
栃木県の北部に位置する那須塩原市。豊かな自然と温泉で知られる同市では、JTとJTBが発足した観光地の活性化を応援する「〇ゴコチプロジェクト」に賛同し、令和3~4年にかけて「環境美化プロジェクト」と「魅力発信プロジェクト」を実施した。
“まちかど”にある喫煙所へ新たな価値=ひと工夫を加えることで、喫煙所を通じた地域課題の解決へとつなげるユニークな取り組みについて、立役者である那須塩原市長の渡辺 美知太郎(わたなべ みちたろう)さん、JT栃木支社長の近藤 亮介さん、JTB第五事業部長の西田 高宏さんに話を聞いた。
[提供]日本たばこ産業株式会社
コロナで落ち込む観光地を盛り上げるためにプロジェクトが発足。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、日本中の観光地や観光業界が大きなダメージを受けた。令和3年に国際的な認証団体「グリーン・デスティネーションズ」から「世界の持続可能な観光地TOP100選」に選出された栃木県の那須塩原市も、例外ではない。
那須塩原市長の渡辺さんは「観光は当市の強みである農業などの1次産業、飲食店や物産店まで巻き込む一大産業。私は常々『観光は総合行政である』と話してきました。しかしコロナ前から観光客が徐々に減少傾向にあり、さらにコロナで激減し、どうにか盛り上げたいと考えていました」とここ数年の状況を振り返る。
渡辺 美知太郎(わたなべ みちたろう)さん
那須塩原市長
コロナ禍の令和2年、JTとJTBは「〇ゴコチプロジェクト」を発足した。喫煙所等を活用した地域課題の解決に取り組むJTが、コロナの影響を受けた観光地を応援するためJTBとタッグを組んで始めた同プロジェクト。観光客はもちろん、そのまちに住む人や関わる人もさらにまちを好きになるような取り組みを目指している。
JTの近藤さんは「弊社では以前から地域の清掃活動を展開してきました。今回は喫煙所を核に観光地の魅力を発信し、かつ美しい環境でお迎えすることがおもてなしとなって、観光地のお役に立てればという思いで取り組みを企画しました」、JTBの西田さんは「我々は観光にとどまらず持続可能な強い地域づくりをサポートすることが使命だと、コロナ禍に改めて認識しました。地域に貢献するため、JTさんと両者の強みを活かしたプロジェクトを始めました」と説明する。
左:西田 高宏(にしだ たかひろ)さん
株式会社JTB ビジネスソリューション事業本部 第五事業部 事業部長
右:近藤 亮介(こんどう りょうすけ)さん
日本たばこ産業株式会社(JT) 栃木支社 支社長
同プロジェクトを知った渡辺さんは「ちょうど市では観光PRを強化したいと考えているところで、すごく面白そうだと感じました。喫煙所をつくるにあたっては行政的に様々な配慮が必要だが、大事な問題。そこに光を当ててもらったことは意義があり、喫煙所をつくるなら“那須ブランド”として発信できるものにしたい」と趣旨に賛同し、「那須塩原市 〇ゴコチプロジェクト」がスタートした。
喫煙所をフックとした「環境美化」と「魅力発信」で、PR動画も制作。
同プロジェクトを3者で本格的に始動したのは、令和3年秋のこと。テーマは「環境美化プロジェクト」と「魅力発信プロジェクト」の2つに定めた。栃木県では令和4年10月、42年ぶりとなる国体「いちご一会とちぎ国体」「いちご一会とちぎ大会」の開催が決まっており、多くの人が那須塩原市を訪れる国体前にプロジェクトを終えることを目標とした。「市民のみなさまのおもてなしの心の醸成」や「栃木県全体の活性化」にもつなげたいという思いがあったからだ。スケジュールはタイトだったが、3者で力を合わせて無事に完了した。
まちをきれいにする「環境美化プロジェクト」としては、令和4年9月に国体実行委員が開催したイベントに参加し、清掃活動を実施。JR那須塩原駅西口広場と、観光地のもみじ谷大吊橋には喫煙所を整備した。喫煙所は木製で、景観になじみやすいように工夫されている。また、たばこを吸う人のマナー向上を図るため、喫煙所と分かる看板も付近に設置した。
まちの魅力を伝える「魅力発信プロジェクト」は、2つの軸で展開。令和4年9月には喫煙所を利用する人に市の魅力を発信するため、那須塩原駅西口の喫煙所内に情報発信パネルを設置した。また、市内で見られる春夏秋冬の美しい風景写真をラッピングしたスタンド灰皿を市内3カ所に配置。
さらに、市の魅力を伝える観光PR動画をJTBが作成し、市に寄贈した。観光PR動画を手がけた西田さんは「新たに若い人にも来てもらいたいという市の思いから、女子旅をテーマにしたプロモーション動画をつくりました。まるで友人と旅行をしているかのように、観光気分を十分に味わい楽しめるように工夫しました」と話す。
2つのプロジェクトは終わったばかりで、反応が見えてくるのはこれからという段階だが、渡辺さんは「環境が良くなったということで、地元の旅館の方たちが喜んでくれました。市としても地域でも、もともと清掃活動などの環境美化に取り組みたいという声があったものの、なかなかきっかけがなく、今回とてもいい後押しになりました」と確かな手応えを感じている。
住民が地域をより良くしようという機運もアップ。全国に広げたい。
同市では、これを機に市民と一緒に環境美化の活動を広げていきたいという。「清掃は行政だけでは不十分なケースもあるので、地元の人がサポートしてくれるきっかけをいただいたことはとても大きいと思っています。環境美化は、自助・公助・共助で言うと共助の分野として、住民の方々が自分の暮らす地域を大切にして、もっと美しい環境にしていこうというムーブメントをつくっていきたい。『〇ゴコチプロジェクト』として、ほかにも協業できそうなことがあればご一緒したいです」と渡辺さんは意気込む。
JTBの西田さんは「強いまちをつくるためには、住民の理解と協力が不可欠です。今回は単なる観光の発信ではなく、環境の美化活動をしながら進めていくので、住民の方にとってもマイナス要素がありません。まちを良くしようという気持ちが高まることを期待しています。サッカーのW杯でも、日本人が試合後にスタジアムを清掃したことが称賛されました。コロナが落ち着き、再び国内外の観光客がたくさん日本各地を訪れたとき、いいところだと思ってもらうためには、環境美化や観光のプロモーションは重要な要素になります。このようなプロジェクトをほかの市区町村にも広げて、日本全国の地域活性化に貢献していきたい。『交流創造』を事業ドメインとしている私たちの使命だと思っています」と力を込める。
JTの近藤さんも、このプロジェクトだからこそ提供できる価値があると話す。「今回のプロジェクトは、官民連携でそれぞれの強みを活かすことができました。市は地域住民の暮らしやすさ、訪れる方に対してどんなまちづくりをしたらいいかという知識やノウハウをお持ちで、JTBは観光という側面で魅力を伝えることに長けている。我々は環境整備の部分でお手伝いができて、それぞれが得意なものを持ち寄ることによって、非常にプラスに働いたと思います。『〇ゴコチプロジェクト』は、観光に限らず、住み心地や居心地なども良くするためのプロジェクトです。観光地の活性化はもちろん、様々な地域を盛り上げる活動をどんどん全国に広げていけるとうれしいです」。
ひと工夫で、地域にいいこと。「まちかどTOPPING」
様々な地域課題を“喫煙所”の活用で解決へと導く。
那須塩原市での「〇ゴコチプロジェクト」では、『喫煙所+観光』という分野での地域課題への取り組みだが、このほかにも自治体は様々な地域課題を抱えている。
JTでは、喫煙所にひと工夫をトッピングすることでまちかどの喫煙所を地域貢献の一助へとつなげている。