ジチタイワークス

福岡県飯塚市

住民票や所得証明書の電子交付に挑んだ飯塚市の手応えと成果。

ブロックチェーン技術を活用した公的証明書の電子交付

情報関連産業の集積地として、IT関連を中心とした産学官連携が盛んな飯塚市。将来を見据え、ブロックチェーン技術を基盤とした公的証明書電子交付の社会実験を実施。先進的な取り組みの成果について話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.27(2023年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

行政手続きのデジタル化を目指し産学官で公的証明書の電子交付に挑戦。

市内外の4社※1と公民連携協定を結び、令和2年度と4年度に公的証明書電子交付の社会実験に取り組んだ同市。住民の利便性向上や職員の負担軽減などを目指し、“証明書の申請、交付、受け取り、指定先への提出まで、紙を使わずにデジタルで完結させる”という挑戦だ。電子データの交付には信頼性の担保が欠かせないことから、高いセキュリティ能力を備えたブロックチェーン技術の活用を決めたという。

まず産学振興担当が事務局となり、行政内部の組織化から始め、サポートを情報管理課が担った。9課にまたがる関係部署で、44種類の証明書の中から電子交付の可能性があるものを探っていったという。「交付数が多く、住民との関わりが深いという点から、『住民票の写し』と『所得証明書』の2種類に決定しました」と大隈さん。その後、ブロックチェーン技術やシステムの有効性・安全性などを客観的に評価するため、産学官連携の実証事業推進委員会を設置。徹底的なリスク評価を行い、様々な可能性について検討していった。

「“スマートフォンを落としてしまったら?” “飯塚市がもつ住民情報がさらされたら?”など、リスクシナリオも細かく想定しました」。その結果をもとに、外部審査員からなる「飯塚市個人情報保護審議会」で、納得するまで議論を重ね、“職員や連携企業の従業員を対象に行う”という条件下で社会実験の承認を得たという。「住民情報システムの証明書ということもあり、当初は庁内で不安の声も出ました。しかし実証事業推進委員会から“国のセキュリティポリシーに準拠している”という客観的な評価を受け、社会実験への反対はありませんでした」。

※1 chaintope、ハウインターナショナル、カグヤ、Gcomホールディングスの4社

アプリ内で改ざんなどを自動検証しデータの安全性と信頼性を確保する。

まずは令和2年度に、“住民がスマートフォンを使って住民票の写しの電子データを取得し、勤務先にメールで提出する”という仮想シナリオのもと、社会実験を行った。「住民票の写しの電子交付には法規制があることから、ダミーデータで行いました。そのため、本人特定は専用の二次元コードを事前に渡すことに。技術的な検証も十分に重ね、安全性と信頼性が確保できました」と福田さん。

令和4年度に実施した2度目の社会実験は、所得証明書の実データで行い、本人特定にマイナンバーカードを活用。ネットワーク環境については、住民情報システムからLGWANを経由してインターネット環境へ接続する仕組みを構築し、セキュリティを担保した。「対象者は専用アプリをダウンロード後、マイナンバーカードを使って事前登録をします。その後、暗号化された所得証明書のデータを取得し、指定された提出先にメールで送信する、という流れです」。

セキュリティの担保という点からポイントとなったのは、“認証局”と呼ばれる検証システムの存在だ。「取得した証明書データは、認証局により、改ざんやなりすましなどがないことを自動で確認・検証した上で再度暗号化し、提出先に送信できます。さらに提出先でも、市が電子交付したものであることを確認できる仕組みにより、データの真正性の確保ができました」。

また、「全職員を対象に実施したアンケートでは、本運用された場合の利用について約83%の支持を受けました」。2度の社会実験を通して、証明書の電子交付における信頼性が確保でき、一定の成果が得られたという認識だ。

今回の取り組みから広がる電子交付の可能性に期待。

社会実験後、デジタル田園都市国家構想交付金の活用を視野に入れ、実用化へ向けて動いていた同市。しかし、申請条件をわずかに満たすことができず、今回は見送ることにしたという。「惜しい気持ちはありますが、電子申請やシステム標準化など、優先すべきことはほかにもあります。次を見据えて動いていくつもりです」と大隈さん。

社会実装は実現できなかったが、産学官でブロックチェーン技術を活用した取り組みを行い、一定の成果が出たという点で大いに意義があったという。「この取り組みのポイントは、ブロックチェーン技術のトラストサービス※2の活用により、電子データに信頼性をもたせることで、“出力せずとも電子データだけで完結できた”ところにあります。データの改ざんやなりすましがないことを証明できたので、今後、証明書を電子交付する際にブロックチェーン技術が有効だということが分かりました」。

現在は、法律により住民票の電子交付は認められていないが、基幹業務システムの標準化によって行政文書電子化の動きが広がり、将来的に規制が緩和される可能性はある。今回のスキームを活用して、例えば健康保険証や納税証明書など、様々な証明書の電子交付に応用できると同市では考えている。「この取り組みを参考に、多くの自治体で電子交付の可能性を広げてもらえたら」と、期待を込めて語ってくれた。

※2 電子データの信頼性を確保し、有効性を担保する基盤として、送信元のなりすましやデータの改ざんを防止する仕組み

 

左:経済部 経済政策推進室 産学振興担当
主幹 大隈 友加(おおくま ともか)さん
右:総務部 情報管理課
課長 福田 大輔(ふくだ だいすけ)さん

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