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悩んでいるけど聞きづらい……、そんな疑問・質問をスッキリさせる「公共FMモヤモヤ相談室」開催レポート!

公共施設マネジメント(以下、公共FM)を進める上で直面する、様々な壁。“これで合っているのか、ほかの自治体はどうなのか、先進自治体はなぜうまくいったのか……。

そんなモヤモヤを解消するため「日本管財」と「まちみらい」が合同でイベントを主催した。当日の様子をダイジェストで紹介する。

 ~まちみらい・寺沢さんより「公共FMモヤモヤ相談室」開催にあたって~

今、全国の自治体で公共FMの取り組みが進められていますが、職員の皆さんは色々と悩んだり、壁にぶつかったりすることも多いと思います。それでも、やはり現場で動いてみないと何も進みません。今回は、“積極的に手を動かしていきましょう”といった話や、“悩んでいることが実はテクニカルなことではない”といったことをお伝えし、この話を通して、公共FMを推進する中で感じる“モヤモヤ”の解消につながればと考え、この場を設けました。


第1部:まちみらい・寺沢さんによる特別ミニレクチャー

相談室に先立ち、公共FMの分野ではおなじみの寺沢さんが登壇。今まで多くの自治体の公共FMをサポートしてきた経験と、その中で培われてきた独自の視点で、公共FMのモヤモヤの源をズバッと解説していく。

合同会社まちみらい
寺沢 弘樹(てらさわ ひろき)さん

プロフィール

1975年静岡県清水市(現・静岡市)生まれ。2001年流山市役所入庁。建築・企画・教育委員会・都市計画部門を経て財産活用課で公共FMを推進。初代FM推進室長。2016年に流山市役所を退職し、同年、日本PFI・PPP協会業務部長に。常総市などのアドバイザー、湖西市などの包括施設管理業務を支援。2021年から現職。徳島市・久米島町などのアドバイザーを務める。主な著書に『PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本』(学陽書房)。

まずは自分たちで考え、動き、突破口をつくった自治体の事例。

公共FMにおける問題の本質は何かというと、施設が老朽化しているということではなく、まちが衰退していくということです。同時に、今までの手法は通用しなくなっているのだから、これからどうすべきかといえば、自分たちで手を動かしていくしかありません。

私が自治体を訪問すると、様々なところで“法律が”とか“条例が”などといった声を聞きますが、公共FMがスムーズに進められない理由は、私の経験ではほとんどの場合“要綱以下”です。しかし、どこかにそれをクリアできる道があるはず。そもそも公共施設を取り巻く環境というのは、そのネガティブな面も自分たちが今まで積み上げてきたものであり、結局自分たちでやっていくしかないのです。

ここで取り組みを進めていくためには、発想の転換が必要で、やろうと思ったらできることが山ほどあり、そうしたことをどれだけ動かせるか、という点にまちの未来がかかっているともいえます。ここでは、これらの取り組みを進める2つのまちを紹介します。まずは、神奈川県小田原市です。


 

同市では、様々な課の人たちが集まって、色々な案件を自分たちで考えるということを行っています。その一つが、随意契約を保証した提案制度で、不要になった3つの支所と、「清閑亭」という寄附を受けた文化財、これら4施設のあり方を考えました。しかし実は、どの施設も市街化調整区域にあるものや、歴史的建造物で建築基準法の用途地域や構造関係規定などで色々と引っかかってしまう。

そこで、都市計画課の職員や、建築の主事にも入ってもらいながら、その部分をどうすれば解決できるのかということを考えつつ提案制度を進めていった。その結果、旧片浦支所がコワーキングスペースにリニューアルし、「U(ユー)」として先日オープンしました。

ここが元支所だとは思えないような、非常におしゃれな空間に生まれ変わっています。さらにこのコワーキングスペースは、10年以内に投資回収するということをベースに事業を組み立てており、運営側は“8年で回収したい”という話もされていました。つまり、料金設定もその計画を踏まえ、とてもしっかりしているということなのです。


 

 “ザ・公共FM”から抜け出すためにクリエイティブさが求められている。

次は、沖縄県の久米島町です。那覇空港から西に30分くらい飛んだところにありますが、急激な人口減少が続き、飛行機やフェリーの運航関係で年間10万人しか来られないという中、様々なプロジェクトを考えています。その一例が、老朽化していた給食センターの活用です。

財源が限られており、“子どもの数も減っているのに、これを新築している場合ではない”ということで、最終的には高齢者の配食サービスや、スキューバダイビングで来た人たちへの食事提供なども含め、民設民営方式でまち全体の給食センターをつくっていくという結論に達しました。現在サウンディング型市場調査を行っているところです。

また、以前は「バーデハウス」という海洋深層水を使ったスパがあり、このまち一番の観光資源だったのですが、ここも閉業してしまいました。これを早くなんとかしなくてはならないということで、職員が集まり、“何が間違っていたのか”というところから徹底的にディスカッション。結果として、設置管理条例に原因があったと分かりました。

そもそも、ここでうたわれていたのは観光振興と町民の健康増進でしたが、これらの両立は難しいのです。観光客からすると、非日常を求めてやって来たのに、地元の高齢者が水中ウォーキングなどに励んでいては遊びにくい。地元の高齢者の立場だと、健康づくりのために来たのに観光客がはしゃいでいれば落ち着かない。この相性の悪さが原因です。ではどうするか。

観光客を2~3倍にしてもオーバーツーリズムで自滅するので、同町が生き残るには、上限10万人の客単価を上げていくしかない。そのための拠点としてバーデハウスを使おうということで、宿泊機能付きの超高級スパによみがえらせることに決めました。3期にわたるサウンディング型市場調査を実施しながら、実際の公募に至ったという流れです。


 

この取り組みで何がポイントなのかというと、全部自分たちで要求水準書などをつくっているという点です。“ここにしかない時間の流れ・ここにしかない空間”といったビジョンも自分たちでつくり、営業も自分たちでやっている。残念ながら1回目の公募は様々な事情があって不調に終わりましたが、今、再公募に向けて勢いをつけ、営業を繰り返しているところです。

こうした事例を通して私が伝えたいのは、これまでの“ザ・公共FM”とか“ザ・PPP、PFI”、つまり財政が厳しいからハコモノをなくそうとか、民間と連携すればなんとかなるだろうというようなことでは、まちが衰退する流れを止めることはできない。それに対し、クリエイティブなプロジェクトというものが世の中ではもてはやされていますが、全プロジェクトがクリエイティブになる必要はないのです。

例えば包括施設管理は、すごく地味だし、その良さは理解されにくいのですが、こうした一つひとつのプロジェクトを組み立て、目前の課題をどうやって乗り越えていくかという過程こそがクリエイティブだといえます。それをどれだけ自分たちの力でやっていけるか、ということが求められています。

大事なのは“実践”が全て。例えば今回の相談会も大事なことですが、そこで終わったら何にもなりません。ここで得たものを自分のまちでプロジェクトとして実践して、その中で失敗もしながら試行錯誤していく。その結果、少しでもまちが変わっていくということ、それこそが、今まさに求められていることなのではないのでしょうか。

第2部:東京都立大学・讃岐先生による特別ミニレクチャー

第2部は、講師を讃岐先生にバトンタッチし、公共FMの“はじめの一歩”を踏み出すためのおさらいからスタート。いくつかの事例紹介を絡めつつ、まちづくりの専門家の視点からアドバイスをいただいた。

東京都立大学 都市環境学部
建築学科 助教
讃岐 亮(さぬき りょう)さん

プロフィール

専門分野は建築、都市計画、および公共FM。施設立地の利便性評価、学校施設の統廃合を含めた再配置シミュレーション、広域連携の効果の定量化などを題材とした研究を行う。いわき市、立川市、相模原市、長崎市、山鹿市などで自治体のまちづくりや施設再編に関するアドバイザーを務めるほか、各地で市民ワークショップのファシリテーターも担う。共著に『公共施設のしまいかた まちづくりのための自治体資産戦略』(学芸出版社)がある。

 公共FMは“千里の道も一歩から”!今、できることから着手していこう。

公共FMを進める上では、様々な部署の職員を巻き込まなくてはならないという状況が、どんな段階においてもあるはず。そのためにどう説明していくか、どう巻き込んでいくかなど、そのときに備える再確認という意味も含めて2つの話をしたいと思います。
 
まずは、“できることからやっていこう”あるいは“できることからやってもらおう”というものです。公共FMではお金の話が全てではありませんが、発端はやはりお金の話だったはず。そうすると、財政健全化に取り組むために財政の状況を確認する必要があります。

例えば私が関わっている福島県いわき市では、現状維持のため年間で実質200億円足りません。これは、金額の差こそあれ、どの自治体も同じような状況にあるはずで、正直実感が湧きづらい数字でしょう。これに生真面目に正面から向き合うのもまた重要ですが、もう少し地に足のついた議論をすることも大事です。

同市では、今までの考え方を抜本的に変え、長期的な見通しをもちつつも、中期の財政目標に沿って具体的にプロジェクト化する対象を決め、短期的な縮減の積み重ねにシフトする進め方に転換しました。


 

そのようなやり方も王道だとは思いますが、もっと簡単なことから着手するという方法もあります。例えば、群馬県沼田市の取り組みとして有名なのが「官公庁オークション」です。他自治体でも実施しているところがあると思いますが、こうした小さなことから始めるFMも説得材料にできるし、これ自体が小さな財政健全化だといえます。また、安全面に目を向けると、保全のための様々な手法が開発されています。包括施設管理、長寿命化に向けた計画づくり、施設カルテなどがあり、これらの活用と“保全”をリンクさせることが望まれます。

一方で、身近にできることは何でしょうか。例えば、技術系の職員は少ないながらも自治体内にいるので、建物点検の講習会などを行うことで建物のきちんとした見方を共有できるはずです。あるいは、公共施設の状況に目を向け、コンクリートにクラック※1が入っているのに気づいたらプロとして指摘する、対応する、そのような姿勢をもつことが大事だと思います。保全は、大きな計画をつくるだけではなく、一歩一歩の姿勢が問われている、ということです。

さらにサービス面の話ですが、東京都国立市の公共施設では、地元の塗装屋さんに教えてもらいながら職員も一緒になって壁を塗るという修繕工事を行いました。そこに参加した子育て中の職員が、“自分の子どもが通っている保育園の塀もきれいにできるのでは”と思い立ち、ほかの保護者も巻き込んで、一緒にペンキで塗ったそうです。こうした“カイゼン”もまた、公共サービスのあり方の一つだといえます。

※1 建物の外壁や内壁、基礎にできるひび割れや亀裂のこと


 
全国の事例を通して垣間見えるクリエイティブな資産活用のポイント。

次に、もう一方のテーマ“資産を活かす”についてです。

一般的に、公共FMというと“コストを圧縮するために資産をどんどん減らします”といった内容で、身構えられてしまう認識がありますが、そうした中でも公共資産をきちんと活かそうという考え方をする人は多くいます。沖縄県南城市の「ドライブインシアター」を取りあげましょう。市庁舎前の夜間は使われない駐車場をシアターに変身させることで、それまでにない新たな形の公共サービスを提供するとともに、駐車場という資産の活用可能性を広げたものです。

また、大阪府の吹田市では、Park-PFI※2で図書館と公園の整備を進めていくまでの期間、閉鎖していた一部施設の区画を利用して児童書コーナーを設置。子どもたちが絵本を読み保護者が脇でコーヒーを飲みながら談話ができる場所をつくるなど、使っていない空間を時限的に活用しています。再整備までという限られた時間でも、最大限のサービス向上を図りたいという気持ちがあらわれている好事例ですね。

話を転じて、廃校利活用という点では、東京都豊島区の「みらい館大明」という施設も有名です。地域に精通する市民が理事長を務めるNPOが運営している施設です。指定管理であればこのタイプのものは色々出てくると思うのですが、市民団体でこれだけうまくいっている事例は珍しい。運営がすごく上手なので、予約表が埋まっている月もあります。利用料も市の公民館や集会施設の料金にもとづいて設定されているわけではなく、周辺の民間施設と同等の料金体系です。そこには運営の工夫があり、民間事業者のノウハウも詰まっているということです。

では、資産を活かすだけでいいのでしょうか。私はそれだけではダメと思います。前段階として“誰のために何を実現したいのか”ということを考えた上で、資産活用の話をセッティングしていかないと、単純に“もったいないから使う”“余っているから使う”という話になってしまい、それはあまりクリエイティブではないというのが私の考えです。

例えば、東京都立川市の「子ども未来センター」という施設。これは旧庁舎跡地の活用事業ともいえるものですが、特に若い世代に向けて新しいサービス・居場所を提供したいというビジョンがあります。畳敷きの居間や押し入れのような空間がそこかしこにある“くつろげる家”をイメージしたインテリアの中、家族みんなでまんがを楽しめる空間が創造されています。おそらく当初の想定以上に実際の利用者は多世代で、休日は人でごった返すほどの盛況ぶりです。

その“サービス”という部分について語るとすれば、先述した南城市の「おでかけ児童館」の事例も参考になります。このまちには公共サービスを届けづらい地域がある、どうしたらいいのか……。結果、同市は児童館というサービスをほかの公共施設などへもって行けばいいという考えにたどり着いたようです。寺沢さんがよく説明されている“大切なのは施設ではなくサービス”であることを示す好例です。最近は、いわき市の「お出かけ市役所」などが良い例として紹介されています。これも公共施設の一角やスーパーの駐車場などを利用して、窓口機能や福祉サービスなど公共サービスを必要としている地域に車で公共サービスをもって行く、という発想が活かされた事業です。

こうした考え方の先には、公共施設という枠さえ越えた事例もあります。南城市では、白い砂浜が地域の大きな資産。その場所とスポーツ選手とをマッチングさせて、ビーチバレーやトレーニングなどを公共サービスとして提供する「出張型SDGsスポーツ事業」というものが展開されていました。これにも“地域の方々にスポーツの事業を通じて笑顔や健康を届けたい”という思いがあり、そのための地域のコンテンツは人であり、砂浜であり、海であり、スポーツだったわけです。これこそ、ビジョンを実現するための資産活用、の理想像の一つではないでしょうか。

公共FMは、誰のために何を実現するものなのか、それを具体的に展望することが、寺沢さんもおっしゃっていた“自分たちらしいクリエイティブなFM”の実践につながるのではないかと、私は信じています。

※2 公園に施設を設置し運営する民間事業者を公募により選定する制度

第3部:公共FM モヤモヤ相談室

ここからは、本編の「モヤモヤ相談室」。本格的に公共FMへの取り組みを始めようとしている自治体職員から寄せられた質問と、寺沢さん・讃岐さんの回答の中からいくつかをピックアップして紹介する。

Q:包括管理を始めたいと思い、庁内で説明したのですが“コストがかかってでも進めるべき”“施設管理の質を向上・統一させるためのものである”ということがうまく伝わりません。どうすれば理解してもらえますか。




 

続きは、日本管財株式会社が運営する「公共FMサロン」にて。加入ご希望の方は下記問い合わせ先よりご登録ください。Facebookページでも公共施設マネジメントの「今」を発信中です。

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日本管財(株)では、2021年2月より自治体職員限定のオンラインサロン「公共FMサロン」を開設しています。会員数は119自治体、延べ146人(令和4年11月1日時点)。公共FMに関わる人が、自らのまちの活動や問題、熱意などを共有し、実践知を学び合うことで、FMの実践へとつなげていくサロンです。複数のパートナー専門家やサロン会員の他自治体職員と気軽に意見交換ができる場となっています。参加は無料です。皆さまのご参加をお待ちしています!

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日本管財の包括施設管理は、公共施設の一括管理と計画的な保全はもちろん、施設管理の人材などのリソースや業務負荷軽減の実現を目指し、よりよい地域づくりを支援します。“施設管理のノウハウを知りたい”“品質向上・コスト削減を進めたい”“複数施設を効率的に管理したい”……など、施設管理に限らず経営戦略についても、これまでの豊富な導入実績をもとに一緒に解決に導きます。どうぞお気軽に問い合わせください。

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