ジチタイワークス

茨城県つくば市

データを活用できる人材を増やし、市民サービスの向上を目指す。

「データで市民を豊かにするまちの推進」を掲げるつくば市では、データを使いこなせる人材の育成を目的とした職層別の研修計画を立て、平成30年度から実施している。令和12年度には現在約2,000人いる職員のほぼ全員が研修を終える予定だ。この研修の目的や成果、同市が描く将来像などについて統計・データ利活用推進室の担当者に聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.20(2022年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

地域の課題解決とサービス向上のためにデータ利活用を推進。

官民問わず様々なデータを共有することで、地域課題の解決や市民生活の向上につながるイノベーションが生まれる社会を目指す同市。その取り組みの一部として、全国でも珍しい全職員を対象にしたデータ利活用研修を行っている。「取り組みを始める前は、データを活用するためのツールをしっかりと整備することが重要だと考えていました。しかし、ツールがあっても職員の理解がないと使われない。そこで、優先するのは人材育成の方だと気づきました」と家中さんは振り返る。平成29年に筑波大学と同市が共催したデータ利活用に関するイベントをきっかけに、外部の力も借りながら研修プログラムの構築が始まった。

「研修の目的は、全ての職員にデータリテラシーを身につけさせること。その結果、広い視点から地域課題を解決できる人材を育成することです。データには、住民にも公開可能なオープンデータ、条件つきで共有できるデータ、内部限定のデータなどがあります。計画では、各課で保有するデータのうち、共有可能なものはできるだけ共有し、まずは庁内での利活用を推進していく予定です。そこから業務効率化や政策立案、行政サービスの向上につなげていきたい」と家中さん。背景には、今年度から高校で始まった地理総合科目の必修化に“GI S※”が組み込まれていることもあるという。「“データの可視化”を学んだ世代が入庁してくる時代がすぐに到来します。GIS活用人材を受け入れる準備を整えておく必要があります」。

※GIS = Geographic Information System(地理情報システム)

データ活用を理解する研修の中身とは

主査級が参加する「データ利活用研修Ⅱ」では、つくば市の地図に色々なレイヤーを重ねて、課題解決方法を考える。ここでは、ハザードマップと要援護者の点在地情報を重ね、災害時に優先的に援護すべき人を見つけ出した。

 

人事課と協力して、全職員が対象となる研修体制を構築。

取り組みを始めるにあたって、最初にぶつかったのはどうやって全職員にデータ利活用の知識を身につけさせるかという問題だった。「ここは人事課との調整がうまくいったことが大きかったですね」と家中さん。「人事課で扱う研修以外は任意参加の勉強会となり、データ利活用を全職員が進めていくという目標を立てた場合、それでは体制として不足していました」。

そこで、平成29年、同時期に政策立案の研修を考えていた人事課と協力して“GISを利用した課題解決ワークショップ”をトライアルで実施してみたという。「実際にやってみたら、反応も良く、これならぜひやってみよう、と。人事研修という仕組みにしないと継続させるのは難しかったと思います」。現在は職層ごとに段階的な研修を行っている。「全員が同等に高度なスキルを習得する必要はないと考えています。第1段階では“理解の浸透”を目的にデータ利活用の重要性や国の指針などを説明し、第2段階では“データ利活用のためのデータへの理解、および加工ができるようになること”を伝えています。毎年150人程度が受講しており、令和12年度には今いる職員の全員が受講を終える予定です」。

“GISを利用した課題解決ワークショップ”の様子

劇的な効果は出にくいが着実に職員の意識を向上させていく。

未来を見据えた着実な取り組みを続け、他自治体からの問い合わせも多いという同市だが「“研修によってどんな効果がありましたか?”とよく聞かれるのですが、正直なところ、まだ劇的な効果はありません。まずは全職員に理解してもらうという段階です。ただ、庁内でデータ利活用に対する認知度が上がってきているという実感はあります。今後はツールを使いこなし、実際にデータを活用できるような人材を育成していこうと思っています」と家中さん。

少しずつ計画が進んできた同市では「今年度から庁内でデータを横断的に活用できるような基盤を本格的に導入しました。使いたい人が使いたいときにデータを引き出せるような環境を整備しているところです」と澤田さん。実際に、一部職員の間ではGISを活用して買い物支援の移動販売車を走らせるルートを検討するなど、動きが出てきているという。

家中さんは「まだ、個人的に考えていることなのですが」と前置きした上で「職員はみんな目の前の仕事で忙しいので、将来的には市役所の中にある膨大なデータを先にある程度整えて、すぐに分析できるような状態で用意できればと思っています」と今後の展望も話してくれた。これから同市の長期的な取り組みが実を結んでいくのが楽しみだ。

つくば市
政策イノベーション部
統計・データ利活用推進室
左:主任主査 家中 賢作(いえなか けんさく)さん
右:主査 澤田 学(さわた まなぶ)さん

総務省の自治体DX推進計画にも「デジタル技術やデータを活用して住民の利便性を向上させる」とあります。データ理解はDXに必要な力だと思います。
 

課題解決のヒント&アイデア

1.継続して人材育成できるよう人事課と研修制度を設計

人事課を巻き込み持続可能な体制にすることが重要。最終的には自治体の計画や方針の中にデータ利活用研修を組み込むことを目標にして、最初は、ワークショップなどできることから実践してみる。

2.研修内容の考案と実施には外部の専門家の力も借りる

職員だけで専門的な研修を行おうとしても難しい。全て自分たちでやろうとせず、大学など地域のつながりも活かして外部の協力者を見つける。専門家と職員で協力しながら構築していくといい。

3.データを使える環境整備と人材の育成は同時進行で

環境整備と人材の育成を車の両輪と考え、うまくバランスが取れるように同時に行っていく。特に管理職がデータ利活用を理解していないと、せっかくの両輪がムダになってしまう可能性も。

 

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