
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。今回はその中から、青森県八戸市の「『はちのへ大型公共施設見える化シート』を活用した公共施設の有効利用に向けた取組」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります
取り組み概要
公共施設マネジメントの取り組みを進めるに当たり、公共施設の運営費等の情報について、市民と情報共有を図りながら進めることが重要であると考え、主要な10施設の管理運営に要した費用や利用状況などに加え、地域の活性化等に向けた各施設の取り組み状況などの情報をわかりやすく伝える「はちのへ大型公共施設見える化シート」を作成しました。
また、この「見える化シート」を活用し、施設の更なる利用促進や利便性向上に向けた具体的な取り組みの参考とするための市民アンケート調査を実施し、アンケート結果を踏まえ、今後の取り組みの方向性について整理したところであり、現在は、この方向性に基づき、公共施設への理解促進と有効利用に向けた取り組みを実施しています。
背景・目的
人口減少の進行等を背景とした公共施設に係る市民ニーズの変化に対応するとともに、長期的な視点による計画的な施設更新や老朽化対策、財政負担の軽減・平準化と施設の最適な配置を図ることは、全国の自治体に共通する喫緊の課題となっています。
当市においては「八戸市公共施設等総合管理計画」を策定し、当方針に基づき、公共施設の適切な管理を推進しており、その推進に当たっては、公共施設に対する市民の理解が不可欠であることから、主要な大型公共施設に係る維持管理コスト等の情報について、分かりやすい形で「見える化」し、市民との情報共有を図るとともに、利用促進や利便性向上といった有効利用に向けた取り組みを進めることとしました。
取り組みの具体的内容
(1)はちのへ大型公共施設見える化シートの作成(令和4年度)
「見える化」の取り組みは、各施設への市民の理解をより深めていただく観点から、施設運営費のみではなく、施設ごとに有する特性を含め様々な角度からの情報をわかりやすく伝えることで、市民の理解を得ることに加え、各施設における便益とコストのバランス等への関心を高めるとともに、市職員の公共施設に対するコスト意識の向上につながるものと考えています。
このことから、主要な大型公共施設について、施設の基本的な情報や管理運営に要した費用、利用状況などに加え、地域の活性化等に向けた各施設の取り組み状況など、施設ごとの特性を総合的に把握するための資料として、新たに「はちのへ大型公共施設見える化シート」を作成しました。
【対象施設】
①市庁舎、②ブックセンター、③美術館、④はっち、⑤マチニワ、
⑥屋内スケート場、⑦総合保健センター、⑧博物館、⑨是川縄文館、⑩図書館
※直営施設で相当数の市民利用がある公共施設
【見える化シートの項目】
(1)基本情報
施設名称、所在地、設置の目的 など
(2)管理・運営の概要
土地・建物の状況や施設の運営・利用状況 など
(3)施設運営費の状況
①支出 ア.人に係る経費
イ.企画運営費…企画事業や自主事業に係る費用
ウ.施設の維持管理費…施設の維持管理に要する光熱水費、委託料や施設運営に要する事務経費等
②収入…施設の使用料、その他(施設の貸付収入や運営に係る国庫補助金など)、
一般財源(市税や地方交付税などの市が負担する額)
③施設運営費の特徴…施設ごとに異なる役割に応じて生じる費用の特徴
(4)取り組みの状況
①各施設における地域の活性化等に向けた取り組みの状況
②維持管理費と財源の見通し
(2)公共施設の有効利用に関する市民アンケートの実施(令和5年度)
「はちのへ大型公共施設見える化シート」に掲載している施設を対象に、施設利用に関する市民ニーズを把握し、各施設の有効利用に向けた具体的取り組みの検討において参考とするため、アンケート調査を実施しました。今回のアンケート調査では、幅広く市民の意見を集めるため、自由記述式の設問を中心として実施し、数多くの有意義な意見・提案をいただきました。
●アンケート調査の概要
【対象施設】①ブックセンター、②美術館、③はっち、④マチニワ、⑤YSアリーナ八戸、
⑥是川縄文館、⑦図書館、⑧博物館
(総合的な行政機関である市庁舎と総合保健センターは除く)
【実施期間】令和5年6月15日(木)~7月7日(金)
【対 象 者】市内公共施設に関心のある18歳以上の方
【回答者数】612人
●調査結果の概要
①公共施設の満足度
▶ 公共施設のサービスや利用方法に対して満足している割合は63%であり、住民福祉の向上に一定の効果があると考えられる。
②「見える化シート」の理解度
▶ 「見える化シート」を通して各施設の管理運営や取り組み状況の理解ができた割合は74%となっている。
③市民サービスとコストのバランス
▶ 市民サービスの充実とコスト削減の両立、もしくは、より一層の市民サービスの充実を望む方が88%となっている。
④イベント情報の入手方法
▶ 広報はちのへ、新聞、市ホームページが主な手段となっているが、年代によって傾向が大きく異なることから、ターゲットに適した手段・媒体で情報発信を行うなど、効果的な情報発信手法について意識することが重要であると考えられる。
⑤有効利用に向けた意見・提案
▶ 施設の利用に関する意見(情報発信の強化、利便性の向上など)
▶ 運営に関する意見(イベント・展示内容の充実・見直し、利用料金・管理運営方法の見直しなど)
▶ 設備に関する意見(飲食スペースの充実、子どもが楽しめる環境づくり、老朽化設備の改修など)
▶ 周辺環境に関する意見(駐車場や周辺道路、交通アクセスの改善など)
など、幅広い観点から有意義な意見・提案が数多く挙げられた。
(3)アンケート結果を踏まえた取り組みの方向性(令和5年度)
アンケートによって、市民から寄せられた意見や提案を踏まえ、市民に寄り添った施設運営に努めるとともに、有効利用に向けた取り組みをより一層推進するため、4つの方向性と取り組みイメージを整理しました。
現在は、この4つの方向性に基づき各施設の有効利用に向けた取り組みを推進し、公共施設への理解促進に努めることとしています。
特徴
(1)独自性
本来、公共施設は地域住民の福祉増進を図ることを目的として設置されるものであり、施設運営費のみによって、その必要性等が判断されるものではないことから、施設の基本的な情報や管理運営に要した費用、利用状況などに加え、地域の活性化等に向けた各施設の取り組み状況など、施設ごとの特性を総合的に把握するための資料として作成したものであり、「はちのへ大型公共施設見える化シート」の特徴であると考えています。
(2)工夫した点
①施設運営費の分類について
施設運営に係る費用を「人に係る経費」、企画事業や自主事業に係る費用を「企画運営費」、施設の維持管理に要する光熱水費、委託料や施設運営に要する事務経費などを「施設の維持管理費」として、3分類に分けて記載しました。
施設運営費として一括りで捉えていたものを、分類して示すことで、例えば企画運営費の多寡など、新たな切り口での検討を行うことができるようになりました。
②施設運営費の地元発注率について
企画運営費と施設の維持管理費については、市内事業者への経済波及効果の側面もあることから、市内に本店または営業所等がある事業者へ発注している割合について、「地元発注率」として記載しました。
③施設運営費の特徴について
施設ごとに異なる役割に応じて生じる費用の特徴について記載しました。例えば、施設開館時間の長さや休館日の少なさに伴う人件費の増、博物館や美術館等においては、収蔵品等の適正な管理・保管のために24時間空調による温湿度管理の経費を要することなど、施設ごとの経費特性を記載しました。
④各施設の取り組みの状況を追加
施設ごとに設置目的や施設の活用、企画内容が異なっており、一律の指標で運営状況を捉えることは困難であることから、各施設における地域の活性化等に向けた取り組みの状況について、施設独自の指標や観点を用いて説明しました。
取り組みの効果・費用
(1)取り組みの効果
①「見える化シート」を通して、各施設における管理・運営の状況や、地域の活性化に向けた取り組み状況について、74%の方に理解していただくことができました。「見える化シート」が公共施設の有効利用について考えるきっかけづくりに寄与できたものと考えられます。
②有効利用に向けた取り組みについては、可能なものからスピード感を持って見直しを進めることとしていますが、既に利用者数が増えている施設もあり、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけ変更の影響により、単純には比較できませんが、一定の効果があったものと認識しています。
【具体的取り組みの例】
・八戸ブックセンターにおける「暮らしと絵本」棚の新設
・YSアリーナ八戸における中地人工芝コートの使用料減額(5,000円/h→1,000円/h)
③有効利用に向けた取り組みについては、アンケート対象施設を中心に検討を進めてきましたが、他の施設においても市民ニーズに沿った取り組みが波及し始めているほか、関連するソフト事業も新たに始まっており、「見える化」の取り組みをきっかけに全庁的な動きとして広がっています。
(2)取り組みに要した費用
見える化シートの作成及びアンケートの実施については、職員自らが行っており、費用は一般事務費のみです。
取り組みを進めていく中での課題・問題点
施設を所管していない当課だけでは到底達成できない事業であり、実際に有効利用に向けた取り組みを検討・実施する各施設の協力があってこそ進めることができたと思います。
些細な事でも頻繁に各施設と情報共有することがきっかけで、次の取り組みのヒントを発見できたこともあり、庁内横断的に進めることで相乗効果を発揮しながら進めることができました。
今後の予定・構想
アンケート結果から得られた4つの方向性に基づき、これまで検討してきた有効利用に向けた取り組みを着実に推進します。また、現在当市で策定を進めている新たな行財政改革大綱の推進項目として位置付けることとしており、今後も全庁的な取り組みとして継続していきたいと考えています。
他団体へのアドバイス
公共施設マネジメントを進めるに当たっては、長期的な視点をもって計画的に取り組む必要がありますが、更新・統廃合・長寿命化などの対応策を検討するためには、まずは公共施設についての市民理解を促す必要があると考え、公共施設マネジメントの長期的な取り組みの入口として、この取り組みを実施しました。