都市開発と交通は、観光に欠かせない観点だ。ビッグデータをはじめ、IoTを活用したまちづくりについて研究する琉球大学工学部工学科の神谷大介・准教授を訪ね、データをもとにしたまちづくりについて意見を伺った。
※下記はジチタイワークス内閣官房推進 EBPM特集号(2019年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
ニーズとシーズを知る橋渡し役として
土木工学の研究者としてフィールドワークを行う傍ら、都市計画に関する数々の講演会やセミナーで講師を務める琉球大学工学部工学科の神谷大介・准教授。同大学工学部に付属する「地域創生研究センター」の社会システム研究部門長も務める同氏は、島嶼における防災計画の研究を沖縄で進めている。
うるま市交通基本計画策定委員会では委員長を務め、有識者として沖縄県の交通基本計画策定協議に参画。人と情報が集う大学で先進の研究を進めるとともに、自治体や地域の「ニーズ」と民間企業が持つ「シーズ」を俯瞰する立場から、まちづくりや観光政策を考えるスペシャリストだ。
どのまちも抱えているまちづくりの課題
観光戦略や交通計画を検討する会議に出席することが多い神谷准教授は、定量的なデータではなく、イメージや感覚でこれまで議論がされてきたことに、以前から問題意識を持っていたと話す。しかも、提示されるデータはすべて当事者側のデータで、観光施設の入場者数やチケット販売数などその場限りの数字は見えるが、それ以上の情報はたどりようがない。つまり、人の流入や流出の動きが把握できないのだ。
こうした問題は沖縄に限ったことではない。適切な観光計画や都市計画を策定するためには、観光客や住民の動向を正確に把握できる「定量的なデータ」を全国の自治体が持つ必要があると、神谷准教授は指摘する。
琉球大学工学部工学科の神谷大介・准教授
人の動きを点から線へデータフュージョンの重要性
データを分析して初めて明らかになることもある。例えば、ある調査 によると沖縄に来る日本人観光客のうち、65%はレンタカーを利用するが、残りの3 5%は非ユーザーであることがわかった。この結果から、レンタカーを使わない層に向けたモビリティの提供が必要だと結論づけることができた。特に、うるま市を含む沖縄中部では、中部広域の交通網を整備して観光客を運ぶ交通手段を確保することが、地域としての課題だと浮き彫りになった。もう一つある。
都市の交通量は、時期や時間帯によって変わる。観光客が増える時期は消費活動が活発になり、水の使用やゴミが増える。こうした「観光圧」が原因で自然環境に影響が出て、観光資源の価値喪失が懸念される。解決のためには、広域の自治体同士の連携が必要だ。複数のデータが集まることで、人の動きが「線」となって見えてくる。住民や観光客の動線を時空間的に整理し、有機的につなげることによってモビリティが改善される。その結果、民間事業者の収益増や行政負担の軽減につながる可能性もあるのだ。
日本人観光客のレンタカー利用は65%程度
確かなデータにこそまちの未来が隠れている
沖縄に限らず、全国的に見ても市区町村から広域へのはたらきかけが欠かせないと、神谷准教授は熱く語る。周辺の市区町村と連携して、官民を巻き込んだ協議会をつくる。そこで定量的なデータをもとに議論が成されてはじめて、観光や交通の観点を踏まえたまちづくりが始まると言える。観光客や住民をどう動かしたいのか。データは自治体の未来像を描く助けとなってくれる。そのうえで重要なのは「『自分たちのことを知らなかった』と自覚すること」だと神谷准教授。漠然としたイメージや思い込みではなく、データが示す結果で現状を把握することが都市計画のファーストステップだと語った。
今年6月には、琉球大学工学部附属地域創生研究センター、コロプラ社、OTSサービス経営研究所、沖縄セルラー電話、沖縄セルラーアグリ&マルシェの5社が業務協力協定を締結。産学連携によってデータ分析・示唆をまとめる新事業がスタートする。地域を巻き込んだこの動きは、全国の地方自治体のモデルケースとなるのか。今後も沖縄の動向から目が離せない。
まとめ
観光・交通面から見た地方自治体のまちづくりのカギ
◎住民と観光客の動きをつなげて地域のモビリティ形成を考える。
◎複数のデータによるデータフュージョンがカギとなる。
◎広域の自治体同士、及び産学官の連携が必要不可欠である。
琉球大学工学部工学科
社会基盤デザインコース
神谷大介准教授・工学博士
2003(平成15)年、琉球大学に着任。島嶼防災研究センター、工学部附属地域創生研究センター社会システム研究部門長、うるま市交通基本計画策定委員会委員長を併任する。専門は土木・防災・環境計画。