兵庫県が推進する官民連携プロジェクトにより、聴覚に障害がある方とのコミュニケーション支援ツールの実証実験を行っている三木市。プロジェクトを実施した県と、同市の現場担当者に、マッチングの経緯や取り組み内容について話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.26(2023年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社時空テクノロジーズ
先進技術をもつ民間企業の力を借りて自治体が抱える課題の解決を目指す。
地域の課題を抱えるものの、自治体だけの力で解決するのは難しいケースもある。そうした中、同県は令和4年4月から「ひょうごTECHイノベーションプロジェクト」を実施。県内自治体と、先進技術をもつ民間企業とが協力し、様々な分野で実証実験を行うプロジェクトを開始した。
「少子高齢化やコロナ禍など、時代の変化とともに社会問題は複雑化しています。従来の手法では対応が難しい課題に対して、民間の技術力やノウハウを活かしながら、協働開発を行い、解決モデルを創出するのがねらいです」と同県SDGs推進課の松岡さん。
まずは、県内の自治体に対し課題を募集すると、約1カ月の間に、各市町から計54件が寄せられたという。それに対する解決策をもつ民間企業を公募したところ、40社から計47件の提案があった。その中から、書類審査や面談を通じて、将来的に横展開ができそうかなどの観点で、県が協働開発に進む6件を選定。その一つが、三木市と「時空テクノロジーズ」が協働で取り組む「難聴者とのコミュニケーション支援」だった。
“協働開発”ができる期待感から三木市とのマッチングが決定した。
聴覚に障害のある方は、話者の口の動きから言葉を読み取っていることが多く、マスクで見えないことは、コミュニケーション上の大きな障壁となる。補聴器を使えば聞き取りやすくなる難聴者にとって、飛沫感染防止用のパネルは声を遮る厄介な存在。コロナ禍によって、新たな課題が浮き彫りになったそう。
「窓口の職員が大きな声を出さないと会話できなくなり、周囲に個人情報が伝わってしまうおそれがありました」と同市障害福祉課の稲垣さん。「要約筆記や手話通訳のサポートを行っていますが、人員に限りがあり全ての窓口に対応するのは困難です」。
これに対して同社は、AI音声文字起こしサービス「ログミーツ」の機能を活用することを提案。職員が窓口で話す言葉が、リアルタイムで文字起こしされ、聴覚に障害のある方が読んで理解できる。そんな新たなツールを協働で開発するという内容が合致し、同社とのマッチングが決定したという。
実証期間内で終わらせずに完成度の高いサービスを目指す。
プロジェクトの実証期間は、約6カ月。その中で一定の成果を出すため、月に1~2回の頻度でミーティングを実施。「実証を開始すると、想定していなかった問題がいくつも浮上しました。しかし、同社が迅速に対応してくれたので、短い期間で完成度が上がりました」と同市縁結び課の岡本さん。
例えば、“聴覚に障害があることを周囲に知られたくない”という意見から、文字を表示する端末を専用の窓口に置かず、簡単に持ち運びができるタブレットに変更。さらに、従来のモバイル端末と同様、誰でも操作しやすい画面で、LAN環境に左右されない携帯電話回線によるデータ通信デバイスに。また、高齢の難聴者に配慮して、文字表示速度の調整も行った。
「雑音の多い窓口では声の聞き取り精度が落ちるという相談をしたところ、実際に来庁して確認してくれました」と清水さん。これに対しては、内蔵マイク以外に、集音性や指向性の異なる有線・無線2種類のマイクを準備し、対応したという。実証期間は終了したが、より完成度の高いサービスを目指し、トライアルを継続中だ。
「一緒に取り組むことによって、自治体が進めるべきDXとは何なのか実感できました。実は、ログミーツの話題は以前から耳にしており、インバウンド促進や職員の働き方改革への応用もできそうだと考えていました」と岡本さんは語る。県も今回の実証モデルを、同様の課題を抱える自治体に横展開することを検討しているという。県も三木市もこうした取り組みを通じて、誰一人取り残さない社会の実現を目指している。
兵庫県
企画部 SDGs推進課 公民連携班
松岡 耕平(まつおか こうへい)さん
官民連携で協働開発した導入のメリット「ログミーツfor福祉」の強み
三木市と意見交換を行い、開発した「ログミーツf or 福祉」。現場での使いやすさを重視し、完成度を高めている。
●誰でもすぐに使用できるインターフェース
●文字の表示速度は、ニーズに応じて調節可能
●携帯回線を使用しているため、LAN環境に左右されない
導入のメリット
1.住民とのコミュニケーションの選択肢に
ひと口に聴覚に障害があるといっても、程度やコミュニケーションの方法は人によって異なる。選択肢を増やすことで、住民が来庁しやすい窓口を構築することが可能に。
2.専門人材の人的リソース不足を補える
要約筆記者や手話通訳者は、専門的な技術の習得が必要なため、人的リソースに限界がある。さらに、対応できる人数にも限りがあるため、その不足を補う一つの策になり得る。
協働開発のエピソード
実証中、他課から試用の反応を集めると、話すスピードの速さや聞き取りにくい話し方に気づくなど、職員自身が配慮の仕方を学べたという声がありました。庁内で連携しながら、つくっている感覚があり、挑戦して良かったなと思います。
実証実験を行った自治体
三木市
総合政策部 縁結び課 地方創生係
左:主幹 岡本 浩志(おかもと ひろし)さん
右:主幹兼係長 清水 暁彦(しみず あきひこ)さん
健康福祉部 障害福祉課 障害者支援係
中央:設置手話通訳者 稲垣 美香(いながき みか)さん
三木市コメント
当市では、平成27年に「三木市共に生きる手話言語条例」を制定。誰一人取り残さない社会のため、民間企業と一緒に挑戦したいと、参画しました。
三木市の展望
実証の成果を展開していき窓口以外の活用も視野に
例えば、学校で活用をすれば、教師の口の動きが見える一番前の席ではなく、ほかの席を選べるようになったり、公民館などで活用すれば、気軽に足を運べるようになったりするかもしれない。誰もが安心して住める社会を目指して、引き続き取り組みを行うという。
自治体からの相談に誠実に向き合うのがモットー
会議などの文字起こしだけではなく、福祉分野にも応用できるようになったログミーツ。“課題と誠実に向き合うこと”が同社のモットーだという。同様の課題を感じている自治体は、気軽に問い合わせを。
お問い合わせ
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