豊富な森林資源を活かし、バイオマスエネルギーを起点に持続可能なまちづくりに取り組む下川町。まちの存続のための行動が、結果的にSDGsの理念に重なったという。その歩みや、SDGs先進自治体としての捉え方を探る。
※下記はジチタイワークスVol.26(2023年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
生き残りをかけた取り組みが結果的にはSDGsの推進に。
面積の約9割が森林に覆われ、林業を主要産業とする同町。しかし木材の輸入自由化などの影響で林業が衰退し、まちは過疎化の一途をたどっていた。そんな状況のまちを存続させるべく、平成10年に「産業クラスター研究会」が発足。町民や職員、有識者などで話し合いを重ね、平成13年には「経済・社会・環境の調和による持続可能な地域づくり」というまちのコンセプトが誕生した。
そのための取り組みの代表例が“木質バイオマスエネルギーの利用”だ。地域資源である森林を余すことなく使うため、林地残材や加工物の端材などを活用するボイラーを10基導入。そこで生じる熱を学校や役場、公営温泉など30の公共施設に供給している。その結果、灯油換算で年間約3,800万円の燃料費と、二酸化炭素の排出量を削減。さらに、削減益の一部は保育料の補助など子育て支援策に充当。
「林業は長い年月を要する産業で、次世代へ森林を受け継ぐ必要があります。そのため、当町には“子どもこそがまちの宝”という考えが浸透しています。また、幼稚園、小・中学校、高校で一貫した森林環境教育を実施するなど、文化の継承にも力を入れています」と清水さん。加えて、その熱を用いてシイタケの菌床栽培を行い、新たな雇用も創出しているという。
これらの取り組みが、SDGsの理念と合致。同町の総合計画の基本構想に反映し、政策へ取り入れている。今では、SDGs先進自治体として注目を集め、平成29年には「第1回ジャパンSDGsアワード」で内閣総理大臣賞を受賞した。「20年以上も前から、持続可能な地域社会の実現を目指していたので、まちづくりにSDGsを取り入れるのは自然なことでした。SDGsという言葉が登場した当初は横文字で、分かりにくいなどのハードルはもちろんありましたが、これまでの取り組みと考えが合致していたこと、外部から評価されたことなどが理解の後押しになったのではないかと思います」。
住民も巻き込んで計画を推進しSDGs認知度が95%まで上昇!
SDGsの浸透には、平成29年に町民とともに策定した「2030年における下川町のありたい姿(下川版SDGs)」も一役買っているという。国連が定める目標と照らし合わせながら、自分たちのまちづくりの取り組みを改めて確認。そこから、“誰ひとり取り残されないまち” “子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち”など、町民が自分事にできる言葉で表現し直した7つのゴールが設定された。
「ゴールの達成には“なぜ必要なのか”を地域全体で理解しなければなりません。そのために、スタンプラリーでSDGsを学べるイベントを実施したり、解説冊子を配布したり、まちの将来像を共有してきました」。それらが功を奏し、令和元年に町内のイベントでSDGs認知度調査を行ったところ、全体の95%が言葉を知っていると回答するほど、まちに浸透していたという。
「課をまたいだ横断的な取り組みを実施するには、同じ未来を描けていることが重要だと思います。当町では、まちの将来像が“下川版SDGs”として共通認識になっていることが強み。だからこそ、同じ目標に向かって方向性をすり合わせることができ、俯瞰的に物事を見て議論もしやすいのだと思います」。
下川版SDGsでは、目標の進捗状況を管理するための仕組みづくりも行われている。有識者や町民からなる下川町SDGs評議委員会と、10人の町民からなる下川町SDGs推進町民会議を設置し、年に1回は計画の進捗を確認。足りない部分をどう補うべきか、町民の意見をもとに、指標の見直しが行われている。
▲地域内の“循環”をテーマにした町民主催イベント。
地域の理想像を実現することが目的で、SDGsは手段でしかない。
先進的にSDGsの推進に取り組む同町でも、あらゆる業務で活用の余地が残っていると清水さんは語る。職員一人ひとりが知識をブラッシュアップし続ける必要があるため、全職員を対象に、最低でも年に1回は有識者を招いた研修を実施しているそう。「現在も積極的にSDGsを業務に活かす方法を共有しています。そうすることで、こうやって使えばいいんだと気づくきっかけを増やせるのではないかと思います」。
同町では、取り組まなければならない課題ではなく、ありたい姿をかなえる“手段”の一つとしてSDGsを捉えているという。「政策を統合的にみて、バックキャスティング思考※でまちづくりに取り組むツールとして活用できます。目標と照らし合わせ、今までの取り組みの強みや弱点を見つけ、補っていく物差しやチェックリストとしても有効です。また、SDGsを共通言語にすることで、取り組みが分かりやすく外部に伝えられ、まちのブランディングに役立つだけでなく、新たなコネクションづくりにもつながります。それぞれの地域に合わせて活用することが、持続可能な地域社会の実現につながるのではないでしょうか」。
※ありたい姿を設定し、未来から逆算して現在は何をすべきかを考える思考方法
政策推進課
清水 瞳(しみず ひとみ)さん