ジチタイワークス

三重県桑名市

ライフスタイルを重視した、市民に寄り添う選挙改革を実行。

近年、多くの自治体で選挙執行や投票率に関する課題が山積みとなっている。公正性を重んじるあまり改善が進まないとされる中、選挙がない期間を活用し、改革に本腰を入れたのが桑名市だ。実態調査を行い、改善案を提言・実行、結果として投票率も上昇したという。挙管理委員会の立場から、プロジェクトに関わった竹内さんに話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.23(2022年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

通例にとらわれない意見を期待し部局を横断したプロジェクトに。

時代とともに市民のライフスタイルは変化しているにもかかわらず、選挙スタイルは変わらない。それが投票率の低さに影響しているのではないかと考えた同市。そんな折、令和元年7月の参院選から令和2年の市長選まで1年ほど選挙が行われない期間があり、同委員会を中心とした選挙改革プロジェクトの実施を決断した。

まずは、「選挙改革プロジェクトチーム」を発足。“若い世代の投票率を上げること”が目標の一つであったことから、部局を問わず20代後半から40代前半の若手・中堅の職員10名を、各所属長の許諾も得ながらスカウトしたという。「やる気がありそうだ、というところを見込んで声をかけたこともあり、全員から快諾を得ることができました。日頃から庁内のコミュニケーションが取れていたことも幸いしました」と竹内さん。

発足後、プロジェクトチームは“普及啓発” “投票所” “開票所”の3テーマに分かれ、議論・検討。各チーム、係長クラス1人に若手が2~3人の構成とし、意見交換を重ねた。「メンバーに対しては、枠にとらわれない自由なアイデアを期待していたので、私たちは主に公職選挙法に抵触していないかを確認するなど、相談を受けたときのみ対応するスタンスでした」。

全職員へのアンケートにて“市民目線”での意見を収集した。

プロジェクトチームは、それぞれの分野の現状分析を行い、その後、課題解決のためのアイデアを出し合った。また、それぞれが一市民でもある職員たちへの全庁アンケートを実施。選挙に関する率直な意見を求めたところ、相当数の回答が得られ、それもアイデアのヒントになったという。

「議論の中では、多くのアイデアが提案されました。中には私をはじめ、当委員会で判断しかねるものもありましたが、その際は、三重県の選挙管理委員会などに相談しました。せっかくのアイデアが、内容を詰めた結果かなわなかったという事態は避けたかったのです」。プロジェクトは令和元年10月にスタート。令和2年4月に同委員会の委員長へ提言を行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響により延期され、同年7月に行ったそうだ。

そして提言後、令和2年の市長選より改善を実行。プロジェクトチームから、①市内中学生を主体とした選挙啓発活動(普及啓発チーム)②期日前投票所を駅や商業施設に開設③投票立会人の公募④市内を循環するコミュニティバスの無料化による移動支援(以上、投票所チーム)⑤選挙事務従事職員の募集(開票所チーム)の5案が採用された。

改革後は、投票率が上昇し便利だったという声も。

提言が採用された令和2年の市長選の投票率は45.43%と、前回を約7ポイント上まわった。また令和3年の衆院選は、コロナ禍にもかかわらず、前回と同率の55.16%をキープ。令和4年7月の参院選では、前回より約2.5ポイント上昇という結果となった。「投票率には様々な要因があるため、プロジェクトによる上昇とは一概には言えませんが、一定の役割は果たせたと思います」。市民からは、“駅内や商業施設に新設された投票所がとても便利だった”などの声が寄せられているという。

「今後も、適正にミスなく選挙を行える環境を整えていくことはもちろん、市民の目線に立ちながら、また現代のライフスタイルを鑑みながら、“投票しやすい”とはどういうことなのかを常に考えていきたいです」と竹内さんは意気込む。また実際にやってみることで、今後の改善点がさらに見えてくるなど、収穫も大きかったという。“提案したことが採用される”という事例から、まずはやってみようという士気が庁内でも高まっているようだ。

桑名市
総務部 総務課 総務係 兼 選挙管理委員会
竹内 聡(たけうち さとし)さん

大切なのは、何でも言える環境づくりではないかと思います。無理だと思っても、意見が言える、行動が起こせる。そこから、新しいものが生まれるのではないでしょうか。

課題解決のヒントとアイデア

1.市民の目線に立ったアイデアにこだわりをもつ

選挙の現状を把握し、課題を発掘。現代のライフスタイルを踏まえて議論を重ねたことで、“求められる施策”を実行できた。

■期日前投票所を駅や商業施設に開設

有権者の生活に寄り添うために、外出ついでに投票ができる「いつでも、どこでも選挙」を発案。特定の選挙区にとらわれず、誰でも投票できる期日前投票所を生活動線上の駅や商業施設に設置した。

■市営バスの無料化による移動の支援

自家用車を所持していないなどの理由から投票所に出向くのが困難だった市民に向けた支援を発案。投票所入場券と投票済証明書をバス運転手に見せ、無料になる仕組みを構築した。

2.まずは実行してみることで次の課題が明確化

他自治体で行われている様々な改善事例などを参考に、自分たちでもまずは“やってみること”が大切。たとえ失敗したとしても、成功の種になる。まちの規模や市民の特性に合った独自の方法、新しいアイデアが見えてくる。

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