ジチタイワークス

時に緻密に、時に大胆に、そして楽しく! 富山市が進めた公共FMの全容を公開。

総務省が「公共施設等総合管理計画」の策定要請を出したのは平成26年。全国の自治体で取り組みが進んでいるが、“公共FMは難しい”といった職員の声が聞かれる。この勉強会では、「まちみらい」の寺沢さんを講師に招き、専門家から見たこれまでの8年間を振り返る。

さらに、富山市で公共FM事業に従事してきた職員も登壇し、実績から反省点までを含めた“現場のリアル”について語ってもらった。

概要

□タイトル:自治体職員のための公共資産活用勉強会
□実施日:2023年1月11日(水)
□開催場所:武蔵野クリーンセンター
□プログラム:
 第1部:「ザ・公共施設マネジメント⇒まちへ広がる」
 第2部:「富山市の公共FM・PPPに関する取り組み」~実務担当者の試行錯誤・経験・反省から~
 第3部:質疑応答~登壇者からのメッセージ


「ザ・公共施設マネジメント⇒まちへ広がる」

第1部では、全国で公共FMのサポート活動をしている「まちみらい」の寺沢さんが登壇。公共施設が抱える課題をゼロから解説しつつ、自身が携わった事例紹介も交え、公共FMの本来あるべき姿について分かりやすく語ってくれた。

<講師>

合同会社まちみらい
寺沢 弘樹(てらさわ ひろき)さん

プロフィール

2001年流山市役所入庁。建築・企画・教育委員会・都市計画部門を経て財産活用課で公共FMを推進。初代FM推進室長。2016年に流山市役所を退職し、同年、日本PFI・PPP協会業務部長に。常総市などのアドバイザー、湖西市などの包括施設管理業務を支援。2021年から現職。徳島市・久米島町などのアドバイザーを務める。主な著書に『PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本』(学陽書房)。

地域のヒト・モノ・コトを活かしビジョンが伴った公共FMを進める。

私からは、いわゆる“ザ・公共施設マネジメント”は限界だということや、まちは広い視点で見ることが必要だ、といった話をしたいと思います。今までのザ・公共施設マネジメントは、財政が厳しいのでハコを減らそうの一辺倒でした。しかし、そもそも公共施設を取り巻く環境で一番の問題は“まちが衰退すること”であって、しかもそれは自分たちが引き起こしている、ということです。

ならばそこから脱却するしかありません。そのために必要なポイントは①負債を資産化していく②まちを再編していく③まちの新陳代謝を促していく、の3つ。そして、求められるのは“覚悟と決断と行動”。これが、それぞれのまちにかかっています。

 

 

また、まちが衰退する要因には人口減少がありますが、問題なのは絶対数が減ることではなく、減る順番です。まず、そのまちに失望した動ける人から消えていきます。具体的には、お金を持っている人、ほかのまちでもビジネスができる人、まだ若くてゼロからやり直しができる人。こうしたまちを支えてくれるはずの人から消えていき、税収が減って、さらにハコも減らさなければならないという負のスパイラルができてしまうんです。

そこで大事なのは“まち全体として考える”ということ。まちを俯瞰すると、山や海や工場、商店街など様々なものがあって、地域のコンテンツがあってプレイヤーがいます。行政がもつ資産は小さな点でしかありません。これからはこうしたヒトやモノ・コトとリンクして、面白いプロジェクトをたくさん用意し、それらを有機的につなげていく。これしか生き残る道はないと思います。10の公共施設を減らさなくてはならないなら、100の面白いプロジェクトを仕かけていくんです。

さらに、今までの公共施設の整備というのは、とにかくハコを整備するまで全精力を傾けて、できた瞬間がゴールとなり、大きくガチガチにつくった後には軌道修正ができないというものでした。竣工後は即負債です。そうならないためには、ビジョンとコンテンツをきちんとつくった上で、初期投資できる額を用意する。ハコの規模は小さくして、その後の状況に応じて追加投資ができるよう整えておくということです。

これらを踏まえ、今日はいくつかのまちを紹介したいと思います。

事例1:神奈川県藤沢市の市民会館建て替え

まずは藤沢市です。ここでは市民会館の建て替えと併せ、周辺にある公共施設を「奥田公園」というエリアに集約していくことを考えています。ただ、それだけならザ・公共マネジメントですが、同市ではワーキンググループを組んで、このエリアをどうしていきたいのかを考え抜きました。例えば図書館と公園とアーティストの創作活動、それらをかけ合わせたときに、どんなコンテンツが生まれるのか、そうしたことを一つひとつ考えながらつくり上げてきたんです。

  

私がサポートに入る前、彼らがつくっていた基本方針は非常に抽象的で総花的なものでした。それをもう一度つくり直していく中で、どんなビジョンを掲げ、どういうふうにやっていくのかということを、15日間徹底的に話し合いました。こうして彼らがつくったビジョンは「ふじさわMIRAIファーム」。ターゲットは、何かにチャレンジしたい市民。そしてそこに関わる色々な公共施設をシームレスにつないでいくというものです。サウンディングも始まり、彼らは必死になって民間事業者へ営業にまわっています。

事例2:大阪市の天王寺公園の事例

次は大阪市の「天王寺公園」です。ここは「あべのハルカス」の前にある公園で、「通天閣」が建っている新世界の近くに位置しています。一昔前は、朝からおじさんたちが酒盛りしているようなエリアでしたが、そこを「近畿日本鉄道」が同市と連携して再生しています。

敷地内にはコンビニや飲食店、フットサルコート、ドッグラン、外国人向けゲストハウス、芝生広場などがあって、ボルダリング施設やアスレチックなどもできました。いわゆる都会のオアシスとなり、年間3,000万円が市の収入になっています。これらができたことでエリアの価値が上がり、周辺地域には「星野リゾート」も進出しています。

 

事例3:山口県山陽小野田市の商工センター建て替え

最後に山口県の山陽小野田市。ここでは商工センターの建て替えをしたいと考えたのですが、財源がない。ただし土地や建物はある。ならば市は土地を提供するので、民間事業者にはそれに見合ったお金を出資してもらう、という手法を選びました。そして両者で第三セクターを組み、商工センターの建て替えはもちろん、色々なプロジェクトを一緒にやっていこうと考えたわけです。

こうした手法は「LABV(官民協働開発事業体)」と呼ばれ、通常なら50対50の出資だといわれていますが、この土地は評価額が1億円程度。それに対して民間事業者が用意する額が15~20億円だそうです。ここに可能性が見えてきます。行政としてキャッシュで準備できなかったとしても、まちの一部を‟出資”することによって、その何十倍・何百倍ものお金を調達することができ、思ってもみなかったようなプロジェクトができるかもしれないのです。

 

これからの時代、旧来型のまちづくりをやっていると、まちはつぶれていきます。一方で、小さなプロジェクトでも、本物の地域コンテンツ・プレイヤーと連携したプロジェクトが有機的にリンクしてきたときに、まちは再生していく。皮肉なようですが。地域コンテンツというソフトがないとハードを整えても意味がありません。そして、それには実践が全て、ということです。私もこうした取り組みを色々なまちでやっていきたいと考えているので、興味がある方はいつでもお声かけください。

「富山市の公共FM・PPPに関する取り組み」~実務担当者の試行錯誤・経験・反省から~ 

第2部は富山市の事例を紹介。同市が本格的に公共FM・PPPに着手した当時、取り組みの基盤づくりから携わった職員が、推進のステップや様々な工夫などについて、現場で起きたことを振り返りながら共有してくれた。

<講師>

廣木 美徳(ひろき みのり)さん
富山市 農林水産部 農政企画課、国土交通省PPPサポーター

プロフィール

2007年富山市役所入庁。2015年から行政経営課(旧・行政管理課)にて行政組織や行政改革、FM業務などに携わる。公共施設マネジメントアクションプランや地域別実行計画の策定、地域プラットフォームの設立・運営、PPP・PFI庁内検討体制の構築、各種PPP・PFI事業のサポート、トライアル・サウンディングの実施、民間提案にかかる審査プロセス構築などを経て、2020年より現職。現在、公設地方卸売市場再整備事業に携わる。国土交通省PPPサポーター。


私は、公共FM・PPPに決まったフォーマットはないと考えています。なので、本日紹介する当市の取り組みも、‟こういったやり方をしている自治体もあるんだ”という視点で捉えて、自分たちのまちで、公共FM・PPPを進める際の参考にしていただければと思います。私は現在、農政企画課に所属しているのですが、平成27年度から5年間、行政経営課(旧・行政管理課)で行革や公共FM・PPPの業務に携わっていました。そうした経験を踏まえ、まず当市における公共施設マネジメントの紹介から始めます。

下記は、公共FMの基本方針です。総合管理計画にもとづき、公共施設の総量削減、PPP戦略の推進、新たな財源の確保という3本柱を掲げて、取り組みを少しずつ進めています。

 

ただ、総合管理計画はあくまでも市としての基本方針なので、これを行動に移していくために具体的な進め方をアクションプランに落とし込み、これと平行してPPPの推進に向けて、地域や庁内の体制を構築してきました。各段階での取り組みを詳しく紹介します。

公共FMの基盤となった「公共施設マネジメントシステム」とは。

初期フェーズで着手したのは、「公共施設マネジメントシステム」です。当時1,077の施設がありました。多すぎて状況が分からなくなっていたので、まずは市有財産の各情報を把握するための公共施設マネジメントシステムを構築しました。特徴として、単に施設数や面積といったハード面の情報を把握するのではなく、人件費も含めた事業運営費や維持管理費も反映することで、固定資産台帳から減価償却費をひも付けて、フルコストとネットコストを把握する仕組みになっています。こうしたコストや利用状況は担当課が入力するので、施設の状況を担当課職員が把握するきっかけにもなります。

同システムによって施設の状況把握と分析、課題認識が終わったら、次のステップとして市の決意表明と、それを実行に移すためのルールづくりを行いました。富山はよく真面目で勤勉な県民性といわれるのですが、真面目がゆえに“できることからやろう”ができません。そうした意味でも、みんなを納得させるやり方を考えるところからスタートしました。このルールは、見直し検討プロセスにも色濃く反映されています。

 

各プロセスを簡単に紹介すると、まず課題のある施設の抽出です。公共施設マネジメントシステムで得られるデータから、財務・供給・品質の3つの観点でポートフォリオ分析を行います。また、アクションプランの各期でテーマを設定し、直近で重点的に取り組みを推進する施設というものも抽出条件としています。

次に、抽出された施設ごとに施設類型別の基準と、圏域別基準にもとづいて、機能を維持するか否かを決定します。地域・地区を対象圏域とする施設は、その地域の実情やニーズを踏まえて方針を決め、地域別実行計画が策定された地域では、この計画を優先することとしています。

方針が決まったら最後に再編整備方策を検討・決定し、アクションプランに明示します。この時点では方策が1つとは限らず、“ここまでが市の方針”と示した後に、利用者・関係者と調整しながら絞っていきます。

住民参加を促しつつ、プランの手順を踏んで進める公共FM。

ルールに従って見直しの方向性を示したら、次は実行段階です。課題があるとされた施設の見直しに関する実行進捗管理は、公共FM戦略チームが行います。チームを中心に関係団体と具体的な調整をしながら、一定のめど・合意を経て実行していくという流れです。

 

次に、地域別実行計画と、そこから派生するリーディングプロジェクトについて紹介します。地域別実行計画は、支所や地域体育館のように地域を対象圏域とする施設の方向性を定めるものです。ワークショップや広報紙などを用いて住民参加を図り、住民の意向やまちづくりの課題を十分に反映させた計画づくりを心がけています。こうしたステップを経て、最終的に市として地域別実行計画を決定・策定するという流れになっています。

これらのワークショップで議論した再配置案を、地域別実行計画の中でリーディングプロジェクトと位置づけ、民間事業者のサウンディングや事業内容の精査を経てPFI事業として事業化しています。下記は実際のリーディングプロジェクトの概要です。

旧町役場が担っていた様々な機能を複合化・集約化することにしていて、まだ使える施設は改修して利用、大きな文化会館は解体し、跡地に新たに複合施設を整備。旧庁舎は解体して、その跡地には民間資金で多世代交流というコンセプトに資する事業を自由に提案してもらう、というものです。実際に4グループから提案があり、その中から選定されたものがこの「おおさわのふらり」で、今春オープンに向けて整備を進めています。

委員会との二人三脚で進めた持続可能なまちづくり。

ここまでは施設再編・総量削減に関する取り組みでしたが、ここからはPPP推進のために行ってきたことを紹介します。

当市ではPPP・PFI事例が全国的に少ない頃から官民連携に積極的に取り組んできました。その背景には、地域課題を行政だけでは解決できないため、このままでは30年後に生き残れなくなるという危機感がありました。PPP・PFIは効率化の面ばかり強調されがちですが、本来は地域の抱える課題の中に新しい事業を見出して、それをビジネスにつなげてお金を呼び込み、地域が成長することで持続可能なまちにしていくためのものです。今後の自治体経営を考えるとPPPの推進は必要不可欠で、それは当市でも同様です。

ただ、実際に官民連携を進めようとすると課題が多く、当初はPPPといっても“どうすればいいのか分からない”という声が大半でした。そこで課題解決に向けた取り組みとして、職員研修・勉強会はもちろん、PPPの検討過程のルール化、PPP事業手法検討委員会の設置、行政経営課が庁内連携のハブとして各事業担当課をサポートするなど、庁内でPPPを推進する仕組みづくりを行いました。

PPP事業手法検討委員会は、よくあるセレモニー的なものではなく、真剣勝負の委員会で、会議の際には各委員からかなり厳しいコメントをいただき、職員も打ちのめされながら事業を進めてきました。ちなみに、寺沢さんも委員に入っています。この委員会で出された意見は、市の政策調整会議でも重要視されるものになっています。これらの取り組みの結果、特別職・幹部だけでなく、職員レベルでも意識が変わってきており、今ではPPPが当たり前という風潮になりました。

また、いざ事業を行おうと思っても民間事業者の参画可能性が不透明だとか、民間側もPPPに関する知識・ノウハウが不足しているといった課題もありました。これらの解決に向けた取り組みとして「とやま地域プラットフォーム」を設立し、PPPに関する勉強の場や、官民・民民の出会いの場として活用しています。

こうした取り組みの効果が少しずつあらわれてきており、実際に地域企業の参画が増え、プラットフォーム参加者間でも連携が生まれています。また、当市がPPPに積極的だということが広まった効果なのか、民間事業者からの提案も活発になってきました。市が意図していない事業について、PFI法にもとづく民間提案がされることもあったので、企業にも市の姿勢が広まってきているのかなと感じています。


ここからは、廣木さんが経験した官民連携での失敗や反省点について、普段は公開しないような細部を語っていただきました。



続きは日本管財(株)が運営する「公共FMサロン」にて。加入ご希望の方は下記問い合わせ先よりご登録ください。Facebookページでも公共施設マネジメントの「今」を発信中です。

参加者募集中|全国各地の職員が集まる「公共FMサロン」

日本管財(株)では、2021年2月より自治体職員限定のオンラインサロン「公共FMサロン」を開設しています。会員数は122自治体、延べ150人(令和5年2月2日時点)。公共FMに関わる人が、自らのまちの活動や問題、熱意などを共有し、実践知を学び合うことで、FMの実践へとつなげていくサロンです。複数のパートナー専門家やサロン会員の他自治体職員と気軽に意見交換ができる場となっています。参加は無料です。皆さまのご参加をお待ちしています!

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