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佐賀県武雄市

公開日:2019-10-28

“主役は子どもたち”がテーマのICT教育 既成概念にとらわれない武雄市の取り組みとは

教育・文化・スポーツ
読了まで:6分
“主役は子どもたち”がテーマのICT教育 既成概念にとらわれない武雄市の取り組みとは

平成31(2019)年、佐賀県武雄市は「日本ICT教育アワード」の最優秀に選ばれた。この賞は、全国127の自治体が加盟する「全国ICT教育首長協議会」により、地域の教育課題をICTの活用で解決した取り組みに与えられるものだ。

同市では具体的に何を実施し、どのような効果が得られているのか、武雄市教育委員会新たな学校づくり推進室・室長の諸岡 利幸さんに聞いた。

※下記はジチタイワークス教育・ICT号(2019年10月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 佐賀県武雄市

ICT教育先進地域への道のり

武雄市が前述の受賞において評価された内容は、タブレット端末や電子黒板の導入、オンライン英会話教育、プログラミング教育、民間学習塾と連携した教材の導入…と多岐に渡る。このような先進的取り組みを進めてこられたのは、自治体や教育機関、民間事業者が地域のために連携してきたからにほかならない。

武雄市では従来から、「地域の子どもたちをしっかり育てたい」という目標のもと、様々な試みを続けてきた。そんな中、国内でICT活用の機運が高まり、ICT教育の分野を強化するに至ったという。

もちろん、予算の問題があった。これをクリアするために武雄市では外部有識者を招聘し「武雄市ICT推進協議会」を立ち上げ、議論を進めた。その結果、ICT教育の必要性と期待される効果が確認でき、議会の承認を得た。議会や首長、教育長も地域教育に対して理想を共にし取り組みを進めてきた結果と言える。

武雄市の公立小学校は11校。このうちモデル校2校を選出し、ICT教育への挑戦が始まった。当時、電子黒板の導入はすでに始まっていたので、それを追う形でタブレット端末の導入が段階的に進められ、平成26(2014)年度には全小学校、翌年度には全中学校で1人1台のタブレットが行き渡った。さらにその翌年には電子黒板の配置が全小中学校で完了した。


「子どもたちが大人になった時を考えると教育現場でのICT活用は自然な流れ」と語る武雄市教育委員会の諸岡さん

指導者の意識改革が子どもたちの学習意欲を伸ばす!

ICT教育の導入では、環境整備と共に教職員へのフォローが必須だ。実際に、教育現場からは戸惑いの声も上がっていた。それらに対しては、導入ツールのメーカーに研修を実施してもらい、まずは機能を使えるようにするという対応で不安を軽減していった。また、教育委員会が主催する勉強会や、異動者に対する研修も実施。さらに教員たちが自主的に「スキルアップ研修」を開始して、縦・横の連携で学びを深め、導入までの動きをスムーズにしていった。

これらの過程で忘れてはならないのが、「主役は子どもたち」という視点だ。テクノロジーは教育の手段に過ぎず、子どもたちの学習を向上できなければ意味がない。そこで武雄市が策定したのが、武雄式反転授業「スマイル学習」というプランだった。これは、翌日行う授業に関する教材をタブレットにダウンロードし、児童生徒が持ち帰って自宅で予習、翌日はその内容をふまえた授業を行うというものだ(下図参照)。また、民間学習塾とも連携し、官民一体型の教育体系「武雄花まる学園」を作り上げた。

このように改革内容は先鋭的だが、教科書は子どもたちの使いやすさと、ソフト面の未完成な部分を考慮し、紙の書籍を継続使用している。ただし、指導者側には指導用の電子教科書を採用し、電子黒板と連携させつつ児童生徒とのやりとりはタブレットで行う。たとえば、図形の展開説明や立体を動かして認識させるなど、デジタルの方が効果的な場合は積極的に活用する、といった具合だ。これにより授業の自由度も高まっている。

導入後の効果測定においても、東洋大学と連携した検証を実施。児童、教員双方にアンケートをとり検証した結果、児童の「明日の授業が楽しみ」という回答は87.5%、「今日の授業は楽しかった」という回答は90%超にのぼり、教員側の調査でも「スマイル学習とタブレット活用により指導の変化・改善が見られた」という回答が中学校で約7割にのぼるなど、良好な結果が現れている。

教育の充実は、地域のビジョンを再確認することから

先進的なICT教育への取り組みを進め、最新ツールを採用している武雄市だが、諸岡さんは「ICT教育に特化することが目的ではない」と強調する。「武雄市は独自の総合戦略『もっと輝く☆スター戦略☆』を掲げています。市民の幸福度を高めていこうとするこの戦略の、重要な指標である“教育”の部分を強くするために、ICTを活用しているのです」。

また、これまでの取り組みの成果は、来年度から始まる「プログラミング教育の必修化」においても顕著に現れている。武雄市ではこの分野に先鞭をつけていたため、現場でも対応に追われることなくスムーズに準備が進んでいるという。「環境があるからこそ、やらなければならないという意識が生まれ、環境があったからできたという実感に繋がります。プログラミング教育の例からも、今までやっていたことが間違いではなかったという確信が持てました」。

新しいことを恐れずに取り入れてきた武雄市の地域教育。日々、多くの行政視察も受け入れており、ICT教育について「何から始めると良いか」といった質問も受ける。諸岡さんはこの問いに、「先進的な取り組みを模倣するのではなく、まず自治体の子育てビジョンを見つめ直すことが大切」と答えているそうだ。さらに、武雄市の事例をあげつつ、ICT教育に特化した部署を新設するのも有効だと薦めている。人事面でのハードルはあるが、二足のわらじでは改革推進にも困難が伴う。効果が現れるのに時間がかかる「教育」だからこそ、より大胆な取り組みが必要だ。その上で、諸岡さんは次の
ように結んでくれた。

「とりあえず導入しなくては、という考え方ではなく、地域の子どもたちに対してどのような教育を行っていきたいのか、という点が最も大切です。武雄市も教育改革を始めた当初は手本とするべき先進的な自治体がなく、手探りの中で進めてきました。そんな中で大切にしたのが『武雄の子どもたちをしっかり育てたい』という理念。時流を読みながら、地域の子育てを充実させていきましょう」。

How To

01 地域のビジョンにあわせた計画を組む

ICT教育の導入そのものが目的にならないよう、地域の特性と地域計画をふまえ、どのような教育を行うか、どういった人を育てたいかを再確認した上で導入計画を策定する。

02 専門部署を設置して大胆に取り組む

策定した計画に沿って、前例に捉われない大胆な動きを進める。スピード感を持って改革を進めるためにも、片手間にならないよう専門部署を設置するのがベスト。

03 指導者教育にも盤石の体制を

教育委員会などによる教職員へのフォローをはじめ、教員同士の学びの場や外部との情報共有の場を積極的に設け、スムーズな導入を目指す。

04 民間事業者や専門機関とも連携を

優れたツールやシステムは貪欲に取り込む。ICT教育導入後の見直しや、ツールの継続・更新時の判断に役立てるため、専門機関とも連携してデータの収集と効果測定を行う。

Results

■ICT教育は日進月歩から秒進分歩へ。そのスピードに追従しつつ、子どもが中心にあるという本来の意義を忘れずに。

■7世帯21人が教育面の充実を理由に武雄市に移住。

多くの自治体や教育関係者と情報交換をする中で、全国的にICT教育が加速化していることを感じます。そんな中で大切なのは幅広い情報収集と対応スピード、そして「主役は子どもたち」という視点です。武雄市の教育現場もぜひご覧ください。(武雄市学校教育課・諸岡 利幸さん)
 

 

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