ジチタイワークス

秋田県大潟村

“農福連携”で、あらゆる村民に居場所とやりがいを。

少子高齢化や地域コミュニティの希薄化といった福祉課題に対し、農業を通じて高齢者や障害者の居場所づくりを進める“農福連携”の取り組み。農業が盛んな大潟村では、福祉の対象を広げ、村の様々な人がいきいきと暮らせるためのきっかけにしている。自治体と社会福祉協議会が協力し、村民を巻き込みながらスピーディに発展させた、“農業の村”らしい工夫やその成果を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.22(2022年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

自治体・社協・村民が協働し発案から約2年で農園運営を開始。

一人暮らしの高齢者や、引きこもり状態で地域との関わりが薄い人たちの孤立を懸念していたという同村。これらの解決を目指し、同村社会福祉協議会が取り組んでいた「多機関の協働による包括的支援体制構築事業」の中で、“農福連携”のキーワードが浮上した。「一般的に農福連携は、農業の担い手不足と障害者の社会参加のマッチングで、双方の課題を補完します。しかし私たちの地域では、農業が盛んな特色を活かし、福祉面の充実を図ることにしたのです」と社協の池田さん。

平成28年度、社協が同村に相談をもちかけると、事業者や農家からも賛同が得られたという。翌年度には自治体・社協・村民などで農福連携推進委員会が立ち上がり、同事業のための新たな農園をつくることになった。活用したのは村が所有する未利用地。もともと農地ではなく、農家や、長年農業に携わってきた高齢者らの協力で徐々に土壌改良を重ねたという。自治体と社協が村民を巻き込み、取り組みがスタートして2年目の平成30年度、「農福連携ファーム」の運営が始まった。

手作業できる作物を優先して選び様々な人の役割を確保する。

農作業に参加するのは村の高齢者と、20~30代の障害者、施設や自宅に引きこもりがちだった人たち。対象者が耳を傾けてくれそうな親戚や同級生などを通じて声をかけ、令和3年度には延べ445人が作業に参加したという。賃金は時給で支払われることになっている。

畑の面積は1.6haで、栽培しているのは村の特産物であるカボチャ。作業の機械化が進んでいないため、参加者の“手作業”を確保する目的で選定された。「苗を植えてつるを直す作業は障害者に、芽かきや受粉は高齢者に依頼し、収穫作業などは一緒に行っています。私も収穫作業に参加し、皆さんのいきいきとした姿を見て感激しました。良いコミュニケーションが生まれていると感じます」と福祉保健課の小貫さん。収穫したカボチャは農協を通して販売され、小さいものや傷のあるものは障害者福祉施設の菓子づくりに使われている。

一方で、畑をつくり始めたときから続けている土壌の改良には苦労が多かったそうだ。「ガスが出たり、pHのバランスが悪かったりして、安定するまでに4年ほどかかっています。現役の農家や、リタイアした高齢者が知恵を出し合って作業を重ね、排水対策などを進めてくれました」と池田さん。その結果、畑の状態が良好になり、令和3年度から収支が黒字に向かい始めたという。

通年での農園活用を進め多世代交流できる場へ。

事業開始時から村民同士で声をかけ合って参加者を増やし、施設や自宅からほとんど出なかった人たちが地域に出る機会になっているようだ。「引きこもりだった人が農作業に参加して、定職に就くまでに至ったこともあります。働く意欲や、やりがいにつながったうれしい例です」と池田さん。また、農作業を経験している障害者が増えたため、村内の民間ファームから担い手として働いてほしいと声がかかるようになったという。

現在は春から秋にかけてカボチャのみを栽培しているが、今後は年間を通して作業ができるように作物を増やす計画だ。秋から翌年春に育てる、ニンニクやジャガイモの栽培を進めるという。「村内の学生寮で生活する大学生にも声をかけ、地域の交流をさらに活性化させていきたいです」と小貫さん。

農業という地域の強みを活かし、参加者それぞれがやりがいや居場所を見出せる同村の取り組み。今後の作物や交流世代を拡大する計画についても、地域を挙げた協力体制やフロンティア精神で発展させていくことだろう。

左:大潟村 福祉保健課 主任
小貫 智美(おぬき ともみ)さん
右:大潟村社会福祉協議会 事務局次長
池田 昌弘(いけだ まさひろ)さん

各機関のスピーディな推進と、農福連携という言葉に興味をもってくれた村民の協力で実現しました。“ゼロからでも自分たちでやればできる”という自信も生まれています。

課題解決のヒントとアイデア

1.地域の特色や強みに合う事業なら住民の賛同や協力を得やすい

農業が盛んな同村では、“農業と福祉が連携する”という事業は村民もイメージがしやすく、興味をもつ人が大勢いたという。地域の特色を活かし村民と協力することで、約2年という早さで農園をオープンさせた。

2.様々な人が参加できるように“手作業”を要する作物を採用

障害者をはじめ、様々な人に参加してもらえるように、機械ではなく手作業で栽培を行うカボチャを選定。村の特産物の一つで、全て消費されるため、やりがいや喜びにつながる。

3.適材適所に人材を配置しながら交流できる機会も用意する

栽培の中で主に、手を動かす作業は障害者、農業の知識を活かせる作業は高齢者が行うように役割分担している。収穫は全員で協力して行い、喜びを分かち合うなど交流を楽しめるように工夫した。

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