち切る対策として、水道事業全体の経営改善が必要。当社からは、システムや業務改善、水道DXの推進といったソフト面の提案ができます。ソフト面の改革が進めば、下図のように負のスパイラルを逆転し、最終的に水道収入が増加する正のスパイラルに好転させることが可能になります。
水道収入が増加すれば、さらなる合理化やサービスの創出を行うことができるようになり、より経営を改善することにつながります。具体的には、料金システムと外部ツールとの連携による合理化や省人化、コスト削減、ビッグデータの活用による住民サービスの向上や新サービスの創出による収入アップなどです。これらの相乗効果で一気に経営改善が加速、サステナブルな事業運営が可能になります。
料金システムの“割り勘”効果でデジタル化にかかるコストを低減
まず、水道DXの効果的な手法の1つ、“料金システムの共同利用”について説明します。現在、料金システムは事業体ごとに購入、運用している例がほとんどですが、これを共同利用に切り替えることで大きなコストダウンが見込めます。例えば、クラウド型で提供される当社の水道料金システムは、事業体ごとのシステム構築は最小限で済むためイニシャルコストの低減が可能で、物理サーバーも不要。保守もリモート対応が可能です。
このシステムは、クラウドとマルチテナント方式での提供が特徴。マルチテナント方式とは、システム環境を複数の事業体で共同利用することで、割り勘効果を前倒しで提供するものです。セキュリティに関しては閉域での提供となっているので安全性も確保。この方式での水道料金システム提供については、今年当社が特許出願し、日本水道新聞にも掲載されました。
また、当社料金システムのもう1つの特徴が“BIツール”です。様々なデータを分析・可視化して経営や業務に活用でき、システム内のデータであれば基本的に何でも抽出可能です。簡単操作で取り込み抽出が可能なので、これまで膨大なデータを複数のエクセルファイルでまとめていた作業を素早く簡単に行えます。
BIツールの標準機能の一例として、水道料金の改定を行う際に活用できる簡易料金シミュレーション機能があります。システム画面で各口径別の料金改定額を入力し、シミュレーションをクリックするだけで料金改定のシミュレーションが可能です。
DXを加速させるカギは、業務フローの標準化に基づいたシステム導入
次に、独自業務フローの見直しによる業務標準化ついて。業務の標準化を行うことでシステムのカスタマイズが減り、費用の削減につながります。また、標準的な業務フローへの見直しは、将来の広域化に向けた準備としても有効です。当社料金システムはそうした標準機能を網羅しており、通常の窓口、検針、調定、収納業務のほか、滞納管理の機能なども備えています。
これらを最大限使いこなすためには、まず業務フローの標準化の取り組みが必要になります。しかし事業体にとっては、どのように標準化していけばいいのか分からない場合もあると思われます。そこで当社では、エンジニアによる業務の標準化・効率化に向けたサポートも実施。こうした取り組みがおのずと水道DXとなり、経営改善につながるはずです。
水道DXを進めていく中で、IoT機器と料金システムの連携や、料金システムと水道ポータルサイト、Eメールなどのツールとの連携を通して、検針から料金システム、料金のお知らせをシームレスに連携させ、業務にかかるコストを削減することが可能になります。さらにビッグデータの利活用を通じた新サービスの創出を行うことで、新たな収入源の確保なども目指せます。
ちなみに当社では、各社のスマートメーターのクラウドサービスを一括で水道料金システムに連携させるシステムを開発中です。これを活用することで、個々の連携システムの構築コストが低減可能。ポータルサイトへの連携なども可能にし、料金通知の課題解消にも貢献します。当社HPにも掲載しているので、ぜひご一読ください。
今後も水道DXを推進する様々なシステムの開発を進めていくので、「こんなことが実現できたら」といった声があれば、ぜひお寄せいただければと思います。
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