ジチタイワークス

絵本「せんせいって」を制作・出版。この絵本を通して、学校の先生の魅力を伝えたかった。

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● 投稿者(自治体職員)プロフィール

テーマジャンル :教育
ペンネーム : 松下隼司さん
所属部門 : 大阪市 小学校教員

 

絵本「せんせいって」
作/まつしたじゅんじ 絵/夏 きこ

▼出版情報
https://miraipub.jp/books/14373/

▼動く絵本

※この絵本の印税や原稿料をもらうことは一切お断りしています。
 

先生である私が、絵本「せんせいって」を創作したきっかけ・理由。

この絵本は、もっと子どもたちとゆっくり向き合いたい「先生」と、もっと先生と一緒に遊びたい「子供たち」との、少し悲しくて、心あたたまるお話です。

最近よく“学校の先生はブラックな職業”だといわれています。以前、担任した子どもに「先生ってブラックなん?」と尋ねられたことがあります。そのときは、びっくりして、「何で知ってるん?」と聞き返してしまいました。「“ブラック”という表現をなぜ知っているの?」という意味で聞いたのですが、子どもにとっては「先生の仕事がブラックだと、どうして知っているの?」と受け取ってしまったかもしれません…。

数年前から、メディアなどでも教職の長時間労働や過酷な労働環境が取り上げられることが増えました。このため“先生になろう”と志す人の数も減っています。こんな状況だからこそ、「絵本を通して先生という職業の魅力を伝えたい」と考えました。また、「少しでも、さまざまな業種で働く人々の活力になれれば……」という思いがありました。

ところで、教職の大変さが広く伝わっているにもかかわらず、「将来なりたい職業ランキング」で、学校の先生が上位に入るのはなぜでしょう?不思議だと思いませんか。実は、子どもたちにとって先生は、家族の次に「身近な大人」であり、関わりの深い職業。全国の先生たちが、毎日、子どもたちと楽しく授業をしたり、遊んだりして、教育に愛情と情熱を注いでいるから、「将来、先生になりたい!」と感じるのではないでしょうか。

 

先生という職業を正直に伝えるために。絵本づくりで工夫したこと、こだわったこと。

先生という職業を正直に伝えたくて、きれい事で取り繕うのではなく、良い面・悪い面の両方を正直に表現しました。勤務開始時刻よりも子どもが早く学校に来ることや、給食を3分ぐらいで早食いすること、休憩時間がないことも描きました。先生だって忘れ物をしたり、ぼ~っとしたりすることがあるのに、自分のことは棚に上げて、つい子どもを感情的に叱ってしまうことも描きました。

絵本のラストに、先生の仕事を「にじいろ」と表現する部分があります。制作当初は、「にじいろ」でなく「ゴールド」としていました。しかし、「いくらなんでもゴールドは言いすぎやろ?嘘っぽいな」と思い、「にじいろ」に。虹色って、日本では7色で知れ渡っていますが、国によって捉え方も見え方も違います。別に黒色があってもいいし、金色があってもいい。読者それぞれの虹色を感じてもらえたらいいなと思い、「にじいろ」という表現にしました。

また、「絵本」なので、文章よりも絵で楽しんでもらいたいと思いました。私は高校時代、美術部でした。大学も美術科で絵画を専攻しており、絵を描くのが得意でした。ただ、物語を絵本にする画力はなかったのです。そこで、文章のイメージに合う絵を描ける方を探すことにしました。かわいらしく、だけど、悲しげな雰囲気もある絵を描いてくださる方を……。

めちゃくちゃ調べて、「夏きこ」さんと出会いました!独特なキャラクターとタッチで、イメージにピッタリ。連絡をして絵を描いてほしいとお願いすると、快く引き受けてくれました。しかも、私と同じ関西人。小学生のお子さんがいて、PTAの副会長もしていて、学校にも詳しかった!「運命的な出会いだな~」と感じました。

加えて、教師の働き方や気持ちを、さまざまな動物に例えて表現。ページをめくるたびに、動物に扮装した先生たちが登場するように工夫しました。さらに、絵本の中の文字にもこだわり、絵の邪魔にならないような文字の大きさや太さにしました。

 

出版後の反響について。「ぼくはどこ?」とまっすぐな目で聞いてくる子どもたち。

実は、出版当初、子どもたちには絵本のことを言えませんでした。なんとなく恥ずかしくて。しかし、しばらくして、ある子どもが教室で私の絵本を読んでいました。大変びっくりしましたが、たぶん、お家の方が気づいて購入してくれたのだと思います。これがきっかけとなり、絵本の出版が伝わったのですが、子どもたちがつぶらな瞳で「ぼくは、(絵本の中の)どこ(に登場するの)?」と聞いてくるようになりました。

制作には約2年かかったので、本当は今、担任している子どもたちは登場しないのですが、あまりにもまっすぐな目で聞いてくるので「ここだよ。」と答えました。すると、「私は?」「ぼくは?」と聞いてくる子どもがどんどん増えました。こういったやりとりも楽しく、「先生になってよかった」と思える瞬間です。

テレビや新聞、ラジオなどでも取り上げてもらい、少しずつ絵本のことを知ってもらえるようになりました。同僚のベテランの先生が共感してくださり、教職を志しているお子さんのために購入してくださったのもとてもうれしかったです!

 

全国の先生たちへ。ぜひ、「先生になりたい」と思ったときのことを思い出すきっかけに。

こんなにも毎日、笑ったり怒ったり、感情豊かに働ける職業はありません。さまざまな可能性をもつ子どもたちと、一緒に過ごせることは幸せだと思います。

もちろん、体力的にも精神的にもしんどいことはたくさんあります。しかし、先生になった皆さん、それぞれに「先生になりたい」と感じた理由があると思います。また、「先生をやっていて楽しい」と感じた瞬間があるはずです。もちろん、無理は禁物ですが、辛いときにこの絵本を読み、志望動機や数々の楽しい出来事を思い出すきっかけになれば、とてもうれしく思います。

 

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