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公共FMと公民連携の『いま』と『これから』~答えなき現代で目指す、公共施設経営の次なるフェーズとは~

“公民連携”とひと口にいっても、そのあり方は千差万別。実りの多い取り組みだと分かってはいても“何から手をつけるべきか”と悩む職員も多いことだろう。

今回は、富山県射水市と岩手県紫波町の公民連携に関する事例を共有。全国でも知名度の高い取り組み、からそのメリットを探った。当日の様子をダイジェストで紹介する。

概要

□タイトル:公共FMと公民連携の『いま』と『これから』
~答えなき現代で目指す、公共施設経営の次なるフェーズとは~
□実施日:2023年2月9日(木)
□会場:クロスベイ新湊(射水市)
□プログラム:
 第1部 射水市の公共FM・PPPに関する取り組み
 第2部 公民連携でオガールができるまで、そしてその先へ
 第3部 トークセッション・質疑応答


射水市の公共FM・PPPに関する取り組み

今回のセミナーの舞台となった射水市。施設と地域の再生事業や、ネーミングライツの導入、包括管理など、独自の路線を進んでいる同市の取り組みについて、担当職員が実現までのステップ、得られた成果などについて語ってくれた。

<講師>

射水市 財務管理部 資産経営課 公共施設マネジメント推進班長
佐野 泰寛(さの やすひろ)さん

プロフィール

老朽化した施設の民間売却・リニューアル・ネーミングライツの導入や公共施設個別施設計画の策定を経て現職。庁舎・学校など105施設への包括管理業務委託の導入や、市内の全公共施設・都市公園・未利用市有地へ民間提案制度を導入。現在、施設所管課とともに12提案の事業化に向け詳細協議中。


私からは、射水市の取り組みについて紹介します。テーマは「公共施設の総量削減」と「公共施設の包括管理」です。

公共施設の総量削減

下図は、当市の総合管理計画の抜粋です。人口は、今後約30年間で18%の減少が見込まれています。一方で必要な更新費用は、毎年約5億円多く必要という推計です。

 

これに対し当市で掲げた目標は、40年間で延べ床面積の20%に相当する、7万8,000㎡を削減するというものです。年間約2,000㎡を減らしていく計算になりますが、総合管理計画がスタートしてからの6年間で削減できた面積は5㎡。これが現実です。

では、なぜ総量削減が進まないのか。要因は大きく2つあって、最近建て替えをした施設が大型化していることと、新しい施設を整備したこと。また、減少しない要因は3つあり、大型施設の再編時期が次年度以降に設定されていること、地域住民の反対があること、そして、所管課の職員がどう進めていいか分からないということです。ただ、公共施設の廃止が全てうまくいっていないわけではなく、比較的スムーズに進んだケースもあります。そんな事例の一つが「足洗老人福祉センター」に関する取り組みです。

この施設は、60歳以上であれば1日200円で温泉に入れたので、年間4万人近くが利用していました。ただ老朽化も進んでおり、維持管理費用の面では課題の多い施設でした。

また、隣には大きな都市公園があるのですが、若干治安が悪い上、雨の日はぬかるんで誰も利用者がいない。そんな施設と公園でしたが、民間事業者が高齢者に限らず誰でも入れる温泉を整備し、今はすてきな空間に生まれ変わっています。公園にはドッグランや、そり滑りができるスロープなどが整備され、休日はとてもにぎわっています。

この事例では、民間事業者が温泉整備に投資して、地域も協力し、また行政も民間投資に呼応してドッグランなどを整備した結果、エリアの雰囲気が大きく変わってきました。まさに施設の廃止がきっかけになって、まちづくりが始まってきているといえます。こうした事例を一つでも多く積み上げていくことが大切です。

ただし、職員にいきなり“公民連携で公共施設の見直しに取り組んでください”とお願いしても、多くの職員は公民連携の知識が豊富なわけではなく、それぞれ通常業務を抱えている。これを減らさないと新しい仕事を進めていくことはできないのではないか、という思いがありました。そこで当市が導入したのが、公共施設の包括管理です。

射水市における包括管理

まず、当市が包括管理を導入した理由は資料の通りです。包括管理では多くの専門人材が必要になるので、建物管理の専門企業である「日本管財」に業務を委託しています。

対象は、庁舎やコミュニティセンター、保育園、小・中学校など105施設。対象業務は設備などの保守点検を中心に32業務です。以前は105の施設でこうした業務を行っていたので、866業務、契約数は352件あったのですが、これが一本化できました。同社は全体マネジメントだけを担当するので、地元事業者の仕事が減ることはありません。

また、当市では包括管理業務に1件130万以下の小規模修繕を業務に含めています。全体の仕組みは、下図のようになっています。

メリットとしては、職員の業務時間が削減でき、施設情報の一元化により効果的な修繕予算の配分が可能になることです。市内事業者は、窓口の一本化や、契約・請求事務の軽減、安定した仕事量の確保といったメリットが得られます。そして市民には、定期的に巡回点検が実施されるので安全性の向上が見込まれます。
さらに、職員の業務時間の削減は市民サービスの向上につながり、市内受注率の向上によって地域経済が活性化するというメリットもあります。

また、上図中央に包括管理事業者の“付加価値提案”とありますが、これについて説明します。

まずは内製化修繕の実施です。これは包括事業者が市内で部品を調達し、材料費のみで修繕を実施するというもので、軽微な不具合は巡回点検時に手持ちの工具ですぐに直します。各施設から大変喜ばれており、何より安全性の向上につながっています。ちなみに、修繕件数は包括導入前と比べて9カ月で3倍以上になりましたが、費用は65%以下に抑えられています。

次に、徹底したペーパーレス化です。各施設からの修繕依頼は全てWEB上で完結。スピーディな意思決定が可能で、修繕のデータも蓄積されていくので、将来的にはそれをもとに修繕計画を立てることも可能になります。

その次が非常に大きなポイントで、従来は4割以下だった地元受注率について、具体的な目標を設定し、その実現を目指すというものです。包括導入からまだ1年も経っていませんが、昨年12月の段階で、すでに導入前の水準を6.4ポイント上まわっています。

最後に、当市の公共施設が抱える課題解決への支援ということで、例えば公民連携への取り組み方や、脱炭素化、中期修繕計画の策定などの課題について一緒に考え、様々なソリューションを提示してくれます。こうしたこともあり、当市では包括管理事業者を“公共FMの推進に向けた非常に重要なパートナー”だと位置付けています。

公民連携でオガールができるまで、そしてその先へ

全国的にも有名になった、紫波町の複合施設「オガール紫波」。人を集め、お金を生み、成長を続けるこのプロジェクトに直接携わり続けた担当職員が登壇し、舞台裏などを語ってくれた。

<講師>

紫波町 企画総務部 企画課長
鎌田 千市(かまだ せんいち)さん

プロフィール

公共施設整備と民間の経済開発の両立を目指した紫波中央駅前都市整備事業「オガールプロジェクト」を担当して16年。リノベーションまちづくりでは、令和4年7月に旧庁舎敷地を活用した民間施設「ひづめゆ」がオープン。住民との対話を重視しながら民間主導型公民連携を進めている。現在、国土交通省PPPサポーターを務める。

オガールプロジェクトについて

私からは、“オガール”という施設のことを中心に話をします。下図の通り、オガールプロジェクトに関する取り組み全体を「公民連携10の整理」と名付けまして、これを1つずつ解説する形で進めたいと思います。

1.トップの強い意志

当町のトップは、前町長、現町長ともに農家出身で、会社も経営し、議員から町長になりました。お2人は、これまでなかった価値観や手法を受け入れる寛容性が高く、やるといったらやる。そうして、“進めるぞ”と公民連携元年を宣言し、“手法は任せた”という感じでした。民間の経営感覚を行政に取り入れたからこそ、オガールプロジェクトが前に進んだのだと思います。

2.3つの行政課題

サウンディングをする際、民間事業者からは“役所は何をやりたいの?”と問われます。まずは行政課題を整理した上で、プロジェクトを進めなくてはなりません。

オガールの場合、まず28.5億円で買った町内の一等地をなんとかしたい。老朽化している庁舎の建て替えをしなければならない。そして、社会増でファミリー世帯が転入しているのに図書館がない。この3つの課題をなんとかしたいという思いでした。

上の写真は初めてデザイン会議委員の皆さんが、紫波中央駅前に来てくれた日のものです。この駅前の草原を活用し、市場原理にもとづく施設整備を図る必要がありました。民間事業者からアイデアをもらうだけではダメで、プロジェクトを通じて複数地域における経営課題の解決策を考えなければなりません。

3.民間キーパーソンの存在

こうした官民複合開発では、民間キーパーソンの存在が重要です。本プロジェクトの場合、岡崎 正信(おかざき まさのぶ)さんがキーパーソンとなり、当時「オガール紫波」の事業部長を務めていただきました。岡崎さんは「産業と雇用をつくる」と言い、まちにお金がないことを承知の上で、“志とそろばんの両立”をモットーとしていました。民間がきちんと稼ぎ、まちに再投資をする。パブリックマインドをもつ民間事業者はとても頼りになります。

ほかの自治体で“うちのまちには岡崎さんがいないから”と言われることもありますが、覚悟や情報をもつ民間事業者はきっといるはずです。

4.市民の声・市場の判断

平成19年、地域住民、商工会・商店会・JAなどの皆さんにお願いし、PPP推進協議会を設置しました。町長が先頭に立って、地域のコミュニティなどを対象に、2年間で約100回の意見交換を実施。岡崎さんには企業立地研究会を委ね、投資したい事業者を募ってもらいました。そうして集まった40社の皆さんが“本当にここに市場性はあるのか”と議論を交わしました。役所に求められるのはプロセスを設計することであり、仕組みや制度をつくるプロとして、決められるところから決めていくとプロジェクトは進むと考えます。

5.公民連携室の設置

オガールの担当窓口として、公民連携室を設置。ここは、庁内に横串を刺す役割を務めています。町長、副町長との調整をはじめ、施設整備をどう進めていくかを決めながら議会にも丁寧に説明、公民連携基本計画を議決してもらいました。こうして、図書館と庁舎の整備を目指し、役所が使わない土地を民間に使ってもらうことについて意思決定がされました。

6.民間に委ねる覚悟

“民間に委ねる”というのは、丸投げを意味するものでなく、民間投資の誘導を委ね、その上で一緒にまちをつくっていくということです。オガール紫波は当初、町長が社長を務め、まちの100%出資による自治体出資法人として設立。岡崎さんの営業努力により投資してもらえるテナントも集まりました。その1年後には、社長が民間人となり、民間企業から増資してもらうことで第三セクターへと切り替えたのです。

7.デザイン会議の存在

本会議は、異なる分野から一線級の方々に委員となってもらい、意見をもち寄り議論。グランドデザインを描き、まちの目指すイメージを共有しながら実現性を高めていきました。委員を住民に委任していません。それは、これまで見てきた世界や経験が違い、専門家とは言語が違うからです。まちにとって何が必要なのか、何がしたいかは住民から意見を聞き、どうデザインしていくかはプロの手に任せるという考え方でした。

8.民間の自由度を高める

オガール内にある緑の大通り「オガール広場」に関しては、住民参加型の担い手づくりワークショップとして、対話を重ねました。使うプロは住民だからです。出されたアイデアが、マルシェや居酒屋といったコンテンツに活かされました。

また、フットボールセンターとバレーボール専用アリーナは民間投資による事業です。行政が決め過ぎず民間ができること、つまり自由度を高めること。それと同時に、デザインで規制しつつ、出来上がった後は、エリアの価値が高まる状態を創造すること。そうするとリピーターが増え、次のプロジェクトに対する民間投資意欲が高まり、テナント賃料も上がっていくことを経験しました。

9.ハコと一緒にコトを起こす

情報交流館の1階では、土日にイベントを開催しています。ハコをきっかけにしてコトを起こす。公共空間も稼がなければ維持できなくなる、という考え方です。ハコをつくるだけがPPPではありません。まちを再編して、運営しながら価値を高めていくのがPPPだと思います。オガール紫波には、不動産価値を高め、市場をつくることを委ねています。民間企業の皆さんには、紫波というローカルな市場でチャレンジしてもらいました。まちの思いは“住みたい・住み続けたいまちをつくりたい”です。

10.共通言語と空気感をつくる

自治体職員に求められるのは“構想力”といわれています。また、市民参加や民間事業者とも対話をしなくてはならないので、コミュニケーション能力も重要。そして事務能力、法務能力も大事です。民間とどのようにパートナーシップを組んでいくか。公共空間を開放し、自分事として事業に取り組んでくれる仲間を見つけ、共通言語にしていく。民間と手を携え、どうやって新しい価値をつくっていくか。これが今求められているのだと思います。

紫波町の“NEXTプロジェクト”

当町では、“今ある資源を活かす”というテーマで開発事業を進めています。

旧庁舎敷地については、検討委員会を設置しステークホルダーの意見をヒアリング。サウンディングを経て、公募プロポーザルによって提案を受けました。こうして出来上がったのが「ひづめゆ」です。“街をかまし(かき混ぜ)、紫波をわかす”というコンセプトにより、温浴施設や醸造所、レストラン、コンビニのある複合施設が誕生しました。

現在、町資産経営課では7つの小学校跡地の活用方針として、人材育成と産業振興を掲げ、事業化を目指しています。

1つは、酒のまちブランディング構想の段階から民間対話を重ね、公募により「(仮称)酒の学校」の優先交渉権者を決定しています。また、トライアル・サウンディングで、バスケットボールBリーグ「岩手ビッグブルズ」を引退した方がスクールを実施し、これを経て現在は、実施方針の策定をしています。

さらに、オガールが「吉本興業」さんと「吉本・オガール地方創生アカデミー」という会社をつくり、まちも出資して進めています。こうしたいくつかのプロジェクトが同時に進行中であり、いずれもオガールでの経験をベースにしたプロセスを踏みつつ、住民理解を得ながら民間投資の誘導を実践しています。

トークセッション・質疑応答

ここからは、FMの分野ではおなじみの「まちみらい」寺沢さんが加わって、トークセッションを展開。参加者からの質問をもとに、講演では聞き足りなかった部分などを引き出してもらった。

続きは日本管財(株)が運営する「公共FMサロン」にて。加入ご希望の方は下記問い合わせ先よりご登録ください。Facebookページでも公共施設マネジメントの「今」を発信中です。

参加者募集中|全国各地の職員が集まる「公共FMサロン」

日本管財(株)では、2021年2月より自治体職員限定のオンラインサロン「公共FMサロン」を開設しています。会員数は122自治体、延べ150人(令和5年2月2日時点)。公共FMに関わる人が、自らのまちの活動や問題、熱意などを共有し、実践知を学び合うことで、FMの実践へとつなげていくサロンです。複数のパートナー専門家やサロン会員の他自治体職員と気軽に意見交換ができる場となっています。参加は無料です。皆さまのご参加をお待ちしています!

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E-mail:eigyo_market@nkanzai.co.jp
担当:営業統轄本部マーケティング推進部 恒川・島田

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